大阪市営地下鉄が民営化され、来年春に巨大鉄道会社が誕生する。輸送人員で関西大手私鉄5社を上回り、営業収益ではトップの近鉄と同規模だ。経営力の強化が期待されるが、「公営」の色合いが強く残り、新事業の具体案作成もこれから。民営化を見越して料金値下げなどを既に実施しており、利用者がメリットを実感できるのは先になりそうだ。【岡崎大輔】

 ◇事業具体案作成これから

 「公務員の感覚ではない、利用者サービスの向上を図ってもらいたい」。吉村洋文市長は28日、優良な黒字事業を手放してまで設立する新会社への期待感を強調した。

 市の試算では、将来の人口減で民営化10年後の2027年度の運賃収入は、15年度比で約8%減る見込み。鉄道事業の維持・発展のため、大手私鉄のように駅構内や所有する土地建物を活用して不動産やホテル事業などに参入し、新たな収益源を作りたい思惑がある。現在は地方公営企業法などで鉄道以外の事業に制約があるが、交通局は「民営化で自由度が増し、経営の効率化が図れる」と期待する。

 とはいえ、交通局は過去に遊園地「フェスティバルゲート」(浪速区)、複合ビル「オスカードリーム」(住之江区)で巨額の負債を抱えた負の歴史がある。大手私鉄並みのノウハウもなく、事業多角化の具体案は示されていない。

 利便性の向上策も、既に民営化を前提として、14年4月に初乗り運賃を200円から180円に値下げ。トイレの改装や終電延長にも順次着手し、女性向けの雑貨店や飲食店などを出店する「駅ナカ」事業も進めている。当面はこれまでの取り組みを継続することになりそうだ。

 市は新会社からの納税や株式配当で、民営化後10年目で100億円の収入を見込んでいる。これらを医療や教育などの市民サービスに充てると説明するが、地方交付税の減少分などを差し引くとプラスは約40億円にとどまる。

 ◇市長と議会 妥協の産物

 新会社は大阪市が100%株を保有し、市や市議会と経営を巡る会議体を設ける計画で、民営化後も公的な関与が続く。民営化実現の成否の鍵を握った自民の要望におおむね沿った結果で、完全民営化の公約を曲げてまで実現にこだわった吉村市長と議会側の妥協の産物と言えそうだ。

 吉村市長は完全民営化により、株主の厳しい目で経営をチェックし、甘い採算見通しも廃そうとした。ただ、地下鉄は重要な交通インフラで、自民は公的関与の余地をできるだけ残そうとした。自民との協議では、赤字路線の今里筋線の延伸や将来の株式上場の可能性を否定する修正は拒否したが、要望の大半を受け入れた。任期中は上場しないことも明言。「一歩でも前に進めるためだ」と苦渋の決断だったと認める。

 民営化後も安全対策や交通政策を重視するため、交通政策基金の創設を表明。交通局保有の関西電力株(約1500万株)を新会社に譲渡する代わりに、時価相当額で基金を作る。16年度上半期平均だと約149億円だが、評価時期で規模が変わるため、経済情勢を見極めて判断する必要がある。