『ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯』(イルメ・シャーバー著、高田ゆみ子訳、沢木耕太郎解説、祥伝社)は、戦場女性写真家、ゲルダ・タローの本格的な世界初の伝記である。
本書の本文と沢木耕太郎の解説によって、多くのことを知ることができた。第1は、ゲルダは恋多き女性だったこと。第2は、3歳年下のロバート・キャパがゲルダに夢中になり、プロポーズしたが拒絶されたこと。第3は、プロポーズが実らなかった後も、二人は戦場カメラマンとして協働作業を続けたこと。第4は、キャパはプロポーズを断られたにも拘わらず、ゲルダの死後、ゲルダは自分の妻だったと吹聴し、他の女性と真剣な恋愛関係を持たなかったこと。第5は、キャパの名を高らしめた「崩れ落ちる兵士」の写真は、キャパでなくゲルダが撮影した作品の可能性が高いこと。第6は、第二次世界大戦後、アメリカで写真家としてさらなる飛躍を期したキャパが、米ソ冷戦体制の中で、協力相手であったゲルダのコミュニストという側面を気遣い、ゲルダの作品も自分の作品として発表した可能性が高いこと。第7は、ゲルダ・タローというアーティスト・ネイムの「タロー」は、親しかった岡本太郎に由来する可能性が高いこと。
「彼女(ゲルダ)を家族の住むドイツという土地から追い立てるように(パリへ)旅立たせたのは、ユダヤ人としての宿命だった」。その後、ゲルダの家族は全員がホロコーストによって抹殺されたのである。
「最もゲルダを知るひとりであっただろうルート・ツェルフがこう言っている。『貞節とか関係維持能力といったものは、ゲルダには備わっていませんでした。友人関係においてはかなり身勝手でした』」。
「彼女とキャパがスペインに来てから6週間以上が過ぎていた。数百キロを移動しながら、彼らはカメラを通して革命と戦争に肉薄しようとした。仲間の写真家ロメオ・マルティネスは、ゲルダは頭の回転が速く、高いモチベーションの持ち主だったという。仕事の取り組み方も細やかで直感的だった」。
「タローはカメラを手段に、戦争という男支配の社会へ飛び込んでいった。彼女の戦争取材に対する決意は、スペインで活動していた他の女性写真家との違いを大きく際立たせることになった」。
「ゲルダ・タローは、政治に対する抗議として戦争を撮った。彼女が現実の戦争の中で撮影した写真は、全体主義芸術が統一的な軍隊や理想的闘士を賛美したのとは対照的である。戦時下の生々しい日常生活の写真や、兵士や一般市民ら普通の人々のポートレートは、死と近代技術を賛美するファシズム芸術に対する反論だった」。
「タローとキャパはよく同じシーンを撮影している」。
「『我々はみなゲルダが大好きだった。(ウォルター)将軍も例外ではなかった。ゲルダは愛くるしく、あどけない魅力と美しさの持ち主だった。我々の師団は全員、この小柄な娘の勇気を讃えた』」。
「(暴走する味方の戦車に轢かれ、瀕死の重傷を負って病院へ)輸送されるあいだ彼女はずっと、腹に手を当てて自分の内臓を押し込んでいた。・・・できるだけ痛みを和らげられるように、ゲルダは十分なモルヒネを与えられた。彼女は一度、意識を取り戻した。そして尋ねた。『私のカメラは大丈夫? まだ新品なのよ』と」。この事故により、ゲルダは26歳という若さでこの世を去ってしまうのだ。
「(ゲルダの葬儀後)キャパが、ゲルダ・タローを真剣に深く愛していたことを表明したのは、(ゲルダの)父親に対してだけではなかった。つまるところキャパは、自分はゲルダと結婚して夫婦だったと思いたかった。そう考えることが慰めとなったのだろう。それどころか彼はやがて周囲に、二人は結婚してからパリへ来たとまで話すようになった。彼はゲルダに出会った早い時期から、彼女と人生を共にするつもりだったと話した」。「(ゲルダの死によって)24歳になったばかりの若者(キャパ)が自分の殻の中に固く閉じこもったこと、それ以降は誰とも強い恋愛関係を結ばなかったこと、多忙な取材記者として一種破天荒な生活を送ろうとしたこと。これらはキャパにまつわる多くのエピソードが示す通りである」。
「(2007年の)『メキシカン・スーツケース』に収められていた写真資料の発見は、ゲルダ・タローに写真史上に確固とした地位を与えた。戦闘の最中での取材活動の末に殉職した最初の女性写真家であるタローは、戦争報道のパイオニアとして大きな影響を与えた。彼女はエスプリとカメラを武器に、時代を注意深く観察した批判的目撃者であった」。「力強い構図、対象への眼差しと距離感、光の効果。改めて認識した。ゲルダは写真家だったのだ」。
これまで、ゲルダはキャパの恋人としての側面ばかりが注目されてきたが、この労作は、勇敢かつ優秀な戦場女性写真家、ゲルダ・タローを生き生きと甦らせることに成功している。これは、快挙である。
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ゲルダ――キャパが愛した女性写真家の生涯 単行本(ソフトカバー) – 2015/10/31
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あの「崩れ落ちる兵士」を撮ったのは、
彼女かもしれない?
ナチスから逃れ、パリに渡り、戦場に散った“もうひとりのキャパ"、
その短くも壮絶な一生とは?
伝説の女性戦場カメラマンの肖像、初の日本語訳
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沢木耕太郎 渾身の解説50枚「旅するゲルダ」
私はゲルダという女性の像が明確になってきたことに、興奮を覚えた――沢木耕太郎
- 本の長さ457ページ
- 言語日本語
- 出版社祥伝社
- 発売日2015/10/31
- ISBN-104396650558
- ISBN-13978-4396650551
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商品の説明
出版社からのコメント
解説・沢木耕太郎――「解説者のまえがき」より
ゲルダについて、私たちは多くを知ることがなかった。ある時期までは、リチャード・ウィーランが著わした『キャパ』の中で触れられている彼女についての情報がすべてだった。だが、ウィーランのゲルダは、あくまでも「キャパの恋人」としてのゲルダだった。キャパにとってどのような意味を持つ存在だったのか、という観点を大きく出ることはなかった。
ところが、ここにイルメ・シャーバーの『ゲルダ』が現れた。
私は、初めての日本語訳となる今回の翻訳出版で、あらためてゲルダという女性の像が明確になってきたことに、興奮を覚えた。
著者について
◆著者:イルメ・シャーバー Irme Schaber
1956年生まれ。ドイツの歴史学者、作家、およびキュレーター。90年よりテュービンゲン大学でゲルダ・タローの研究を始める。94年、ゲルダの最初の評伝『ゲルダ・タロー』(本書の旧版)を刊行、各国で翻訳される。ニューヨークの国際写真センター(ICP)で開かれたゲルダ・タロー回顧展ではゲストキュレーターを務めた。本書は旧版に加筆した最新版で、初の日本語訳。
◆翻訳:高田ゆみ子
1956年、大阪府生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。翻訳書に『みえない雲』『最後の子どもたち』(ともに小学館)、『ロバート・キャパ スペイン内戦』(岩波書店)、『そこに僕らは居合わせた』(みすず書房)ほかがある。
◆解説:沢木耕太郎
1947年、東京都生まれ。横浜国立大学卒業。79年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年、『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、85年、『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、2003年に菊池寛賞、06年、『凍』で講談社ノンフィクション賞を受賞。戦場カメラマン、ロバート・キャパの半自伝『ちょっとピンぼけ』を学生時代から愛読。評伝の翻訳、写真集の監修を手掛けるなどして、その生涯を追い続けてきた。「崩れ落ちる兵士」の真実に迫った『キャパの十字架』(文藝春秋)は2013年に司馬遼太郎賞受賞。近著に『キャパへの追走』(文藝春秋)がある。
1956年生まれ。ドイツの歴史学者、作家、およびキュレーター。90年よりテュービンゲン大学でゲルダ・タローの研究を始める。94年、ゲルダの最初の評伝『ゲルダ・タロー』(本書の旧版)を刊行、各国で翻訳される。ニューヨークの国際写真センター(ICP)で開かれたゲルダ・タロー回顧展ではゲストキュレーターを務めた。本書は旧版に加筆した最新版で、初の日本語訳。
◆翻訳:高田ゆみ子
1956年、大阪府生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。翻訳書に『みえない雲』『最後の子どもたち』(ともに小学館)、『ロバート・キャパ スペイン内戦』(岩波書店)、『そこに僕らは居合わせた』(みすず書房)ほかがある。
◆解説:沢木耕太郎
1947年、東京都生まれ。横浜国立大学卒業。79年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年、『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、85年、『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、2003年に菊池寛賞、06年、『凍』で講談社ノンフィクション賞を受賞。戦場カメラマン、ロバート・キャパの半自伝『ちょっとピンぼけ』を学生時代から愛読。評伝の翻訳、写真集の監修を手掛けるなどして、その生涯を追い続けてきた。「崩れ落ちる兵士」の真実に迫った『キャパの十字架』(文藝春秋)は2013年に司馬遼太郎賞受賞。近著に『キャパへの追走』(文藝春秋)がある。
登録情報
- 出版社 : 祥伝社 (2015/10/31)
- 発売日 : 2015/10/31
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 457ページ
- ISBN-10 : 4396650558
- ISBN-13 : 978-4396650551
- Amazon 売れ筋ランキング: - 784,944位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
6グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年5月16日に日本でレビュー済み
2016年1月7日に日本でレビュー済み
ゲルダはキャパの「最愛の人」だけではなく、優れた、そして不運なカメラマンである。
この本には、
キャパの伝記や沢木耕太郎の著書で書かれたゲルダの実像が生い立ちまで遡って詳述されている。そして少し驚くのは、この希代のカメラマンのカップルは、生き様そのものが時代を反映していて、必然性すら感じることだ。
ユダヤ人としての迫害、亡命先のパリでの生活、カップルがともに職を持ち対外的に表現を行うという先進的でありながら、流行しつつあったライフスタイル、そして埋もれないためのビジネスネームの考案等、彼らは時代をカメラに写すだけではなく、むしろ、時代の目撃者であり体現者であった気がする。
ゲルダの背景を知ることによって、キャパの背景も知ることができる貴重な本であるのだけれども、本の帯といい、アマゾンでの表記順(著者→解説者→訳者)といい、(沢木耕太郎の貢献を考慮してもなお)沢木耕太郎を前面に出しすぎなところは気になる。
この本には、
キャパの伝記や沢木耕太郎の著書で書かれたゲルダの実像が生い立ちまで遡って詳述されている。そして少し驚くのは、この希代のカメラマンのカップルは、生き様そのものが時代を反映していて、必然性すら感じることだ。
ユダヤ人としての迫害、亡命先のパリでの生活、カップルがともに職を持ち対外的に表現を行うという先進的でありながら、流行しつつあったライフスタイル、そして埋もれないためのビジネスネームの考案等、彼らは時代をカメラに写すだけではなく、むしろ、時代の目撃者であり体現者であった気がする。
ゲルダの背景を知ることによって、キャパの背景も知ることができる貴重な本であるのだけれども、本の帯といい、アマゾンでの表記順(著者→解説者→訳者)といい、(沢木耕太郎の貢献を考慮してもなお)沢木耕太郎を前面に出しすぎなところは気になる。