情報伝達、ろう者に配慮を NPO理事長・伊藤芳浩さん

取材・構成 末崎毅 主にメールでやりとりしました
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 【神奈川】私は生まれつき耳が聞こえません。私のような「ろう者」はコロナ禍で三つの課題に直面しました。

 まず街中の人々がマスクを着けたため、相手の口の動きや表情が読み取れなくなり、話している内容がほとんど分からなくなりました。簡単な会話なら口の形である程度わかるのですが、役所では窓口担当者の表情や口の形がマスクで見えないため筆談になり、やりとりに普段の2倍近い時間がかかりました。コンビニで店員の「袋は要りますか?」という問いかけがわからず不要な袋がついてきてしまったり、レストランで頼んだものとは違うメニューが出てきたりしました。

 二つ目はコロナに関する自治体の記者会見に手話通訳がおらず、情報が伝わらなかったことです。私はNPO法人インフォメーションギャップバスターの理事長としてコミュニケーションのバリアフリー化を進めていますが、昨春に各地の聴覚障がい者らに問い合わせるなどして調べたところ、都道府県の会見の約6割で手話通訳がいませんでした。

 字幕がついていれば十分だろうと考える人もいるかもしれませんが、手話と日本語は全く別の言語です。以前は多くのろう学校で手話が禁じられたため、ろう者は理解しにくい口話で日本語を教えられ、日本語の習得が不十分なまま成人しています。ろう者の第一言語は手話。会見には手話通訳が必要です。

 三つ目は、その手話通訳者の感染リスクです。口の形も手話の一部なので、口元がマスクで隠れると伝わらないおそれがあります。口の形が見える方法として透明なマスクやフェースガードがありますが、流通が少なくて入手できず、マスクなしで通訳せざるを得ない場面もありました。

 三つの課題以外にも影響が出ています。テレワーク在宅勤務が浸透してオンラインミーティングが増えましたが、顔の表情や口の形を狭い画面の中で見なければならず、理解しづらい場面が増えています。対面なら、その場の全員を見渡して誰も発言していないことを確認してから自分が発言できますが、それもしづらくなってきています。

 「コロナ社会」では、聞こえない人だけでなく、聞こえる人にとってもコミュニケーションのしづらさを感じるようになった面があると思います。これをきっかけに、コロナの終息後も継続して、聞こえない人に配慮してもらえるようにしていただきたいです。

 具体的には、まず受付のかたに透明マスクなどを利用していただくことです。手話関係者や一部の店舗では広がっていますが、まだまだです。私たちは透明なマスクを身近な材料で手軽につくる方法をウェブサイトで公開しています。要望があり、英語版やネパール語版も作成しています。

 最近は多くの自治体の会見で手話通訳がつくようになりましたが、コロナ終息後も継続して欲しいです。役所などの受付では筆談や音声認識アプリなどコミュニケーションを助ける手段も極力ご用意いただくよう配慮をお願いしたい。電車が緊急停車した時なども、車内表示に文字で案内が出ないとおろおろします。

 オンラインミーティングでは、限られた画面の中で「相手に伝わる工夫」が必要で、字幕も含め様々な選択肢が増えて欲しい。今後は企業などに対し、字幕などに対応したツールの導入を進めるよう働きかけていきたいと考えています。(取材・構成 末崎毅 主にメールでやりとりしました)

     ◇

 いとう・よしひろ 岐阜県生まれ。名古屋大学理学部卒。日立製作所勤務のかたわら、聞こえる人と聞こえにくい人、聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化などに取り組むNPO法人「インフォメーションギャップバスター」(横浜市)の理事長として活動する。大学や企業、市民団体などで、これまで100件以上の講演を重ねている。50歳

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