TOKI(C4)

TOKIプロフィール

1992年、Kill=slayd結成。1997年にメジャーデビューするも、翌98年に解散。
2002年9月、TAKURO(GLAY)が作曲を担当した「灼熱」でデビューしたSTEALTHとして復活するが、その活動はごく短期間で終了。以降、多角的な企業経営に乗り出し、04年には法人化、07年には自社ビルまでおも竣工させたが、同年に再びC4(シー・フォー)を率いてミュージックシーンに復帰。デビューライヴとなったイベントでは1000名を超えるオーディエンスからの圧倒的な支持を受ける。
昨年リリースした1st single「Crocodile Vibration」(オリコンシングルチャート40位:インディーズシングルチャート1位)、2nd ALBUM「Crusaded4」(オリコンアルバムチャート45位:インディーズアルバムチャート2位)と、着実にCDセールスを上げながら、CLUB CITT`A川崎、LIQUIDROOM ebisu、渋谷O-WEST等のライヴホールを中心のワンマン公演を展開。全て大成功に収める。
2002年のSTEALTHの雑誌インタビューでも「将来の夢は養護施設の経営」と語るほど、兼ねてより児童福祉には強く興味を抱いており、TOKIが経営するグループ法人では、2000年から現在でも、友愛学園(東京都青梅市)をはじめとする障害者施設や養護施設に度重なる支援物資の提供を続けている。
尚、TOKIは、20歳の時に信号無視の車との接触事故で多臓器破裂をし、予後の感染症の為、2年間ほぼ寝たきりという闘病生活を乗り越えている。その時の経験と己の訴求力を活かし、現在も悩める人々の力になるべく、メールでの人生相談にも積極的に応じている。

 ここに35人の子供たちのために作られた音楽がある。
 CDで得た全収益を知的障害児施設・友愛学園児童部に寄付し、子供たちのベッドを買うらしい。余剰が出れば壁紙や扉もすべて修復工事をする。少しでも多くプレゼントするため、制作費や宣伝費、細かい雑費に至るまで、コストは徹底的にカット。結果、販売はオンラインストアが中心。しかし参加ミュージシャンに目をやれば、GLAYのTAKUROにHISASHI、佐久間正英、SADSのK-A-Zほか、えらいゴージャスなことになっている。調べれば調べるほどよくわからない。けどなんだかすごいってことは感じる。メディアを使って大々的に展開されるチャリティーとはまったく違う次元で、超リアルな日々の生活の中で、何かを動かそうとしている。これ以上、机の上での検索&妄想していても埒があかないので、会いに行くことにした。
 首謀者・TOKI。C4のヴォーカリストであり、今回はコラボレーションユニット“STEALTH”として、TAKURO(GLAY)と共に活動を起こした張本人。TAKUROとは20年来の親友で、起業家としての一面も持ち、自主レーベルの代表も兼任、福祉には数年前から携わっていて……。これまた聞けば聞くほどわけがわからない。ただ唯一、変えようのない事実。先行シングルであり、アルバムにも収録されている「sickbed」という曲に綴られた経験。20歳の時に交通事故で多臓器破裂という重傷を負い、余儀なくされた壮絶な闘病生活は、いや、その闘病生活を乗り越えた強靭な想いが、TOKIという人の根幹に絶対的にある。TOKIさん喋りっぱなし=筆者&編集者笑いっぱなしの2時間半。とても面白い時間だった(ここに書けないことが多かったけど)。ユーモアいっぱいにアツいことを語る人だった。
 購入者の想いを花束に変えて届けたいとの願いで名付けられたアルバム『アルストロメリア』=百合水仙。ご本人は「買って」とか言わないらしいので、私から。買って、聴いて、感じて、揺れまくってください。

■STEALTHにたどり着いた想い

TOKI(C4)

−−−福祉とかチャリティーって、今の日本ではまだまだ近いようで遠い存在というか。入口を見つけられない人って多いと思うんですね。

TOKI 俺自身が入口を見つけたのは、2000年の初め頃。それはホントにふとしたことで、地元にある養護施設に物資を寄付したのがきっかけだったんですが、忘れた頃に手書きでお礼の手紙が届いたんです。それがもう、こんなにもらって嬉しいものはなかなかないよなぁって思わせてくれて。そこからより深く福祉に興味を持つようになり、自分の会社を通じて寄付などをしてきました。そんななか、友愛学園の職員の畑くんと知り合って、学園の窮状を聞き、現状を見てみると、ウチの近所のものとは遥かに違う。荒れた灰色の壁のせいか、それこそ刑務所のような第一印象を持ちましたね。調べれば調べるほど日本の福祉は行き届いていなくて、青森県にある三歳児までの養護施設はさらに惨憺たるもので、紙おむつにも事欠く状況だと。そういうのをいろいろ知るうちに、俺が力を注ぐべき方向性が見えてきて、まずは目の前の友愛学園に対して、自分にできることを模索した始めたわけです。

−−−友愛学園の職員である畑さんとはどうして出会ったんですか?

TOKI 4年前の今頃かな?私が経営する企業の経営傘下にある一つのショップから「『2000円くらいで大量に子供達が喜ぶような物を売ってくれないか』っていう人が来てるんですけど」って電話がかかって来たんです。茶髪という情報も入ってたから、間違いなく変な人だと思って、じゃあ俺が行くわ、と。でも行ってみたら全然普通の子で、それが畑くんだったわけです(笑)。そこで事情を聞いてみると、そもそも友愛学園の生徒の中でも、家族の状況によって各自の生活環境はかなり変わってくるんです。35人のうち、親がお金を出して施設にいる子と、国がお金を出している子が約半分ずつ。親が面倒を見ている場合でも、年末年始に家に帰っておいでって言われるのは極少数なんですよね。他の子の親はお金を出すだけでまったく自分の子供に関わってないんですよ。家に帰れる子はプレゼントやお小遣いをもらうこともありますから、プレステ3とそのソフトがたくさん並んでいる部屋もあるけれど、その隣の部屋にあるのはベッドと机だけ。まぁそんな状況なので、子供心に大抵のことは我慢するけれど、たまにどうしても我慢できなくなる時もあるんですよね。それがサッカーボールだったり洋服だったりゲームだったりするんですけど、遊興費に充てられるのはひとり2000円くらいだから経費では買えないし、畑くんが自腹を割くにも35人は多すぎる。だから彼は休みの日、もしくは空いてる時間に、子供達が喜びそうな物を探してリサイクルショップやフリーマーケット探し歩いていたらしいんです。けれど予算の問題で、時にはリサイクルショップの親父に突き飛ばされたりもしたらしい。そんな事情を聞いて、もうできる限りのことをやらせてくれと、すぐに段ボール30箱分くらいの物資を贈ったんです。

−−−それはもう、すっごい喜んだでしょう。

TOKI しゃくりあげて泣いたんですよ。32歳の彼が大粒の涙を流して泣いたんです。小さな子供みたいに。それを見て、俺、親が死んだってこんなふうに泣けないなって。で、彼の生い立ちを聞いたら、昔は悪さばっかりしてたらしいんですけど、ふとした事で参加した奉仕活動の一環で養護施設を訪れた時に、自分なりの生き甲斐を見い出して今働いてるんですって。そのとき、いま自分がこれだけ泣けることってなんだ?! って真剣に考えました。私利私欲ではない。夢が叶ったっていうことでもない。誤解を恐れずに言えば、障害者施設っていうのは、皆さんが抱いてるような、可愛いとか可哀想とかいう単純な目で見られるような症状ではない子が大多数なんです。そういう子供たちの願い、言ってしまえば赤の他人の子供の為にここまで歩けるのか、ここまで泣けるのかっていう。俺も男気だのなんだの言ってるけれど自分なんか彼の足下にも及ばない、俺なんか上っ面だけじゃないかって。それが2006年のことで、それ以来の付き合いですね。ただ彼は私が音楽をやっていたとか、2007年にはC4で音楽業界に復活したとかは一切知らなかったんです。

−−−2006年からの付き合いで、おくびにも出さずに?

TOKI そういう気配は完全に消し去ってましたから(笑)。だから2010年になって、TAKUROと「STEALTHをやろう!」って決めて、それを畑くんに話した時はなかなか理解が得られなかった。「バンドをやってるのはまぁわかるけど、なんか髪長いし……。いまGLAYって言いました? でもTERUが歌うんじゃなくて社長が歌うんですか? その売り上げをくれるってどういうことですか?」って。それでホームページを教えて、実はこういう活動もやっていて、と説明したら、「それでも僕、何がなんだかわかんないっす……」って呆然としていて(笑)。

−−−その反応は正しいと思います(笑)。けれどホントに偶然の出会いから友愛学園との繋がりが生まれ、しかも今年、自身のバンドであるC4が活動停止するにあたって、このタイミングで何か始めよう、ソロだ、意味を持たせるなら売り上げを全部寄付だ、と。そこにTAKUROさんが加わってSTEALTHだと、どんどん繋がって、どんどん広がっていく。

TOKI そうなんです。音楽活動っていうのは常に人に対して提示して行くべきだと思ってるんで。ギタリストが脱退してC4が活動休止になった時に、次にどういう選択肢で、どういう行動を起こすのかっていうとこさえも、C4を応援してくださってる方に提示したかった。俺は転んでもただじゃ起きない。転んだのは必然であり、プラスに転じさせる要因でしかないんだって捉えていかないと、人間なんて幸せになれないよっていうことを見せなきゃいけない。会社が倒産して無職になりました。これはなぜなのか? その答えに、「次にある天職に就くためのチャンス」だと、そういう思考で動いてる人っていうのは、どこかの会社が必ず拾うと思うんですよ。どうしていいかわかんないっすぅ……とかだと自分が望む未来が遠ざかるだけ。だから俺は絶対にくじけられなかった。けれど物質的にギターがいない。かと言って、俺が無理矢理ギターを弾いて、歌ったところでパワーダウンは間違いない。リズム隊は元々一緒のバンドでやってたんだから、リズムコンピレーションCDを作れば? なんて話も出たんですけれど、それも本人達はNGってことで。じゃあ、もうソロしかない。けれど、それだってバンドの熱量に劣るのは目に見えてるわけで。そこで考えて考えて。その売り上げを福祉に回すなら、自分としてはとてもやり甲斐があるものになるし、まさにそれこそが俺のソロの意味であり、意義だろう。それならウチのベースとドラムに俺個人でギャラも払って、でも売り上げは全部寄付する。よし、これならどうだ! って。で、TAKUROと話していた時にその計画を明かしたら、「ちょっと待って。TOKIさん、俺、なんのためのいるの?」って。

−−−俺らは何年つきあってるのと。

TOKI そんなことやれば、俺にどんだけの負担がかかるかっていうのを知ってるんですよね。しかも、いかに楽器が弾けないかもわかってるんで(笑)。「俺、20年友だちやってて、ギター弾ける。何より、あんたが全部ひとりで背負ってね、またファンの子に心配かけて、売り上げは全部寄付する。それをふーんって俺が鼻くそほじくってるような男だったらもう終わりっすよ!」みたいな感じになって。

−−−なんだろう、リアルに泣けますね。

TOKI TAKUROは優しいですからね。精神的な面も含めて色んな面でも20年近く引き合えてる。だからあいつはホントにGLAYがどうこうとか飛び越えて、いちギタリスト、いちコンポーザーとして「俺がいるじゃないですか」って言ってくれる。いくら掛かったのか明細も全部出して、ビジネスでも偽善でもない、本物のチャリティーをやってやろう、と。

■コンセプト「直接、この手で」

TOKI(C4)

−−−そう、STEALTHはちゃんと経過報告をして行くって聞いて驚いたんです。

TOKI チャリティーという言葉自体に嫌悪感を持つ人がいるじゃないですか。実際に偽善行為が蔓延する現場もあるから。今回は俺らは「直接、この手で」というコンセプトで、そういう匂いが一切しない活動をしようと。とにかく必要最低限の人数と、ある限りの労力とアイディアで、すべてをまかなおうと決めたわけです。雑誌広告が打てないならばYouTubeだ、シングルだ、とか。シングルを発売するにも、チャリティの基本精神を考えれば値段はユーザーに決めてもらえばいいと、大胆なことをしつつも、今回のアルバムでは6、7店舗ある特約店にはせめてポスターくらい出したい。印刷すると高いから、B1だかB2のサイズで、インクジェットのすごくいいやつでやったらどうか。その5、6万円を捻出するのに、んーっ……て唸ってるっていう。

−−−ククク。これだけのメンツが参加してるプロジェクトなのに、5、6万で唸ってるとは。いい絵です。

TOKI だってね、シングルの購入代金はつまり、みんなから寄付金を預かっているわけですよ。一万円で買ってくれた友達もいましたけれど、その一万円は絶対無駄に使えない。

−−−「この一万円使えないよ」っていう感覚こそが、自分たちでやる意味ですよね。

TOKI そうですそうです。

−−−電話したら自動的に300円募金できますっていうのだと、最初の想いは同じでも、間に人やものが介入して行くことで、お金になり、それをワクチンに変えるとものになって、お仕事になっていくという。

TOKI そうそう。けれど今回は予算的に流通にも掛けられないし、シングルは特に直販でしたから、代行業者やスタッフは死者が出そうなくらい忙しかった。TAKUROは電話で「アザース!」って言うから、「死人が出そうだけど」みたいな(笑)。膨大な量でしたから。みなさんからいただいたお金をなるべくそのまま届けるべく。プレス代とかそういうのはしょうがないけれど、そこも必要最低限中の最低限です。たとえば、シングルを買ってくれた人にお礼状をつけたんですけど。当初は友愛学園の職員の方々や、子供達からの手書きのものを予定していたのですが、なんせ数が数だったので断念せざるを得なかったんです。なので手書きのものをコピーして……とか思ったんですけど、まぁコピーするよりは印刷の方が安いだろう。インクジェットプリンターは会社にあるわけだから……。

−−−ま、まさか?

TOKI ハイ。だってコピー用紙を買って来て、事務所でプリントするのが一番安いんだから。しかもそこでも一円でも安いインクを探して。既製品じゃなくて、対応のリサイクルカートリッジでやったりとか、もう100円単位、10円単位、1円単位レベルまで選択しながらやってましたね。

 TOKIさんの意識の根底には、自身が20歳の時に交通事故に巻き込まれ、生死をさまよった経験、2年間続いた過酷な闘病生活、深い絶望の中からやっとの思いで掴み取った希望と覚悟が宿っている。
 アルバムの先行シングルとして期間限定発売された「激情/sickbed」は、ナント、購入者がCDの価格を決めるという前代未聞の形態で度肝を抜いた。黙って、でも真っすぐな目で聴き手に問いかけた。で、どうする?

−−−シングルに関しては自分で価格を決めるというのもね、定額にした方が絶対作業はラクなはずで。

TOKI そうそうそう。まぁそもそもはTAKUROの提案ありきなんですけれども。狙いは2点あって。まず今ユーザーが、本気で悩む、答えが出ない、戸惑うなどのことがなくなって来てるんですよね。エンターテイメントに対してクレバーになってるなっていうか。ライブを見ていても、予定調和のアンコール、客電が付いたらライブは終わり、みたいな。そんなどこか冷静な部分に波風を起こそうかっていう。

−−−あぁ、そこでしたか。

TOKI このCDの値段、あなたが決めてくださいって言ったら、絶対パソコンの画面、ケータイの画面を飛び越えますよ。だって、実際、販売システムを把握する意味もあって自分でも買いましたけど、悩みましたもん。1万円でも、100万円でも、1円だっていいわけですよ。でも顔は見えないかもしれないけど、良心が試される感覚がありますよね。そういうのを考えるのすらイヤだって子は欲しくても買わない。葛藤し慣れてないから。チケットが取れる取れないなんてレベルじゃないですからね。エンターテイメントで良心が試されるようなことなんてなかなかない。「全部アルバムに収録されてるみたいだから、アルバム買いま〜す」っていう子もいましたけど、今回のSTEALTHの音はシングルも配信も含めた楽曲の全てを網羅して初めて全容が伺えるんです。例えばシングルの「激情」のギターはHISASHI(GLAY)をフィーチャーしたバージョンだったりするんですよ。

−−−今、明かされる衝撃の事実ですね。

TOKI ちょっと意地悪だったかな(笑)。アルバムに入る方はSADSのK-A-Zバージョンで、ズシッと重いんですよ。HISASHIの方はシングルらしいキラッとした音になってるんですね。でももう手に入らないよ、みたいな(笑)。要するに、首を突っ込まないと得るものはないからっていう。リスクとか面倒なことにだって首を突っ込めばそれなりの対価が得られるんだってことも再認識してもらいたいっていうのがあったりとか。まぁこんなことやっててもなかなか理解は得られませんけど。得ようとしてブログとかに書くと、「TOKIさんの文章、難しいです」とかってたまに書かれますからね(笑)  ミュージシャンのインタビューで「アルバム発売だよ。買ってね!」っていう言葉を良く目にするんですけど、私、自分のCDを推さないんですよ。自信作だから買ってくださいとか言わないんです。だって俺からすると、「自信作以外出すなよ」って思うし。あと「伝えたい」っていう言葉も、なんか上からのような気がしてすごく嫌いで。あとステージ上で「愛してる」とも言えないんです。そういう言葉に対して深く考え過ぎちゃう部分があって・・・

−−−ククククク。キッパリ言いましたね、

TOKI 愛っていうのは、親から子に対する情のことを指すのであって、みたいな概念が私の中にあるわけですよ。だからそういう上っ面のはイヤなんだよっていう。でもこの畑くんの園生たちへの姿勢は、あの号泣は、じゃあなんなんだ? って言うと“慈愛の行為”、すなわち愛だろうと。そういうことを自分はまだ気づかなかったりするし、そこに葛藤もあるんですけれど。

−−−1つ1つに対して真剣勝負だから、1つ1つが気になってしまう?

TOKI そうなんです。無責任なことは言いたくない。もし同年代の方達に「君たちに伝えたいことがある」なんてことを言おうものなら、即座に「お前、何様?」ってツッコミを自分で入れて、しかも言い返せないでいる。なるべく自分に隙がないようにやっちゃうの。大して歌が及ぼす影響や、それに対応する経験も重ねていないような若い子が「夢、諦めないで♪」とか歌ってると、そもそもお前はどうなんだ? とか偉そうなことをすぐに口に出しちゃうんで、やっぱ自分でも体現しなきゃいけないってなぁって。自分に酔うどころか泥酔、更に酩酊、出来る領域には達したいな、みたいな。その域まで求めちゃうんですよね。

−−−しかし言い換えれば、その域まで行き切らないければ、今回のプロジェクトは遂行できなかったと思います。

■きっかけは「リアリティの有無」

TOKI(C4)

TOKI 今ふと思い出したんですけれど。前にテレビで「世界が100人の村だったら」っていうのをやってて。フィリピンのゴミ山でゴミを拾って、売って、親を養ってる子供たちを見た時に、すぐにTAKUROに電話したんです。「今からフィリピン行って屋台出すぞ。1日でもいいからそこにいる人たちの飢えを無くして、そして喜びを与えたい。雨水を飲んでるような環境だから、100万円あれば相当できるだろう。お前も屋台で肉とか野菜を焼いてくれるよな?」って。「わかるけどねぇ……TOKIさん外国行ったことあるんすか? フィリピンの治安なめんじゃねぇぇ!!!」って一喝(笑)。

−−−現実を見ろと(笑)。けどそれ、すっごくTOKIさんという人間がにじみ出たエピソードだと思います。

TOKI さっきチラッと話に出た、今ここに電話すれば募金できますよって言われても、なかなか体が動かない自分がいるんですよ。けれどもしその子が、マニカちゃんって言うんですけれど、マニカちゃんが近所の坂の下に来てます。募金集めてますって聞いたら、俺は身支度して、金持って走るわけですよ。電話1本掛けるより遥かに労力が掛かるけれど、体は即座に動く。そもそものキッカケは、現実感が、リアリティがあるかないかなんですよ。だからアフリカじゃなくて、やっぱり俺は東京都青梅市にある知的障害児施設・友愛学園児童部35人の子供たちのベッドを買いたい。その理由は、かなり老朽化が進んだベッドだから。でまた、内装も酷い。子供だから汚すのはわかる。ただもう見た目が冒頭で言ったように本当に刑務所を想像させるんです。施設長にも言ったんですよ。慣れっていうのもあるんだろうけど、誰もが見て明るい印象を持ってもらえる施設にしましょうよって。とは言え、それだけでも数百万掛かりますから。CD不況とはいえ、これだけのメンバーが集まって、これだけコストを削ってCDを作っても、たかだか一つの施設のベッドを換えることができるかわからないんですよ。この現実を世の中に突きつけてやる、っていうのが俺の中にはある。俺たちはこんだけ非力なんだってことを認めることから始めないと!って思ってます。そこまで理解してくれているのかわからないけれど、いまのところ今回のプロジェクトに対する根拠の無いバッシングは無いですね。

−−−チャリティーやっていると、「そんなことで世界は変わらないよ、他にもたくさん困っている人がいるのに」っていうヤジを飛ばす輩も多いと聞きますね。

TOKI それにはもう鉄壁の逸話があるんです。マサー・テレサがカルカッタで活動をしている時に、若いシスターが告白するんです。「救えども救えども。ひとりを看ている間にどんどん運ばれて来る。でも看ている人は放置できない。その間にあっちは死んでしまう。自責の念に駆られてもう潰れそうです」と。するとマザーは「まず目の前の人を救いなさい。私たちにはそれしかできない。その積み重ねしかない」っていうことを言うんですね。私も「気持ちが苛まれる時はとりあえず目の前、目の前」って自らを諭すんです。私は多分これからそういったことに一生関わっていくでしょうし。今回のSTEALTHの活動はその通過点というか、今できることをやっているだけで。そういう背中をね、見せていきたいんですよ。だから俺は最期のことしか考えてないのかもしれないですね。死ぬ時に、「俺って超イケてた……」って自分に酔って死にたいがために、今どうするのかっていう。

−−−それはきっと、「sickbed」という曲で歌われる、TOKIさんの20歳の時の体験が大きく作用していますよね?

TOKI そうです。事故に遭って、生死をさまよう体験をした時に、それを一番思いましたからね。今死んでも大丈夫かな? って。近い経験をした私からすると、死は寝るのと同じなんで。寝る時に、ガス消したかな? とか、パソコン落としたっけ? とか気になっても、いいや、寝ちゃえって人もいれば、確認しとこうって起きる人もいる。そんな作業なんですよ。だから最後に寝る時に「俺、ウルトラかっこ良かったかも……」って思って死にたいだけです(笑)

−−−そしたら耳元で、「TOKIさん、友愛学園のベッドの足が壊れました」って誰かが囁いて。

TOKI 「し、死ねない!」って。ハハハハ。自分には嘘つけないですから。でもホントに、その些細な一瞬のためにここまでやってるのかもしれない。

■自分をガッカリさせたくないからヤセ我慢

TOKI(C4)

 入口はチャリティー。そしてそこから生まれた音楽を経由して、どんどんTOKIさんという人間に惹き付けられていく。これまで何度も話に出て来たTAKUROほかGLAYのメンバー。お互いライブハウス時代に出会い、バンドも、私生活も、まったくことなる人生を送りながら、常に刺激し合い、助け合い、強く惹かれ合う理由がなんとなくわかった気がした。

−−−音楽ライターという仕事をしながら、名前はお聞きしつつもTOKIさんのことを意外と知らなかったなぁって、今日お話を聞きながらすごく思いました。

TOKI そうなんですよ。私自身、昔みたいに取材してくださいってことを一切言わないんで。自分の音楽とか、自分の行動を世に広めて行こうっていう意思はまったくないんです。もう勝手にやる。音楽で食べていくという概念に縛られずに、生き様とか、自分らしいことかか、昔の自分ががっかりしないようにとか、そういうことに留意して生きてるんで。例えば、あるレコード会社からオファーをいただいても、複数売りなんかやるような会社は興味ないですってハッキリ言いますから。もし音楽で飯が食えないなら、肉体労働でも交通整理でもやればいいじゃない。CD売れねぇから、生き様貫きてぇから、でもファンの子には負担掛けたくないから、俺が働いてなんとかするって言ってる方が遥かにカッコいいなぁと思いますよね。

−−−以前、TOKIさんのサイトに書かれた文章で印象的だったのが、「ヤセ我慢が基本ですから」っていう。

TOKI うん。男はヤセ我慢ですよ。

−−−だから周りから見たら、ひたすらに自分が信じる音楽を貫き通す姿は羨ましくも格好いいけど。表に出てない部分ではメッチャ必死で頑張ってるわけじゃないですか。

TOKI そう。だから女の子のことと同じですよね。たとえば「カリオストロの城」でルパンはクラリスとキスしたいんだけど我慢する。その理性ある姿に誰もが共感する。だけどあそこでおっぱい揉んだりしたらすべてが台無しで(笑)要は俺という人間は、理想の自分を体現してるだけなんだと。だから俺の本来の姿じゃないのかもしれないっていう。私は世代的に戦争体験者の方達が作った物語や作品を見て育ってきたわけじゃないですか? 故に自己犠牲の精神を尊ぶ部分がある。自分もそういう姿に作り上げたいというか。だから当然我慢だらけですよ。見えない部分ではやりたい放題やってますけれど。寝転がりながらベビースターラーメンを袋ごとザーッと食うとか。あはははは。でもTOKIとして発するものに関しては、やっぱ強くて、やさしくて、面白くて、気さくな男、みたいな理想があるじゃないですか。そういうのをなるべく全部体現したい。そうそう。だからTAKUROとかにも話すんですよ。たとえば、「どうも、TOKIです」って挨拶。ちょっと待て、そりゃおかしいだろうと。もしくは、「STEALTHのTOKIです」これもおかしいだろう。「今はSTEALTHってバンドをやってる、C4のTOKIです」ならわかる。本物の男ってそういう姿だよな! みたいな話をするんです。

−−−クククク。CDの複数売りという音楽家として姿勢の話から生活態度まで。私も今度から「ライターをやってる、山本です」って言おうって思いました。

TOKI そう。その方がカッコイイって。よく高倉健さんの話を引用するんですよ。映画「野生の証明」の撮影で、いよいよ高倉健さんが登場しますと。薬師丸ひろ子さんはもうど緊張で迎えるわけですよ。そこにいる全員が硬直状態でピリピリする中、「今度共演させていただく高倉健と申します。よろしくお願いします」って言ったという。俺はもう、その話を聞いた瞬間、漏らしちゃうくらいの勢いでしたよ。まさに、これだろう!っていう。

−−−ただ、理想の自分に自らを近づけていくって究極だけど、実は一番過酷かも?! 

TOKI おそらく俺は複数人で仕事をするのであれば、尊敬できる人じゃないと部下として働けない。自分よりも熱く、自分よりも自己犠牲の精神を持っている人、もしくは自分より完全に仕事ができる人じゃないと、下では働けないってだんだん気づいてくるんですよ。でもなかなかそういう人と巡り会う機会がなくって。とにかく自分は経営向きの体質で、仕事は多分できるんだなってことが分かり出したのが30歳そこそこ。で、実際に起業するんです。自分で完全管轄できる少数精鋭で会社を始めてもう十数年。それを経てきた今、物質欲や出世欲はもうある程度いいんです。そういったものをそれなりに手に入れてみたら、こんなもんかみたいな。それはあの、自分の会社のビルを建てたんです。自社ビルってひとつの象徴じゃないですか。けれどやってみたら全然。ただの石だね、みたいな(笑)。

−−−いやいやいや。それはさすがに、そしてモーレツに達観し過ぎですよ。

TOKI いや、ホントに。プラモデルと同じでできるまでが楽しくて、ビルでもこんなもんかって。その辺からですよね。生き様っていうことを痛烈に意識し出したのは。自分で自分のことを好きになんなきゃダメです。自分をがっかりさせたくない。私は交通事故に遭って身体障害者ということになったんですけど、私の身体の事をよく知っている医者がライブを観に来て「無茶しすぎだ!」くらいのことを言われたんです。今エネルギーを使えば後が相対的に厳しくなるみたいで。だからこそ、残りの数年間で自分が残したいのは、やはり自分自身の生き様なんです。『アルストロメリア』が完成した時なんて、もう限界かもって思いましたもん。でもここで倒れたとしても、ある意味、自分的には納得できたと思うんです。20年来のダチと2人で作ったアルバムを郊外の施設の子供達の為に寄付して倒れるって、俺はタイガーマスクか矢吹丈かっていう(笑)。

−−−今、タイガーマスクがマスク取ったらTOKIさんっていう絵、見えました。

TOKI ハハハハ。余力を残しながら物事に接する事はしたくないっていうか。昨日も35歳の女の人が自宅で子供を産んで殺してちゃったっていう事件がありましたけども、今の気持ちとして、ああいうことに対する取り組みをして行きたいっていうのは本当にある。でも今の自分の運命が自分に対峙させてるのはバンドで、ドラムとベースがいて、マネージャーを含めスタッフもいて、そのバンドの訴求力でみんなを音楽の道で食べれるようにしたい。あとは才能のある新人バンドを見つけたりして、CDを出したり、マネージメントしてあげたりっていう列車が走り出すまでは、俺は頑張る。逆に、それもできないくせに見も知らない子供を救えるわけがないと思ってるので。だからいつでもフル稼働だし、必死にヤセ我慢ですよ(ニッコリ)。


(次号へつづく)

時と呼ばれた男 前編 Chapter1〜3
時と呼ばれた男 後編 Chapter4〜5

TOKI(C4)

2010年12月24日発売!
CDの購入、そして、より大きな花束を編むためのアクションは以下のサイトから!
STEALTH 1st Album「アルストロメリア」
http://www.keasler.co.jp/stealth/


「アルストロメリア」の詳細や経過をリアルタイムで知りたい方は、以下をクリック!
TOKI’S BAR
http://blog.livedoor.jp/c4toki/