ピーター・ティール(左)とイーロン・マスク(右)。
Associated Press
- 決済サービスを提供するペイパルの設立初期の社員たちは、同社を退職後、テック系スタートアップを設立し、その数は10社以上にのぼる。
- 「ペイパル・マフィア」として知られるようになったこれらの初期の社員は、テスラ、スペースX、リンクトイン、イェルプといった企業の設立に直接関わった。
- ペイパルにルーツのあるもっとも新しい企業で、大きな話題を呼んでいるのがパランティアだ。同社はビッグデータ解析を専門とし、2020年10月にはニューヨーク証券取引所に上場した。
ペイパル(PayPal)がなければ、パランティア(Palantir)は生まれていなかったかもしれない。ユーチューブ(YouTube)、スペースX(SpaceX)、リンクトイン(LinkedIn)、イェルプ(Yelp)もそうだ。
ピーター・ティール(Peter Thiel)、マックス・レヴチン(Max Levchin)、ルーク・ノゼック(Luke Nosek)によって1998年に設立された決済会社、コンフィニティ(Confinity)がペイパルの前身となり、シリコンバレーの巨大企業へと成長した。同社が2002年にイーベイ(eBay)に15億ドルで買収されたことでシリコンバレーの歴史が変わり、テック業界を代表するようになる人々のキャリア形成につながった。
「ペイパルマフィア」として知られるようになるペイパル設立初期の社員には、ベンチャーキャピタリスト、テック企業創業者、さらにはアメリカの大使になった者もいる。
ここでは、ペイパルの成功がなかったら、スタートを切ることさえできなかったであろうテック企業を紹介しよう。
秘密主義で知られるデータ分析企業パランティアは、ピーター・ティールが共同創業者となっている。彼はペイパルの共同創業者でもある
ピーター・ティール
Stephanie Keith/Getty Images
設立年:2003年
業務内容:データを管理・分析するためのソフトウェアを開発。このソフトウェアはビッグデータからパターンを導き出すことに役立ち、企業や法執行業務等を行う公的機関などに利用されている。
ペイパルとの関係:ペイパルがイーベイに買収された後、ティールはパランティアを設立した。起業のアイデアは、ティールがペイパルでクレジットカード詐欺に対処した経験から生まれた。スタンフォード大学在学中にペイパルで財務部門のインターンをしていたジョー・ロンズデール(Joe Lonsdale)も、パランティアの共同創業者の1人だ。
アファーム(Affirm)はペイパルの共同創業者であるマックス・レヴチン(Max Levchin)が立ち上げた
マックス・レヴチン
Getty
設立年:2013年
業務内容:アファームはオンラインショッピングをしている顧客に対し、即時に与信枠(利用限度額)を提供する。それによって顧客は後払いや分割払いができるようになる。同社は2020年9月にシリーズGラウンドで5億ドルを調達した。
ペイパルとの関係:アファームを発案したレヴチンは、ペイパルの創業者の1人。彼は2014年からスタートアップの支援企業HVFのCEOを務めており、そのHVFからスピンアウトしたのがアファームだ。アファームを創業したチームには、パランティアの共同創業者でもあるネイサン・ゲッティングス(Nathan Gettings)もいる。
妊活をサポートするグロー(Glow)も、マックス・レヴチンのスタートアップ支援企業HVFから生まれた
マックス・レヴチン
Getty / Steve Jennings
設立年:2013年
業務内容:データサイエンスを利用して、生理や排卵の周期や、生殖能力、妊娠、子供の成長を記録するためのアプリを開発。
ペイパルとの関係:グローもレヴチンが創業したHVFから生まれた。現在、レヴチンはグローのエグゼクティブ・チェアマンを務めている。
ユーチューブ(YouTube)の創業者たちは、設立初期のペイパルで働いていた
ユーチューブ創業者のスティーブ・チェン(左)とチャド・ハーリー(右)。
Noah Berger/AP
設立年:2005年
業務内容:動画共有プラットフォームの運営。2006年11月にグーグルに買収された。
ペイパルとの関係:創設者のスティーブ・チェン(Steve Chen)チャド・ハーリー(Chad Hurley)、ジョード・カリム(Jawed Karim)は皆、ペイパル設立初期の社員だった。ユーチューブの初期投資家であるロエロフ・ボサ(Roelof Botha)が2020年1月にBusiness Insiderに語ったところによると、ペイパルがイーベイに15億ドルで買収されたとき、ペイパル出身者の間で「健全な競争」に火がついたという。ユーチューブが買収されることになった時、運営チームは売却価格を意図的に16億5000万ドルとした。これはペイパルがイーベイに買収された時よりも10%高い価格だった。
イーロン・マスクは、ペイパルで働いたのち、スペースXを設立した
イーロン・マスク
REUTERS/Mario Anzuoni
設立年:2002年
業務内容:スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(Space Exploration Technologies)、通称スペースXは、安価な宇宙飛行を実現し、最終的には火星を植民地化することを目標としている。
ペイパルとの関係:1999年、マスクはオンラインバンキング企業、X.comを立ち上げた。2000年、同社はティールらが設立したコンフィニティと合併し、2001年に社名をペイパルに変更した。マスクは一時期、ペイパルのCEOを務めていたが、ティールに取って代わられた。だがペイパルが買収された際に、マスクは1億6500万ドルを手にし、それを元にスペースXが設立された。
イーロン・マスクは、テスラの初期投資家兼共同創業者であり、2008年にCEOとなった
イーロン・マスク
Stephen Lam/File Photo/Reuters
設立年:2003年
業務内容:電気自動車、バッテリー、ソーラーパネルの製造。
ペイパルとの関係:テスラのCEOであるマスクは一時期、ペイパルのCEOを務めていた。
ロサンゼルスの交通渋滞に嫌気が差したイーロン・マスクは、トンネルの掘削を行うボーリング・カンパニー(The Boring Company)を立ち上げた
ボーリング・カンパニーがカリフォルニア州ホーソーンで掘削した試験用トンネル
Robyn Beck/Pool via REUTERS
設立年:2016年
業務内容:地下トンネルを建設し、高速交通システムを導入することで、都市の交通量削減を目指している。マスクは2013年のホワイトペーパーで初めて地下の高速交通システムについて提案し、その3年後にはボーリングカンパニーを設立した。
ペイパルとの関係:ボーリング・カンパニーの創業者であるマスクは一時期、ペイパルのCEOを務めていた。
イーロン・マスクはOpenAIやニューラリンク(Neuralink)も立ち上げた
イーロン・マスク。
REUTERS/Hannibal Hanschke
設立年:OpenAIが2015年、ニューラリンクが2016年
業務内容:OpenAIは人工知能の研究を行い、ニューラリンクは人の脳に移植できるコンピューターの開発を目指している。マスクは、彼が考える人工知能の危険性に対処するために、両社を設立した。
ペイパルとの関係:マスクはペイパルのCEOを務めていたことがある。
リンクトインは、ペイパル設立初期の幹部であるリード・ホフマン (Reid Hoffman)によって設立された
リード・ホフマン
Kimberly White/Getty Images
設立年:2002年
業務内容:ビジネスに特化したソーシャルネットワーク・プラットフォームの運営。
ペイパルとの関係:ホフマンはペイパル設立初期のエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めていた。リンクトインの設立当初はCEOを務め、その後エグゼクティブ・チェアマンに就任した。
イェルプは、ペイパル設立初期の社員であるジェレミー・ストッペルマン(Jeremy Stoppelman)とラッセル・シモンズ(Russel Simmons)によって設立された
ジェレミー・ストッペルマン
Spencer Platt/Getty Images
設立年:2004年
業務内容:ローカルビジネスのレビューやおすすめを掲載するプラットフォームの運営。
ペイパルとの関係:ストッペルマンとシモンズは2000年代初頭にペイパルで働いていた時に出会った。X.com出身のストッペルマンは技術部門でバイス・プレジデントを務め、シモンズはエンジニアをしていた。ペイパルの共同創業者のレヴチンは、イェルプへ初期投資を行った。
※パランティアのアレックス・カープ(Alexander Karp)CEOは、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)社の株主委員会のメンバー。シュプリンガー社は、Business Insiderを運営するInsider Incを所有している。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)