インタビュー 結城飛鳥

結城飛鳥
福岡県出身
2009年4月入所

「ちっちゃい頃の夢? 競艇選手!」

こう言うと意外そうに相づちを打たれる。自分にとっては意外でも異色でも何でもないんだけれど。だってこれが『声優・結城飛鳥』としての最初の一歩だから。

福岡県福岡生まれ福岡育ち! 福岡の競艇場には毎週の様に通ってました。選手達からほとばしる闘志、スタートに向かう緊張感、水面を切る高速旋回、表情一つ一つが結城を熱くさせたんです。
「お父さん! 競艇ばりかっこよか! すごい!」
「やろ!」
父もまた競艇を楽しむ人で、記憶がある限り三歳から父と一緒に通ってました。その父から常々言われていた事があります。
「人生はお前の人生でしかなか。好きなことをやれ。後悔するな。後悔するようなことをするな。」
この教えをもって結城が競艇選手を目指したときも、声優を目指すことになった時も、この調子で快く応援してくれたのでした。

「そこからどうやって声優に?」
訊ねられた質問に待ってましたと口が笑う。きっかけはもちろん競艇から!(笑)

小学生の頃の憧れは、中学生になって本格的に競艇へ全てを捧げる様になりました。バスケを始めたのです。って、いきなりバスケ? と思ったでしょ。
競艇は体力、忍耐、持久力が必要なのです。ボートを操る筋力や戦況を見据える視野を鍛える為に、バスケと言う媒体でたっぷりと体作りや精神作りをしていました。中学二年の時、怪我をするまでは。
骨折に、喘息と視力悪化……。
骨はくっつきゃいいけどさ!必要な二つの要素が一度に無くなってしまって……生きるすべがその瞬間から無くなってしまったんです。

「結城さん……声優のせの字も出てきませんが」
「あは! 実はこの時まで『声優』って職業が何なのか知らなくって」
 笑って答えると驚き顔で固まるのもよくあるよね。

あの時、声優を目指して頑張ってる親友が傍にいなければ、今の結城は無かったのかもしれません。
「声優さんて、アニメの中のあの方々だったのか!」
ようやくこのタイミングで声優にたどり着きました。
その頃は競艇漫画もあって、なりたかった競艇選手にもなれる。魔法でも何でもやりたい事が全部出来る世界だ。もうこの希望しかない!となった訳です。
全く違う職種だけど父からも変わらない応援があって、ここから声優としての道が開かれました。

「そこから目指せ声優! って感じですね」
「んー、それは微妙」
「ええ……?」

まずは高校を思いっきり楽しもうって事にしたんです。だって二度と無い十代だから(笑)
もちろん声優になると言う事は頭にあって、高校一年になった瞬間から次はどこの専門学校に行ってやろうと考えていました。
体験入学に参加しまくり決めたのは福岡の専門学校。何故東京でないのかと言うと、それは東京校だと何百人の中の一人だけど地方校なら人数も少ないから。勘で『ここなら一番になれる。』と計算してた訳です。

「……ずるがしこい」
「よく言われる! やっぱりスパーッと一番に抜けた方が早いと思うから。」

「基礎的な事も全ッ部学んだので、いつでも現場に出られますよ!」
そんな意気込みで憧れの事務所のオーディションを受けました。結果は最終までで、あと一歩が足りず……。
しかもそこ一つしか狙わなかったので、結城は年度末に途方にくれました。ここでついにIAMエージェンシーと出会う事になるのです。
「いつでも入所できるよ。しかも今なら四月の入所に合わせられるよ。」
そんな利点もありがたい。けれどそれよりも目を見張ったのは、結城より一年前に入所した先輩がバリバリ仕事してるじゃありませんか! もうここしかない! と。
当時、新人がバリバリ仕事している環境は他に見当たらなくて、これほど仕事までの距離が近いのはここしかない。結城の全てを出し切って一番になるのは不可能じゃない! そう思えたのです。

事務所に入ってみてやっぱり思うのは、目立つ子は最初から目立つ。美人な子、元気な子。
「おはようございます! 結城飛鳥です!」
結城は普通の中の普通だと思うからIAMに入ってからアピールを欠かさなかったです。最初の三ヶ月が勝負だと思って、何かあれば講師の方々やマネージャーさんに駆け寄って挨拶。また見かけたら挨拶。またまた見かけたら挨拶。挨拶挨拶。
現場が近くて、アピール一つ、頑張りますって気持ちをぶつければIAMは見出してくれる事務所だと思うんです。ただでさえ距離感の近い所ですから、こつこつこつこつアピールを続けたら嫌でも結城の顔を覚えますよね。
「あんな、結城飛鳥って変なのがおんねん。」
となったらしめたもの。どこの現場でもがんばりを見ていてくれた方からお仕事やオーディションを回してもらえるようになったんです。

「その位アグレッシブさが必要ってことですねぇ……。」
「待て待て待て。昔は結城も何も考えずこーんな態度でこーんな姿勢でいた訳ですよ!」

昔は酷かった! 人に対して失礼な事もいっぱいしていて、声優の勉強を始めて気づけた事がたくさんありました。
私生活では見た目を気にする様になって。ぽっちゃりだった体から自信の持てる結城になろうとダイエットしたり。
いただいた役のたった一つの台詞を読み返し、どうやったら役になりきれるだろう、どうやったら作品が成り立つだろう。くたくたになるまで隅々まで台本を読み込んだりしました。
理解するのにめいっぱい模索して、
「そんなんじゃ通用しないよ。」
そう言われるのも当たり前の世界だと実感する事にもなりました。
でも決して諦めず、感謝しています。
お芝居をもっともっと大切にしたいと感じたのもそれらがあったからだと思うから。

『声優? やれやれ。だけど、後悔するなよ。』
そう言った父の言葉がどれだけ結城の背中を押しているか分かりません。
「動かなければもちろん始まらないし、すごく努力しなくてはならない事もあるんだけれど、全て『なりたいっ』てものがあるから出来る事で、気持ちさえ切れなければ何でも出来ると思うんです。
結城はそれを証明する為に早く売れたいと思っています。
後悔しない為にも、やりたいと思ったらとことんやってみたら良いと思います。後悔しない生き方を皆にもして欲しいです。」