窒素吸入による死刑、アメリカで初執行 「効果的で人道的」とアラバマ州長官

ケネス・ユージン・スミス死刑囚の逮捕時の写真

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画像説明, 死刑が執行されたケネス・ユージン・スミス死刑囚の逮捕時の写真

米アラバマ州は25日、アメリカ初の窒素吸入による死刑を、ケネス・ユージン・スミス死刑囚(58)に対して執行した。

女性1人を殺害した罪で死刑判決を受けたスミス死刑囚は、窒素ガスを使う死刑は残酷で異常な刑罰だと主張。刑の執行期日を目前に、連邦最高裁に2度、連邦控訴裁にも1度、執行の差し止めを求めたが、いずれも退けられた。

米NPO「死刑情報センター」は、高重度窒素ガスによる死刑執行は世界で初めてだとしている。

窒素吸入による死刑に対しては、死刑囚が激しくけいれんしたり、死に至らずに植物状態になったりするなど、さまざまな悲惨な事態を引き起こす恐れがあると一部の医療専門家らが非難してきた。

国連の人権高等弁務官も先週、国際人権法が禁止する拷問やその他の残虐で非人道的な処遇、または尊厳を傷つける処遇に当たる可能性があるとし、処刑を停止するよう求めていた。

アラバマ州のスティーヴ・マーシャル司法長官は、スミス死刑囚の死刑執行後、「正義は果たされた」とする声明を出した。また、窒素吸入による死刑は「効果的で人道的な死刑執行方法」であることが証明されたと主張し、活動家やメディアの「悲惨な予測」は正しくなかったとした。

同州はこれまでの裁判で、スミス死刑囚は数秒で意識を失い、数分で死に至るだろうと予測していた。

同州など3州は、薬物注射による死刑で使う薬剤の入手が困難になったとし、代替の死刑執行方法として、窒素吸入によって死刑囚を低酸素状態にすることを承認している。

数分間身をよじらせる

アラバマ州のホルマン矯正施設(刑務所)
画像説明, スミス死刑囚は死刑執行までの数十年間、アラバマ州のホルマン矯正施設(刑務所)で収監された

アラバマ州アトモアのホルマン矯正施設(刑務所)であった死刑執行には、メディア関係者5人が立ち会った。

その人々によると、スミス死刑囚は執行直前、「アラバマは今夜、人間性を一歩後退させる」、「私を支えてくれてありがとう。みなさんを愛している」と話したという。

着用されたマスクに窒素ガスが流されると、スミス死刑囚はほほ笑み、立ち会っていた家族に向かってうなずいた。そして、「アイ・ラブ・ユー」のサインを送ったという。

それからの2~4分間、スミス死刑囚は身をよじらせた。呼吸が荒い状態が約5分間続き、死に至ったという。酸素なしで窒素のみを吸うと、体内で細胞が壊れ、やがて死亡する。

アラバマ州の矯正当局トップのジョン・ハム氏は、スミス死刑囚の体が揺れたのは不随意運動だったと思われると話した。

スミス死刑囚

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画像説明, 最近のスミス死刑囚

アラバマ州矯正局によると、スミス死刑囚は最後の48時間で、家族、友人2人、精神的アドバイザー、弁護士と面会した。

刑が執行された25日は朝食として、ビスケット2枚、卵、グレープゼリー、アップルソース、オレンジジュースを口にした。

最後の食事はステーキと卵、ハッシュドポテトだったという。

「罪の報いを受けた」

アラバマ州のケイ・アイヴィー知事は、死刑執行への立ち会い要請には応じなかった。執行後、声明で次のように述べた。

「30年以上にわたって何度も制度を悪用しようとしたスミス氏が、ついに恐ろしい犯罪の報いを受けた」

「(被害者の)エリザベス・セネットさんの家族が、長年にわたり大きな損失と向き合ってきた末に、区切りを迎えられることを祈っている」

被害者の息子チャールズ・セネット・ジュニアさんは、スミス死刑囚への同情はほとんど感じないと、現地メディアWAAY-TVに話した。

「彼はあんなふうに苦しむ必要はない、と言う人もいるだろう」

「でも彼はお母さんに、どう苦しむかと聞いたりしなかったじゃないか。あいつらはただやった。母さんを刺した。何回も」

1000ドルの報酬で殺人

スミス死刑囚は、伝道師の妻だったエリザベス・セネットさん(45)を殺害したとして、1989年に有罪判決を受けた2人のうちの1人。判決によると、1000ドルの報酬でセネットさんを暖炉の道具で刺し、殴打して殺した。その後、家宅侵入と強盗があったように見せかけた。

スミス死刑囚は裁判で、殺害現場にはいたが襲撃には加わっていないと主張した。

エリザベス・セネットさん

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画像説明, エリザベス・セネットさんは1988年に殺害された

セネットさんの夫は多額の借金を抱え、保険金目当てに殺害を計画した。捜査が自らに迫ると自殺した。

スミス死刑囚と共に有罪とされたジョン・フォレスト・パーカー死刑囚は、2010年に死刑が執行された。

スミス死刑囚の弁護団は刑の執行後、「非常に悲しい」とする声明を発表。裁判ではスミス死刑囚の命を救うことを陪審が投票で決したが、判事がそれを覆したと指摘した。

弁護団は、「彼が有罪とされた行為がもたらした悲劇的な結果は、セネット家やその友人が味わった苦痛を含め、どうやってもなかったことにはできない」とコメント。

「しかし、ケニー(スミス死刑囚)の人生は、その全体を見て考慮されるべきだ」とした。

アラバマ州当局は2022年、スミス死刑囚に対して薬物注射による死刑を執行しようとした。しかし、執行令状の期限が切れる前に血管を浮き上がらせることができず、未執行に終わっていた。

窒素吸入による死刑執行の期日が迫ると、スミス死刑囚は延期を求めた。だが連邦最高裁は25日夜、これを退けた。

リベラル派の判事3人は、多数を占める保守派が導いたこの決定に反対した。

リベラル派のソニア・ソトマイヨール判事は、「1回目にスミスを死なせることができなかったアラバマ州は、これまで一度も試されたことのない死刑執行方法を試すため、彼を『モルモット』に選んだ」と反対意見で表明。「世界は見ている」と付け加えた。

この決定の前日には、連邦最高裁は、スミス死刑囚による死刑執行をめぐる別の異議申し立てを却下した