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【社会】

つま恋と共に40年 12月閉鎖「寂しいけど…区切り」

「フォークソングの聖地」である「つま恋」音楽企画ディレクターの木下さん。閉鎖について「しかたがないね」と語る=静岡県掛川市内で(瀬戸勝之撮影)

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◆音楽企画ディレクター・木下晃さん

 十二月二十五日で閉鎖される静岡県掛川市の大型複合施設「ヤマハリゾートつま恋」。コンサート責任者として名だたるアーティストを招致し、「フォークソングの聖地」の陰の立役者とされるのが、音楽企画ディレクター・木下晃さん(69)=浜松市中区=だ。開業当初から四十年以上にわたって関わってきた施設の幕引きとともに、自ら人生の区切りをつけようとしている。 (瀬戸勝之)

 「まるっきり、寝耳に水だった」。木下さんが閉鎖を知ったのは、ヤマハが発表した九月二日。内輪では来年の音楽イベントの話を進めていたという。「こればっかりは、会社の方針なので。寂しいけれど…」。六十歳の定年後も「代わりがいない」と引き留められてきた。「二度目の定年」は本当の別れになる。

 つま恋との縁は、開業前年の一九七三年、準備室の時から。東京で管楽器部品の検査を担当していたが、音楽責任者の社内募集に迷わず手を挙げた。「学生時代からバンドを続けていた。音楽が好きだし、満員電車での通勤にもうんざりしていた」

 自ら手掛けたコンサートは、どれも思い入れがある。ただフォークシンガーの吉田拓郎さんと南こうせつさん率いる「かぐや姫」が共演した七五年のコンサートは、やはり特別だ。

 来場者は六万五千人。野外会場は見渡す限り、人で埋め尽くされた。オールナイトで計百八曲が演奏され「恐怖を感じるほど」の熱気に包まれた。今も「伝説のコンサート」として語り継がれる。

 時代は巡り、二〇〇六年。再び同じメンバーに声を掛け、「同窓会」と称されるコンサートを企画した。狙い通り、往年のファンを中心に三万五千人が集まり、大いに盛り上がった。

 つま恋のイベント客数は延べ約百五十万人。コンサート責任者として「集客目標の必達」を誇りにしてきた。知名度が高く、固定ファンがしっかりいるアーティストの元に足しげく通い、出演交渉を重ねた。準備に四年以上かかったこともある。

 「一時は拓郎の印象が強くなり過ぎて苦労した」というが、若手歌手の登竜門「ポピュラーソングコンテスト(略称ポプコン)」の本選会場としても脚光を浴びた。つま恋は音楽業界のブランドになっていった。

 今では野外フェスは全国各地で開かれ、若者文化として根付いた。発祥の地「つま恋」の輝きが失われたとは思っていない。ただ娯楽やスポーツの流行の移り変わりの中で、施設全体の集客力の衰えは感じていたという。

 閉鎖の発表以降、業界関係者から連日のように電話があり、訪ねてくる人も多い。大きなイベントを開くことはもうかなわないが、「個人の『木下商店』として、何か区切りをつけたい。ひと声を掛ければ、何か面白いことができるはずですよ」。

 

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