スペースXの宇宙船は、史上最大で最もパワフルなロケットになるよう設計されている。
SpaceX
- スペースXのスターシップは従来のロケットのような白色ではなく、主に銀色だ。
- 銀色をしているのは、腐食しないステンレスを使っているからだ。
- スターシップには、大気圏再突入時に機体を保護するために、黒い六角形のタイルがちりばめられている。
2023年4月21日、テキサス州の最南端、ボカチカの小さな村の近くに、小さいとは言えない宇宙ロケットの姿があった。スペースX(SpaceX)の巨大ロケット、スターシップ(Starship)だ。
朝日が水平線から昇ると、銀色のスチールの船体を輝かせながら、スターシップは初めて宇宙へと向かい発射した。しかし、宇宙へ行くことはできなかった。発射直後に爆発したからだ。だが、これでスペースXがスターシップのプロトタイプ作りを続けるのをやめることはなく、再び挑戦するだろう。創業者のイーロン・マスク(Elon Musk)の計画は、この巨大ロケットと同じく、壮大だからだ。
スターシップは世界最大で最もパワフルなロケットというだけでなく、その姿はスペースXがこれまでに作ったものとは違っている。実際、世界中のどのロケットにもまったく似ていない。
下の写真を見ると分かるように、この巨大ロケットは2段構成だ。1段目の打ち上げロケットはスーパー・ヘビー(Super Heavy)と呼ばれ(左端)、すべて銀色だ。一方、2段目の宇宙船がスターシップと呼ばれ、半分銀色、半分黒色だ。
左端がスーパー・ヘビー、1段目の打ち上げロケットで、隣の3基が2段目の宇宙船、スターシップ。
Veronica G. Cardenas/Reuters
この銀と黒の配色は、スペースXの白いロケット、ファルコン9(Falcon 9)や、NASAのオレンジと白のスペース・ローンチ・システム(Space Launch System)とは、大きく異なる。
スペースXはなぜ、このような派手な仕様にしたのだうか。
スペースXの銀色のロケットはスチール製
スペースXのスターシップはステンレス・スチール製だ。
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スターシップの見た目がほぼ銀色なのは、300系ステンレス・スチールと呼ばれる、非腐食性の合金の一種でできているからだ。1950年代以降、この素材でロケットが作られたのは初めてだ。
ロケット会社の多くがスチールを避ける理由は、重いからだ。ロケット自体が重くなればなるほど、同量の燃料タンクで宇宙へ運ぶことのできる積載量は少なくなる。
代わりに、多くのロケットの外枠は、耐久性を持つ軽い金属、例えばアルミやチタンなどで作られている。チタンは、ロケットを軽量に保つのに非常に良いのだが、スチールと比べ、コストが最大15~20倍になることもある。
スペースXが2019年に、ファルコン9のチタン製のグリッド・フィンを、溶接したスチール製のフィンに変更したのは、そのためだ。だがスペースXが今、チタンよりもスチールでロケットを作りたい理由は、コストだけではない。
月面に着陸するスターシップの想像図。スペースXはスターシップを月に送ると言っている。
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材質科学の専門家らによると、チタンよりもスチールの方が、極端な温度条件下でのパフォーマンスが高いという。つまり、発射や再突入のような超高温時でも、深宇宙のように超低温時でもどちらでも、うまく機能する。
そしてそれは、最終的には月や火星へ人間を運ぶというスターシップのミッションにとって重要だ。ロケットは摂氏マイナス270度という低温にさらされることになるからだ。この温度で、ロケットに使われている大半の素材は弱く、もろくなり、ひびが入ったり、壊れたりしやすくなる。
一方、ステンレス・スチールは、実はこの極低温で強度が増すため、深宇宙への旅に出るロケットにとっては理想的だ。
さらに、南カリフォルニア大学(University of Southern California)の宇宙工学の教授であるマイク・グルントマン(Mike Gruntman)がInsiderに語ったところによると、「腐食を防ぐためにステンレス・スチールを使う必要がある。宇宙船の外板は、大気圏内を動力上昇する際、動的負荷を受けることになる —— そのため、素材の構造強度も重要になる。それに、価格も重要な要素だ」という。
黒色で覆われたスターシップ
スターシップは、大気圏への再突入時に船体を保護するため、片側が黒色のタイルで覆われている。
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スターシップの底部は、NASAのスペース・シャトル(Space Shuttle)と同じ理由で、同じように黒色だ。
黒色なのは、シリカでできた耐熱の六角形のタイルが並んでいるからで、大気圏に帰還する際、焼けるような温度から船体を守る設計になっている。
スペースXの創業者でCEOのイーロン・マスクは2019年3月、このタイルが複数の火炎放射器と戦う様子を近くで撮影した動画をツイッター(Twitter)に投稿した。
スターシップのタイルがスペース・シャトルのタイルと1つ違うのは、形が六角形ということだ。スペース・シャトルのタイルは正方形だった。
あるツイッター・ユーザーが、タイルの独特な形について尋ねると、マスクは6角形のタイルには「高温のガスが加速して通り抜ける直線の隙間がない」と答えた。
つまりは、宇宙船が再突入時に過熱で壊れるのを防ぐための非常手段なのだ。
白いロケットが多いのはなぜか?
スペースXの、白いファルコン9。最近、有人運用飛行、Crew-6ミッションを行った。
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白いロケットが多い理由は、シンプルにコストだ。
白は可視光線の全色の中で、熱を最も吸収しにくい。そのためロケットの温度を可能な限り低く保つことができる。ロケットの燃料は通常、摂氏マイナス182~マイナス257度に保たれなければならないため、これは重要だ。
ロケットが発射台の上で数時間または数日間、暑い日差しを浴びるとすると、白である方が低温を保つためのコストを抑えることができる。ある研究によると、これは銀色の場合でも同じで、銀色の車は黒色の車に比べて車内が涼しかった。
スターシップの反対側は、全体が銀色に輝く。
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それがスターシップが銀色である理由なのかは、スペースXはコメントしていない。だが、そう考えれば筋は通る。ロケットを白に塗る必要がなければ、スチールの色をそのまま生かせば、塗装費を節約することができるし、それだけでなく、ロケットを軽くすることもできる。塗料は重いのだ。
「色も含めた吸収力と放射性が、パッシブな熱制御のために常に重要な役割を果たす」とグルントマンは述べた。だが熱制御で言えば、白は銀よりもさらに優れている。
スターシップのシルバーとブラックの容貌ついて、スペースXからはっきりとした説明はあったものの、おそらくロケットの軽量化と安全性のためで、見た目のためだけではないだろう。
ワシントンDCで最近行われた会議で、スペースXの代表取締役でCOOのグウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)は、「本当の目標は発射台を吹き飛ばさないこと。それが成功だ」と述べた。