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海上衝突、船の位置で証言にずれ…客観解析必要

クレーンで引き揚げられる釣り船(16日午後0時39分、広島県大竹市の阿多田島沖で)=近藤誠撮影
海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(15日午前11時9分、広島県大竹市沖で、読売新聞社ヘリから)=金沢修撮影

 広島県大竹市の阿多田(あたた)島沖で海上自衛隊輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突し、2人が死亡した事故で、衝突の状況に関する見解が両船で異なっている。防衛省関係者は「釣り船が後方から接近した」とし、「とびうお」に乗っていた人は「輸送艦が追い抜こうとして衝突した」と証言。専門家は食い違いの理由に波の影響など海上特有の事情を指摘する。第6管区海上保安本部は原因究明には客観的データが不可欠とし、全地球測位システム(GPS)などの解析を急ぐ。

 ◆回避義務は

 6管によると、「おおすみ」左舷中央付近と後方、「とびうお」右舷中央にそれぞれ擦過痕があり、衝突の際は「おおすみ」が右側、「とびうお」が左側だったことがわかっている。

 「おおすみ」が搭載している船舶自動識別装置(AIS)の記録では、「おおすみ」は衝突直前、17・4ノット(時速約32・2キロ)で南に直進し、右へ旋回するとともに減速。「とびうお」の最大速力は25ノット(時速約46・3キロ)程度(6管)だが、航跡は明らかになっていない。

 海上衝突予防法は、追い越そうとする船に衝突回避義務があるとしており、両船の前後関係とどちらから接近したかが焦点になる。

 防衛省関係者によると、「おおすみ」は衝突直前、後方から「とびうお」が迫ってくるのに気づき、危険を回避するため急減速。針路を変えようとしたが、間に合わずに衝突したという。

 「おおすみ」の見張りは通常、艦橋の外では左右に各1人、後方に1人の計3人で、20〜7倍の双眼鏡で周囲を監視。運輸安全委員会の調査でも、事故当時は後方に見張りがいたことが確認されている。

 一方、「とびうお」の生存者の証言は異なる。

 前方にいた寺岡章二さん(67)によると、「とびうお」は広島市の係留場を出発し、約10分後、前方左側にいた「おおすみ」を右側から追い越した。後ろにいた「おおすみ」が「とびうお」の右側へ針路変更した後、みるみる距離が縮まり、汽笛を鳴らされた直後、「おおすみ」の左舷中央に接触し、転覆した。

 寺岡さんは「こちらはずっとまっすぐ進んでいた。おおすみが後ろからぶつかってきた」と言い切る。

 ◆航跡解明が鍵

 現場の西1・4キロにある阿多田島。周囲の海が見渡せる高台で、養殖漁業の男性(40)は両船を目撃した。ゆっくり進む「おおすみ」に「とびうお」が2倍以上の速度で近づき、「おおすみ」の針路と交差するように見えた。

 間もなくして汽笛が聞こえた後、「とびうお」が「おおすみ」の向こう側に隠れた。男性は「釣り船が後方から接近するようだった」と話した。ただ、衝突の瞬間は見ていないという。

 事故の見方が分かれることについて、海難事故に詳しい田中千秋弁護士(広島弁護士会)は「海上では位置関係の認識を誤ることがあり得る」と語る。

 船はスクリューの回転や波などの影響を受けるため、真っすぐ航行しているつもりでも直進していないケースが大半という。道路の車線のように明確な目印もないため、位置や速度差などから「船の動きに関する見解が食い違う可能性は十分にある」と指摘する。

 田中弁護士は「大型船が通過する際には引き波が生じ、小型船が引き寄せられることがある。その場合、小型船からは大型船が接近してくるように見える」とする一方、「とびうおが後方にいたとすれば、前方のおおすみに気づくはずだ」とも推測する。

 鍵になるのは両船の航跡記録だ。「おおすみ」は、AISを搭載しており、その航跡はほぼ判明している。「とびうお」の船内からも、レーダーとGPSが見つかった。ただ、水没によりデータが壊れている可能性もあるといい、6管は解析が可能か慎重に調べている。

2014年1月18日14時53分  読売新聞)

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