【解説】 なぜガソリンスタンドで長蛇の列、イギリスで連日

A Shell garage employee holds a sign on the side of the road informing a queue of traffic that they do not have unleaded petrol on September 25, 2021 in Blackheath, London, United Kingdom.

画像提供, Getty Images

画像説明, このところイギリス各地のガソリンスタンドでガソリンが不足している。写真はガソリンスタンドへ向かう道路でできた行列。係員が「無鉛なし」とサインを手にしている(25日、ロンドン南東部ブラックヒース)

イギリス各地のガソリンスタンドでこのところ連日、ガソリンがなくなると慌てて給油しようとする人たちで、長蛇の列ができている。政府や石油会社は、ガソリンは不足していないと強調しているのだが。いったい何が起きているのか、なぜ起きているのか、見てみる。

ガソリンスタンドでは何が

現場の様子はまるで「死屍累々(ししるいるい)」の惨状だと話すガソリンスタンドのオーナーもいる。

場所によってはガソリンスタンドまで、何キロも車の行列が続いている。給油の順番を待つドライバーたちは、車内で仮眠したり、人によってはガソリンスタンドの給油場に入っていくタンクローリーの後ろにぴったりつけて、列に割り込もうとしたりしている。

一気に増えた需要に対応できず、一時休業に追い込まれたガソリンスタンドもある。

ウェールズのガソリンスタンド経営者、コリン・オウエンズさんによると、南ウェールズ・マエステグの店舗では1日に2万~3万リットルを売るのが通常だが、最近では24時間で10万リットルも売り切ってしまったという。

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場所によっては醜い騒ぎも起きている。

インペリアル・コレッジ・ロンドンのダニー・オルトマン教授は、ガソリンの在庫がなくなってしまった店先で殴り合いが起きたとツイートした

「午前中いっぱい行列したが、先頭近くまでくると、もうないと言われた。後ろにいた男性は激怒して、警備員を殴り始めた。そこから8~10人の殴り合いに発展して、みんな地面で殴ったり蹴ったりしていた」という。

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イギリスはガソリン不足なのか?

シェル、エクソンモービル、グリーナジーといった石油各社は、ガソリンは不足していないと強調している。供給が圧迫されているのは、「消費者需要が一時的に急騰したことが原因で、全国的な燃料不足が原因ではない」という。

複数の閣僚も相次ぎ、テレビやラジオでこのことを強調している。

「不足はしていません」と、ジョージ・ユースティス環境相は27日に述べた。「何より大事なのは、誰もがただガソリンを普段通りに買うことです」。

「ガソリンが足りないというマスコミ報道が相次ぎ、それに世間が反応した。それさえなければ、十分対応できる事態だった」と、環境相は話した。

ただし現時点では、小売り段階でガソリンが不足しているのは明らかだ。

A line of vehicles queue to fill up at a Tesco petrol station in Camberley, west of London on September 26, 2021

画像提供, AFP

画像説明, 給油所に並ぶ車列(26日、ロンドン・キャンバリー)

英石油小売協会(PRA)は27日、加盟する店舗5500軒のうち3分の2ですでにガソリン在庫が底をついており、残る店舗も「ほぼ枯渇して、まもなくなくなる」と明らかにした。

特にイングランド、スコットランド、ウェールズの都市部で事態は深刻化しているという。一方、北アイルランドは今のところ影響を受けていない。

PRAのブライアン・マダーソン会長は、これは「純粋かつ単純に、パニック買いのせいだ」と述べた。

なぜ大勢が慌ててガソリンを買っているのか

実を言えば、イギリスが現在見舞われている、輸送トラックの運転手不足が一番の原因だ。

現在イギリスでは推定10万人以上、トラック運転手が足りないとされており、これがここ数カ月、スーパーマーケットからファストフード・チェーンに至るまで様々な業界を悩ませている。

ガソリン・パニックのきっかけとなったのは、石油大手BPの発表だった。同社は23日、トラック運転手が不足しているため、イギリス国内の一部のガソリンスタンドを「一時的に」閉鎖せざるを得ないと発表した。この時点まで、同じような問題に見舞われる石油会社はそれほど多くなかった。

では、どうしてイギリスでトラック運転手が不足しているのか。

重量物運搬車(HGV)の運転手不足は欧州全体で起きているという実態があるものの、イギリスは特に打撃を受けている。

ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を受けて、欧州連合(EU)圏出身の運転手の多くが母国に戻ったり、通関手続きが増えて収入に影響するため別の国で働くことにしたりと、イギリスを離れた。

それに加えて新型コロナウイルスのパンデミックが起き、さらに多くの運転手が母国に帰り、ほとんどがイギリスに戻らなかった。

この間、年長の運転手は引退し、世代交代は進んでいない。パンデミックのせいで、HGV運転免許の試験がなかなか実施されず、免許をとれない人の数がとてつもなく膨れ上がっているからだ。

イギリス政府の危機対応は

英政府は27日、ガソリンスタンドの逼迫(ひっぱく)対応支援のため、陸軍を待機させたと発表した。

陸軍の輸送車両操縦者を訓練し、必要な場合は、ガソリン需要が特に深刻な地域へガソリンを輸送するために動員する方針。

関係閣僚はさらに、HGV運転免許の有効期間を延長し、石油会社間の競争法を一時的に停止する方針を示している。

これによって石油各社は燃料供給量の情報を共有しやすくなるほか、国内のどこが最も供給を必要としているのか優先順位が明確になると、クワシ・クワルテング・ビジネス相は述べた。

トラック運転手不足の対策として、政府はさらに外国のタンクローリー運転手や食糧運搬トラックの運転手、計5000人に短期ビザを提供する方針を示した。クリスマスへ向けて、鶏肉加工作業員5000人に対して、同様に短期ビザを発行するとしている。

政府はさらに、HGV免許を持つ運転手に職場復帰を促す手紙約100万通を発送したほか、4000人にHGV免許取得の訓練を提供する方針。