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発言小町を基に、少子化ジャーナリスト・白河桃子さんが社会現象などを分析します。

「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログはついに国を動かすのか?

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 認可保育園への入所を希望していた皆さま、可否がわかって悲喜こもごもといった状況ですが、いかがお過ごしでしょうか?

 「落ちたから、育休を延長するしかない」と言うママも、「一応3年は育休を取れるのですが……」とやはり暗い顔。周囲には3年休んだ人はいないそうです。

保育園は「死活問題」

 さらに聞くと、「失敗しちゃって……」と落ち込んでいる様子。何が失敗なのかというと、“激戦”といわれる区からわざわざ引っ越したのに、同じような思惑で引っ越してきた人が多かったのか、「楽勝かと思ったら落選でした」。そこまで努力したのですから、がっかりするのもムリはありません。

 がっかりしながらも、育休が延長できる人はまだ何とかなるかもしれません。しかし、「もう辞めるしかない」という人にとって、保育園に子どもが通えるかどうかは、まさに死活問題です。もちろん育休を延長する人も、当然減収になります。

 さて、いま話題の「保育園落ちた日本死ね!!!」ブログは、保育園に入れなかった人による怒りの匿名ブログです。同じ境遇の方たちの共感とともに拡散され、さらに専門家が「なぜ保育園が足りないのか?」を発信し――どんどん広がっていきました。

 おそらくこれまでならネットだけで盛り上がって終わる騒動。しかし、2月半ばに書かれたブログはその後、共感の輪の広がりとともに思わぬ展開を見せていきました。テレビで地上波の報道番組が取り上げ、国会でも民主党議員がブログを紹介しながら与党側に質問しました。

 さらに3月5日には、ついに国会前に母親らが集まりアピールしました。ブログが匿名だったことから、国会では「誰が書いたんだ!」などというヤジが飛びました。「本当であるかどうか確かめようがない」という趣旨の発言もあったため、それが保育園に落ちた人たちの気持ちに火をつけたのです。ツイッターでも呼びかけが広がり、「保育園落ちたの私だ」というプラカードを手に、母親らが集結。「当事者は本当にいる」「こんなに大勢いる」と訴えていました。

 行動に出た彼女たちに対して、政治家も「対処します」「真摯(しんし)に受け止める」「虚心坦懐(たんかい)に分析を」と次々と表明。またそれが報道番組で紹介されるという展開となっています。

 小さな子どもを連れて、国会前まで行くのは大変なことです。突き動かされるだけのものがあったということです。そして真摯な声は届くのです!

 フランス人の知り合いから、「とっくにフランスならデモが起きている。なぜ日本人はこんなにおとなしいの」とよく言われますが、それは「どうせ何を言っても変わらない」というあきらめの気持ちがあるから。しかし、「行動すれば届く」という成功体験が積み重なったら、もの言う人もどんどん増えていくのではと思うのです。

なぜ女性の仕事が理不尽に奪われるのか?

 もの言う小町住民ですが、保育園で検索すると、いやいや、驚くほどヒットします。「認可と認証」を迷う人。「保育園」から「幼稚園」へと転園へのアドバイスを求める人。そして、ありました! 保育園に落ちました。というトピ。

 夫婦共にフルタイムで、上の子はすでに保育園に入っているというトピ主さま。この状態で全ての保育園に落ちたそうです。

 「二次募集や、認証、無認可、全てあたりましたが、全て点数は関係なく運らしいので見込みは薄いです。役所からは、4月までに仕事ができないなら、上の子も保育園から出てってもらうと言われてます」

 もう悲鳴が聞こえそうです。そして「同じ境遇」の方たちからのレスが続々と集まっています。中には「子育てを人に任せるな」という、“あるある”なレスもありますが、多くの方のレスから感じるのは働くことへの切実さです。

 「子供は二人共可愛(かわい)いです。(いと)おしいです。それでも下の子を生まなければこんな事には…と思ってしまう私がいます。私が仕事を辞めても生活はできますが、子供の学費、老後の費用、もろもろ考えると働かざるをえません。そして仕事は私の一部です」

 「仕事辞めろってことなのかと悩んでいます。でも、主人の収入だけで都内で二人の子どもを育てるなんて無理です。夫婦二人で働いているから、二人目を産むことができたのに。なかなか立ち直ることができません」

 「仕事を辞めてしまうと、子持ちで新たな仕事を見つけるのは本当に大変です。収入や、将来もらえる年金額も大きく減ります。万が一、夫と離別・死別してしまったら、貧困への道まっしぐらです。どうか、3月31日まであきらめないで。応援しています」

 「このご時世、困窮していなくても、正社員の身分はなんとしてでも守り抜きたいと思うのが人情。生涯収入に大きな差が生じ、それはお子さんの養育にも影響すると思います。理不尽な形で奪われてしまうなんて、さぞやりきれないでしょうね」

 そう、これは「理不尽に仕事を奪われる」ことです。なぜ女性の仕事だけ、こうして「理不尽に奪われる」のでしょうか?

 やっぱりおかしい。

 「保育園に入れない」のは、税金を払っているのに、行政サービスが受けられないことです。「保育園に入れない」のは、仕事をする権利を奪うことです。「失業した」と誰かが裁判を起こしても不思議じゃないんじゃないかといつも思うぐらいです。

 EUでは保育園やベビーシッター代は「仕事の経費」となり、税額控除されることも多く、それで多くの人が働く選択をして、税金を納めています。

 働いてお金を稼ぐこと。子育てすること。人生を楽しむこと。どれも人間には許されているはずなのに、なぜ、それがこんなに対立するのか?

少子化対策に「残された時間」はあとわずか

 知っていますか? あと3年で女性たちが「この国で産んでも大丈夫なんだ」「仕事を奪われることはないんだ」と実感できないと、今後100年、日本の人口は増えないことを。

 なぜなら、団塊世代、団塊ジュニア世代と人口の大きな山があるのですが、団塊ジュニアが産むことによるベビーブームは起きなかったのです。その団塊ジュニア世代がちょうど40代になるところ。40代でも5万人が産んでいて、その数は全体の出生の5%を占めています。しかし、あと3年ぐらいで、その動きも落ち着いてしまうでしょう。やはり45歳以上になると、妊娠は本当に難しいのです。

 ここ3年で、団塊ジュニア女性たちが「産んでも大丈夫」と実感できなければ、2100年の人口は現在の4割になります。

 あと3年……その後いくら保育園を増やしても人口は増えない。その間に「保育園落ちた日本死ね!!!」と誰も叫ばないようにしなければいけない。

 「私も中学生の母ですが、なんなんでしょーね、この現状。国が母親に『ないものねだり』してて、世界に向けて恥ずかしくないのでしょうか?」

 小町住人も叫んでいます。二度と、大事なものを理不尽に奪われることがないように。誰もが声をあげていい時代なんです。

2016年03月09日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
プロフィル
白河桃子 (しらかわ・とうこ
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。「一億総活躍国民会議」委員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。婚活ブームを起こした「婚活時代」(山田昌弘共著)は19万部のヒットとなり、流行語大賞に2年連続ノミネート。著書に「妊活バイブル」(講談社新書)「女子と就活」(中公新書ラクレ)「産むと働くの教科書」(講談社)「格付けしあう女たち」「専業主婦になりたい女たち」(ポプラ新書)など。「仕事、出産、結婚、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「専業主夫になりたい男たち」(ポプラ新書)。公式ブログ:http://ameblo.jp/touko-shirakawa ツイッター:@shirakawatouko
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