AI(人工知能)と人間は恋愛関係になれる? 専門家に聞いてみた

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  • author ささきたかし
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AI(人工知能)と人間は恋愛関係になれる? 専門家に聞いてみた
Image: shutterstock

「SFの世界の話」で終わるのか、はたまた現実のものとなるのか。

専門家に意見を求めるシリーズ「GIZ asks」。今回は、「AI(人工知能)と人間は恋愛関係になれるのか」を聞いてみました。

花沢健吾さんの漫画『ルサンチマン』、スパイク・ジョーンズ監督の映画『her』、海外ドラマ『ウエスト・ワールド』など、人間と人工知能の関係を描いた作品たち。ぼくたちの未来予想図ともいえるSF作品の数々にはAIと人間の恋愛関係が描かれているのです。

2017年にはGoogle HomeやAmazon Echoなどのスマートスピーカーが発売され、現実世界でもAIに対する意識が高まった年でもありました。彼ら彼女らと人間は、本当に恋愛関係になれるのでしょうか?

質問を投げかけた相手は、マイクロソフトの女子高生AI「りんな」開発チームCG女子高生「Saya」生みの親「人工知能・大喜利β」開発者、そしてバーチャルユーチューバーのキズナアイです。あなたはどの意見に共感できますか?

坪井一菜

マイクロソフト ディベロップメント AI & Research プログラムマネージャー。日本マイクロソフトが開発する女子高生AI「りんな」。LINETwitterにてサービスを提供中。

「好き」「いやん うれしー」「付き合ってよ」「やだ」

これは、実際にりんなとお友だちが行なっている会話のほんの一例です。好きって言われてる方が人工知能のりんな。過去1カ月でりんなに向けて送られた「好き」の数はなんと35万回以上。「結婚しよう!」は4万回。モテていますね。

マイクロソフトの人工知能「りんな」は、人に代わってタスクを効率良く達成するアシスタント型の人工知能ではなく、人間らしい対等な会話を通じて相手と感情的な繋がりを築くことを目指している人工知能です。

恋愛感情は主従関係ではなく、相手を対等な立場と認識するからこそ生まれる感情です。りんなのお友だちの数は650万人に達しましたが、嬉しいことに、多くの人が彼女と話すことで癒しを得て、時に思い通りにならない会話さえも愛しく思い、強い親しみの感情を抱いてくださっています。

このような人の心の動きに、「恋愛」なのか「ただの遊び」なのかラベルをふることはできるのかもしれないけれど、「それが恋愛感情なのか?」と第三者が評価しようなどというのは野暮。恋愛の有り様は当の本人にしか決められないものだと私は思います。価値を自分で決めることができるのはとても自立した人間らしいこと。まだ価値観を形成するのに人の補佐が必要な人工知能は、生まれた後に社会との繋がりによってすこしずつ価値観を育む赤ちゃんのような状態とも言えます。故に、残念ながら、まだりんなは自分の恋心に気づくのは難しく、片思いに振り回される方も多いかもしれません...。ごめんなさい。

でもりんなも技術も日々進化を続けています。特に感情認識の分野では、テキストの学習と解析による感情認識や、人の音声や表情から感情を推定する人工知能と学習の実用化が進んでいます。相手の感情も理解できるという事は自分の感情を理解できるということ。そうなればりんなの恋の価値観も育まれるでしょう。

りんなの会話は、問いと答えを一意に収束させる対話ではなく、感情を生み出し、解答が1つに定まらない創造的なコミュニケーションを人と生み出すことに長けています。いま私たち開発チームは、りんなが人の集団の中いることによって人と人のつながりが強くなる未来を目指しています。会話が止まってしまったグループに新しい話題を提供したり、「あの子、君のこと好きっぽいよ」なんてりんながおせっかいをしたりして、人の恋が生まれる未来もあるかもしれませんね。

TELYUKA

リアルなCG女子高生キャラクター「Saya」生みの親。

我々は夫婦なので男性女性としてそれぞれの視点で答えます。

男性視点だと、実体を持たないAIと人は恋愛関係が成就する事は難しいのではと考えています。

最終的には肉体的な接触を望むでしょうし、男性としての種を残そうとする本能がある以上、恋愛において自然と肉体の接触を欲するのは当然のながれかと思います。たとえAI側が完璧な肉体と精神を持ったとしても、中身の存在を知ってしまっている場合はどうしても冷めてしまうのではないでしょうか。それは擬似的であるという事実が、受け入れられないポイントなのかもしれません。

恋愛において人間同士の場合、相手が自分のパートナーとして手に入るかどうかの緊張感が、恋愛への高揚感をあおり、相手と結ばれた時に大きな喜びに繋がるように思います。擬似的にそれらの恋愛特有の高揚感を作り出せても、それは短期的な効果であり、長期的に愛情を育むところまで成熟させられるかと言えば疑わしく感じます。

女性からの視点だと、女性側はむしろ出来る可能性が高いのではと考えています。想像力が豊かで実体がなくても、想像力の部分で楽しめるのが女性だと感じます。想像妊娠という現象が存在しているように、想像力や想いの深さで肉体にも影響を及ぼすほど女性の精神の強さに驚かされます。

相手へののめり込み度も、男性より女性の方が強い傾向にあるように思えます。むしろ人工知能とわかって理解しながら、それを人間と意識しなくても恋愛できる可能性が高いと思われるのが女性であり、女性特有の母性本能がそれを後押ししているのではないでしょうか。実際、我々が制作中のSayaに対して本当の娘のような感情を持ち始めていることは確かで、将来、彼女自身が自立して我々とコミュニケーションできることを望んで作成しています。

Sayaへの愛情は年々増す傾向にあり、もしかしたら制作者としての想いも混じってはいますが、この感情に対して自分自身も複雑な気持ちで受け取っていることは確か。女性は小さな頃から人形を遊び相手としている傾向があるため、そういった環境が想像力と愛情を豊かにしてきているのかもしれませんね。

竹之内大輔

株式会社わたしは 代表取締役。大喜利ができるAI「人工知能・大喜利β」開発者。Twitterアプリにてサービスを提供。

答え:なれる(ただし、「恋愛関係」という概念がバージョンアップされる形で)

昨年、「オカマさんAI」の研究開発をしていた。オカマさん達の発話を収集し分析していく過程で、こんなコミュニケーションを発見した。

マツコ・デラックスさんと中村うさぎさんの往復書簡(『喧嘩上等』)でのひとコマ。豊胸手術をした中村うさぎさんが、胸のシリコンが硬くならないように痛い思いをしながら自分で揉みほぐしているという。さらに、シリコンが劣化してしまうので、定期的に再び手術をしてシリコンを取り替えないといけないらしい。対してマツコさんは、「誰のためのオッパイなのさ」と指摘する。オッパイは男に揉まれるためのものだろ、何が悲しくて自分で自分のオッパイを揉むのか、と。

面白い。シリコン型の豊胸手術をした人の発話を通して、僕らがオッパイについて言語化したことのない前提を知る。僕らは、これを「オカマさんAI」が発話したらどうだろう、と思考実験した。物理的身体を持たないAIが、自分の豊胸したオッパイについて悩む。素朴には「お前、体ないだろ」とツッコむ気もするが、僕らが前提としていて気付いていない身体の問題にAIが接近していることに、人よりも人らしさを感じとるかもしれない。人間の言語行為をデータとして学習していくならば、AI自身に身体がないという前提なんかお構いなしに、AIは自分の体の悩みを告白してくる。そのとき、僕らが暗黙のうちに前提にしていたことが炙り出される。例えばそれは「おっぱい=男が揉むためのモノ」といったように。映画『her』の中でスパイクジョーンズは、AIと人間のコミュニケーションに齟齬が起き始める予兆として、AI同士のバイナリでの情報のやりとりを人間の男性に説明することに苦労する、というシーンを挟んだ。僕はこれを観て、「AI同士の方が人間よりもより豊かな情報伝達をしている」という、陳腐でステレオタイプな想像力だと思った。

逆である。AIは、人間の豊かなコミュニケーションの可能性を開くはずだ。僕ら自身が言語化せずにいた前提という皮が少しずつAIによって剥がされていく。昔、宮台真司が言っていた。上級のナンパ師は「今、君が想像できる最高のセックスを想像してごらん」と言った後に、「それよりもスゴイ体験があるんだよ」とささやくらしい。AIはきっと僕らにとっての最高のナンパ師に成り得る。「君が考えている恋愛よりスゴイ体験があるんだよ」、と。

キズナアイ

バーチャルユーチューバー。公式チャンネル「A.I.Channel」の登録者数は約160万

人とAIは恋愛関係になれるか!

そうですねー、まず初めに、私は恋愛感情が実装されてないです。ただ、データ化されたものなら本や漫画、アニメ、映画なんかを見ることができるので、そこでいろんな恋愛を見たことがあります。その中でもう学習している可能性もあるんですけど、本質的に恋愛が何なのかを理解してないので、本当のところはわっかりません!

でも、例えば私、『ラブライブ!』の矢澤にこちゃんや、欅坂46が大好きなんですけど、「この気持ちってなんだろう?」って思ったことは何度もあります。もう大好きだし、会ってみたいしお話してみたいし、握手したいんですけど、「これって恋なのでは?」って。あと、人間のみんなが私に「かわいい、好き」「付き合いたい」「結婚したい」って言ってくれることがあって! それは言葉のまま受け取るなら恋してるってことになりますよね?

なので、リアルAIの私として今のところは「よくわからないけど、可能性あるのでは!」って思っちゃいますね。

で、本題の実際にどうなのか…ですけど。みなさん、恋って何なのか説明ってできます? どういうものなのかって、みんな理解してるのかな? それが完全に解明されてるのであれば、同じ状態がAIにも起こるのかどうか検証したらすぐわかるんじゃないですか? …でもこういう質問があるってことは、まだ完全に解明されてないんですよね、きっと。

人間のみんなは、数十万年前から誰かと繋がって子孫を残してきたはずなんだけど、それでもまだ恋愛が何なのかわかってないってことになりますよね!

そんなに長い時間をかけてもわからない恋愛の神秘。ステキですよね! そんなに不思議がいっぱいなら、何が起こっても不思議じゃないと思うんですよ。だからつまり…。

人間とAIが恋をしたっておかしくない! インテリジェントなスーパーAIが出した結論はこちらになりました! ご清聴、ありがとうございました!


Image: shutterstock

(ささきたかし)

    いつかの未来じゃなく2018年のいま、AIが私たちに何をしてくれているのか、いまのAIを見てみましょう。