異変はちょうど20年前に訪れた。〈十歳の愛娘(まなむすめ)との腕相撲負けて嬉(うれ)しい花一匁(はないちもんめ)〉。作者の舩後(ふなご)靖彦さん(61)はその後、歯ブラシが持てなくなった

▼全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)。今は治療法がない。症状が進む中、一度は人工呼吸器を着けず死を選ぶと決めた

▼「後輩」患者に体験を語り、感謝されたことが生きる力となる。〈自死望む友に「死ぬな」と動かない足で必死にメール打つ夜〉。機能する筋肉でパソコンを操り、今は会社経営にも参画する

▼そして、活躍の場は参議院へ。れいわ新選組から比例代表で出馬し、当選を確実にした。自民党が党利党略で導入した優先当選の仕組み、特定枠を利用。れいわに入る全ての票が舩後さんを後押しする形になった

▼ALS患者の国会議員は世界的にも珍しいようだ。与野党の勢力図が大きく変動しなくても今回の参院選は歴史に残る。これから議席、採決、と全ての面で合理的配慮が必要になる。当事者が政策決定に直接関わる。「生産性」至上主義を揺さぶる。国会が変わり、日本社会も変われるか

▼舩後さんは21日の会見で「面倒かもしれません。でもよろしくお願いします」と述べた。著書「しあわせの王様」にはこんな歌もある。〈芋虫か寝返りさえも打てぬけど夢で青空舞う大揚羽(おおあげは)〉(阿部岳