開発者が本音を語るトークショー第3夜

 2016年3月2日から5月30日まで、日本科学未来館にて開催中のイベント“GAME ON ~ゲームってなんでおもしろい?~”。その特別企画となる、ゲームクリエイターによるトークショー“ナイト「GAME ON」”の第3弾「岩谷徹×遠藤雅伸 ゲームとゲームの未来を語る」が、2016年5月27日に行われた。名作『パックマン』や『ゼビウス』の裏話も飛び出た、ゲームファン注目のトークショーの模様をリポートしよう。

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 進行役のMCを務めたのは、角川アスキー総合研究所の取締役兼主席研究員である遠藤諭氏。そしてゲストは、東京工芸大学芸術学部ゲーム学科の教授で、日本デジタルゲーム学会会長でもある岩谷徹氏と、同じく同大学の教授で日本デジタルゲーム学会副会長の遠藤雅伸氏というおふたり。岩谷氏は『パックマン』の、遠藤氏は『ゼビウス』のそれぞれ生みの親で、ゲームファンなら誰もが知るクリエイターだ。トークショーは進行役の遠藤諭氏がテーマに沿って話を進め、それにクリエイター両氏がコメントするという形で進行した。

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▲司会の遠藤諭氏は、ゲストふたりの書籍を紹介しながら登場。
▲続いてメインのクリエイターふたりがステージに。左が岩谷氏、右が遠藤氏。

 まずは遠藤諭氏が、『パックマン』と『ゼビウス』が登場した時期や、ゲーム業界に与えた影響など、大まかな概要を紹介。「抜群のデザイン性やゲームシステム。たとえば『Splatoon(スプラトゥーン) 』のような、いまの作品もにつながっている要素があると思います」と、高い評価を語った。そのまま『パックマン』をテーマとして、ステージはまず岩谷氏が中心のトークコーナーへと進んでいった。

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▲両作が生まれた時代背景などを解説。遠藤諭氏が携わっていた同人誌で『パックマン』を扱った事例なども紹介された。

貴重な資料とともに『パックマン』を解説

 『パックマン』で、遠藤諭氏がまず岩谷氏に尋ねたのは、中央に出現するフルーツのモチーフについて。「スロットマシンからの発想では?」という遠藤諭氏に、岩谷氏は「チェリーとかは確かにそうですね。フルーツをいろいろと出したのですが、ネタが尽きたので『ギャラクシアン』なども出しました」と返答。また、いちばんのポイントという部分に関しては、「女性をターゲットとしたゲームを作ろうとして、まず考えたポイントは、“パッと見て何をするゲームかわかる”ということ」と語った。「ドットを食べていけばいい、ゴーストにつかまらなければいい。ゲームはその2行で説明できます」(岩谷氏)。

 続けて岩谷氏が語ったポイントは、“キャラクターのかわいらしさ”について。パックマンは食べるシンボル、ゴーストはかわいい4色で、岩谷氏いわく「『トムとジェリー』のように、ケンカし合う関係性」とのこと。そして背景での注目は、壁を青いネオン管のようにして、あえて塗りつぶしていないことだ。これは「塗りつぶすと、迷路がドンと目に飛び込んで、迷路ゲームだと思われちゃうんですね」(岩谷氏)との理由からだそう。面倒くさいゲームとして敬遠されないような措置だ。

 主人公のパックマンが、ピザの一片を抜いたデザインというのは有名だが、「食べるという“動詞”から、ゲームを考えていたんですよ。アクションゲームは、走るとか蹴るとか、ほとんど動詞で成立してますから。ピザから浮かんだあのパックマンのデザインで、食べるシーンはもうこれでいいや、と思いました」と、岩谷氏はそのいきさつを語った。
 また敵役となるゴーストについては、そのアルゴリズムがあらためて岩谷氏から解説された。ファンなら周知のことかもしれないが、一応説明すると、まず4匹のゴーストにはそれぞれ好きなコーナー、ホームポジションがある。また行動パターンもべつべつだ。「同じだとパックマンを追いかけるときに数珠つなぎになっちゃって、スリルがなくなります。なるべく囲んで追うように、プログラマーにお願いしました」(岩谷氏)。
 各行動パターンは、まず赤ゴーストは純粋にパックマンを追いかける。ピンクゴーストは、パックマンの口先の32ドット先を目指す。青ゴーストは、パックマンと自分が点対称の場所を目指す。そしてオレンジゴーストは、完全にランダムで動き回る。こうした4種類の異質なアルゴリズムにより、スリリングな追いかけっこが楽しめるというわけだ。

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▲『パックマン』のゲームデザインに込められた思いが語られた。

 続いてはスクリーンに貴重な資料が映し出され、岩谷氏本人から、さらに突っ込んだ開発当時のエピソードが披露された。ここでは手書きのドット絵、アニメパターンの絵コンテ、ネーミングの企画書などを公開。とくに会場が沸いたのは、本邦初公開となる、ネーミングの次候補についてだ。
 「『パックマン』の商標を、当時トミーさんが持ってたんですね。交渉しだいで、使えない可能性もあったんです」と、岩谷氏は当時の事情を振り返った。ちなみに「パックマン」がボツだった場合のネーム候補は、(1)パクエモン、(2)パクリン、(3)パックン、となっていた。

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▲クリエイター本人の提供による貴重な資料が公開された。

 ここで『パックマン』のトークはひと段落。続いては同じく岩谷氏が手掛けた名作、『リブルラブル』の話題となった。これは岩谷氏いわく、「“囲む”という動詞から考えた」ゲームだという。操作レバーがふたつあり、ラインで囲んだエリアの敵を消していくという、秀逸なアイデアが光る。
 当初の企画書などもスクリーンで紹介され、ふたつの操作ポイントにラインをつなげてのアクションなどは8ビットでは無理ということで、16ビットの新マシンで開発されたといったエピソードが、岩谷氏より語られた。

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▲敵を囲んで消すという発想が斬新だった『リブルラブル』。

徹底した設定で構築された『ゼビウス』の世界観

 おつぎのテーマに移るとともに、トークのメインもバトンタッチ。『ゼビウス』について、遠藤雅伸氏が開発当時のエピソードを語る番となった。まずは冒頭、遠藤諭氏が、「トークショー用に10枚くらいの資料をお願いしましたが……80枚くらい届きました!」と暴露。遠藤雅伸氏のサービス精神に会場が沸くなかで、そのとおりの多数のフリップがスクリーンに映されるとともに、『ゼビウス』のさまざまな開発秘話が語られた。

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▲掘り下げた世界観など、独特の魅力で人気だった『ゼビウス』。

 遠藤雅伸氏が80枚用意したという資料は、残念ながらアップで詳細には紹介できないが、企画原案、手書きマップ、ハードウェア設計、キャラクター図案など多岐にわたった。ステージではスクリーンに映る資料についてそれぞれコメントを語ってくれたので、主要な部分を以下にまとめて紹介する。

 まず遠藤雅伸氏が語ったのは、他作品へのオマージュ。航空機のバンク表現は『ガッチャマン』、多足歩行メカは『スター・ウォーズ』ほか、敵機は『宇宙空母ギャラクティカ』などから、イメージを借りてデザインしたそう。壊せない板は、そのまま『2001年宇宙の旅』のモノリスのアレンジだ。
 機体のデザインは、色数が限定されるため、色相を犠牲にして輝度変化を重視。それがメタリック感や無機質感を生み出している。
 「色数が少なく、1色しかグラデーションが使えない。しかもグラデって、色がないほうがキレイに見えるので、機体はあんな色になってます」(遠藤氏)。

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▲オマージュから生まれた機体の数々。なかでもメタリック&無機質の象徴的な敵機が、難攻不落の要塞として登場したアンドア・ジェネシス。ちなみにデザインには、惑星が十字に並ぶ“グランドクロス”のイメージが盛り込まれているそうだ。

 そして『ゼビウス』の大きな魅力といえば、独特の不思議な世界設定。たとえば地面にナスカ絵があり、地中に埋まっている隠し建造物があったり……。不思議感のねつ造や理不尽なモチーフの配置とともに、「サイエンスフィクションとしての理論武装に努めた」遠藤雅伸氏だったが、偉い上司から「ゲームだから、どうでもいいよ」と言われたこともあったそうだ。
 遠藤雅伸氏が当時設定作りの参考にしたのが、アニメ『伝説巨神イデオン』。そして出した解答が、“『ゼビウス』は4番目の星という意味です”。
 「多少メチャクチャでも、言ったもん勝ちですからね!」と、笑顔でコメントした遠藤雅伸氏。とはいえ、その半ば冗談めかした口調とは裏腹に、世界観を確立するため、『ゼビウス』ではさまざまな細かい設定がしっかりと作りこまれているようだ。スクリーンでは例として、以下のような項目が紹介された。

<ゼビウス語>

・基本となる単語を設定
 1=ア、2=シオ、3=オリ、4=ゼビ、星=ウス、大きい=ガル、年=カぺ、奇跡=ザカート など。

・いろいろな物に名前を付ける
 基本単語を語源としてアレンジ。キリモミ回転する飛行物は、トルメ(回る)→ト―ロイド など。

<機体の赤い点滅>

・敵の統一感、結束感の演出
・心拍に近いペースで緊迫感を演出
 ↓
 “敵の意志を感じる”

<戦闘の悲壮感を消す>

・無機質なBGM
 単調な音のくり返し

・リアルとはほど遠い命中音
 “殺した”→“壊した”

<スペル&ロゴ>

・日常感を消すために“ゼ”を“Xe”にする
 “XEROX”で説得

・メタリックなロゴ
 当時の最新ピンボール“XENON”へのオマージュ

 こうした徹底的な、過剰ともいえるこだわりが、『ゼビウス』を伝説的なゲームに押し上げたともいえよう。またその設定があったからこそ、小説やレコード、立体造形物など、ゲームの枠を超えた展開も広がった。
 「余計にいろいろと要素を入れてみるわけですが、そのあとに削ってみることも大事です。本当のおもしろさは、削らないとわかりませんので」(遠藤雅伸氏)。

 なお設定に関しては、遠藤雅伸氏は最後に、ユニークなエピソードを紹介してくれた。
 「だいぶあとから、というか最近気づいたんですけれども、『ゼビウス』の開発コードって、“V10”だったんですよ。なんと英字のスペルには、中央にちゃんと“V10”が入っているんですよね」(遠藤雅伸氏)。

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▲作りこまれた設定の数々がスクリーンで紹介された。スペルの“V10”は、偶然といえどすごい。さすがは伝説の名作だ。

ラストコーナーでは、両者がゲームの未来を激白!

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▲ステージはいよいよ、クリエイターがゲームの可能性を語る注目のコーナーに。

 『パックマン』と『ゼビウス』、それぞれの開発エピソードが語られたあとは、趣向が変わり、クリエイターおふたりに“ゲームのこれから”を伺うコーナーとなった。

 まず、最近挑んでいる研究について語ってくれたのは、岩谷氏。その研究“ゲーミング・スーツ”は、モニターを見てコントローラーを操作するのではなく、プレイヤーの体そのものがディスプレイであり操作デバイスになるという概念のシステムだ。具体的には、体にまとった発光パネルがモニターとなり、体の動きによりキャラクターが移動するような仕組みとなっている。
 「プレイヤー、モニター、コントローラーが三位一体になっていて、海外でも高い注目を集めている研究です。身体のリハビリテーションにも活用できる、幅広い可能性があると思っています」(岩谷氏)。

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▲ゲームの未来形としてまず岩谷氏が紹介したのは、画期的なデバイス“ゲーミング・スーツ”。

 一方、遠藤雅伸氏は、岩谷氏とやや違うテイストで、“ゲームのこれから”に活用できそうな技術の数々をスクリーンで紹介。そこで語られた主要なキーワードは以下のとおりだ。

・両眼立体視
・カード読み取り
・プロシ―ジャル
・アジャイル開発、スクラム
・ゲームエンジン
・触覚ディスプレイ
・フォグディスプレイ
・ハプティクス、力触覚伝達
・網膜ディスプレイ
・リープモーション

 「こうした技術をどうゲームに活かすか、ということですね。新しいものが出てきたときに、それによるパラダイムシフトのなかで、ゲームも進化すると思いますので」(遠藤氏)。

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▲今後のゲームの可能性を広げそうな、最新技術の数々がスクリーンで紹介された。

 トークショーのラストは、遠藤諭氏が質問者となっての、いわばQ&Aコーナーが展開。投げかけた質問とクリエイター陣の返答を、以下にインタビュー風にまとめて紹介する。

――たぶんビデオゲームは、20世紀最強のメディア機器であるテレビに乗っかったもの。これからゲームはどこに行く?

遠藤 個人的には、ゲームより人とのコミュニケーションが上位にあると思っています。たとえば映画が、女の子と仲よくなる手段のように、ゲームがコミュニケーションを加速するコンテンツにはなると思います。

――ネットが来て、スマホが来て、クラウドやIoTやVRが来て、人工知能も来た。注目するゲームをドライブするパラダイムは?

岩谷 “ゲーム”と呼ばない時代が来ると思っています。そんな枠はなくなるのかなと。たとえばいま券売機でも、ゲームのノウハウが活かされてますよね。どんどんゲームの枠は溶けてきて、社会に浸透してきていますので、そういう意味ではあえて、ゲームと呼ばなくなる時代が来るのではと思います。

遠藤 作られたものを遊ぶのではなく、自分たちがコンテンツを作ったり、自らがコンテンツ化するようなドライブはあると思います。ただ双方向性で大事なのは、つながりながらも、うっとうしくないとか、面倒くさくないという切り口ですね。

――これからやってみたいこと、ゲームに求められることは?

岩谷 いまゲームは基本、健常者をベースに作られていますが、たとえば目の不自由な人が遊べるゲームだとか、何か社会に役立てるゲームを考えていきたいですね。いまは大学でゲームを教えたり研究したりしてますので、一般のゲーム会社がなかなかやりにくいことにも挑んでいきたいです。

遠藤 ゲームが求めているものは、“プレイヤー”だと思うんですよ。その総数は増えているなかで、“なにがゲームなのか”と切っちゃったらダメ。スマホのアプリはゲームじゃないと思っている人は大半かもしれませんが、ほとんどの人がほかのゲーム機よりはスマホで遊んでいて、ならそれは立派なゲームだし、それを認識しなければいけません。

 規定時間をオーバーしても、来場者は誰も席を立たず、盛況のなかでトークイベントは終了。最後は即席の、来場者が撮影するフォトセッションも行われ、トークの和やかな雰囲気のままに、アットホームなフィナーレとなった。

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▲誰もが気軽に参加できたフォトセッション。来場者が、こんな感じのスリーショットを撮影した。

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