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気象庁マグニチュードの改訂について

気象庁地震予知情報課

 既にニュースレターvol. 12,No. 4(2000 Nov)や,地震ジャーナルVol. 31(2001. Jun)で報告してきた通り,気象庁では,これまで使用してきたマグニチュード(以下「M」と称す)計算式を改訂し,2003年9月(予定)より新しい計算式により計算されたMに移行する.以下に現行の気象庁Mの概要とその問題点,新しいMの概要と,現行Mとの比較結果について解説する.

1. 現行の気象庁Mの計算方法
 気象庁は,気象官署に設置された固有周期5〜6秒の変位式地震計で記録された波形の最大振幅により,当時の「標準」と考えられていたMsと合致するように考案された坪井式(坪井(1954))によりM計算を行ってきた.
   M=1/2*log(AN2+AE2)+1.73logΔ−0.83(AN, AE in 106 m,Δ in km)
(ここで,Δは震央距離).坪井式は深さ60kmよりも浅い地震についてのみ定義された式である.また低〜中倍率の地震計による最大振幅を用いるため,小さな地震についてはMを決定することができない.そのため気象庁では,60kmよりも深い地震について変位Mを計算するため,勝又による式(勝又(1964))を導入した.
   M=1/2*log(AN2+AE2)+K(Δ,H)
(AN, AE in 10−6m)
(ここで,Hは震源の深さ,KはΔとHの関数).また,変位振幅が計測できないような小さな地震についてもM計算ができるよう,高感度速度型地震計の上下動成分の最大速度振幅を用いたEMT式(神林・市川(1977))を導入し,微小地震のM計算を行ってきた.
   M=log(AZ)+1.64logΔ+α
(AZ in 105m/s, Δ in km)
 なお,EMT式による速度M計算は,60km以浅の地震についてのみ適用してきたが,一元化以降は適用範囲を90km以浅まで拡大している.しかし90kmより深い地震については,速度Mは計算されない.
 上記の方法により,変位Mおよび速度Mが両方が計算された場合は,変位Mの値が5.5以上の場合もしくは両者の差が0.5以上の場合は変位Mを,それ以外の場合は変位Mと速度Mの平均値を気象庁Mとしている.

2. 現行の気象庁Mの問題点
 1993年の北海道南西沖地震を契機として,1994年から1995年にかけ,津波予報の迅速化を目的として,津波地震早期検知網(以下「検知網」と称す)と呼ばれる新しい地震観測網の整備が行われた.このことにより,平野部を中心とした気象官署に設置された機械式1倍強震計,59型地震計(固有周期5〜6秒)からなる観測網が,主に山間部の硬い岩盤に設置された高感度速度型地震計と加速度計からなる観測網に完全に置き換わった.きわめて短期間のうちに観測網全体としての地震計特性,地盤特性,観測点密度が変わったことになる.
 気象庁では,検知網展開後も同様の計算式によりM計算を行ってきたが,データが蓄積されるにつれ,Mが検知網展開以前に比べ系統的に小さくなっているのではないかという指摘がなされるようになった.
 また,速度式に内在する問題として,現行のMでは変位Mと速度Mの接続性が悪く,大きい地震について速度Mは変位Mに比べ過小に,小さい地震については過大に求められる傾向があることもわかってきた. 
 浅い地震と深い地震でMにギャップができることも現行Mの持つ問題点である.変位Mについては,深さ60kmを境に坪井の式と勝又の式という別種の式を用いることになり,その適用境界(60km)において整合が取れていない.また先にも述べたとおり,速度Mを求めるEMT式は深さ90km以浅にしか適用できないため,90kmより深い地震について,変位振幅が計測できないような小さい地震の場合は,Mを求めることができない.
 また,現在では全検測値の40%を占めるHi-net(高感度地震観測網)のデータについては,M計算における地震計特性の効果が不明であったため,現行Mの計算には使用されていなかった.

3. 気象庁Mの改訂の概要
 以上のような問題点を解消するべく,気象庁では,平成13年1月から4月にかけて,気象庁マグニチュード検討委員会(座長 阿部勝征 東京大学教授)を設置し,特に検知網の展開によって生じた地震計特性,地盤特性の変化について精査を行った.その結果,新しい地震観測網は,地震計特性については約0.05大きく,地盤特性については約0.2小さいMを与える効果をもたらしている(ただし地盤特性については,大きいMに関してはその効果は0.2よりも小さい可能性がある)ことがわかった.
 この結果を受け,新しい気象庁Mの改訂にあたっては,気象庁Mの根幹と位置付ける坪井の式によるMとの整合性,一貫性を最大限確保しつつ,気象庁M計算式を再検討した.勝又式,EMT式については,坪井式との整合性に問題があるため,全面的に見直すことにした.

[変位振幅を用いる方法]
 変位Mの計算式については,深さ60kmを境に2つの式(坪井の式・勝又の式)に分かれていたものを,
   MD=1/2*log(AN2+AE2)+βD(Δ,H)+CD(AN, AE in 10−6m)
とひとつの表現で統一する.ここで,βDは,震央距離及び深さの関数(距離減衰項)であり,Hが小さい場合に坪井の式に概ね整合するように図っている.
 検知網以前のデータに対してはCD=0として,また,検知網展開以後に対しては,旧地震計の特性を再現するフィルターを施したデータにCD=0.2という定数調整を行うこととした.ただしこの定数調整は,大きい地震には適用できない可能性がある.このため,気象官署の震度計波形データが十分に得られるような大きな地震については,震度計の加速度波形データに機械式強震計を再現するフィルターを施して2階積分を行って得た変位波形の最大振幅から,坪井の式により計算したMを気象庁Mとした.これを気象官署Mと称し,観測網が変わった1994年以降の顕著な17個の地震のMについては,すでに2001年4月23日にこの値に置き換えられている.大きい地震について地盤特性のM依存性を定量的に評価するに足るデータが蓄積されるまでの間は,気象庁Mの一貫性を確保するための最も安全かつ確実な方法として,この方法によりMを計算する.

[速度振幅を用いる方法]
 速度Mについても,EMT式を見直し,変位Mとなめらかに接続するような式を定義した.
   MV=α*log(AZ)+βV(Δ,H)+CV
   (AZ in 10−5m/s)
 距離減衰項βVについては,変位Mとの接続性に留意しつつ,それぞれ深さ700km,震央距離2,000kmまでを定義し,これまでMの計算が行えなかった90km以深の地震についても,速度Mを計算できるようにした.また,上下動成分の速度振幅の対数にかかる係数αは,渡辺の式(渡辺(1971))にならい,1/0.85≒1.173としている.さらに,各観測点におけるM計算について,地震計の種類や設置状況に応じた補正係数Cvを定めた.これにより,Hi-netを含めたほとんどの速度振幅を与える観測点が,M計算に使われるようになった.

 ところで,これまでの気象庁Mは,速度Mと変位Mが両方求められた場合は,両者を取捨・平均して一つのMとしていたが,新しい気象庁Mにおいては,そのような操作は行わず,カタログ上は複数のMを併記することとした.具体的には,それぞれの方法で求められたMの値について,以下のようなフラグを併記する.

  J : 気象官署M(大きい地震についてのみ)
  D : 変位M(M計算に用いた観測点が3点以上)
  V : 速度M(M計算に用いた観測点が4点以上,
  ただし津波地震早期検知網展開以前は2点以上)
  d : 参考変位M(M計算に用いた観測点が2点)
  v : 参考速度M(M計算に用いた観測点が2〜3点)

 そして,複数の方法によりMが求められた場合は,上に挙げた順位で最大2種類のMを第1M,第2Mとして併記する.そして,単に気象庁Mというときは第1Mを指すことにする.(もちろん,一つだけが計算された場合は第1Mのみとなり,どの方法によってもMが求められない場合はM不明となる.)
 以上の方法による新しいMの計算は,1923年以降の検測値が残る地震のうち,津波地震早期検知網以前に坪井式によって計算されたMを除くすべての地震について行われ,1964年以前の地震で震源の再計算作業を行っている一部の地震を除き,2003年9月末(予定)にカタログと関連する資料について一斉に置き換えを行う予定である.なお,津波地震早期検知網以前の浅い(H≦60km)大きな(M≧5.5)地震は,坪井式によるため,今回の変更は生じない.また,検知網以降の顕著な地震に関しては,先に述べた気象官署Mに既に変更済みである.
 なお,新Mにおいては,特に小さい地震について現行のMよりも小さめのMを与えるようになり,場合によってはMが0以下になることもある.これについては,ニュースレターvol. 12,No. 4(2000 Nov)にて予告したとおり,現行の96カラムの気象庁震源カタログのフォーマットを大きく変えない範囲で,以下のような標記方法により,負のMを表現することとした.気象庁の震源カタログからMの値を読み取るソフトウェアを利用されている方については,フラグの持つ意味の変更とあわせ,ご注意いただきたい.
 

    (現行)     (新)
53−54カラム 実体波M 気象庁第1M
55カラム フラグ(J/B フラグ(JDVdv/B)
56−57カラム 表面波M 気象庁第2M
58カラム フラグ(S フラグ(DVdv/S)
: 現行震源ファイルにおけるMの種別フラグ
J : 気象庁M,B : ISC等が決めたmb,S : USGS等が決めたMs)
(53−54カラムおよび56−57カラムのMの欄については,下記のように表記する)
M3.5→35 M-0.1→−1 M-1.9→A9
M0.1→01 M-0.9→−9 M-2.0→B0
M0.0→00 M-1.0→A0 M-3.0→C0

4. 現行のMと新しいMとの比較
 図1は,Hi-netの導入を開始した2000年10月以降,気象庁で決定した内陸の30km以浅の地震についての,新Mにおける第1Mの度数分布である.変位M(○印)は,大きいほうからM4付近までは第1Mを変位Mとする地震の方が多いが,それ以下の地震は速度M(+印)を第1Mとする地震が増えており,両者が相補的に用いられていることがわかる.速度Mの度数のピークは0.5くらいで,最小で−0.8という地震もある.

 図2は,現行のMと新しいMで,速度Mと変位Mのを比較したものである.現行のMではM5以上では速度Mが変位Mに比べ過小に,逆にM4以下では過大に評価されていることがわかるが,新Mでは規模によらず変位Mと速度Mの差は大きくなく,新しいMにおいては速度Mと変位Mが滑らかに接続していることがわかる.
 図3は,検知網展開以降の地震の規模別度数分布および積算図である.現行MにおいてはM6弱の地震がやや多く,積算度数が直線的でなかったが,新Mにおいてはそのような傾向は見られず,積算度数がほぼ一定の傾きの直線に乗っている.

 


図 1 Hi-net導入(2000年10月)以降2003年4月の内陸の30km以浅の地震について第1Mの度数分布(変位M,速度M別)


図 2 現行M(左)および新しいM(右)における変位Mと速度Mの関係,度数が10個以下のものは○で表している


図 3 現行M(上)および新M(下)における,津波地震早期検知網以降の地震の規模別度数分布および積算図
 


5. 終わりに
 気象庁Mの持つ数々の問題点については,以前から指摘されていたにもかかわらず,紆余曲折あって,全面的な改訂に至るまでに多くの年月が経ってしまった.気象庁Mの改訂にあたりひとかたならずご尽力いただいた気象庁マグニチュード検討委員会の委員の方々をはじめとする多くの方々に,厚く御礼申し上げる次第である.
 気象庁の震源カタログにおけるMは,国内のみならず国際的にも他に並ぶもののない程の永年にわたる一貫性から,現在の地震活動を過去の同地域の活動と直接比較可能な,代表的な地震規模スケールとして利用されており,古地震学から建築工学に至るまで,いろいろな分野において基準とされてきたものである.ここに挙げたMの改訂のほか,過去の地震についての震源の再計算作業も行われており,今後もより広い分野での利用に応えるためのカタログの整備を行っていく所存である.
 なお,気象庁マグニチュードの改訂に関する詳細は,験震時報で報告する予定である.

参考文献
坪井忠二(1954)地震動の最大振幅から地震の規模を定めることについて,地震2,7,p. 185−193.
勝又 護(1964)深い地震のMagnitudeを決める一方法,地震2,17,p. 158−165.
神林幸夫・市川政治(1977)気象庁67型地震計記録による近地浅発地震の規模決定について,験震時報,41,p. 57−61.
Katsumata, A. (2001) Relationship between displacement and velocity amplitudes of seismic waves from local earthquakes., EPS, 53, accepted.
渡辺 晃(1971)近地地震のマグニチュード,地震2,24,p. 189−200.
Katsumata, A. (2001) Magnitude determination of deep-focus earthquakes in and around Japan with regional velocity-amplitude data., EPS, 53, accepted.
Katsumata, A. (1999) Attenuation function of displacement amplitude for magnitude calculation., Pap. Meteor. Geophs., 50, p. 1−14.
上垣内修(2001)これからの気象庁マグニチュード,地震ジャーナル,Vol. 31(2001. Jun)p. 59−67.
地震予知情報課(2001)気象庁震源決定法やマグニチュード決定方式の改善の予定について,日本地震学会ニュースレター,vol. 12,No. 4(2000 Nov号),p. 15−18.


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