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私の描くグッとムービー

藤城清治さん(影絵作家)
「赤い靴」(1948年)

芸術か愛か、答えのないラスト

 藤城清治さん(絵本作家)(影絵作家)「赤い靴」(1948年)

 

 「芸術か愛か」、選択を迫られたらどうするか、という問題をテーマにした作品です。プリマとして更に飛躍をめざすか、バレエをすてて作曲家の夫ジュリアンと暮らすか、ヴィッキーは苦悩する。

 十数分間の劇中劇のバレエ「赤い靴」はいま見てもすごい。教会や墓場、山や空……。いろんな場所でヴィッキーは踊り続ける。カラーを総天然色と言ってた時代、「赤」が鮮やかでね。

 影絵は、僕の頭の中で再構成したバレエのシーン。異様な仮面を着けて群舞するダンサーは骸骨にしちゃった。手前の人影は、踊りを続けさせようとするバレエ団長であり、バレエから引き離そうとする夫でもある。ヴィッキーが背負う十字架も連想させます。

 見たのは、大学を出て映画会社にいた頃。毎日のように試写を見てました。映像の迫力やカット割りを学び、光と影で表現する世界は影絵につながりました。

 赤い靴をはいた女の子は死ぬまで踊り続けなければならないというアンデルセン童話が映画の下敷き。ラストで、バレエを諦めきれないヴィッキーの公演直前に、家庭に連れ戻そうと夫が現れます。バレエを選ぶか、夫を選ぶか。引き裂かれるヴィッキーが取った行動は……。

 ヴィッキーはどちらか選べなかった、答えのないまま未完で終わった、と僕は思う。それでいいんじゃないかな。僕の作品がどこまでも未完であるように。芸術に生きる厳しさの中にも人生の夢や美しさを描いた名画です。

聞き手・由衛辰寿

 

  監督=マイケル・パウエル
   脚本=エメリック・プレスバーガー
     製作=英
   出演=モイラ・シアラーほか
ふじしろ・せいじ
 1924年生まれ。影絵原画展が銀座・教文館で7月26日~10月15日、大阪、札幌、台湾でも順次開催。栃木県・那須高原に常設美術館。

(2014年6月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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