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軽減税率 円滑導入で増税の備え万全に

 ◆安定財源確保へ検討を深めよ◆

 新制度の円滑な導入を図り、増税の備えに万全を期さねばならない。

 自民、公明両党が、軽減税率の制度設計で大筋合意した。2017年4月に消費税率を10%へ引き上げる際、同時に導入する。

 酒類・外食を除く生鮮食品と加工食品を対象とし、税率は8%に据え置く。軽減規模は年1兆円に上る。軽減税率には、低所得者を中心に痛税感を和らげ、家計を支える効果が期待される。

 与党が意見対立を収め、合意にぎ着けたことは評価できる。

 ◆首相官邸が公明に配慮

 消費税の増収分は全額、社会保障費の財源に充てられる。少子高齢化の進行で、予算規模がこれからも増え続けるのは必至だ。

 厳しい財政事情を考慮すれば、一層の消費税率の引き上げを視野に入れざるを得ない。軽減税率の導入で、生活必需品を増税から切り離し、将来の再増税に備えられる制度となる意義は大きい。

 協議の難航は、対象の線引きを巡る溝が深かったためだ。

 当初、生鮮食品に限ると主張していた自民党は、途中から公明党の加工食品を含める案をのんだ。さらに外食も加えるよう求め、混乱が生じた。

 外食を含めると、高級飲食店などの利用が多い高所得者への恩恵が手厚くなりすぎるとの異論も出て、外食を除く案で決着した。

 最終的に自民党が歩み寄ったのは、来年夏に参院選を控え、公明党との選挙協力を重視する首相官邸の意向が働いたからだ。

 加工食品には、パンや麺類など食生活に不可欠な商品が含まれる。日常的に購入する食品を対象とする大筋合意を歓迎したい。

 与党は今後、食品以外の対象品目の協議を続ける考えだ。

 海外では、軽減税率を採用する大半の国が、食品と並んで新聞や出版物を対象にしている。

 新聞と出版物は、民主主義の発展や活字文化の振興に貢献してきた。単なる消費財でなく、豊かな国民生活を維持するのに欠かせない公共財と言える。

 こうした社会的役割を踏まえ、日本でも、新聞と出版物に軽減税率を適用すべきである。

 与党は、請求書に税額や税率を記入するインボイス(税額票)の採用を、21年度から事業者に義務づける方針も決定した。

 ◆税額票の採用は当然だ

 税率が複数になると、標準税率の売り上げを軽減税率の取引だと偽り、事業者が税金の一部を手元に残す行為が頻発しかねない。

 こうした不正を防ぐうえで、インボイスの採用は当然だろう。

 与党合意を受けて政府は、軽減税率の導入に向けた準備作業を着実に進める必要がある。

 店頭で消費者や事業者が戸惑うことのないよう、対象の線引きや様々な事例への対処法を明示し、周知徹底を図らねばならない。

 外食は対象外だが、ファストフード店内での食事と持ち帰りをどう区別するかといった疑問が生じかねない。簡明なガイドラインなどを設けることが大切だ。

 レジの改修費補助や新たな会計方式を習得するための研修など、中小・零細店の対応を支援する取り組みも重要になる。

 気がかりなのは、軽減税率導入の財源をどのような手段で手当てするか、まだ目処めどが立っていないことだ。

 今は、増税時の低所得者対策に回す予定だった4000億円を充てる方針だけが決まっている。

 自民党は社会保障費の枠内でのやり繰りを主張してきたが、医療や介護などに過度な影響を及ぼすのは望ましくない。社会保障以外の歳出抑制や他の税収を活用できないか、議論を深めるべきだ。

 自民党の谷垣幹事長は「財政健全化目標を堅持する。安定的な恒久財源の確保に責任をもって対応する」と強調した。公明党が提唱する、たばこ増税案などの検討も続けてもらいたい。

 ◆益税拡大は許されない

 消費者が支払った税金が事業者の手元に残る「益税」の取り扱いも、残された課題である。

 軽減税率の導入後も、現行の小規模事業者の免税制度や、納税の計算を簡単にする簡易課税制度は存続することが決まった。

 現在の益税規模は年6000億円にも上ると試算される。税率引き上げで、さらに規模が膨らむ事態は避けられない。

 消費者に増税を強いる以上、益税は縮小するのが筋である。逆に拡大を許してしまうのでは、国民の納得は得られまい。

 与党は益税の見直しについて、より真剣に検討すべきだ。

2015年12月13日 03時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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