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米ディッシュ、スプリントに255億ドルの買収提案 - 混迷深まる米携帯通信市場

2013.04.16

米衛星テレビ放送大手のディッシュ・ネットワーク(Dish Network:以下、ディッシュ)は現地時間15日、米3位の携帯通信事業者であるスプリント(Sprint)に対し、総額255億ドルで同社を買収する提案を行った。スプリントの経営権獲得を目指すソフトバンクの前に強敵が現れたと各媒体が報じている。

既報のとおり、ソフトバンクは昨年10月にスプリント株式の70%を201億ドルで取得する計画を発表。これに対し、今回ディッシュがスプリント株主に示した買収条件は、1株あたり7ドル(4.76ドルの現金ならびに2.24ドル分のディッシュ株式)となっており、ソフトバンクの買収提案を13%上回るという。

この提案について、スプリントの取締役会では内容の検討を進めるとし、ディッシュの提案内容のほうが優れていると判断した場合には、改めてソフトバンクに条件引き上げの機会を与えることになるという。

ディッシュは現在1400万人の契約者をもち、有料テレビ市場では1位のコムキャスト(Comcast)、2位のディレクティービー(DirecTV)に続く大手の放送事業者。昨年の年間売上は143億ドルで、契約者数・売上規模ともスプリントより小さい。スプリントの加入者数は4700万人(旧ネクステルの契約者も含めると約5600万人)、年間売上は353億ドル。「小が大を飲む」ことになるこの買収提案について、ディッシュのトム・キューレン(Tom Cullen)氏(同社エクゼクティブ・バイスプレジデント)は、両社の合併によりバックオフィスの合理化などから110億ドル程度のコスト削減効果があると説明。

ディッシュの提案発表のニュースを受け、この日の株式市場ではスプリント株価がディッシュの提示額7ドルを上回る7.06ドルまで上昇した局面もあったとBloombergは伝えている。

またディッシュの創業者で現在会長を務めるチャールズ・アーゲン(Charles Ergen)氏は、「スプリント株主にとってはディッシュの提案のほうが明らかに優れている」とした上で、「スプリントは、ソフトバンクと合併したからといって一晩で生まれ変われるわけではない。それに対し、ディッシュと組めば一夜にして変身できる」「ソフトバンクによる買収計画は、簡単にいうとスプリントを強化するための資金注入に過ぎない。それに対し、スプリントはディッシュと組めば、ディッシュの加入者1400万人にすぐにも携帯電話サービスを提供できる。また株主の手にも合併後の会社の32%が渡ることになる」などと述べたとNYTimesでは記している。

アーゲン氏は、ディッシュ/スプリントの合併が実現すれば、「消費者はブロードバンド(ネット接続)や動画配信、音声通話などのサービスを家庭でも外出先でも同じように利用できることになり、またそうなることをすべての消費者が欲している」と説明。また、既存のケーブルテレビ事業者やAT&T;、ベライゾンなどが展開に消極的とされるブロードバンド・サービスについても、「加入者の家庭に設置した屋外アンテナとスプリントの基地局とを直接結ぶ」形の固定型無線通信というアイデアを示したとWSJは記している。

いっぽう、アナリストのなかには、ディッシュ/スプリントの合併が成立した場合、存続会社が約400億ドルもの借入金を抱えることになる点を懸念する声もあるという。ディッシュはスプリント買収の資金について、手持ち資金と借入金を組み合わせることで、現金部分の173億ドルを賄うとしている。なおこの資金調達については、ディッシュ側のアドバイザーとなっている英大手銀行のバークレーズ(Barclays)がほぼ確実にできると自信を示しているとWSJは記している。

ディッシュはこのところ大型買収を視野に入れた資金調達を進めていることが報じられていた。同社が過去一年間に集めた資金は、最近明らかになった23億ドルの借り入れも含め、合わせて約97億ドルに上るとされる。この資金の使途については、競合する衛星テレビ事業者ディレクティービー(DirecTV)との合併やドイツテレコム(Deutsche Telekom)傘下のT-モバイル(T-Mobile USA)買収、より下位の通信事業者のリープ・ワイアレス(Leap Wireless International)買収など様々な可能性が挙げられていた。先週末には、メトロPCS(MetroPCS)との合併に向けた計画が進行中のT-モバイルについて、親会社のドイツテレコムにディッシュが接触しているとの話もBloombergで伝えられていた。

携帯通信事業参入の準備を進めるディッシュは、過去数年間に獲得した衛星放送・通信用周波数帯を、通常の携帯通信目的に転用する計画について、昨年暮れに米FCC(連邦通信委員会)から承認を受けていた。

また、昨年メトロPCSがT-モバイルとの合併を発表する前に、ディッシュがメトロPCSに買収の打診を行ったことも伝えられていた。さらに、スプリント(Sprint)が完全買収を狙うクリアワイア(Clearwire)への買収提案も行っていた。

今回の提案が及ぼす影響などについて、NYTimesでは、「ベライゾンとAT&T;の上位2社にとっては、スプリント/ソフトバンクよりもディッシュ/スプリントの組み合わせのほうが手強い競争相手になる」「ディッシュ/スプリントの合併が実現した場合には、現在の『2強2弱体制』が『3強体制』となり、T-モバイルがレースから脱落する可能性がある」などとするスーザン・クロフォード(Susan P. Crawford)氏の見方を紹介。同氏はオバマ政権で一時、科学技術やイノベーション分野の政策立案に関する特命補佐官を務めていた人物。また、通信分野を専門とするコンサルタントのチェタン・シャルマ(Chetan Sharma)氏は、「アップルやサムスンなどの端末メーカーに対する影響力がより大きなスプリント/ソフトバンクのほうが、消費者の受けるメリットは大きくなる可能性が高い」とコメントしている。

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[dailywireless.org]

dailywireless.orgでは各社の保有する周波数帯に関し、ディッシュの保有する45MHzの周波数帯のうち、40MHzが2.1GHz帯にあり、これがスプリントの保有するPCS用帯域と隣接しているため、スプリント側では自社インフラをあまり変更せずにディッシュの周波数帯を使える可能性が高いと指摘。両社の周波数帯を合わせるとほぼ100GHzと、ベライゾン・ワイアレス、AT&T;のそれとほぼ匹敵する帯域幅となる。

また、クリアワイアが保有する2.6GHz帯(TD-LTE用とされている部分)の周波数帯については、ディッシュが決定権を握った場合、その一部をAT&T;やベライゾンといった他社にに売却する可能性もあるとしている。

このクリアワイアの周波数帯については、同社がサードバーティから利用権をリースしている部分について、ベライゾン・ワイアレスがクリアワイアに譲渡の打診を行った、という話がこの日WSJなどで報じられていた。対象となる帯域は主に大都市圏のものとされ、LTEサービスの全国展開が競合他社に先駈けてほぼ一巡したベライゾンが、ビデオ配信サービスの展開など次の段階に向けた準備を進めていることを伺わせる動きといえる。


【参照情報】
Dish Launches $25.5 Billion Bid for Sprint - WSJ
Dish Bids $25.5 Billion for Sprint to Challenge Softbank - Bloomberg
Dish Network Makes $25.5 Billion Bid for Sprint Nextel - NYTimes
Dish Makes $25.5 billion Bid for Sprint - dailywireless.org
Verizon Wireless Pursues Clearwire Spectrum - WSJ


中村航、三国大洋(スタッフライター)

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