ツイッター次期CEOにヤッカリーノ氏、米NBCユニバーサル元幹部 マスク氏発表

ナタリー・シャーマン、シオナ・マッカラム、BBCニュース

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画像説明, NBCユニバーサルの元広報責任者リンダ・ヤッカリーノ氏

米ツイッターを所有するイーロン・マスク氏は12日、新しい最高経営責任者(CEO)にNBCユニバーサルの広報責任者だったリンダ・ヤッカリーノ氏が就任すると発表した。

約半年前にツイッターを買収したマスク氏は、11日に、女性をツイッターの次期CEOに任命したとツイートしていた。

マスク氏は、ヤッカリーノ氏が収益確保で苦しんでいるツイッターの事業運営を監督することになると述べた。

ヤッカリーノ氏は6週間以内に働き始めるという。

マスク氏は会長兼最高技術責任者として、今後も同社と関わっていく。

「リンダと一緒に、このプラットフォームをX、すなわち万能アプリに転換することを楽しみにしている」と、マスク氏はツイートした。

マスク氏は昨年10月、総額440億ドル(約6兆4000億円)でツイッターを買収。ツイッターを率いる人物を見つけ、自身が創業した電気自動車メーカー「テスラ」や宇宙開発企業「スペースX」など他の事業に再び集中するよう圧力を受けていた。

昨年、フォーチュン誌の全米企業の総収入ランキング「フォーチュン500」に掲載されたテクノロジー企業のうち、女性がトップを務める企業は10%未満だった。ヤッカリーノ氏のように米最大級のメディア企業で着実に昇進した後、テクノロジー大手のトップに就任するのは女性ではめずらしいケースだ。

ヤッカリーノ氏はこれまでのところ、この人事について公にコメントしていない。

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リンダ・ヤッカリーノ氏とは

ヤッカリーノ氏は、イタリア系アメリカ人の家庭で育った。父親は警察官だった。

ペンシルヴェニア州立大学卒業後はターナー・エンタテインメントで15年間勤務。その後、NBCユニバーサルに入社し、約2000人を配下に、ストリーミングサービスの立ち上げに携わった。

ヤッカリーノ氏の仕事は大手ブランドとの緊密な連携が特徴で、ドラマなどの場面にさりげなく製品を置いて広告効果を得る「プロダクト・プレイスメント」の機会を見つけたり、テレビ番組と一緒に広告を出すことを交渉するなどしてきた。例えば、「セックス・アンド・ザ・シティ」のようにエッジの効いたコンテンツで知られるテレビ番組にも、立ち上げ当初はそうした手法が用いられた。

アップル・ニュースやメッセージアプリのスナップチャット、ユーチューブといった新しいメディアとの関係も築いてきた。

2005年に業界紙に掲載されたプロフィールには、当時13歳と9歳の2人の子どもを持つ、多忙な、既婚の母親として描写されていた。

「趣味は全くない」と、ヤッカリーノ氏は当時語っていた。

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ヤッカリーノ氏のキャリアを20年間追い続けている、米誌ビジネス・インサイダーのクレア・アトキンソン氏は、ヤッカリーノ氏の広告業界での経歴が、マスク氏による買収以降、広告収入が激減しているツイッターを助けるかもしれないと述べた。

「ツイッターがこれまで以上の収益化を模索しているのなら、手始めに(ヤッカリーノ氏を起用するには)いい機会だろう。リンダはそれを実現するうえで理想的な人物だ」

「彼女のような人を、イーロン・マスクが必要としているのは、容易に想像できる」と、アトキンソン氏は付け加えた。「彼女は誰の言いなりにもならない」。

実際、2012年に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、その業界内での交渉スタイルから、ヤッカリーノ氏に「ベルベット・ハンマー」というニックネームがつけられていると伝えている。

ベルベット・ハンマーとは、優雅さと雄弁さを持って対応しつつ、最後には仕事を成し遂げる女性リーダーなどを指す。

誤情報の扱い、収益確保など課題残る

ツイッターは、誤情報の拡散への対処や、ヘイトスピーチ(憎悪表現)の管理をめぐり、厳しい監視の目にさらされ、収益確保の面でも苦しんでいる。ヤッカリーノ氏は、こうした課題に直面することとなる。

ツイッターは収益の大半を広告から得てきたが、マスク氏は同社買収後、広告への依存度を下げ、コンテンツの管理方法を変更したいとしていた。

さらに、決済機能や暗号化メッセージ、電話機能など、ツイッターの機能を拡大し、マスク氏が「X」と呼ぶ万能アプリのような存在にしたいと述べていた。

しかし、マスク氏は買収早々、コスト削減のため数千人の従業員を解雇し、物議を醸した。解雇された人の中には、攻撃的で悪質な投稿への対処を任されていた人物が複数含まれていた。

さらに、アカウントが本物だと示す認証マークの運用方法を見直し、月額の代金を払えばこの青いチェックマークが得られるようにした。そのため、大量のなりすましアカウントが量産され、偽情報が拡散される恐れがあるとの批判が上がった。

こうした変更を受け、広告主の間では自社ブランドへのリスクを懸念する声が上がり、ツイッターでの広告出稿を停止する会社も相次いだ。

マスク氏は「大規模」な収益減少を認めているが、先月のBBCの取材では、同社は回復しつつあると語っていた。

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先月に開催された広告会議でヤッカリーノ氏はマスク氏に対し、ツイッターのブランドがリスクにさらされることはないと、同社を安心させるために何をしているのか迫った。

「この部屋にいる人たちは、収益への道を加速させている」が、「それなりに懐疑的な人もこの部屋の中にいる」と、ヤッカリーノ氏は述べた。

新CEOに懐疑的な見方も

ソーシャルメディア上では、ヤッカリーノ氏のCEO就任の知らせを受け、懐疑的な見方を示す人もいた。ヤッカリーノ氏は政治的に保守寄りとされており、その内容について大勢が手がかりを探るなどした。

右派から「グローバリスト」(地球全体を一つの共同体とみなして世界の一体化を進める思想を持つ人)の集まりだと否定的に見られている、世界経済フォーラムでのヤッカリーノ氏の仕事ぶりは、一部では評判が良くなかった。同氏は、ローマ教皇フランシスコを起用した新型コロナウイルスのワクチン接種キャンペーンなどに携わった。

また、左派の人々は、ヤッカリーノ氏がドナルド・トランプ前大統領のもとで、スポーツ・フィットネス・栄養諮問委員会に関与したことから、同氏の政治姿勢を疑問視している。

スペースXやテスラでも女性を上級職に任命してきたマスク氏は、予測不能で要求の多い上司として知られる。

ビジネス・インサイダー誌のアトキンソン氏は、マスク氏とヤッカーリノ氏は、とりわけ2024年の米大統領選が近づいていることから、投稿内容のモデレーション(管理・確認)をどのように実施するか、「難しい会話」に直面することになるだろうと指摘した。

「このようなややこしい経営状況の中で、リンダがどれだけ長くやっていけるかは誰にも分からない」