すべての可能世界は現実世界と同じような存在論的資格を以って実在する。現実世界が特別に思われるのは、たまたまこの私がそこに存在しているからだ‥‥という趣旨の、ルイスの様相実在論を耳にした時に、ある種のときめきを覚えたのは評者だけではあるまい。
けれど‥‥。ルイスの一番目の主著の訳『反事実条件法』を手に取ってみたはいいが、途中からテクニカルになってきたのに肝を潰して放り出してしまった。二番目の主著である本書も、恐る恐る手に取ってみたのだが、幸いそれほどテクニカルではない。ただし、漫談的に冗長で議論の道筋を見失いがちなので、星一つ減らしておいた。
それでも、次のような謎めいた一節に巡り合ったのは収穫だった。
「‥‥私が誰か別の人間だったかもしれないという可能性について考えてみよう。ここに私がいる。そこに哀れなフレッドがいる。〔神のご加護がなければ、あそこには私がいたかもしれない。私が私であって彼ではないのは、なんと幸運なことであろうか。そして、幸運があるところには偶然性がなければならないのである。〕私はいま、私が哀れなフレッドであるという可能性について考えており、それが実現されていないことを喜んでいる。〔私は世界の質的な違いを含むような可能性について考えているのではないー-たとえば、私とまったく同じ起源をもつ誰かがフレッドとまったく同じ不幸な境遇に陥っている世界について考えているのではない。そうではなく、〕この世界と全く同じようなある世界において自分がフレッドである可能世界に考えているのである。‥‥私が考えていたのは、単に私がフレッドの人生を送ったかもしれないということではなく、私がフレッドの人生を送ったフレッドだったかもしれないということだった」。
「‥‥私は次のように提案する。私が思い描いているのは、われわれの世界と質的に似ているがこのもの主義的に異なるような世界ではない。そうではなく、ひとつの可能個体(実際のところ、ひとつの現実の個体)、すなわち哀れなフレッドその人である。他のすべての可能的な人物と同じく、彼はある人物のひとつの可能なあり方である。そしてある意味では、彼は私のひとつの可能なあり方でさえあるのだ。彼は、同じ種に属する事物であるという以上のことを何も要求しないような、はなはだしく寛大な対応者関係のもとで、私の対応者なのである‥‥問題の可能性は、わたしにとっての可能性であって、世界にとっての可能性ではないのである。それは、われわれの世界とこのもの主義的に異なり、私について私がフレッドであると事象表象するような何か別の世界ではない。それは、われわれの世界のなかでいまのような状況にいるフレッドその人なのである(23)」(pp.263-264)。
日本の可能世界論者のなかには、「もし私が他の誰かだったら」といった反実仮想命題の有意味性に疑義を投げかける論者がいるので、ルイスご本人のこのような論述を見るのは心強い。
また、この原注(23)も極めて興味深いので、ついでに引用しておく。
「トマス・ネーゲルは、自分が誰か別の人物だったかもしれないという考えについて論じている。彼は次のように言う。「私がTN(あるいは誰であれ私が実際にそうである人物)であることは、偶然的であるように見える‥‥私はたまたまTNという公に同定可能な人物であるかのように思われるのだ(Nagel 1983:p.225)。ネーゲルによれば、この考えは額面どおりにうけとるべきであって、私が違った人生を送ったかもしれないというようなもっと扱いやすい考えに置き換えるべきではない。これに対して、私は次のように主張する。この考えは、ネーゲル自身が提案するように、結局のところ彼は本当はTNではないという考えに置き換えるのではなく、彼は、たまたまTNを通してこの世界を見ているが誰か別の人物を通してみることもできたような、ある「自己」であるという考えに置き換えるべきである(こんなことをして何になるのかだって?こちらの「自己」であってあちらのではないということの偶然性と幸運を感じてもらえないだろうか)。」(p.317)
ルイスがネーゲルを引用しているとは思いがけなかったので、嬉しい驚きだった。しかも、後に人工知能学者Robertsによって「意識の超難問harder problem of consciousness」と名づけられることになる、核心部分をだ。
それでも、このくだりは、ルイスのなかで最も謎めいた部分だ。そもそも、可能世界ならぬ「可能個体」が、どうして唐突に説明抜きで出て来なければならないのか。少なくとも日本語文献でこの点を追求した例は見いだせなかった。
いずれにしても、対応者などという、すでにクリプキによってこっぴどく批判されている概念にこだわる限りは、屋上屋を重ねる結果になる他ないと思われる。その点、
Yagisawa, T. "Worlds and individuals, possible and otherwise" (Oxford University Press ,2000)は、同じ様相実在論に拠りながら、時空間の四次元主義に加えて第5次元として可能世界の次元を付け加えるという離れ業(?)によって、新たな発展の方向を見いだしていると思われる。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
新品:
¥6,380¥6,380 税込
ポイント: 192pt
(3%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp 販売者: Amazon.co.jp
新品:
¥6,380¥6,380 税込
ポイント: 192pt
(3%)
無料お届け日:
3月31日 日曜日
発送元: Amazon.co.jp
販売者: Amazon.co.jp
中古品: ¥4,070
中古品:
¥4,070

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
世界の複数性について 単行本 – 2016/8/30
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥6,380","priceAmount":6380.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"6,380","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"1VbZhZJRENQ6cFewZBcHgA%2FFXWdIla4tZbHkXSmsOeyATb8g%2BTzYfHNgWiziRlUsiV%2FYj7570lNKde6QY0Guv3%2FhIHQ38LJrru4Bkjw6Vd1QDwzQQEW64iP9sVUwfy1s9Q8D%2FkAbAcs%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}, {"displayPrice":"¥4,070","priceAmount":4070.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"4,070","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"1VbZhZJRENQ6cFewZBcHgA%2FFXWdIla4t1Zj7meK8nCGeXYR0IO9dqrP16qf7265ygCrxvvnTkOpCWPY%2FTsASif5wWdZJdYp8KTAf2xR%2Fz0BTM3GxDg09Hwskb94Q%2B35n%2FqmgJYXDVjjlBYgRPuhnq7z6K4AsZMjnEQtqrMTK3C%2BqTmdK%2FI6mv%2Faj4orZ%2FMMM","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"USED","aapiBuyingOptionIndex":1}]}
購入オプションとあわせ買い
われわれの住むこの世界とは異なる、可能世界は実在するのか? この上なく大胆な枠組みを、明晰かつ説得力ある語り口で展開。可能性や必然性などをまったく新たな形でとらえ直すことで、世界のあり方をかつてない仕方で問いかけ、知的転回をもたらした衝撃作。
【書 評】
・『みすず』(第656号、2017年1・2月合併号、評者:佐々木力氏)
・『図書新聞』(第3286号、2017年1月14日、評者:吉満昭宏氏)
・『週刊読書人』(第3169号、2016年12月16日、評者:上村忠男氏)
・『週刊読書人』(第3161号、2016年10月21日、評者:秋葉剛史氏)
【目 次】
序 文
第1章 哲学者の楽園
1・1 世界の複数性テーゼ
1・2 様相実在論に何ができるか —— 様相
1・3 様相実在論に何ができるか —— 近さ
1・4 様相実在論に何ができるか —— 内容
1・5 様相実在論に何ができるか —— 性質
1・6 世界の分離
1・7 具体性
1・8 充満性
1・9 現実性
第2章 楽園にあるパラドックス?
2・1 あらゆるものが現実的になってしまう?
2・2 すべての世界がひとつの世界のうちにある?
2・3 実際よりも多くの世界がある?
2・4 いかにして知りうるのか?
2・5 懐疑主義への道?
2・6 無関心への道?
2・7 恣意性が失われる?
2・8 疑いの眼
第3章 安上がりな楽園?
3・1 代用主義のプログラム
3・2 言語的代用主義
3・3 図像的代用主義
3・4 魔術的代用主義
第4章 対応者か、それとも二重生活者か?
4・1 良い問いと悪い問い
4・2 世界のオーバーラップへの反論
4・3 貫世界的個体への反論
4・4 このもの主義への反論
4・5 表象の一貫性への反論
註 / 解説(八木沢敬)/ 監訳者あとがき / 文献一覧 / 人名索引 / 事項索引
【書 評】
・『みすず』(第656号、2017年1・2月合併号、評者:佐々木力氏)
・『図書新聞』(第3286号、2017年1月14日、評者:吉満昭宏氏)
・『週刊読書人』(第3169号、2016年12月16日、評者:上村忠男氏)
・『週刊読書人』(第3161号、2016年10月21日、評者:秋葉剛史氏)
【目 次】
序 文
第1章 哲学者の楽園
1・1 世界の複数性テーゼ
1・2 様相実在論に何ができるか —— 様相
1・3 様相実在論に何ができるか —— 近さ
1・4 様相実在論に何ができるか —— 内容
1・5 様相実在論に何ができるか —— 性質
1・6 世界の分離
1・7 具体性
1・8 充満性
1・9 現実性
第2章 楽園にあるパラドックス?
2・1 あらゆるものが現実的になってしまう?
2・2 すべての世界がひとつの世界のうちにある?
2・3 実際よりも多くの世界がある?
2・4 いかにして知りうるのか?
2・5 懐疑主義への道?
2・6 無関心への道?
2・7 恣意性が失われる?
2・8 疑いの眼
第3章 安上がりな楽園?
3・1 代用主義のプログラム
3・2 言語的代用主義
3・3 図像的代用主義
3・4 魔術的代用主義
第4章 対応者か、それとも二重生活者か?
4・1 良い問いと悪い問い
4・2 世界のオーバーラップへの反論
4・3 貫世界的個体への反論
4・4 このもの主義への反論
4・5 表象の一貫性への反論
註 / 解説(八木沢敬)/ 監訳者あとがき / 文献一覧 / 人名索引 / 事項索引
- 本の長さ352ページ
- 言語日本語
- 出版社名古屋大学出版会
- 発売日2016/8/30
- 寸法15.7 x 2.7 x 21.7 cm
- ISBN-104815808465
- ISBN-13978-4815808464
よく一緒に購入されている商品

対象商品: 世界の複数性について
¥6,380¥6,380
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り5点(入荷予定あり)
¥4,400¥4,400
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り4点(入荷予定あり)
¥2,640¥2,640
最短で3月31日 日曜日のお届け予定です
残り8点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
著者について
【監訳者】
出口 康夫(でぐち やすお)
1962年生まれ。名古屋工業大学専任講師などを経て、現在は京都大学大学院文学研究科教授。
著書に、The Moon Points Back(共編、Oxford UP, 2015)、Nothingness in Asian Philosophy(共著、Routledge, 2014)ほか。
【訳者】
佐金 武(さこん たけし)
1978年生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科講師。
小山 虎(こやま とら)
1973年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科特任助教。
海田 大輔(かいだ だいすけ)
1970年生まれ。京都大学大学院文学研究科講師。
山口 尚(やまぐち しょう)
1978年生まれ。京都大学非常勤講師。
(所属等は初版第1刷発行時のものです)
出口 康夫(でぐち やすお)
1962年生まれ。名古屋工業大学専任講師などを経て、現在は京都大学大学院文学研究科教授。
著書に、The Moon Points Back(共編、Oxford UP, 2015)、Nothingness in Asian Philosophy(共著、Routledge, 2014)ほか。
【訳者】
佐金 武(さこん たけし)
1978年生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科講師。
小山 虎(こやま とら)
1973年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科特任助教。
海田 大輔(かいだ だいすけ)
1970年生まれ。京都大学大学院文学研究科講師。
山口 尚(やまぐち しょう)
1978年生まれ。京都大学非常勤講師。
(所属等は初版第1刷発行時のものです)
登録情報
- 出版社 : 名古屋大学出版会 (2016/8/30)
- 発売日 : 2016/8/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 352ページ
- ISBN-10 : 4815808465
- ISBN-13 : 978-4815808464
- 寸法 : 15.7 x 2.7 x 21.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 505,357位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.7つ
5つのうち4.7つ
4グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2020年2月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
世界は複数存在するという著者のアスペクト(様相)存在論に対しては、近年、思弁的実在論(新存在論、新唯物論)が異議申し立てをしている。すなわち、「世界は存在しない」である。著者の主張(テーゼ)を整理すると
①世界は「様相(アスペクト)」として複数存在する。
②時空を越えた宇宙までを含む物理的世界が根底に存在し、それを「様相(アスペクト)」として語るのが、著者にとっての哲学である。
③「様相(アスペクト)」は、観察者の視点(主観)と対象(物理的世界)を必要とする。とりわけ、物理的世界が観察者にどのような「様相(アスペクト)」を呈示するのかという観点が決定的である。
④しかし、著者が言うように、観察者がそれぞれの視点で捉えた物理的世界の「様相(アスペクト)」を「世界」と見なして良いのであろうか?それは観察者が捉えた物理的世界の一断面、一様相に過ぎないものであり、単なる「主観的世界」に過ぎないのでないか?著者の立場からすれば、観察者は物理的世界全体を捉えることは出来ない。だから「(物理的)世界は存在しない」と言うべきなのではないか?
⑤このように考えると、新実在論に軍配が上がる。「世界は存在しない」が、主観的世界のみが存在すると。しかし、新実在論も、物理的世界全体の存在を否定することは出来ない。世界全体を知ることは出来ないと考えるのである。だとすれば、新実在論と著者の複数世界存在論はある意味同一の論点を主張する。両者の違いは物理的世界全体を「世界」として認めるか否かの違いである。
本書は参考になる論点が満載だ。
お勧めの一冊だ。
①世界は「様相(アスペクト)」として複数存在する。
②時空を越えた宇宙までを含む物理的世界が根底に存在し、それを「様相(アスペクト)」として語るのが、著者にとっての哲学である。
③「様相(アスペクト)」は、観察者の視点(主観)と対象(物理的世界)を必要とする。とりわけ、物理的世界が観察者にどのような「様相(アスペクト)」を呈示するのかという観点が決定的である。
④しかし、著者が言うように、観察者がそれぞれの視点で捉えた物理的世界の「様相(アスペクト)」を「世界」と見なして良いのであろうか?それは観察者が捉えた物理的世界の一断面、一様相に過ぎないものであり、単なる「主観的世界」に過ぎないのでないか?著者の立場からすれば、観察者は物理的世界全体を捉えることは出来ない。だから「(物理的)世界は存在しない」と言うべきなのではないか?
⑤このように考えると、新実在論に軍配が上がる。「世界は存在しない」が、主観的世界のみが存在すると。しかし、新実在論も、物理的世界全体の存在を否定することは出来ない。世界全体を知ることは出来ないと考えるのである。だとすれば、新実在論と著者の複数世界存在論はある意味同一の論点を主張する。両者の違いは物理的世界全体を「世界」として認めるか否かの違いである。
本書は参考になる論点が満載だ。
お勧めの一冊だ。
2022年10月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
可能世界に関しては、量子論との故みで多世界が実在するのか という物理学的問題と、脳が可能世界を操作しているのか という認知科学的問題とがあります。
認知科学的問題については、経験論哲学者ネルソン・グッドマン『事実・虚構・予言』の「現実のみを残し、現実でない可能なるモノを消去せよ!」という反対態度があります。ちなみにデヴィッド・ルイスはライプニッツ以来の合理論哲学の系譜に属します。
グッドマンは、次のようにして、脳が「虚構」や「予言」を知覚しているように見える事態を「事実」の知覚に置き換えます。
「このゴミは可燃物だ!」と知覚するとき、「ある可能世界でマッチの炎を そのゴミに近づけると、そのゴミは燃えるであろう!」という「虚構」の知覚に見えます。
しかし、グッドマンは、これは「このゴミは ある材質だ!」という「事実」の言い換えに過ぎないと見做します。
空を見上げて「これから雨が降るだろう!」と知覚するとき、「未来という可能世界で雨が降っているだろう!」という「予言」の知覚に見えます。
しかし、グッドマンは、これは「空が"これから雨が降るだろう"的、つまり暗い!」という「事実」の言い換えに過ぎないと見做します。
グッドマンは、こうして脳が可能世界を操作していることを否定します。
可能世界集団は容易に組合せ爆発を起こすので、脳が古典物理的メカニズムであると、可能世界集団を操作することは、計算時間やメモリ容量の制約から難しいと言えます。
しかしながら、脳が量子論的メカニズムであると、量子コンピュータのように、組合せ爆発を起こす可能世界集団を並列に操作して、相対的に尤度の高い1つの可能世界を発展シナリオとして知覚することが可能になります。
認知科学的問題については、経験論哲学者ネルソン・グッドマン『事実・虚構・予言』の「現実のみを残し、現実でない可能なるモノを消去せよ!」という反対態度があります。ちなみにデヴィッド・ルイスはライプニッツ以来の合理論哲学の系譜に属します。
グッドマンは、次のようにして、脳が「虚構」や「予言」を知覚しているように見える事態を「事実」の知覚に置き換えます。
「このゴミは可燃物だ!」と知覚するとき、「ある可能世界でマッチの炎を そのゴミに近づけると、そのゴミは燃えるであろう!」という「虚構」の知覚に見えます。
しかし、グッドマンは、これは「このゴミは ある材質だ!」という「事実」の言い換えに過ぎないと見做します。
空を見上げて「これから雨が降るだろう!」と知覚するとき、「未来という可能世界で雨が降っているだろう!」という「予言」の知覚に見えます。
しかし、グッドマンは、これは「空が"これから雨が降るだろう"的、つまり暗い!」という「事実」の言い換えに過ぎないと見做します。
グッドマンは、こうして脳が可能世界を操作していることを否定します。
可能世界集団は容易に組合せ爆発を起こすので、脳が古典物理的メカニズムであると、可能世界集団を操作することは、計算時間やメモリ容量の制約から難しいと言えます。
しかしながら、脳が量子論的メカニズムであると、量子コンピュータのように、組合せ爆発を起こす可能世界集団を並列に操作して、相対的に尤度の高い1つの可能世界を発展シナリオとして知覚することが可能になります。