ヒトの理性は自然選択をとおして進化した――そのような考えはあまりにも明白で、疑いようのないものであるように思われる。理性的であること/合理的であることは適応的利益を有しており、それゆえに、理性を備えた個体がヒトの集団中に広まっていったのだ、と。しかし、じつはそのような考え方も、詳しく検討すると難題に逢着する。というのも、ヒトはときに愚かで、ときに極端に賢いからである。どういうことだろうか。
行動経済学がたびたび指摘してきたように、概して合理的だと考えられるわたしたちも、じつはしばしば論理的・統計的な間違いを犯してしまう。だが、そのような意味でヒトがそれほど合理的でないのだとしたら、そもそも「理性は進化した」などと主張することができるだろうか。これが第一の問題である。
他方で、ヒトはある面で過度に理性的でもある。アインシュタインの相対性理論に象徴される科学的思考について考えてみよう。それらはたしかに理性的思考の産物にほかならないが、しかし、そこまで高度な理性的思考がヒトの進化史において(過去の人類が暮らしていた狩猟採集生活において)適応的利益を有していたとは考えにくい。それゆえ、そうした高度な理性については、「それが適応的利益を有していたからこそ、それを備えた個体が選択された」とは考えにくいのである。これが第二の問題だ。
というように、「ヒトの理性は自然選択をとおして進化した」とするには、わたしたちは一方であまりにも愚かで、他方であまりにも賢すぎるように思われる。とはいうものの、もちろん、「ヒトの理性は自然選択をとおして進化した」というのは否定しがたい事実であろう。ならば、それらふたつの事実はいかにして折り合いをつけられるのだろうか。
というのが本書の問題設定である。その問題設定からして刺激的であるが、それに加えて、その問題に答えを与えようとする議論も非常に刺激的だ。緻密な哲学的議論でもあるから、その詳細についてはぜひ本書自身にあたってほしいが、ここで少しだけネタバレをすると、認知心理学や行動経済学でいう「二重過程説」、哲学者ピーター・カラザースや心理学者トーマス・ズデンドルフのいう「心的リハーサル」ないし「心の時間旅行」などが、著者の用いる道具立てである。そのように、心理学、進化論、行動経済学などの知見を組み合わせながら、じつに刺激的で、なおかつ地に足のついた哲学的議論を著者は組み立てていくのである。
京大出身の科学哲学者を中心に、日本でもこういった形での哲学を展開できる若手研究者が現れつつあることに、心から拍手喝采を送りたい。これからも多分野の知見を組み合わせつつ、おもしろいテーマとトピックをわたしたちに教えてもらえたらと思う。
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理性の起源: 賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ (河出ブックス 101) 単行本(ソフトカバー) – 2017/2/11
網谷祐一
(著)
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理性があることは進化で有利か。どのような理性が進化したか。
最新の諸科学の成果からヒトらしさの根源に迫る知的エンタテインメント。
戸田山和久氏推薦!
-----
【目次】
序章 理性はなぜ進化論の問題になるのか
1 なぜ理性なのか
2 理性って何?
3 理性はなぜ進化論の問題になるのか
4 理性の起源がなぜ哲学の問題になるのか
5 本書の構成
第1章 進化と理性の二つの問題
1 五分でわかるダーウィン進化論の基礎
(1) 自然選択の仮想例——シマウマの足の速さ
(2) いくつかの注意
2 自然選択説は人間行動をどう説明するか
(1) つわりの進化
(2) ストリップバーでのチップの額を進化から説明する
3 理性が進化したと考えてよい二つの理由
4 理性が進化したと考えるときに残る二つの問題
第2章 そもそも人間は理性的なのか
1 論理・確率クイズ——なぜこんな問題を間違うのか
2 人間はほんとうに理性的か——四つの回答
〈ボックス1 リンダ問題の亜種〉
第3章 理性は本当に進化で有利なのか
1 理性は自然選択で進化する
2 理性は自然選択で進化するとは限らない
3 理性をモデル化すると……やっぱり理性は進化できる
(1) どういうときに理性的に学ぶことが有利になるのか
(2) 推論能力の進化をモデル化する
第4章 どのようなかたちの理性が進化したか
1 人間はどのように理性的か——シンプル・イズ・ラショナル?
〈ボックス2〉 〈テイク・ザ・ベスト〉ヒューリスティックス
2 それではシンプルすぎる
(1)ヒューリスティックスだけでは人間の理性は捉えられない
(2)複雑な世界、あるいは駆け引きの問題
3 一つの脳に二つの理性——二重過程説
(1) 二つのプロセスの性質
(2) 二重過程説への誤解——熟慮的理性を使うことがいつも正しいわけではない
〈ボックス3〉 「理性」と「知能」の区別
4 「熟慮的理性」の進化
(1) 熟慮的理性の基盤としての仮定的思考
(2) 心的リハーサル
(3) 心的リハーサルの利益とコスト
(4) 心的リハーサルの進化——ヒトと類人猿との共通点
(5) ヒトと類人猿との相違点
〈ボックス4〉 理性の議論説
〈ボックス5〉ヒト=儀礼する動物?
第5章 科学を生み出した理性
1 狩猟採集民の「科学的」思考
(1) 推測的トラッキング
(2) 擬人化による推論
2 科学的推論の基盤
おわりに
注
最新の諸科学の成果からヒトらしさの根源に迫る知的エンタテインメント。
戸田山和久氏推薦!
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【目次】
序章 理性はなぜ進化論の問題になるのか
1 なぜ理性なのか
2 理性って何?
3 理性はなぜ進化論の問題になるのか
4 理性の起源がなぜ哲学の問題になるのか
5 本書の構成
第1章 進化と理性の二つの問題
1 五分でわかるダーウィン進化論の基礎
(1) 自然選択の仮想例——シマウマの足の速さ
(2) いくつかの注意
2 自然選択説は人間行動をどう説明するか
(1) つわりの進化
(2) ストリップバーでのチップの額を進化から説明する
3 理性が進化したと考えてよい二つの理由
4 理性が進化したと考えるときに残る二つの問題
第2章 そもそも人間は理性的なのか
1 論理・確率クイズ——なぜこんな問題を間違うのか
2 人間はほんとうに理性的か——四つの回答
〈ボックス1 リンダ問題の亜種〉
第3章 理性は本当に進化で有利なのか
1 理性は自然選択で進化する
2 理性は自然選択で進化するとは限らない
3 理性をモデル化すると……やっぱり理性は進化できる
(1) どういうときに理性的に学ぶことが有利になるのか
(2) 推論能力の進化をモデル化する
第4章 どのようなかたちの理性が進化したか
1 人間はどのように理性的か——シンプル・イズ・ラショナル?
〈ボックス2〉 〈テイク・ザ・ベスト〉ヒューリスティックス
2 それではシンプルすぎる
(1)ヒューリスティックスだけでは人間の理性は捉えられない
(2)複雑な世界、あるいは駆け引きの問題
3 一つの脳に二つの理性——二重過程説
(1) 二つのプロセスの性質
(2) 二重過程説への誤解——熟慮的理性を使うことがいつも正しいわけではない
〈ボックス3〉 「理性」と「知能」の区別
4 「熟慮的理性」の進化
(1) 熟慮的理性の基盤としての仮定的思考
(2) 心的リハーサル
(3) 心的リハーサルの利益とコスト
(4) 心的リハーサルの進化——ヒトと類人猿との共通点
(5) ヒトと類人猿との相違点
〈ボックス4〉 理性の議論説
〈ボックス5〉ヒト=儀礼する動物?
第5章 科学を生み出した理性
1 狩猟採集民の「科学的」思考
(1) 推測的トラッキング
(2) 擬人化による推論
2 科学的推論の基盤
おわりに
注
- 本の長さ232ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2017/2/11
- ISBN-104309625010
- ISBN-13978-4309625010
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著者について
1972年生まれ。東京農業大学(オホーツクキャンパス)准教授。専門は科学哲学。進化論を中心に、個別の科学理論を超えた視座から諸科学の成果を読み解く。共著に『進化論はなぜ哲学の問題になるのか』など。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2017/2/11)
- 発売日 : 2017/2/11
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 232ページ
- ISBN-10 : 4309625010
- ISBN-13 : 978-4309625010
- Amazon 売れ筋ランキング: - 689,629位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 37,329位科学・テクノロジー (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年2月18日に日本でレビュー済み
2017年11月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
どこかで読んだような話ばかりで個人的には新鮮みがなかった。とくに読みやすくも無いし
2017年5月17日に日本でレビュー済み
まず、この著者は、自然選択などの進化理論を正しく理解していて、とても納得できる議論が論じられている。
非常に生物進化に精通しているのは、読んでいてよくわかる。
とても頭の切れる人だと思う。だから、内容も面白い。
特に、二重過程説、熟慮的理性、心的リハーサルなどの説明は、これぞ優秀な哲学者が書いたものとして、とても楽しめた。
日本の書籍で、このようなものは新しいと思うので、本書は非常に貴重である。
このような、面白くて楽しめる本が、どんどん出てきてほしいと思う。
非常に生物進化に精通しているのは、読んでいてよくわかる。
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日本の書籍で、このようなものは新しいと思うので、本書は非常に貴重である。
このような、面白くて楽しめる本が、どんどん出てきてほしいと思う。
2017年3月8日に日本でレビュー済み
まず図1に目が停まった。ご丁寧に人からアメーバまで網羅されている。これは何か科学的根拠のある出典なのかと思ったら、単なる学生の当てずっぽだとあって、それはこの本のその後を予感させるものであった。
2017年6月19日に日本でレビュー済み
人間の「理性」の「起源」をダーウィンの進化論に沿って探求しようとした書だが、目的と記述内容とが乖離していて散漫な印象を受けた。まず、「理性とは何か」という厳密な定義がない。どうも、周囲の状況を考慮に入れながら、ある事柄の正否を演繹(判断)する能力の事を言っているらしいが、判然とせず、日常用語としての「理性」の概念を越えるものではないという印象を受けた。
そして、著者の関心は、人は誰でもある時は「理性的」に行動するのに、別の時は「非理性的」に行動するのは何故か ? 相対性理論の様に、人(この場合はアインシュタインだが)は時たま進化論的に"種の保存"とは無関係な程に過剰な「理性」を発揮するのは何故か ? という事にある由。著者は前者の疑問に対して、「理性」には「直観的理性」と「熟慮的理性」とが存在し、「直観的理性」だけに頼っていると、事柄の正否の演繹(判断)を誤ってしまう数多くの(他の学者の)心理テスト例を挙げているが、これはトートロジーと言って良く、「理性」をこのように分割できるのならば、これらの心理テストの結果は自明のものばかりを採っている。即ち、説明になっていないのである。後者に至っては本書を通して説明らしきものは無かった。
どうも著者は(他の学者の)心理テストの例を挙げるのに専心していて著者自身の見解・論旨が見えないのである。そして、致命的な瑕疵はダーウィンの進化論に沿うと明言しておきながら、ちっともそうなっていない点である。「理性」の源は脳であろう。脳が器官として遺伝形質に含まれる点は良いとしても、能力である「理性」が遺伝形質に含まれるか否かは相当に疑問で、この点に関して全く触れていないのは奇異に映った。全体を通して論旨・議論内容が首尾一貫していない練れていない書という印象を受けた。
そして、著者の関心は、人は誰でもある時は「理性的」に行動するのに、別の時は「非理性的」に行動するのは何故か ? 相対性理論の様に、人(この場合はアインシュタインだが)は時たま進化論的に"種の保存"とは無関係な程に過剰な「理性」を発揮するのは何故か ? という事にある由。著者は前者の疑問に対して、「理性」には「直観的理性」と「熟慮的理性」とが存在し、「直観的理性」だけに頼っていると、事柄の正否の演繹(判断)を誤ってしまう数多くの(他の学者の)心理テスト例を挙げているが、これはトートロジーと言って良く、「理性」をこのように分割できるのならば、これらの心理テストの結果は自明のものばかりを採っている。即ち、説明になっていないのである。後者に至っては本書を通して説明らしきものは無かった。
どうも著者は(他の学者の)心理テストの例を挙げるのに専心していて著者自身の見解・論旨が見えないのである。そして、致命的な瑕疵はダーウィンの進化論に沿うと明言しておきながら、ちっともそうなっていない点である。「理性」の源は脳であろう。脳が器官として遺伝形質に含まれる点は良いとしても、能力である「理性」が遺伝形質に含まれるか否かは相当に疑問で、この点に関して全く触れていないのは奇異に映った。全体を通して論旨・議論内容が首尾一貫していない練れていない書という印象を受けた。