「ジョンソン首相の議会閉会は違法」  スコットランド高裁が判断

Court of Session judges
画像説明, 英スコットランド民事控訴院の内院は、全員一致で議会閉会を違法と判断した

英スコットランドの最高裁に当たる民事控訴院・内院は11日、ボリス・ジョンソン首相が議会を閉会したのは違法だと判断した。イギリスの欧州連合(EU)離脱に先立ち、首相は議会が政府の責任を問うのを阻止しようとしたと認定した。

この訴訟は、EU残留派の超党派議員グループが起こしたもの。同外院で行われた第一審では、議会閉会は違法ではないと結論付けられたが、原告側が上訴していた。

判決を受け、野党側は議会の再開を訴えている。一方、政府は最高裁での判断を待つとしている。

政府はすでにロンドンの最高裁に控訴しており、週明けにも審理が始まる見通し。

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10日に始まった閉会は5週間にわたる予定。上下両院は10月14日に再開され、開会式ではエリザベス女王がジョンソン政権の政策を発表する演説を行う。

イギリスは現在、10月31日にEUを離脱することになっている。野党や一部の与党・保守党議員は、ジョンソン首相が合意なしブレグジット(イギリスのEU離脱)を強行するため、議会に審議の時間を与えないよう閉会を行ったと批判している。

「事実上、女王をだました」と判断

裁判を起こした超党派の議員グループはスコットランド国民党(SNP)のジョアナ・チェリ-議員が主導し、75人が集まった。

ロンドンにあるイングランド高等裁判所が休暇中のため、裁判はスコットランドで行われたが、判決の拘束力などに違いはない。

民事控訴院の外院で行われた第一審では、判事のロード・ドハティーが原告側の主張を退け、閉会は違法ではないとの判断を下した。また、首相の動向を判断するのは議員や有権者であり、司法が判断すべきことではないと述べた。

しかし、内院でこの件を担当した3人の裁判官は全員一致で、ロード・ドハティーの判断を否定。ジョンソン首相は「議会を妨害しようという不適切な目的」の元に動き、閉会を進言することで事実上、エリザベス女王をだましたとの見解を示した。

さらに、「首相が女王陛下に行った助言と、それによる議会閉会は違法であり、無効であるとする裁判所命令を発令する」と述べた。

Boris Johnson

画像提供, UK Parliament

画像説明, ボリス・ジョンソン首相は、合意なしブレグジットを強行するために議会を閉会したとの批判を否定している

この判決の何が重要なのか

通常、裁判所が政府の決定に介入することはない。これは「margin of appreciation(一定の裁量、評価の余地)」と呼ばれる原則で、閣僚に私人よりも多くの裁量を与えるものだ。

こうした中、民事控訴院内院の3人の判事全員が、首相の判断に介入できると判断したことは非常に意味が大きいという。

エディンバラ大学のスティーヴン・ティアニー教授(憲法学)は、この判決は短期的にも長期的にも、イギリス政界に影響を与えるだろうと指摘する。

「裁判所は通常、特権行使について判断を下すことは適切ではないとの見方を示している。そのため、この判決の長期的な意味合いは非常に重要だ」

「外院は、首相の決断は『司法では判断できない』ものだと判断した。しかし内院の判決では、裁判所は多くの人が考えるよりももっと、政府の動きに介入する用意があることを示した」

エディンバラのピンセント・メイソン弁護士事務所に勤め、憲法を専門とするジム・コーマック氏は

「裁判官は今回、政府が女王陛下に助言する際、裁判所が認められる範囲を超えてしまった明らかなケースだと判断した」と説明した。

「今回のスコットランド民事控訴院の判決は、最高裁での審理を前に、この件の法的状況を大きく変えた」

政界の反応は?

首相官邸の報道官は、今回の判決に「失望した」と述べ、最高裁に控訴すると話した。

「イギリス政府は国内立法に関する力強い政策を推し進める必要がある。議会の閉会は合法であり、これを推進するのに必要なものだ」

動画説明, イギリス議会、5週間の閉会 「恥を知れ!」と議員ら抗議

スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相は、民事控訴院の判決は「憲法上非常に大きな意味を持つ」として、議会を即時再開し、「現実的で実質的な審議」を行うべきだと述べた。

また、「首相の行いはひどく無謀なもので、憲法や慣習に全く軽視している」と批判した。

最大野党・労働党のキア・スターマー影のEU離脱担当相も、早ければ11日午後から議会を再開すべきだと述べた。

BBCの取材に対しスターマー氏は、「ほとんどの人がボリス・ジョンソンを信じていない。しかし、裁判所が議会閉会は違法で、その動機も彼が言っていたものとは違うと判断したのは非常に心強い」と語った。

今回の裁判にも加わっている野党・自由民主党のジョー・スウィンソン党首は、「ボリス・ジョンソンが議会を閉会した理由はただ一つ、合意なしブレグジットを強行したいから、審議の目を避け、通常のルールに縛られずに強行したいからだ」と批判した。

保守党から造反し、現在は無所属となっているドミニク・グリーヴ議員は、ジョンソン首相がエリザベス女王をだましたのなら、「早急に辞任」すべきだと述べた。