拉致被害者 家族会前代表 飯塚繁雄さん死去で悲しみの声広がる

北朝鮮による拉致被害者の家族会代表を14年にわたって務めてきた飯塚繁雄さんが18日未明、83歳で亡くなりました。

被害者の家族は、肉親との再会を果たせないまま家族が亡くなる悲劇がまた起きたことに深い悲しみに包まれています。

1歳と2歳の幼い子どもを残したまま北朝鮮に拉致された田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さんは拉致被害者の家族会代表として、14年にわたって救出活動の先頭に立ってきました。

体調を崩して今月11日に代表を退き、病院で治療を受けていましたが、18日未明、83歳で亡くなりました。

飯塚さんの家族によりますと、葬儀は家族葬で行い、時期を見てお別れの会などを開く予定だということです。

被害者の家族は、肉親との再会を果たせないまま家族が亡くなる悲劇がまた起きたことに深い悲しみに包まれています。

早期解決へ求められる戦略

飯塚さんが家族会代表を務めてきた14年間に被害者家族の高齢化は一段と進みました。

政府が認定している拉致被害者のうち安否が分かっていない12人の親で、子どもとの再会を果たせずに亡くなった人は、平成14年の日朝首脳会談以降だけでも8人に上っています。

特に、飯塚さんが代表だったこの14年間は被害者家族の高齢化が進み、去年は、会の結成当初から活動の最前線に立っていた有本恵子さんの母親の嘉代子さんが94歳で、横田めぐみさんの父親の滋さんが87歳で亡くなりました。

飯塚さんは、代表として告別式で弔辞を述べるたびに、他界した家族の無念を背負ってきました。

拉致問題は来年、家族会の結成から25年、日朝首脳会談からは20年が経過します。

家族会はすでに「被害者全員の早期帰国が実現するなら、北朝鮮での秘密を聞き出し、日朝国交正常化の妨げになるようなことはしない」とするキム・ジョンウン総書記宛てのメッセージを出していますが、家族の高齢化を踏まえ、「このメッセージには期限がある」としています。

政府には北朝鮮の決断を促すこうした家族会のアクションも交渉材料として取り込みつつ、拉致問題を早期に解決するための戦略の再構築が求められています。

家族会代表 横田拓也さん「どれだけ無念だったか」

今月11日に飯塚繁雄さんから家族会の代表を引き継いだ横田めぐみさんの弟の拓也さん(53)は横浜市内で取材に応じ、「本当に急な訃報で動揺していますし、残念で、無念でなりません。何よりも飯塚さん自身が14年間、最前線で闘ってこられて、八重子さんと再会できずに他界されたのはどれだけ無念だったかと思うと心が痛みます」と話しました。

そのうえで「44年、45年以上、助けを待っている私の姉をはじめとする被害者の声なき声に手を差し伸べられない日本政府の対応は遅いと感じています。命がかかっている一刻を争う問題なので、具体的かつ速やかに、解決のための外交交渉をしてほしい」と求めました。

北朝鮮のキム・ジョンウン総書記に対しては「親世代が存命のうちに被害者と再会できなければ日本の世論が許さないことを強く意識してもらい、日朝交渉を具体的に進め、両国が平和な未来を描けるような決断をしていただきたい」と訴えました。

横田早紀江さん「絶対に必ず全員が帰ってくるよう求めたい」

中学1年生の時に北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの母親の早紀江さん(85)は18日午前、報道陣の取材に応じました。

この中で早紀江さんは「飯塚さんは優しく、穏やかな方で、そのおかげでみんなが一致団結できたことに感謝しています。一生懸命頑張ってくださっていたのに本当に残念です。次から次に高齢の家族がこの世を去っていくのを見て、なぜこんなに被害者と再会できないのかと思っていましたが、飯塚さんまで亡くなられるとは。悔しい思いをしながら亡くなられたのではないか」と話しました。

そして、飯塚さんに育てられた田口八重子さんの長男、飯塚耕一郎さん(44)にけさ、電話をかけたことを明かし、「『頑張っていた人がいなくなるということがどこまで続くのか、悔しいね』と声をかけました。死は、エネルギーも何もかも一瞬にして消してしまうので、そうなる前に肉親の帰国を待つ家族に喜びを感じさせることが国の責任であり、政府には、絶対に必ず全員が帰ってくるよう求めたい」と話しました。

増元照明さん「最後の最後まで責務果たされた」

都内でNHKの取材に応じた拉致被害者、増元るみ子さんの弟の照明さん(66)は「突然のことで気持ちの整理がつかず、非常に残念でなりません。先月半ばに緊急入院されたと聞いていましたが、ここまで切迫していたとは知りませんでした。ご自身の体調が悪い中でも代表を続けてこられ、次の世代に代表をつなぎ、最後の最後まで責務を果たされたと思う」と話しました。

そのうえで「飯塚さんとは国内外で活動をともにしたが、感情的にならずに相手と話ができる人でした。14年間、代表を務められたことに感謝するとともに、『安らかに休んでください』と声をかけたい」と話しました。

松木薫さんの姉・斉藤文代さん「本当に優しい人でした」

拉致被害者、松木薫さんの姉の斉藤文代さん(76)はNHKの取材に対し、「飯塚さんは面倒見がよく、みんなをまとめてくれる本当に優しい人でした。妹の田口八重子さんとの再会がかなわなかったのは無念です。飯塚さんの墓前によい報告ができるように私たちも頑張るしかないと思っています」と話していました。

帰国の地村夫妻「本当に残念でならない」

北朝鮮に拉致されたあと帰国を果たした地村保志さんと富貴恵さんの夫妻は、「心からお悔やみ申し上げます。拉致被害者家族会の代表として被害者救出のために大変なご尽力をされましたが、田口八重子さんとの再会がかなわず、本当に残念でなりません。改めて、拉致問題の解決には一刻の猶予もないと感じています。拉致問題が早期に解決され、田口八重子さんとご家族が再会できることを心より願ってやみません」とコメントしています。

曽我ひとみさん「悲しく悔しい気持ちでいっぱい」

北朝鮮に拉致されたあと帰国を果たした曽我ひとみさんは「大変驚くとともに、妹の八重子さんに会えなかったのはとても残念で、悔しかっただろうとお察しします。ご家族の高齢化の現実をまたしても突きつけられ、悲しい、悔しい気持ちでいっぱいです。1日でも早く解決できるよう見守っていてください」とコメントしています。

市川修一さん兄・健一さん「残念で焦り」

拉致被害者、市川修一さんの兄の市川健一さん(76)はNHKの取材に対し、「飯塚さんは拉致被害者の救出のため先頭に立って闘われてきましたが、妹の田口八重子さんとの再会を果たせず、残念としか言いようがありません。被害者家族の高齢化が進み、焦る気持ちもありますが、皆が帰ってくるまではしっかりと闘っていきたい」と話していました。

93歳の有本明弘さん「寂しい」

拉致被害者の有本恵子さんの父親の明弘さん(93)は報道陣の取材に対し「アメリカのトランプ前大統領と会った時、飯塚さんが並べたいすに横になっている姿を見て、そのあたりから体調のことを心配していた。同じ仲間が減ったのだから、寂しい」と話しました。

有本さんは18日に神戸市で開かれた拉致問題を考える集会で、去年94歳で亡くなった妻の嘉代子さんについて触れ「妻は亡くなる前に『本当にお世話になりました。いい人生だったけど、唯一の心残りは恵子のことだ』と言っていました」と述べました。

そのうえで「恵子には『助けるまでもうちょっと待っていろ』と言いたい。私はあと何年生きられるかわからないが、妻の分まで生きて見届けたい」と心情を語りました。

松野官房長官「もはや一刻の猶予もないと切迫感」

神戸市で開かれた拉致問題の解決に向けた集会で松野官房長官は「たび重なる拉致被害者の家族の訃報に接しもはや一刻の猶予もないと切迫感を感じている」と述べ、政府を挙げて全力で取り組む決意を改めて示しました。

拉致問題を担当する松野官房長官は、18日、神戸市で開かれた拉致問題の解決に向けた集会に出席しました。

この中で松野官房長官は、北朝鮮に拉致された田口八重子さんの兄で拉致被害者の家族会代表を14年にわたって務めてきた飯塚繁雄さんが亡くなったことについて「拉致被害者の救出を求める活動の先頭に立って全身全霊を捧げてこられた。改めて敬意を表すとともに心よりご冥福をお祈り申し上げる」と述べました。

そのうえで「たび重なる拉致被害者の家族の訃報に接しもはや一刻の猶予もないと切迫感をひしひしと感じている。すべての被害者の1日も早い帰国実現に向けて家族に寄り添いながら、あらゆるチャンスを逃すことなく、総力を挙げて全力で取り組んでいく」と述べ政府を挙げて全力で取り組む決意を改めて示しました。

岸田首相「心から申し訳ない」

岸田総理大臣は東京都内で記者団に対し「ご冥福をお祈り申し上げ、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げる。総理大臣に就任した直後、直接お会いして話を聞かせていただき『絶対にあきらめない』と強い思いを語っておられたのが印象的だった。妹の田口八重子さんと再会することができずにお亡くなりになり、心から申し訳ない思いでいっぱいだ」と述べました。

そのうえで「家族会の皆様の高齢化が進む中、改めて拉致問題には一刻の猶予も許されないという現実を強く感じる。あらゆるチャンスを逃さないという思いを改めて心に刻みながら、この問題にしっかり取り組んでいきたい」と述べました。

立民 泉代表「総理がアクションを」

立憲民主党の泉代表は高知市で記者団に対し「心からご冥福をお祈りをするとともに、家族会の皆さまの高齢化も進んでいるので、一刻も早く解決すべきだ」と述べました。

そのうえで「岸田総理大臣が『北朝鮮のキム・ジョンウン総書記と前提条件なしに直接向き合う』と国会で繰り返すだけでは進展が見られない。アクションを起こし、あらゆる手法を使って北朝鮮側からの反応を得るところからまず始めていただきたい」と述べました。