憲政史上初の天皇陛下の譲位で、政府が心を砕いてきたのは憲法との整合性だった。政府は皇室の伝統を守りつつ、譲位に伴う一連の儀式を国事行為として執り行い、国民主権を重視する姿勢を打ち出した。

 「天皇とは2000年以上続く歴史と伝統を体現すると同時に、法制度としての存在でもある。これを完全に区別することはできない」

 政府関係者は1817年の光格天皇以来、202年ぶりの譲位を受けた苦労をこう語る。

 政府は30日の「退位礼正殿の儀」(退位の礼)と5月1日の「剣璽等承継(けんじとうしょうけい)の儀」について、憲法に定めた皇位継承に伴う儀式であるため、国事行為として国費を投じて行うことを決めた。一方で、憲法20条は「何人も宗教上の儀式や行事に参加することを強制されない」「国はいかなる宗教的活動もしてはならない」と定める。信教の自由と政教分離原則を引き合いに、皇位継承に関する儀式に国費を使うことに批判的な声もあることから、細心の配慮がなされた。

 平成の代替わりに伴う儀式では、地方自治体の知事らが参列の合憲性を争われた最高裁判決が3件あり、いずれも政教分離の原則に反しないとして被告の県が勝訴した。政府はこの最高裁判決を根拠に、皇位継承に伴う儀式は原則、平成改元時を踏襲することにした。

 剣璽等承継の儀では、国と天皇の印「国璽」「御璽(ぎょじ)」と合わせて、皇位の証しとされ「三種の神器」と呼ばれる「剣」と「璽(勾玉=まがたま)」を引き継ぐが、政府は憲法違反との指摘を受けないよう、これらを「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」と位置付けた。退位礼正殿の儀ではいったん剣と璽を持ち帰り、剣璽等承継の儀で再び新たに即位される天皇陛下の前に置くなど細目も厳格に分けた。

 退位礼正殿の儀は、最初に安倍晋三首相が国民を代表し、皇室典範特例法に則って天皇陛下の譲位を表明した。天皇陛下が先にお言葉を述べられ「自らの意思で譲位する」と解釈されれば、天皇の政治関与を禁じた憲法4条に抵触する恐れがある。首相が先に発言するのは、国民の代表が集まる国会が制定した法律に基づく譲位だとはっきりさせるためだ。

 平成28年8月、天皇陛下が国民向けのビデオメッセージで譲位のご意向をにじませた直後、政府は憲法との整合性が「ギリギリだ」(官邸筋)と困惑を隠さなかった。以後2年9カ月、政府は皇位継承に国民の共感を得た形で一連の儀式を準備し、これまで大きな混乱はみられない。

 ただ、政府高官は「感慨にふけっている場合ではなく、まだまだ気を引き締めないといけない」と話す。10月22日の「即位礼正殿の儀」(即位の礼)など、今後も重要な儀式が控えている。11月の大嘗祭(だいじょうさい)をめぐっては、秋篠宮さまが昨年、国費ではなく、天皇ご一家の私的な費用である内廷費からまかなうべきだとの認識を示され、政府内に衝撃が走った。

 皇室の長い伝統と幅広い国民の理解をどう両立するか。政府の模索は当面続く。(小川真由美)