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移民かロボットか~アメリカ いちご生産の現場で

どこまでも広がるアメリカのいちご畑。石川好さんのノンフィクション小説「ストロベリー・ロード」の舞台にもなったカリフォルニア州北部では、今も昔も過酷な環境で働く移民がいちごの収穫を支えています。しかし、最近は好景気で2000円以上の時給を出しても人が集まりません。トランプ政権の厳しい移民政策で、働き手がいっそう足りなくなるとも予想されています。そこで急ピッチで開発が進むのが「いちご摘みロボット」。どんなロボットなのでしょう。(ロサンゼルス支局記者 飯田香織)

アメリカのいちご畑

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カリフォルニア州サリナス。
アメフトのフィールド80面はあるウィッシュ・ファームのいちご畑では、100人以上が手作業でいちごを摘み取っています。

ほぼ全員がメキシコなど中南米からやってきた外国人労働者。ひとり1列を担当し、20人以上がグループとなって、いっせいに移動しながらいちごを摘み取り、畑を何往復もします。

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小さな台車に載せたプラスチックの容器に摘み取ったばかりの新鮮ないちごを次々と盛り、それがスーパーの店頭に並ぶ仕組みです。

現場には陽気な音楽が流れていましたが、何時間も腰をかがめて同じ姿勢で進める作業は重労働。時給は成果によって18ドルから24ドル、日本円で2000円以上になります。

カリフォルニア州の最低賃金を大きく上回りますが、必要な人数を確保できない状態が続いています。

ウィッシュ・ファームのダーウィン・ライクさんに理由を聞くと、メキシコの景気が上向き、わざわざアメリカにやってきて重労働に従事する若者が減ったことを挙げました。「今の最大の問題は人手不足。いちごは摘み手がいないからといって成長を待ってくれない。このままでは収穫できずに廃棄することになる」と話していました。

7月6日に発表されたアメリカの雇用統計を見ると、6月の失業率は4%と低く、平均時給は1年前に比べ2.7%増加。好景気が続き、アメリカ全体で人手不足が進んでいます。

大統領の移民たたき

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ライクさんがさらに懸念しているのが、トランプ大統領の移民に対する激しい批判です。外国人労働者がアメリカに来ることを躊躇(ちゅうちょ)し、今後、いっそう人手不足になると予想しています。

それは不法移民の動きをみても明らかです。トランプ大統領は不法移民の取締まりを強化していますが、国境で拘束された外国人は大統領が就任した2017年1月から1年間で30万3916人となり、前の年より25%も減っています。

トランプ大統領は高度な技能がある移民のみの受け入れなどを通じて、合法的に入国できる外国人を減らす考えも示しています。

いちご生産者がロボットベンチャー設立

このままでは、いちごの摘み手がいなくなってしまう…
そこで頼ることにしたのがロボット。ウィッシュ・ファームなど全米のいちご生産者が出資して、ハーベスト・クルー・ロボティックスという、いちご摘みロボットのベンチャー企業を立ち上げたのです(本社 フロリダ州)。

アメリカの農業といえば、トウモロコシや大豆を巨大な機械で一気に収穫するのが一般的です。しかし、色で熟れどきを判断して、そっと優しく摘み取るいちごは、機械化が難しく、まだ実用化できていません。

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ハーベスト・クルー・ロボティックスの装置は、巨大なトラックのようで、タイヤが記者の身長くらいあります。

GPSを使って自動運転で動く車の荷台の下にはロボットが16個設置され、いちご畑の露地をいくつもまたぐようにして進みます。

ロボットにはいちごをひねるようにして摘み取る部品が、それぞれに6つ。時計回り、反時計回りを繰り返しながら、10秒でいちごを3個収穫します。

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カメラやセンサー、AI=人工知能を使って瞬時に色で熟れ具合を識別し、正確に位置を確認してキャッチ。いまは摘み取りに邪魔な葉を束ねてよける技術の改良を進めています。

色づきが足りずに残しておくいちごを傷つけずにロボットを移動させることも課題だそうです。

ロボットは、摘み取りからプラスチックの容器に盛るところまで、人間の作業をそのまま模倣することを目指しています。実用化できれば1台で30人分の仕事ができるといいます。

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ポール・ビセットCOOは「生産者は、いちごを摘み取ることができなければ、それまでの投資資金が吹っ飛ぶため、何が何でも人手不足問題を解決しないといけない。仮に解決できなければ、いちごの価格は高騰し、いちごは手の届かない高級食材になってしまう」と話しています。

改良を続け、2020年に200台を市場に投入する計画です。

ハウス栽培用のロボットも

アメリカ産いちごの90%はカリフォルニア産で、ほとんどは露地栽培ですが、最近は、摘み手が高齢化していることもあって、中腰にならずに収穫できるハウス栽培も増えています。

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ハウス栽培向けのロボットも開発が進んでいます。スペインの農業ロボットメーカーのアグロボットは、カリフォルニア州にある大手のいちご生産者のハウスで、ことし1月から収穫の実験を繰り返しています。こちらのロボットはやや小ぶりで腰高。いちごの棚をまたぐように配置され、ゆっくり進みます。

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12のアームの先にあるカメラやセンサーで色を識別。赤の度合いが90%以上だと判断すると「ウィーン」という機械音とともにアームが動いて、ヘタの上から切り取ります。

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フアン・ブラボCEOは「AIを使うことで、1台のロボットにいちごの収穫方法をいったん教え込めば、ほかのロボットにも活用でき、一定の品質を保てるし、衛生的だ。それにロボットは休まず24時間働ける」と話しています。

来年、まずはカリフォルニア州で商業化し、その後、ヨーロッパや日本でもロボットを販売したいとしています。

日本にも

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ロボットが人間の雇用を奪うのではないか。
アメリカでも議論が活発です。いちごの収穫は、豊富な移民の労働力に支えられて、これまではロボットに頼る必要はありませんでした。しかし、厳しい移民政策を主張するトランプ政権の登場で、思わぬ形でロボットの開発を急がざるを得なくなっています。

そしてこの動き、実は日本も無縁ではありません。米農務省によると、日本の輸入いちごのほとんどはアメリカ産で、日本でいちごの生産が減る夏の時期に店頭に並ぶということです。

アメリカでロボットが収穫したいちごが、日本の食卓にのぼる日もそう遠くないかもしれません。

飯田 香織
ロサンゼルス支局記者
飯田 香織
1992年入局
京都局、経済部、
ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス