遠藤雅伸「ゲーム技術の黎明期に、中二病全開でつくったら『ゼビウス』ができた」

KADOKAWA・DWANGOが現在準備をしている新プロジェクト。それは、次世代の通信制高校です。その発表に関連し、「ゼビウス」や「ドルアーガの塔」などの名作ゲームをつくり、“ゲームの神様”とも呼ばれる遠藤雅伸さんにインタビューをおこないました。20代前半で、次々と大ヒットゲームを生み出した遠藤さん。いったいどんな環境で、どういう発想をもとにコンテンツづくりをしていたのでしょうか。

低コストで自由に新人がチャレンジできる環境。そこから名作が生まれる

— 前半は、遠藤さんがつくられてきた名作ゲームについてうかがっていきます。まずは、伝説のシューティングゲーム「ゼビウス」のお話をうかがいたいのですが……。

遠藤雅伸(以下、遠藤) といってももう30年以上前のゲームですから、今の若い人にとってはなじみがないんじゃないかと(笑)。

— いえいえ、ゼビウスというのはあの時代に突然現れた、あまりにも突出したアーケードゲームでした。そういったものがどういうふうにつくられたのかという話は、現代のコンテンツ製作にも通じる普遍的な内容だと思います。まず、ゼビウスの企画は遠藤さんが自主的に提案したものだったんですか?

遠藤 もともとはマーケティング部から、「ボタンが2つある、スクロールするシューティングゲームをつくってほしい」くらいの企画が出てきたんですよね。それをどういうゲームにするかというテーマデザインの部分を、ぼくがやることになったという流れです。だから、ずっと前からゼビウスの企画を構想していて満を持して提案した、とかではないんですよ。

— そうだったんですか! その頃、遠藤さんは20代ですよね?

遠藤 新卒で入社してわりとすぐだったので、23歳くらいのときですね。

— ゼビウスはそれまでのシューティングゲームとはまったく違って、背景に壮大なストーリーがありました。SF的な世界観がつくりこまれていて、なぜ戦うのかという理由が明確だった。遠藤さんが書かれたストーリーは、その後、本にもなりましたよね。

遠藤 最初はどこにも出すつもりはなく、プロジェクトチーム内でのコンセンサスをとるためだけに書いてたんです。まあ、どうしてあそこまでつくりこんだかというと、その理由を端的に表すいい言葉がありまして……中二病ってやつですね(笑)。富野由悠季監督のつくるアニメへのオマージュでもありました。

— あんなすごいストーリーを中二病で書けてしまうなんて……(笑)。また、ゲームのグラフィックも画期的でしたよね。

遠藤 そうですね。当時は一つのキャラクターにつき3色しか使えなかったのが、16色使えるようになったくらいの時期でした。他の人達はそれでたくさんの色をカラフルに使おうとしていたのですが、ぼくはあえて色をグラデーションとして使って、光の輝度によって立体を表現することにトライしようと思ったんです。

— まだ3Dの技術がない時代に3Dを実現したようなグラフィックで、当時とても驚いたのを覚えています。何人くらいのチームで、あのゲームをつくりあげたのでしょうか。

遠藤 5、6人ですね。社内ではそんなに大したプロジェクトではなかったんですよ。新しいコンピュータを使っているわけでもなく、既存のコンピュータに少し部品を足したようなものでつくっていました。だからこそ、冒険ができたんだと思います。今で言うと、スマートフォンが出始めた頃みたいな感じですね。いろいろなことができる新しい機械が現れて、開発費がそんなにかからないから少人数で挑戦的なことができる。

— なるほど、わりと汎用的な基板でつくっていたんですね。

遠藤 そうですね。だから、新人でもコストをおさえて勝手にやっていいよ、という状況が生まれていました。翌年にリリースした「ドルアーガの塔」も、ゼビウスと同じ年に出た「マッピー」というアクションゲームの基板が余ってるから、それを使ってコストをおさえてつくろう、というスタートだったんですよ。

代表作があるのは幸せなこと。それにとらわれず、新しい作品を積み上げていけばいい

— 「ドルアーガの塔」についてもお聞きしたかったんです。ドルアーガの塔は、制限時間内にモンスターを倒しながら、迷路状の各ステージに配置された鍵を取得して、次のフロアに進むというゲームです。すべての面で謎を解かなくてはいけなくて、しかもすぐ死ぬという難易度がものすごく高いゲームでした(笑)。

遠藤 それが狙いでしたからね(笑)。ゼビウスは、最高にうまい人だと100円で6時間くらい遊べちゃうんですよ。当時のアーケードゲームは、死ななければ延々と遊べた。だから次につくるゲームはビジネスとして考えると、お客様に“死んでいただく”ものにしないといけなかった。すぐ死んでいただいて、なおかつすぐ次のお金を入れたくなって、クリアした時に「やったぞ!」と満足しながらエンディングにたどり着く仕組みを目指しました。ドルアーガの塔は60階の塔という設定にしたので、60面まで突破するとかならずゲームオーバーになるんです。

— なるほど、そうすると各フロアに制限時間もあるし、何時間も遊ばれることはないと。遠藤さんは、ゼビウスとドルアーガの塔、この2つの画期的な作品をほぼ同時期に出されたんですね。

遠藤 ゼビウスがヒットしたあと、どこに行っても「遠藤雅伸(ゼビウス)」と書かれるようになりました。これは、もう一本まったく違うヒット作を出さないと消えないなと焦っていたんです。でもそんな時に、ゼビウスの音楽を気に入ってくださったYMOの細野晴臣さんが、「遠藤くん、自分の代表作があるというのはそれだけで幸せなこと。代表作を嫌いになっちゃダメだよ。そこにプライドを持ちつつ、さらに別の作品を積み上げて、自分の厚みを増せばいいんだ」と言ってくださったんです。

— 先に活躍していた先輩からの、大人のアドバイスですね。

遠藤 そこから前向きに、ゼビウスはゼビウスとして、どんどん新しいものをつくればいいと思えるようになりました。

— そしてゼビウスとはまったく違う、ドルアーガの塔が生まれたんですね。もともと、どこから着想を得てつくったんですか?

遠藤 アメリカで買った「ダンジョン&ドラゴンズ(D&D)」というファンタジーテーブルトークRPGですね。これは世界で最初のロールプレイングゲームと言われているんです。同時期にAppleⅡでプレイできる「ウィザードリィ」というコンピュータ・ロールプレイングゲームが日本に入ってきて、日本のゲームクリエイターがみんなロールプレイングゲームをつくりはじめました。ぼくはアクションのほうに振ってドルアーガの塔をつくりました。そして、「ウィザードリィ」を日本のウィンドウに合わせてつくられたのが、ドラゴンクエストシリーズです。

— もともと、テーブルトークRPGなどのゲームがお好きだったんですか?

遠藤 いえ、面倒くさいので、そんなに好きではなかったですね(笑)。ただ、知っておいたほうがいいと思ったので、やっていました。

— 勉強のためにやっていた。

遠藤 そうですね。新しいものを見つけて、やってみて、それを取り入れて作品をつくるということは意識的にしています。だから、ドルアーガの塔のあとは、「ケルナグール」という対戦格闘ゲームをつくりました。これは「ストリートファイター」などの対戦格闘ゲームのブームが来る2年くらい前でしたね。2000年代に入ってからは携帯電話でアプリが使えるようになってすぐに、Javaアプリのゲームをつくったんです。

“様式美”を重んじる日本からは、ユニークなゲームが出てきやすい

— 遠藤さんがゼビウスをつくられた頃は、まだ少人数で大ヒットする新しいものがつくれました。でも最近では、アメリカのゲームなどは映画にも負けないくらいのクオリティで、何百億円ものお金をかけてつくる巨大プロジェクトになってきていますよね。「Call of Duty」シリーズや「Grand Theft Auto」シリーズなどは特にそうかと。

遠藤 日本とアメリカでは、ゲームのつくりかたがまず違いますからね。日本はコンセプトドリブンで、「こんなゲームがあったらいいよね」という発想からつくっていく。対してアメリカは、テクノロジードリブン。「こんな技術があるからこういうゲームをつくろう」という順番です。キャラクターというものの考え方も全然違います。「Call of Duty」はシューティングゲームですけど、ガチムチのおっさんしか出てこないでしょ?

— ええ(笑)。

遠藤 それ、なぜだと思います?

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mswar777 まだ、インベーダーの亜種みたいなのが席巻していた当時、ゼビ語とか言語体系構築から始まって、文字でビッシリの世界観設定とかとか、ほんと面くらいました。。。 / “遠藤雅伸「ゲーム技術の黎明期に、中二病全開でつくったら『ゼビウス』がで…” http://t.co/c7FrEi9OhI 約8時間前 replyretweetfavorite

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