カンボジアの田んぼの泥沼でもがく白人家族の物語。ドロドロで貧しくて、打ちのめされていて、家族はめちゃくちゃで、こんなに華麗ではないフランス人、はじめて。宗主国が植民地の人間は搾取しているのが通例だけども、植民地にいる宗主国の人間も搾取されていたのだな。『太平洋の防波堤』と『愛人』、両方は作者マルグリット・デュラスの貧しい少女時代の物語である。扱っている現実は同じだけれども、その違いは、第三者視点で前者が書かれていて、後者は私小説とし書かれているということ。前者を書いた50年後に後者を書いているということ。それぞれ独立した作品として素晴らしいのだけれども、ぼくらにはさらにこの二つを比較するという贅沢な喜びがおまけである。前者では書けなかったことが後者では書かれていたり(それは書くと家族を傷つけることになったから)、前者は作家駆け出しの時に書かれたが、後者では作家生活50年で培った力を如何なく発揮していて筆の運びやその構成が恐ろしく自由闊達であったり、とこの二冊の間にデュラスの人間性や成長が大きく出ている。作品に加えてこの楽しみ。池澤夏樹の本当にすばらしいセレクトだと思う。
『悲しみよこんにちは』は、うーん、もっと若くして読むべきだったのかな、30代のおっさんでは感情移入できなかったなあ。ただ、その文才には舌を巻くけれども。サガンとか綿谷りさとか思春期の時に、文才がある人は少ないから若い作家は貴重なんだろうな。その若い心をすぐれた文章力で表現できるのだから。

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太平洋の防波堤/愛人 ラマン/悲しみよ こんにちは (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-4) 単行本 – 2008/3/11
愛の本質を見つめつづけ、世界に大きな影響を与えた二人の女性作家の代表作を集成。仏領インドシナを舞台に、美しい娘と彼女に焦がれる男の駆け引きを描いたデュラスの2作と、サガンが19歳で発表した衝撃のデビュー作。
- 本の長さ622ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2008/3/11
- ISBN-104309709443
- ISBN-13978-4309709444
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登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2008/3/11)
- 発売日 : 2008/3/11
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 622ページ
- ISBN-10 : 4309709443
- ISBN-13 : 978-4309709444
- Amazon 売れ筋ランキング: - 569,365位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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- - 8,283位日本文学研究
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2010年10月31日に日本でレビュー済み
1 太平洋の防波堤
富豪の西洋人、下層の西洋人、更に下層の現地人
それぞれの立場において、満たされなさの諸相が進行していき、
情感のこもった筆致でつづられていく。
下層の西洋人たる主人公の難題は母親からの自立。
悪戦苦闘の末、主人公も、その兄も何とか自立への道筋を見つけるが、
その解決は果たして彼らを幸せにしたのか…。
親からの自立、特に若くしての自立が、
洋の東西を問わず、
極めて困難であることを垣間見せてくれたが、
結末が、どことなく灰色決着であった。
2 ラマン
太平洋の防波堤の焼き直しだが、「太平洋…」で桎梏となっていた母親は、
ここでは都合よく死んでくれず、主人公もさっさと操を奪われてしまう。
おそらくこっちの方が、著者の実体験に近いと思われ、
「太平洋の…」深い悲しみと灰色決着の理由が理解できるのである。
3 悲しみよこんにちは
最後の「悲しみよこんにちは」という一言は、実に残酷な余韻を残すのだが、
自由を謳歌することはある種の残酷さを必要とすることの
的確な表現にも思えた。モーリヤックが「小さな可愛い怪物」と
感想を述べたのも故あるかなである。
富豪の西洋人、下層の西洋人、更に下層の現地人
それぞれの立場において、満たされなさの諸相が進行していき、
情感のこもった筆致でつづられていく。
下層の西洋人たる主人公の難題は母親からの自立。
悪戦苦闘の末、主人公も、その兄も何とか自立への道筋を見つけるが、
その解決は果たして彼らを幸せにしたのか…。
親からの自立、特に若くしての自立が、
洋の東西を問わず、
極めて困難であることを垣間見せてくれたが、
結末が、どことなく灰色決着であった。
2 ラマン
太平洋の防波堤の焼き直しだが、「太平洋…」で桎梏となっていた母親は、
ここでは都合よく死んでくれず、主人公もさっさと操を奪われてしまう。
おそらくこっちの方が、著者の実体験に近いと思われ、
「太平洋の…」深い悲しみと灰色決着の理由が理解できるのである。
3 悲しみよこんにちは
最後の「悲しみよこんにちは」という一言は、実に残酷な余韻を残すのだが、
自由を謳歌することはある種の残酷さを必要とすることの
的確な表現にも思えた。モーリヤックが「小さな可愛い怪物」と
感想を述べたのも故あるかなである。
2009年7月10日に日本でレビュー済み
この三作品に共通なのは、主人公の思春期における性の問題です。
でも、それぞれの作品のテーマは、必ずしもそれがメインではありません。
「太平洋の防波堤」
「愛人」とも共通するのですが、デュラスのインドシナでの体験を題材にした小説です。
ここでは、植民地での生活の夢が破れ、貧困にあえぐ家族を取り上げています。そのバックにあるのは、役人たちの「悪」です。
そこからくる「生活苦」は、母親を狂気の域に立たせ、子供たちはそこからの脱出を図ろうとします。
それを留まらせているのは、「家族」と言う絆です。
「運命」を象徴するかのような「太平洋」が印象的です。
「愛人」
こちらは、主人公が、母親からの自由(生活苦からの自由でもある)を、「愛人」を持つと言う形で得ようとしています。
この女性が主体性を持って自律的に問題に立ち向かっているように思えます。
どちらも、ラストが非常に印象的で素晴らしいものになっています。
「悲しみよ こんにちは」
余りにも有名なサガンの処女作です。
父親と少女そして愛人と言う非道徳的な親子の生活に、道徳的な女性アンヌが入ってくることによる、二つの価値観のぶつかり合いが描かれています。
それに、思春期の少女の反抗心や独占欲といったようなものが入り込み、悲劇を生みます。
少女の「性」と少女の「純粋さ」の描写が、いかにもと言う感じでバランス良く秀逸です。
でも、それぞれの作品のテーマは、必ずしもそれがメインではありません。
「太平洋の防波堤」
「愛人」とも共通するのですが、デュラスのインドシナでの体験を題材にした小説です。
ここでは、植民地での生活の夢が破れ、貧困にあえぐ家族を取り上げています。そのバックにあるのは、役人たちの「悪」です。
そこからくる「生活苦」は、母親を狂気の域に立たせ、子供たちはそこからの脱出を図ろうとします。
それを留まらせているのは、「家族」と言う絆です。
「運命」を象徴するかのような「太平洋」が印象的です。
「愛人」
こちらは、主人公が、母親からの自由(生活苦からの自由でもある)を、「愛人」を持つと言う形で得ようとしています。
この女性が主体性を持って自律的に問題に立ち向かっているように思えます。
どちらも、ラストが非常に印象的で素晴らしいものになっています。
「悲しみよ こんにちは」
余りにも有名なサガンの処女作です。
父親と少女そして愛人と言う非道徳的な親子の生活に、道徳的な女性アンヌが入ってくることによる、二つの価値観のぶつかり合いが描かれています。
それに、思春期の少女の反抗心や独占欲といったようなものが入り込み、悲劇を生みます。
少女の「性」と少女の「純粋さ」の描写が、いかにもと言う感じでバランス良く秀逸です。
2009年8月2日に日本でレビュー済み
河出書房新社から出ている世界文学全集の第4弾。フランスの女性作家2人、マルグリット・デュラスとフランソワーズ・サガンの代表作が所収されている。
デュラスの「愛人 ラマン」、サガンの「悲しみよ こんにちは」は読んだことがあったが、「太平洋の防波堤」は初めて読んだ。デュラスの少女時代ということだが、ラマンにも通じる濃密なエロティシズムを感じた。
サガンの「悲しみよ こんにちは」は20年ぶりぐらいに読んだが、当時は全く面白くもなかったが、主人公の父親と同じぐらいの年齢になってみて、この小説の主人公は、語り部の少女ではなく、その喜劇的な、あるいは悲劇的な父親であることが分かる。
デュラスの「愛人 ラマン」、サガンの「悲しみよ こんにちは」は読んだことがあったが、「太平洋の防波堤」は初めて読んだ。デュラスの少女時代ということだが、ラマンにも通じる濃密なエロティシズムを感じた。
サガンの「悲しみよ こんにちは」は20年ぶりぐらいに読んだが、当時は全く面白くもなかったが、主人公の父親と同じぐらいの年齢になってみて、この小説の主人公は、語り部の少女ではなく、その喜劇的な、あるいは悲劇的な父親であることが分かる。
2008年3月23日に日本でレビュー済み
「太平洋の防波堤」・・・植民地時代の仏領インドシナの田舎の話。
人生を懸けて手に入れた土地で失敗し続ける母親とその息子と娘(主人公)のお話です。
親子3人の生活が崩れていくところから始まり、母親が死ぬまでが語られています。
この母親が強烈。ある意味滑稽ですらあります。真面目で、夢見がちで、哀れで、子供を愛している人。
根が真面目な分融通がきかず、そのせいで報われない展開が滑稽で、哀れです。
それ以上に強烈なのが兄。主人公の憧れ、指針なのですが、ワイルドで、媚びなくて、自信に満ちて、自由気ままで、凶暴。
これはめろめろになる人がいてもおかしくないよなぁ、と読んでて実感。
ラスト、その兄の母親に対する感情の一面が見られるのですが、読んでいるとじんときます。
「ラマン愛人」・・・語りが濃密でくらくらしてきます。
中年になった主人公が、思いつくままに自分の過去を語ってゆく造りです。
語り口が上手くて、本当に上手くて、語られる過去についてはよくわからなくてもその感情はなんとなく伝わるのが凄いなぁと思ったことです。
内容が、この本から溢れているのが目に見えるようです。
そして、まぁエロティックな面も、読んでてくらくらさせられます。
恋愛じゃない性関係、性から始まる女の子の成長、独立、目線の変化、そして、老化もかな?
「悲しみよこんにちは」・・・いやぁ面白かった。というか、飲み込まれました。
特に、主人公の感情の綾がいいねぇ。
ちょっとしたことで後悔したり、企みをやめようと思ったり。
その一瞬一瞬は嘘じゃないんだよねぇ。でも、楽しくて仕方ないんだね、自分の無邪気さが・・・。
普段生活しているとその搖れる心はとても表現しにくいものですが、
それを、こんな風に言葉にされると、曖昧なものがハッキリ見えてきます。
そうなったことによる新鮮さと怖さが凄いインパクト。
人生を懸けて手に入れた土地で失敗し続ける母親とその息子と娘(主人公)のお話です。
親子3人の生活が崩れていくところから始まり、母親が死ぬまでが語られています。
この母親が強烈。ある意味滑稽ですらあります。真面目で、夢見がちで、哀れで、子供を愛している人。
根が真面目な分融通がきかず、そのせいで報われない展開が滑稽で、哀れです。
それ以上に強烈なのが兄。主人公の憧れ、指針なのですが、ワイルドで、媚びなくて、自信に満ちて、自由気ままで、凶暴。
これはめろめろになる人がいてもおかしくないよなぁ、と読んでて実感。
ラスト、その兄の母親に対する感情の一面が見られるのですが、読んでいるとじんときます。
「ラマン愛人」・・・語りが濃密でくらくらしてきます。
中年になった主人公が、思いつくままに自分の過去を語ってゆく造りです。
語り口が上手くて、本当に上手くて、語られる過去についてはよくわからなくてもその感情はなんとなく伝わるのが凄いなぁと思ったことです。
内容が、この本から溢れているのが目に見えるようです。
そして、まぁエロティックな面も、読んでてくらくらさせられます。
恋愛じゃない性関係、性から始まる女の子の成長、独立、目線の変化、そして、老化もかな?
「悲しみよこんにちは」・・・いやぁ面白かった。というか、飲み込まれました。
特に、主人公の感情の綾がいいねぇ。
ちょっとしたことで後悔したり、企みをやめようと思ったり。
その一瞬一瞬は嘘じゃないんだよねぇ。でも、楽しくて仕方ないんだね、自分の無邪気さが・・・。
普段生活しているとその搖れる心はとても表現しにくいものですが、
それを、こんな風に言葉にされると、曖昧なものがハッキリ見えてきます。
そうなったことによる新鮮さと怖さが凄いインパクト。
2008年7月9日に日本でレビュー済み
私は基本的にサガンもデュラスも大好きです。サガンは中高校生の時に好きでよく読んでいたのに対し、デュラスは20代後半に読み、フランス文学への尊敬を高めました。文学的な価値は全然違うと思います。どちらも20世紀と言えば20世紀だし、女流作家と言えば女流作家だしまあフランスだよね。。。という程度の共通点しかない不思議なカップリングには違和感さえ感じます。フランス人がこの本の組み合わせを見たらきっと驚くだろうなあと思います。
2021年1月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ロルVシュテインの歓喜が非常に読みにくくて躊躇していたデュラスの代表作を、意を決して読んで見た。
とても面白くて翻訳者の技量の高さを感じました。
私のように、一番難解な作品からデュラスを知った人は、こちらを読んでみることをお勧めします。
ロルV...はじめ後期のデュラスは明らかに重症のアル中であったため作品として発表するレベルなのか疑問なものが多いそうです、それらから読んで「つまんないかも,,,」と思ってしまう人は多そうで...
デュラス独特の記憶と情景描写が混じり合う文章が、くっきりと目に見えるように読めました。
愛人は思ったより短いのであっという間に読めます。
サガンも、名作のためいろんな人が訳していますが、一番読みやすかったですし、少女のませた心情に寄り添うような口調の表現が素晴らしいと思いました。
もう、主人公よりアンヌに共感してしまう自分は、ずいぶん大人になったなぁと感じます。
本当にいい文学とは、読む側が何歳になっても楽しめますね、自粛で引きこもりの中、いろんな気づきを与えてくれた本です。
とても面白くて翻訳者の技量の高さを感じました。
私のように、一番難解な作品からデュラスを知った人は、こちらを読んでみることをお勧めします。
ロルV...はじめ後期のデュラスは明らかに重症のアル中であったため作品として発表するレベルなのか疑問なものが多いそうです、それらから読んで「つまんないかも,,,」と思ってしまう人は多そうで...
デュラス独特の記憶と情景描写が混じり合う文章が、くっきりと目に見えるように読めました。
愛人は思ったより短いのであっという間に読めます。
サガンも、名作のためいろんな人が訳していますが、一番読みやすかったですし、少女のませた心情に寄り添うような口調の表現が素晴らしいと思いました。
もう、主人公よりアンヌに共感してしまう自分は、ずいぶん大人になったなぁと感じます。
本当にいい文学とは、読む側が何歳になっても楽しめますね、自粛で引きこもりの中、いろんな気づきを与えてくれた本です。