テニス元王者ベッカー氏、トロフィー売って借金返済 BBCに「名声」を語る
テニス・ウィンブルドン選手権の男子シングルスを17歳で制覇し、一躍「時の人」となったボリス・ベッカー氏(ドイツ)を覚えている人は多いだろう。だが、引退後に破産し、トロフィーなどを売りに出す苦境に陥ったのはご存知だろうか。ベッカー氏がBBCに、「名声」と「転落」について語った。
現在51歳のベッカー氏がウィンブルドンを制したのは1985年だった。ノーシードから勝ちあがり、決勝でケヴィン・カレン選手を破った。17歳での優勝は当時、最年少記録だった。
1999年に引退するまで、ウィンブルドンの3回を含め、4大大会で計6回の優勝を果たした。
2年前に破産
その後、コーチを務めたり、事業を手がけたりしていたベッカー氏は、2017年6月にロンドンの裁判所で破産宣告を受けた。
借金返済のため、獲得した優勝トロフィーや、所有する腕時計、サインを入れた記念品、選手時代のウェアなどをオークションにかけることになった。
ところが、4大大会のトロフィー5個などが見当たらなかった。そこで、1992年バルセロナ五輪ダブルスの金メダルも含めた「戦利品」を探すのを手伝ってほしいと、2018年1月に声明を出して呼びかけた。
トロフィー2000万円
このほど開かれたオークションでは、1989年の全米オープンでイワン・レンドル選手を下して獲得した優勝トロフィーのレプリカに最も高値がついた。落札額は15万250ポンド(約2000万円)だった。
そのほか、デビス杯(国別対抗戦)のレプリカが5万2100ポンド(約700万円)で落札されるなど、この日の合計落札額は68万ポンド(約9200万円)を超えた。
ただ、ウィンブルドンや全豪オープンのトロフィーなどがまだ見つかっていないため、捜索とオークションは続けられるという。
「高い代償」
「いったん有名になったら、ずっと有名だ。ただそれは、高い代償を伴う」とベッカー氏は言う。
「誰かと一緒に座ってコーヒーを飲んでいたと思ったら、次の日には大見出しのニュースの主人公になっている」
今年のウィンブルドンでは、15歳のコリ・ガウフ選手(アメリカ)がベスト16まで勝ち進み、大きな注目を集めた。ガウフ選手の躍進を、ベッカー氏のときと比べる向きも少なくない。
「私の場合と今回のココ(愛称)・ガウフをめぐる熱狂ぶりを比較するといっても、彼女は4回戦に進んだだけだ」
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ベッカー氏は、現代の選手は彼の時代にはなかった難しさと直面していると指摘する。ソーシャルメディアとインターネットだ。
「通りを歩いていたら、大新聞の記者たちがどこに行くにも追いかけて来た。でも当時はインターネットもソーシャルメディアも無かった。それがどんな風か想像もつかなかった」
「少しも本当ではない事をソーシャルメディアで言うのはとても簡単だし、(言われた方が)そうじゃないと証明しなくてはならない。そんなの不当だ」
セレブ文化の悪影響
有名人をもてはやすセレブ文化の高まりと、それが若者に及ぼす影響について、ベッカー氏は疑問を投げかける。
「私は普通ではないことをしたから有名人となったが、最近は有名人だから有名人という人がたくさんいる。そういう人は有名であること以外、人生で何か特別な事をしたわけではない」
「若い子たちにとっては非常に難しい。有名になって成功したいか? そうだとして、どうそれを定義するのか?」
「ツイッターのフォロワーが1000万人になったら成功なのか? ものごとの価値と、何がどんな意味をもつのかという点で、危うい時代を迎えている」
35年前に教えてくれたら…
ベッカー氏は有名になったことを後悔はしていないとし、有名人であることにはいい面もあると話す。
「レストランでいつもいい席を用意してもらえる。有名人だとルールを少しだけ曲げることができる」
「かつての出来事にぞっとすることもあるが、今は笑い飛ばせる。テニスの試合に勝つことのほうが、もっと重要だった」
「35年前に、今の成功を収めると誰かが教えてくれたとしたら、私は直ちにそれを放棄するね」