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「パックマン」と「ゼビウス」の開発者が当時の秘話や将来的なゲームの姿を語った。“ナイト「GAME ON」第三夜”の模様をレポート
このトークショーには,サブタイトルにも名前がある通り岩谷 徹氏と遠藤雅伸氏が登壇。司会進行は,「パックマン」をやりこんでいたというアスキー総合研究所所長の遠藤 諭氏が担当した。
岩谷氏と遠藤雅伸氏は両者とも初期のナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)を代表するタイトルを手がけ,今は共に東京工芸大学の教授と日本デジタルゲーム学会の副会長/会長を務めているが,この2人がツーショットとなるのはなかなか珍しい。遠藤氏は不仲説に触れつつ,冗談めかして大学では養老院を作っている仲だと語った。
「パックマン」に関しては,フルーツターゲットのチェリーやベルはスロットマシンがモチーフとなっていること,チェリーからフルーツシリーズとしてストロベリーやオレンジを入れていったがネタが尽きたのでギャラクシアンなどを入れたことなどの開発時のエピソードを切り口として,ゲーム開発における重要なファクタが語られた。
岩谷氏はゲームシステムをデザインするにあたって,最初に“動詞”を考えるとのこと。「パックマン」では“女性向け”というコンセプトから,「女性なら……ファッション……恋愛……“食べる”!」と閃きを得たという。
また,システムにおいて重要なのは「パッと見で何をするのか分かること」であり,パックマンのルールについても,見ただけで「食べればいい/逃げればいい」という最低限のルールが分かるようにしたそうだ。
メイズの壁が輪郭線だけで表現されているのは,壁の印象を薄くして「面倒臭い迷路のゲーム」と思われないようにする考えだったという。これについて「ドルアーガの塔」で背景一面をレンガ模様にした遠藤氏は,「レンガにしちゃいけなかったんだね」と言って苦笑いを浮かべていた。
また,ゲーム開発にはプログラマの手腕が非常に重要。その点において,舟木茂雄氏による「パックマン」のプログラミングは非常に優れていると岩谷氏は語った。
「パックマン」のゴーストには個体ごとの性格付け(赤のアカベエはパックマンを追尾し,桃色のピンキーはパックマンの32ドット先を目指し,青のアオスケはパックマンに対して点対称の地点を目指し,オレンジのグズタはランダムに動く)がなされているうえ,定期的にメイズ上の“ホームポイント”に戻るようになっており,それによってパックマンに波状攻撃を仕掛けてくるのだ。
岩谷氏は,船木氏に“単純に追尾するだけだとゴーストが数珠つなぎになっちゃうから,パックマンをなるべく囲むように動かして”という漠然とした指示を出しただけだったのだが,このようなアルゴリズムが生み出されたという。船木氏のセンスの良さがうかがえるところだ。
このゴーストにキャラクター性を持たせるほど秀麗なアルゴリズムは嬉しかったのだが,そのパターン性にプレイヤーが気付いたことには悔しさを覚えたとのこと。岩谷氏と言えば,映画「ピクセル」に登場した同氏がモチーフのキャラクター(演:デニス・アキヤマ氏)は「パターンを覚えろ」と言っていたが,実際は規則性が感じられないような,有機的な動きを表現したかったようだ。
開発者は悔しがった一方,当時のプレイヤーはゴーストのパターンを読み解くという行為に面白さを感じていた。この“製作者とプレイヤーの受け取り方の違い”について,遠藤 諭氏は可愛らしい「スペースインベーダー」の開発者である西角友宏氏の名前を挙げ,同氏が「本当は,もっとギトギトの怖い絵にしたかった」と語った類例を紹介した。遠藤雅伸氏はこれについて,「ゲームは,それが製作者が意図していないことでも,プレイヤーの見つけたもので育っていく」と述べた。
壇上ではそのほか、パックマンのデザインは1ピースが欠けたシェーキーズのピザから着想を得たこと、ビデオゲームが著作物であるという初めての判例になった通称“パックマン事件”や,コピープロテクトの工夫なども話題になった。「パックマン」は“武蔵屋”という飲食店にちなんだ「上に6回,右に3回,下に4回,左に8回」というコマンドでシークレットのマルシー表記が出るとのことで,機会があれば試してみたいものだ。
「ゼビウス」については,遠藤雅伸氏自身による80ページものスライドが用意され,開発の経緯が「シャイアン」というという攻撃ヘリコプターの企画だったころから紹介された。
「シャイアン」の開発チームに参加した遠藤雅伸氏は,さまざまなSF作品のエッセンスを取り入れて,壮大な背景設定と独特の雰囲気に満ちた「ゼビウス」を作り上げた。それにおいては,遠藤雅伸氏の個人的な趣味がふんだんに盛り込まれている。
このように,かなり自分の趣味嗜好に忠実な遠藤雅伸氏は,上司(岩谷氏)と衝突することも多く,飲み屋でよく喧嘩していたとのこと。これについて岩谷氏は,「これが新人類ってやつか……」と思っていたそうだ。
極限までプリミティブな面白さを追求した「パックマン」とは正反対に,“プレイするたびに謎が深まる”ような裏設定がてんこ盛りの「ゼビウス」。遠藤氏いわく,「ゲームは無駄遣いが響いてくるもの」であり,こういった細かい設定が,シリーズ化や商品化,二次創作などに影響を与えるのだという。
このようなことを述べていたものの,遠藤氏は真面目な方面でもちゃんとVRを研究しており,VRコンテンツにおいて最重要なのは「脳が誤認すること」と発見したという。HMDを用いたコンテンツにはジェットコースターをモチーフとしたものが散見されるが,「誤認」の点で言うと視覚的経験と体感的加速度にギャップがあるため,それほどうまくいかないそうだ。
また,風景を見渡すようなものよりも,近くに物があって距離を測れるコンテンツの方が,「誤認」はさせやすいという。ちなみに,遠藤氏はこのような“近くの物体を認識すると現実感が高まる”仕組みについて,「ATフィールドの侵食」と表現していた。
遠藤雅伸氏が熱く語るように,最近は“VR元年”と謳われるほどの一大VRブーム。しかしナムコは昨今のVRブーム以前からコンテンツの研究を行っており,約20年前にはイギリスで開発された「Virtuality(バーチャリティ)」のコインオペレート版を売ろうとしていたと,岩谷氏は紹介した。ロケテストまで実施した「Virtuality」だが,プレイヤーを案内したりHMDの汗を拭いたりするためオペレータが常時必要であると判明し,人件費的に難があるため製品化が見送られたという。そのほかにも,首を振るとHMDの重量によるモーメントが発生し,首に負荷がかかるという問題もあったそうだ。
ちなみにバンダイナムコエンターテインメントの“VR ZONE Project i Can”を展開しているコヤ所長こと小山順一朗氏は,「Virtuality」ロケテストの担当者だったという。もしかすると,「Virtuality」の経験は“VR ZONE Project i Can”に反映されているのかもしれない。
また,岩谷氏は5円1プレイの電動木馬がナムコ(当時は有限会社 中村製作所)として最初の製品だったことにも話題を伸ばした。電動木馬は子供が空想の中で架空の乗馬体験を楽しむ遊具なので,岩谷氏は「ナムコはVRから始まった会社」と述べ,それが今日にもつながっていると語った。
「GAME ON〜ゲームってなんでおもしろい?」公式サイト
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