ドイツの文明史家フックスによるヨーロッパの性風俗の歴史。特にエロティック絵画の分野では戦前ヨーロッパ有数のコレクターであり、「パリを食べてしまう」といわれたほどの収集品があったという。フックスの歴史観は、マルクス主義の階級闘争と唯物史観を性の分野に応用したものだ。「その時代を支配する階級が性道徳を決定する」という理論は面白くないが、証明のためにおびただしく引用される詩や散文の断片、そして銅版画などの挿絵は価値がある。補遺の部分は、「猛烈で露骨」な表現のために本文におさめることができなかった引用文が集められ興味津々である。
原書"Illustrierre Sittengeschichte vom Mittelalter bis zur Gegenwart" 3巻は1912年に公刊されるが、1933年にヒトラーの焚書政策でまっさきに焼かれ、稀覯本になってしまったという。安田徳太郎は社会主義者の医師として検挙された経験があり、1921年にこの原書を購入して太平洋戦争を間にはさんだ1948年に翻訳を完成させたという。1959年に光文社から全10巻として出版。角川文庫から再出版する時に、旧版では入れられなかった補遺全3巻を翻訳して加えたのが1971年なので、半世紀もこの『風俗の歴史』につきあったことになる。
第8巻は19世紀末までの「ブルジョア的服装」と「結婚と恋愛」について。胸元が広く開いたデコルテの流行、下着の発達、水着、自由恋愛、性教育、産児制限について論じる。図版・写真は101枚。
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