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さあ、見張りを立てよ 単行本 – 2016/12/20
- 本の長さ364ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2016/12/20
- ISBN-104152096608
- ISBN-13978-4152096609
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商品の説明
メディア掲載レビューほか
『アラバマ物語』の続編で感じた人種平等の難しさ
ハーパー・リーが『さあ、見張りを立てよ』で投げかけた現実
続編小説は正編のファンのために書かれるものだ。だが『さあ、見張りを立てよ』については『アラバマ物語』を心より愛する読者は、あるいは手に取らないほうがいいかもしれない。
ハーパー・リーの『アラバマ物語』は1960年に発表されるやいなやベストセラーになり、ピューリッツァー賞まで獲得する。62年には映画化され、こちらも語り手の父アティカス・フィンチを演じたグレゴリー・ペックがアカデミー主演男優賞を受賞する。人種差別の色濃い南部の田舎町で、強くはないが決して折れない信念の人であるアティカスはアメリカの理想の父親像とも目された。『アラバマ物語』は人種問題の教科書となったのである。処女作でおよそあらゆる栄誉をかき集めたリーはそのまま沈黙を保った。ところが、そのリーが死ぬ直前、2015年になって、突如第二作を発表した。
物語は『アラバマ物語』のほぼ20年後、ニューヨークで暮らしているスカウトが故郷であるアラバマ州メイコムに帰ってくるところからはじまる。70歳を超えた父アティカスはまだ矍鑠(かくしゃく)としており、スカウトの恋人であるヘンリーを助手にして後継者として育てながら弁護士業を営んでいる。故郷の懐かしさと同時に閉塞した南部社会の窮屈さも感じているスカウト。ある日曜日、アティカスとヘンリーは「会合」に出かけていく。その集会をのぞいたスカウトは総毛立つ。それは公民権運動に反対し、人種隔離政策を擁護する「白人市民会議」の集会だったのだ。
これは幻滅の物語である。スカウトは神のごとくに崇めていた父親、自分に人種平等の理想を教えてくれたアティカスが人種差別主義者と席を同じくしていることに絶望する。父親の声も無様な言い訳、理想への裏切りでしかない。人種平等の理想は尊いが、黒人に性急に白人と同じ権利を与えても不幸しか生まないだろう。黒人に権利を与えるのは、南部白人社会が育んできた価値をなげうつことだ。我々に本当にその準備ができているのだろうか?
本書は、実は『アラバマ物語』の最初の草稿として書かれたものである。いわば『アラバマ物語』になれなかった残りの部分が本書になったわけである。それは『アラバマ物語』の補完、あるいは本音と読むこともできるだろう。あまりに理想化されすぎ、あるいは重荷でもあったかもしれないアティカスを、リーはどこかで悪魔祓いしなければならなかったのかもしれない。スカウトの理想は、2017年の現在まで、本当の意味では実現していないのだから。
評者:柳下 毅一郎
(週刊文春 2017.3.9号掲載)登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2016/12/20)
- 発売日 : 2016/12/20
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 364ページ
- ISBN-10 : 4152096608
- ISBN-13 : 978-4152096609
- Amazon 売れ筋ランキング: - 165,841位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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本書の評判はすこぶる悪かったが、読んでみると思ったよりも面白かった。人々が変わってしまったのがわかるシーンや、ジーン・ルイーズが町のおかしな雰囲気に立ち向かっていく様子、そして特にアティカスとものすごい議論をするシーンなどはとてもよかった。ヘンリー(恋人)やアティカスの側の主張も理解できるところがあり、興味深い。前作のように「正義の話」とはならない当時の南部のリアリティを表している。にもかかわらずそれに流されないジーン・ルイーズ。
『アラバマ物語』のアティカスを「ヒーロー」と思っている人には読むのがつらいだろう。だが作者はアティカスを単なるヒーローのままにしたくなかったのかもしれない。アティカスほどの人でもおかしな社会の中で変容してしまうのだ。しかしそれにはそれなりの理由もある。誰もが年を取るとこうなってしまうのかもしれないと思えた。だからこそ子どもは(精神的な意味での)「親殺し」を経験するのだ。ジーン・ルイーズ=スカウトのように。評判ほど悪くない、むしろいい意味で期待を裏切られたと思った。
121頁には、「主は私にこう仰せられた。
さあ、見張りを立たせ、見たことを告げさせよ」(イザヤ書21章6節から)
233頁には、「ミスター・ストーンは昨日、教会で『見張りを立たせよ』と言った。
私に見張りを与えてくれるべきだったのだ。私は、自分を導いてくれる見張りが欲しい。
そして、何を見たか一時間ごとに報告してもらいたい。ある人が何か言っても、
実際に彼が言いたいのはこういうことだと説明してくれる見張りが欲しい」
主人公の私(娘)の見張り(私の父親が言ったことについて、実際に父親が言いたいのは
こういうことだと説明してくれる見張り)は、
父親の弟のジャック叔父さん(ドクター・フィンチ)でした。(235頁)
ジャック叔父さんは「すべての人間は孤島であり、その人間の見張りは自分の良心だ」(337頁)
と私に優しく気付かせてくれました。
叔父さんは、娘の母親を「愛していた」ので、自分の娘のように面倒を見てくれたのでした。
本書の中で、私は車の屋根に頭を二度ぶつけますが、何を暗示しているのでしょうか?
66頁: 車に乗り込むときジーン・ルイーズは屋根に頭をしたたかぶつけてしまった。
196頁: 車に乗ろうとして彼女は頭をぶつけた。
そして、
357頁: ハンドルの前に座ろうとしたとき、今回は頭をぶつけないように気をつけた。
この文章で、この長篇は終わります。
いい本を読みました。娘が叔父さんに助けられながら父親を乗り越えていく姿に感動できました。