トランプ米大統領、国家非常事態宣言 新型ウイルス対策に500億ドル支出へ
ドナルド・トランプ米大統領は13日、新型コロナウイルスの感染拡大への取り組みを強化するため、国家非常事態を宣言した。この後、野党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は、医療保険に未加入の人も無料で検査を受けられるようにするなどの包括支援策でホワイトハウスと合意したと発表した。
トランプ氏は、「national emergency(国家、非常事態)」を「2つのとても大きい言葉」と呼び、最大500億ドル(約5兆4000億円)の連邦政府予算を検査や治療の拡充に充てると発表した。
ホワイトハウスの庭で記者会見したトランプ氏は、「これからの8週間が何より大事だ」と述べた。
非常事態宣言に伴う米政府の対応には、次のものが予定されている――。
- アレックス・エイザー保健福祉長官および保健当局は、医療従事者が一部の法律の規制や許認可要件を超えて、より柔軟に患者に対応できるようにする
- 各地の病院には非常事態行動計画の発動を要請
- 来週初めまでに50万検体分の検査を可能にする。ただし保健当局は、明確な必要のない検査は推奨していない。民間検査機関などが今月中にも、追加で500万検体分の検査キットを提供するようになる見通し
- 国内各地の大学が休校するなか、すべての学生ローンの利息が当面、帳消しにされる
トランプ氏が11日に発表した欧州26カ国からの入国制限は、米東部時間14日午前零時(日本時間14日午後1時)から始まった。イギリスやアイルランドは対象外で、アメリカ国民の帰国も認められる。この措置には欧州連合(EU)が強く反発している。
無保険でも無料で検査
アメリカではこれまでに1701人の感染が確認されており、死者は40人に上る。
野党・民主党は感染者集団(クラスター)が発生している州や連邦議会で、トランプ政権に非常事態の宣言を強く要請していた。アメリカには国民皆医療保険制度がないが、公衆衛生上の非常事態が宣言されることで、より大勢が政府の公的医療保険の適用を受けられるようになる。
民主党幹部のペロシ下院議長は同日、大統領の発表後、新型ウイルスのアウトブレイク(大流行)で影響を受ける市民への包括的支援策について、ホワイトハウスと合意に達したと発表した。
支援策には、2週間の有給疾病休暇や最大3カ月の有給介護休暇、医療保険未加入の人への無料検査、食料支援などが含まれる。
投資家は好感 過去最大の上げ幅
アメリカではこれまで検査の遅れや実施の少なさが特に問題視され、トランプ政権への批判が高まっていた。トランプ氏は当初からウイルスの影響を過小評価する発言を重ねていた。11日夜になってテレビ演説で欧州からの入国制限を発表すると、各地の株式市場は急落。ロンドンやニューヨークの市場では、1987年10月の「ブラック・マンデー」以来の下落率を記録した。
しかし、13日午後になってトランプ氏がウイルス対策を発表すると、ニューヨーク株式市場ではダウ平均など主要指標が急上昇。ダウ工業株30種は、過去最大の上げ幅となる前日比1985ドル(9.4%)高、2万3185.62ドルで取引を終えた。
(グラフは中国以外で感染が広がる様子。感染者が最も多い国や場所の順番が日を追うごとに入れ替わる)
トランプ氏にウイルス検査は必要か
非常事態を宣言した記者会見で、複数の記者がトランプ氏に対して、なぜウイルス検査を受けないのか、受ける予定はあるのか問いただした。最近になってトランプ氏の隣にいた人物の陽性反応が確認されたため。
トランプ氏はこうした質問に、自分には何の症状もないため検査は不要だと答えた。しかし、記者に「周囲を感染させる恐れがあるのに、身勝手ではないか」などと重ねて問われると、「どうせ近いうちに検査する」と答えた。
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が7日に、トランプ氏が所有する米フロリダ州のリゾート「マール・ア・ラーゴ」を訪れた際、同行していた大統領報道官ファビオ・ワインガルテン氏の感染が確認された。ワインガルテン報道官とボルソナロ大統領が、トランプ大統領やマイク・ペンス米副大統領と記念撮影した際、ワインガルテン氏はトランプ氏の真横に肩を並べて立っていた。
ボルソナロ大統領はウイルス検査の結果、陰性だったという。
一方ブラジルのグロボニュース・テレビによると、マール・ア・ラーゴでの会食に同席した駐ワシントンのブラジル臨時代理大使は、感染が確認されたという。
訪米中のワインガルテン氏と会ったフロリダ州マイアミのフランシス・スアレス市長は13日、陽性判定が出たと発表した。
ブラジル政府代表団は、マール・ア・ラーゴでほかにイヴァンカさんと夫ジャレド・クシュナー氏、トランプ氏の弁護士ルディ・ジュリアーニ氏とも会っている。
自分も同席していた与党・共和党のリンジー・グレアム上院議員は12日、「念には念を入れて」自主隔離すると発表した。
アメリカの国家非常事態とは
1988年スタッフォード法にもとづき、大統領は連邦緊急事態管理庁(FEMA)に対し、国内で発生する「大災害」への国家的対応を調整するよう指示することができる。これは大統領の専権事項。
トランプ氏は「国家、非常事態」は2つのとても大きい言葉だと述べたが、実際にはそれほど劇的なものではないと、BBCのアントニー・ザーカー北米担当記者は指摘する。
米国内では現在30件以上の非常事態宣言が発令中で、トランプ氏はこれまでに何度か同様の宣言をしている。その中には、不法移民の流入阻止を目的に南側の国境に米軍予算を使って壁を建設するという宣言も含まれる。
ほかには、カリフォルニア州の森林火災対策や中西部の洪水対策のためにも、国家非常事態を宣言している。
伝染病対策のための国家非常事態宣言は、バラク・オバマ前大統領が2009年にH1N1ウイルス対策のために同様の宣言をして以来。
ビル・クリントン元大統領は2000年に、米北東部でのウエストナイルウイルス感染拡大を抑えるため、国家非常事態を宣言した。
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