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「女っ気なし」(フランス)…不器用な男に恋の予感

 舞台は、仏北部ピカルディ地方、ちょっと寂れた海辺の保養地オルト。

 主人公の独身男、シルヴァン(ヴァンサン・マケーニュ=写真右)は、この町に似ている。

 おもてなしの準備はできていますよ。でも、みなさんがあんまり来ないから、どうすればいいのか、正直よくわからないんです――なんて感じの風情。いいところはたくさんあるのだけれど、どうもぱっとしないし、ずっと一緒にいるのは、何だか、ねえ。

 ともあれ、夏の終わり、シルヴァンが鍵を預かるアパートにパリからのバカンス客が滞在する。魅力的な中年女と年頃の娘。共に過ごすうち、シルヴァンの心は浮き立つ。もしかしたら恋が生まれる? でも、いかんせん彼は不器用。

 描かれる微妙な心のやりとりは、さまざまな映画の記憶にちらちらと触れる。ジャック・ロジエが描くバカンス。ホン・サンスの恋愛劇。奥手の男を主人公にしたジャド・アパトーのコメディー。だが、どれとも同じではない。

 シルヴァンもオルトも、普段は忘れられている。人は時折なぜだかそうしたものに関心を抱くが、長続きはしない。忘れられて生きるものの切なさ。忘れて生きるものの後ろめたさ。この映画は、実は誰もが併せ持っている両方の気持ちを味わわせる。人のどうしようもない部分を切り取ってみせる。その手腕はさりげなく鮮やか。

 新人、ギヨーム・ブラック監督による58分の中編で、前作である25分の短編「遭難者」との併映。やはりオルトが舞台でシルヴァンも登場。こちらも味わい深い。渋谷・ユーロスペース。(恩田泰子)

2013年11月8日  読売新聞)

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