2000年問題は空騒ぎだったのか

専門家の間では、重大なトラブルもなく終わった2000年問題の対応に数千億ドルを費やしたことが正しい選択だったのかと疑問視する声もあがり始めている。しかし、巨大メーカーには複雑で長い部品供給網がある以上、まだ安心できないという声もある。

ロイター 2000年01月05日

ロンドン発――2000年問題関連でとくに大きなトラブルが起こらなかったことを受け、ヨーロッパとアジアの株式市場では3日(現地時間)、株価が記録的な値上がりを見せ、その後開くアメリカ市場も同様の値動きをするだろうという期待が高まっている。同時に、2000年問題への対策に何千億ドルもの費用を費やす必要が本当にあったのかについての議論もまた白熱している。

フランクフルト、パリ、ミラノ、マドリード、ヘルシンキ、アムステルダムの株式市場はいずれも最高値の記録を更新した。深刻なコンピューターのトラブルが起こらなかったことへの安心感と、投資家らが昨年から引き続いて活発な動きを見せるだろうという期待感からだ。

香港、シンガポール、ボンベイの株式市場でも最高値を更新した。東京、シドニー、ロンドンの市場は休日のため3日は取引がなかった。

欧州中央銀行は、同銀行のシステムはすべて正常に作動しており、2000年問題は一切起こっていないと報告した。

ヨーロッパの統一通貨である『ユーロ』は、2000年問題への安心感と今年の欧州経済の発展についての希望的観測に支えされ値上がりした。

このような楽観的ムードはアメリカにも漂っている。

「米国市場も、世界各地の市場と同じ状況になるだろうと私は考えている」と語るのは、米カンター・フィッツジェラルド社の主任マーケット・アナリストであるビル・ミーハン氏。

「年が改まった。私の知っている範囲では2000年問題は起こっていないし、ヨーロッパの市場は軒並み高値を更新している。アメリカではテクノロジー(関連株)がさらに勢いづくだろう」

ミレニアム・バグはほとんど何の問題も起こさなかったため、世界中で5000億ドル以上が費やされたと推定されているその対策費用は、果たしてそれに価する支出だったかどうかを問う人もいる。

ロンドン大学ユニバーシティーカレッジのソフトウェア・システム工学部長、アンソニー・フィンケルスタイン教授は、オーストラリアのABCラジオで、「このパニックは、あらゆる組織の意図的な動きから生じたものだ。なかにはこれを利用して一儲けを企む人間さえいた。このような事態になった原因は強欲にあると私は考えている」と語った。

しかし、2000年の幕開けが本当に成功したかどうか、今の段階で判断するのはまだ早いと言う専門家もいる。

独立組織としてミレニアム・バグの監視にあたってきたイギリスの『タスクフォース2000』のロビン・ゲニアー会長は、『フィナンシャル・タイムズ』紙に答えて、最悪の事態が起こるのはまだ先の話だと述べた。

日付が西暦2000年に変わる瞬間に発生する問題は、全体のごく一部に過ぎないと予想されていた。「起こりうる問題の約65%はこれから表面化してくると考えている」とゲニアー会長は語った。

ゲニアー会長も、ミレニアム・バグに費やされた巨額の金が結果として必要のないものだったとわかったならば、答えに窮する疑問が生じるだろうことは認める。

「2000年問題に特別な費用をほとんどかけなかったイタリア人などは、あの大騒ぎは一体何だったのだと冷やかすことができる。ブリティッシュ・テレコム社が4億ポンドも使ったのにテレコム・イタリア社がほとんど何もせずにうまくやり過ごしたとしたら、いろいろな疑問が生じるに違いない」

「しかし、われわれはまだ総括できる段階には達していない。私が非常に心配しているのは、これでみなが満足してしまうことだ。そうなると、とても危険なことになるだろう」

米マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長は、米CNNテレビのインタビューに対して、大惨劇は起こりそうにないものの、今後数ヵ月は小規模なトラブルが続発してコンピューター・システムが混乱する可能性はあると答えた。

「これから数ヵ月間は、請求書の作成システムや税務関連ソフトウェアが使い物にならなくなった、という話を耳にすることがあるだろう」

「壊滅的被害が出るとは思わないが、小規模な混乱はたくさん起こるだろう」というのが、大半のユーザーにとってコンピューター・システムの顔とも言うべき『ウィンドウズ』OSを生み出したゲイツ会長の意見だ。

ゲイツ会長は、2000年への移行が「ごく小さな問題だけで済んだのは、世界が協力して対応にあたったためだ。もし人々がこの問題を無視していたとしたら、本当に大きな衝撃があっただろう」と述べた。

専門家たちの中には、世界中に複雑な部品供給網を張り巡らせている大手メーカーはまだ被害を受ける可能性があると心配する者もいる。

コンピューター・コンサルタント会社である米キャップ・ジェミニ(Cap Gemini)社の2000年問題サービス責任者、クリス・ウェブスター氏は、注意を緩めるにはまだ早過ぎると語る。西側諸国の大手メーカーに重要な部品を供給している小規模な各社は、依然危険な状態にあるというのだ。

米ゼネラルモーターズ(GM)社の場合、4500件の供給元から納品される部品を使って自動車を生産している。非常に小さな組織が巨大なピラミッドを構成し、GM社はそれに依存しているわけだ。

もしこのピラミッドを形作る会社のどれか1つが部品を納入できなければ、生産の全プロセスが止まってしまう可能性がある。もしもどこかの小さな会社が、メーカーのシンボルマークを固定する10セント硬貨ほどの大きさしかないメタルホルダーを納品できなければ、車を出荷することができなくなる。

「基本的に小さな会社の方が危険性が高く、依然として問題が残っている可能性がある。長くて複雑な部品供給網にとっては、まだ危機は去っていないのだ。少なくとも半年が過ぎるまでは、私は不安を拭いきれない」とウェブスター氏は述べた。

[日本語版:藤原聡美/岩坂 彰]

WIRED NEWS 原文(English)