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トップページ > デジカメの選び方 > 【特別インタビュー:経済産業省に聞く】デジカメ発展に向けた国の取り組み

【特別インタビュー:経済産業省に聞く】
デジカメ発展に向けた国の取り組み
−転機を迎えつつあるデジカメ産業−

経済産業省 METI Ministry of Economy, Trade and Industry

 一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計によると、2012年のカメラ・レンズの総出荷額は1兆9,469億円に上ります。フィルムカメラ時代のピークは1998年の4,815億円でしたので、カメラのデジタル化により市場規模が大きく拡大したことを示しています。また、デジタルカメラの世界市場をみると、日本企業の市場占有率はコンパクトカメラで約7割、レンズ交換式カメラでは9割を超えており、圧倒的なシェアを確保しているといえます。
 しかし、スマートフォンの急成長など、デジタルカメラをめぐる環境も大きな転機に差し掛かっています。このような状況を踏まえ、国としてどのような政策を展開しているのかを、経済産業省で担当されている山中裕二係長(製造産業局 産業機械課)にインタビューする機会を得ました。(聞き手:稲葉邦雄)

経済産業省 METI Ministry of Economy, Trade and Industry
経済産業省総合庁舎の本館。この奥側には別館もあります。

―― デジカメ分野は、今やわが国が誇るべき重要な産業となっています。私たちユーザー団体としても、こうした状況はとてもうれしく思い、誇りにも感じます。しかし、こう言うと失礼ですが、わが国にとっても大切なデジカメ分野において、国の動きはあまり見えません。このあたりについて、まず伺えればと思います。

■経済産業省はどういう官庁なのか

経済産業省 METI Ministry of Economy, Trade and Industry
お話を伺った製造産業局 産業機械課の山中裕二係長。

 「デジカメ分野における経済産業省としての取り組みは、まさにおっしゃるような新聞等で取り上げられる仕事はあまりありません。しかし、改めて1つ1つに着目すると、日常的・経常的な業務はたくさんあります。
 そのことの前に、まずは経済産業省としての産業振興の取り組み全体についてお話しさせてください。

 産業振興の方法は国ごとに違いがあります。たとえばアメリカでは連邦政府や州としても行いますが基本は民間に任せています。これに対し日本の場合は、「もの」に対してはすべて担当を付けるやり方をしているんですね。たとえば紙やノートに担当がおり(実際は分類で区別して相当数のものを一人で担当)、それぞれに違うセクションが担当しており、国際交渉ですとか議会での質問ですとかいろいろ対応の必要性がある場合は、最も適した部署が対応することになります。

 経済産業省が対象としているのは、だいたい身のまわりの「もの」すべてと、あとは資源やエネルギーや会社の制度なども対象です。おおよそ新聞にのっているものの8割ぐらいは扱っています。たとえば医療も関わっています。薬はさすがに対象外ですが、同じ医療関係でも厚生労働省の立場に対して経済産業省は「産業を守り発展させていく」という視点で関わります。宇宙関係もあります。技術に関しては、基礎を文部科学省が行うのに対し、私たちは主に実用化に近いところを扱います。二つ省庁が担当しているということで、内閣府も関わることがあります。唯一、船とかダムとかのゼネコン系は「もの」でも国土交通省が担当しています。それ以外は目に映るものすべてに経済産業省はかかわっていると言っても過言ではありません。

 こうした業務に対して、この霞ヶ関の建物すべてで経済産業省の職員が約3000人います。原子力の規制が移管されたので減少しましたが。北海道、東北、関東、等の各地方局には5000人くらいの職員が在籍しています。産業政策ということでは、地域に密着した政策を実施するため県があり市区町村があります。そういう風に見ると人が居すぎではないか、と思われるかもしれません。しかし、先ほども申し上げたように対象範囲が極めて広いので、たとえばカメラということで直接かかわっているスタッフは0.3人という状況です。(注:山中係長は、カメラ・光学産業以外にも半導体製造装置やアミューズメント機械、自動認識機器も担当されています。)

 これでもカメラは担当が明確になっている方です。実際は、大型タービン等の重電担当、白物家電等の軽電担当など、多括り化されて1、2名の担当がいるだけ、という分野の方が多いかもしれません。しかしカメラについては担当がおかれていますので、カメラにかかわることであれば、全部関与することになります。」

―― なるほど。私は経済産業省の中にデジカメ専門部署があるのだとばかり思っていましたので、直接のご担当が0.3人というのには驚きました。国の組織というと巨大なイメージがありますが、確かに対象分野の広さを考えると、潤沢に人を付けるというわけにもいかないのですね。それでももうちょっと態勢を強化すべきではないか、という気はします。
 さきほど、日常的・経常的に、当たり前のようにいろいろと業務を行っているとのことでしたが、具体的にはどのようなことでしょうか。

■経済産業省としての経常的な業務

 「主なものとしては、カメラの環境面規制、標準化推進、レアメタルの回収や供給、輸出入や関税対策、カメラに係る人材を育成、部品を製造する中小企業への支援、電力の安定供給、海外でカメラを安心して製造出来る環境整備、開発のための国内環境整備、カメラユーザーからの問い合わせ等があります。」

<環境面での取り組み>

 「カメラを直接担当しているのは私ですが、たとえば環境規制面からのかかわりということでは、先ほどお話しした0.3人以外にも、経済産業省の職員として約0.01人が関与しています。(実際には、他製品と重複して計算しきれないですが。)

 環境面での規制は、最近では利根川における取水障害事故(注 2012年5月に利根川水系浄水場で水道水基準を上回るホルムアルデヒドが検出され、1都4県で取水停止が発生し、千葉県内では36万戸で断水等が起きた。上流(埼玉県)での工場排水処理における事故が原因。)をきっかけに、環境省を主体に『廃棄物情報の提供に関するガイドライン』(WDSガイドライン)の改定が行われました。環境規制はただ厳しくすればよいというものではないと、私たちは考えています。産業界の現状と発展を踏まえて、どう環境面での実効性を担保していくのか。その規制によって産業界にはどのような影響があるのかという情報を適切に出し、関わっていくことが大切だと思います。

 環境規制面では、個々の企業としてはなかなか声を出しにくいという面があります。環境重視という点ではどの企業も異論はありませんが、しかし具体的な施策となったときに本当にそれで実効性があるのか、製造面での負担が大きすぎる割に環境保守の面のメリットが小さく他の手法がよいのではないかなど。実際に供給側の立場だからこそわかることもあります。しかし、それらの情報発信を個々の企業が行うと、ややもすると『環境に後ろ向きの企業』と誤解されてしまうかもしれません。

 そうしたときに、たとえば業界で議論を行い意見をまとめる。その中でお互いに実現可能性等をチェックして提言を行う。私たちも業界や産業を横断的に見られるという視点から、そうした中身を私たちなりに助言して、環境省とそれぞれの立場とミッションに応じて政策調整を行っていく。そうした積み重ねで、より実効性があり合理的な環境規制とすることができます。」

<製造環境や国際商取引、人材育成面での支援>

 「レアメタルに関しては、外局である資源エネルギー庁が主体となり鉱物資源課が関わっています。カメラメーカーや必要とする他のメーカーは、レアメタルが安定的に供給されなければ製造に影響が出てきます。全体の量が少ない中、いかに安定的に供給される仕組みをつくるのか。もし量が足りないのであれば、代替物質の開発が必要かもしれない。また、資源の少ない日本では、リサイクル活用を進めるという面もあります。他方、レアメタルの回収義務を厳しくすれば回収コストも増大しますので、適度な水準を探っていかなければなりません。そこに私たちの産業発展をミッションとする立場で関わっています。

 カメラの輸出入の業務ということでは、主体は関税障壁への関与となります。海外で高関税を課している国があれば、関税引き下げや撤廃を働きかけていきます。これには現地の政府や大使館とも連携します。注意する必要があるのは、たとえばカメラを例にとりますと、現地にカメラに関する産業がない、関税で守るべき産業がない国で高関税を課している場合がある。これは他の製品とのトータルでの駆け引きの一つとして使われている場合や、売れる製品故に関税を自国収入を得る有効な手段とするなどが言えるかもしれません。高関税による一番の被害者は現地の消費者や小売店頭の流通産業ですから、そうした方々へのアピールも含めて取り組みが必要です。(現在、企業と政府が連携したWTO/ITA(情報技術協定)拡大交渉の最中です。)

 光学技術という点では人材育成にも取り組んでいます。好評なのは、日本オプトメカトロニクス協会に行っていただいている新入社員に対する光学技術の研修です。大学では光学系が弱くなっています。学生だけでなく、専門の大学の先生すらいらっしゃらなくなってきており、このままでは光学技術者が途絶えてしまうのではないか、という危惧から始まったものです。

 一般に人材育成は難しい部分があります。何か取り組む内容、共通課題を検討すると人材育成というのは必ず議論に上がってくるのですが、事業の評価が難しいですね。成果が出るまでには10年、20年かかるものも多く、対象者を一人一人トレースしていくというのは現実的に不可能です。

 大学、高校、小中学校に対する施策でも、たとえば光学関係に対して学生の興味を引くような取り組みを行おうとすると、学生の関心を意図的に誘導しているのではないか、という批判もある。結局、少し前のITのように光学関係の産業を『稼げる産業』にしていくことが、学生の志望者を拡げる近道ではないか、という気もします。とにかく、人材育成には手法、課題等に対する見方がたくさんあり、取り組みづらい、また、世間から評価されづらいという課題があります。ぜひ、皆さんの知見を借りたい。

 中小企業に対する支援は、たとえば海外への進出にあたって現地企業と面談の機会をつくるようなことを独立行政法人の日本貿易振興機構(JETRO)とともに行っています。この国に出て行っても危なくないですよ、今のところ治安は悪くないですよという情報を集め提供したり、実際に行くための費用、現地でのアドバイスなども行っています。タイの洪水、中国デモの際も、企業の方から情報を頂いて、政府としての対応や公表を行いました。

 電力の安定供給への取り組みも重要です。カメラ産業としても、安定的な電力を、海外と競争力のある価格で供給されることには強い関心を持っています。このことは国全体としてのエネルギー政策と関係してきます。

 また、最近特に重視されているのは、海外進出先での治安問題です。カメラ産業も製造拠点や販売拠点を海外に広く展開していますが、現地での破壊行為やテロ等が起きたとき、どのように対処していくのか。また、日常的にどのような姿勢や取り組みが必要なのか。そこにある企業、日本から進出した企業をどう守るか、もしくはそういうことを今後起こさせないためにどうしていくかという取り組みですね。企業は安心して進出できるね、現地大使館がきちんと守ってくれるね、という環境をつくっていくのも大切な取り組みだと思います。アルジェリアテロ事件では、今も外務省 領事局 邦人テロ対策室が国内企業と連携して取り組みをされています。私も先日、講演を聴いて、関連産業に対して情報を提供、取り組みを促したところです。

 日本の製造業が競争力を持っている理由の一つに、中小企業を中心としたサプライチェーンが構築されていることがあります。日本には、本当に製品を開発ができる環境が揃っていますねと、今でもメーカーの方からよく言われます。様々な部品や作るためのソフトウェア、電力から細かい製品、材料に至るまで。海外では部品等がなく、結局日本から持っていくことになることも少なくありません。この場合、製品開発時間のロスになります。

 ただ、サプライチェーンの支援で難しいところは、私たち国は、サプライチェーンの全部を把握することはできないという点です。そこの部分は、まさに企業のノウハウ、ブラックボックスですからね。」
 

―― ありがとうございます。産業全体にかかわるものだけでなく、カメラ・光学産業の特殊性も踏まえた上で、いろいろと取り組みをされているのですね。こうした活動は、私たちユーザーにしてもあまり意識していない部分だと感じました。
 そうした中で、冒頭にもお話ししましたが、今日本のカメラ産業は転機に来ているように感じています。このあたりについて、国としてはどう捉え取り組みを進められようとされているのでしょうか。

■経済産業省としてデジカメ産業をどうみているか

 「カメラ産業に対する私たちの認識も、たぶん皆さんのものと大きく離れていないと思います。

 日本はアメリカやヨーロッパを追い上げてきました。それが今度は同じようにいわゆる中国、韓国によって追い上げられています。でもアメリカはいまだに強い。個別の課題はありますが、しかし全体としては常に産業の転換がうまくいっているように見えます。あるところでバッサリと手放してしまう。私たちから見ると、なんでこのタイミングで手放してしまうのか、まだ戦えるのにという段階で切り離して新しい産業を立ち上げていく。なぜアメリカは強い状態を続けられるのかと考えると、やはり物事を考えるスパンが長い点が一番の違いのような気がします。

 これに対して、日本はいいか悪いかは別として、行けるのであれば最後まで行ってしまう傾向があるような気がします。そうではなく、もっと早い段階で転換をしていくスタイルも検討すべきかもしれません。新しい方向性の模索は、強いうちにやらないといけません。弱くなってからだと、今を守るのが精いっぱいで、先見的な投資なんかはできません。他には、高度な技術への過度な依存。レギュレーション、仕組み、ユーザーの望む要望への絶対的な対応等、勝ち抜く上で必要な要素はいくつもあります。半導体専業ICファンドリーメーカーTSMC(台湾)のビジネス戦略も、技術のみに頼らず市場を獲得した1つです。

 企業の方からは、なぜ強い企業をもっと支援してくれないんだという意見をよくいただきます。ある光学系の中小企業の方は国の補助金なんかをもらったらおしまいだと、ある種の麻薬だと。ビジネスをグローバル化しなければ潰れる。補助金を当てにして、国内で自力で生きていけないのに、競争が激化している海外で生きていけるはずがないと。国はそういうところではなくて、もっと環境規制を受け入れられる国内支援体制(RoHS指令への対応で、1つの品目の検査に数十万円がかかる)や、必要であれば元々技術のある中小企業を次の産業に転換する支援に力を注ぐべきだということで、その中には傾聴すべき中身が含まれているように思います。」

―― 他の産業分野では、国も含めたプロジェクト的なものが行われ、それなりに成果を上げているように感じます。デジカメ分野でも、まさに転換点というか、見えない危機が進行しつつある状況の中では、何らかの取り組みを期待したい気がします。

■デジカメ発展のための国家プロジェクトは?

 「私は今まで、ナノテクノロジーや原子力、バイオ燃料、燃料電池自動車、地熱発電などに携わってきました。各々、産業分野、業界ごとに特色があり、一概に論ずることはできません。ただ業界別に見ると、国や経済産業省の使い方がうまいところばかりでなく、あまりうまくないところ、そもそも使い方を違う面で捉えられているのではないか、と感じる業界の方もあります。

 たとえば、あるエネルギー分野を担当させていただいたときには、30年後を見越したプロジェクトの立ち上げがありました。これは企業の側がまず問題意識を持たれ、業界の中で議論をして提言にまとめ、そして国に対してやっていきましょうよ、とアプローチされてきました。これはエネルギー分野という特殊性もあるかもしれません。各社がバラバラに開発を進めいくやり方ではもうだめだ、それは単に開発費の問題だけではなくて、時間や売り込み先などあらゆる面で今までのやり方の限界が浮かび上がっているんですね。でも各メーカーはライバル企業ですから、国に間に入ってほしい、しかも国は法規制やインフラ面での関係、海外とのつながり(売り込み、他の産業との連携など)を含めて全部関わってきますので、ぜひ一緒にプロジェクトを立ち上げさせてほしい、ということでスタートしました。

 また、別の分野では、その業界でのトップ企業が旗を振って業界としての動きが始まり、国を巻き込んでのプロジェクトが開始されました。その中で課題が整理・統一され、共通認識・目標になるわけです。その時は規制改革が第1に必要だということで、法律(規制等)を主なものだけでも16本変えるように規制当局と交渉、改正への道筋を築きましたね。また、あわせてインフラ整備にむけた動きが必要でしたので、私たちも支援の枠組みづくり、技術データの取得等をお手伝いさせていただきました。」

―― なるほど。まさにそうした動きがカメラ分野でも求められていると思いますが、どうなんでしょうか。

 「今お話しさせていただいたダイナミックな動きを経験してきたせいか、カメラの分野では若干戸惑いも感じています。今は順風満帆なカメラ業界ですが、長期的な視点で見た場合、それほど楽観的ではないのではという不安感が私たちにもあります。私はカメラ業界やユーザーの皆様などが出されている情報やデータはすべて目を通しますし、各社の方ともお話しする機会は少なくありません。そうしたことを通じての感覚ですから、おそらくどの関係者とも同じ認識をされているのではないでしょうか。30年スパンでみてしまう心配性の性分ですので、常に向上していないと、心配になるのかもしれませんね。

 国際市場において高い市場占有率を日本企業が持っている分野は、それほど多くはありません。この産業力を継続させ、できればさらに発展させていくには何が必要なのか。長期的な視点が求められていると思います。今回、政府でまとめた『成長戦略』は、まさにそうしたことが含まれていますね。」

―― 『成長戦略』は先日、安倍内閣が三本柱の最後の一つとして発表しました。この中でカメラ分野はどう位置づけられているのでしょうか。

■安倍内閣「成長戦略」に明確には入らなかったデジカメ分野

 「この点が、今のデジカメ産業や私たちの課題を典型的に表しているのかもしれませんが、今回安倍内閣が発表した成長戦略にはデジタルカメラの項目は、特別な事項として明確には入っていません。日本の産業分野においてカメラ業界はこれだけ重要な役割を担っているにもかかわらず、ということです。

 よく誤解をされるのですが、成長戦略など国の方向性に関する政策は、官僚や政治家がうんうん唸って作成し、ある日突然にこれでどうだと飛び出してくる、というものではないんですね。たとえばある産業分野では、業界の中で議論をして課題を整理してまとめるといった作業を何年も何年も行い、その上で出てきたビジョンや提言を踏まえ、確かにこれは必要ですね、変えなければいけませんね、もっと支援や加速が必要ですね、となって政策となるんです。政策には進めるべき理由、プレイヤー、手法があり、課題がある。課題はある人には課題ですが、他の人には利益かもしれません。それを、政府の視点で総合的に判断して「進めよう」としたものが、成長戦略です。たとえば、その課題の一つが「規制」です。具体的なことはまだお話しできませんが、私が担当していた他分野では成長戦略の中に位置づけられたものもいろいろとあります。

 今回、成長戦略にカメラ分野の項目が入らなかったのは、まさにこうした業界として政府に投げかける一致団結した動きがない、少なくとも私たちの目には写らなかったということですかね。これは私たちの側にも課題があったのかもしれません。もちろん、私たちの業界はとてもうまくいっているし、国の支援も必要としていない、勝手に口出しをしないでください、というのであればそれも一つの回答です。国はあくまでもサポート側、本来、それが健全な状態だと思います。でも、そういう状況ではなくなっているようにも感じます。これほど急速にスマートフォンが拡がっていて大丈夫ですかと。5年後10年後に、本当にウェアラブルカメラだとかいろいろなものが出てきて、産業は大丈夫ですかと。大丈夫なら大丈夫だと自信をもって振り切って欲しいと。我が国にとってカメラ産業という大切な産業の競争力がなくなってしまうと困ります。

 誤解があるといけませんが、成長戦略に掲載されなかったのは、産業の規模や強さに比べて、成長戦略の工程表の中に明示されなかったという意味です。成長戦略の作成過程で、カメラ業界の方の「生の声」を、意見交換等を通して多数頂いています。実態と乖離したことや、企業の方が望まない成長戦略では意味がありませんから。
 研究開発を行うための環境づくりの必要性など、今の課題、今のチャンスなどを、正に現場の企業の方から収集して、とりまとめの官邸に投げかけています。そうした意味で、カメラの競争力を維持するための周辺環境の事項は押さえています。それに加えて、もう一つ欲しいものが、今回の私の課題意識です。

 民業圧迫になるといけませんし、こちらからはいろいろと言えない。しかし、国をうまく使えば、いろいろなことが可能になるということを、もっともっと私たちも伝えていかなければいけないと考えています。国は民間が望まないことはしない。しかし、民間だけでは対応できない、競争力を失う前に関与する。この両者をみながら、関与するタイミングを見計らうことが、とても難しいのです。」

―― 他の産業、業界ではどのような動きをされているのでしょうか。

 「国にべったりというのは決してよくありませんし、そんな時代ではありません。しかし、適度な距離を持って私たちをつかっていただいている産業は、たくさんあります

 主な業界はどこでも出しているんですね。自分たちのアクションプラン、骨子を。アクションプランがもし出るとすると、それは業界の中で課題を共有しているということですからね。そういうものがまとめられていないと、それは個社だけへの支援となってしまいます。

 その分野の業界、企業集団として、どのように産業を強化し競争力を高めていくのか。基盤となる研究開発力を強めるというのもそうですし、環境規制をやるのもそうですし、M&Aや合併吸収もそうかもしれない。あるいは、新たな産業分野に展開していくこともあるでしょう。

 また、仮にプロジェクトを組むにしても、プロジェクトというのは技術開発だけでなくて、企業同士がお互いに仲良くなれることや技術以外の規制等への課題に連携して取り組むきっかけなんですね。それを通して仲良くなって、じゃぁ一緒にやっていきましょうかということになる。国のプロジェクトってそういうところがあって、本当のコアの技術開発は自社でやっていて、ちょっとずつ技術出して、それでまた別れましょうねという積み重ねの中で、お互いのメーカー同士の信頼も築かれていく。共通基盤技術は、共同で実施して、コア技術に人材と予算を集中する、こうした進め方もあります。

 今まではそういう産業を担当してきたので、違和感があるというのはそういうことです。いろいろできるのになかなかおっしゃっていただけないのか、私が今までやってきた分野が特別そうだったのか、産業の特質がそうなのか、いろいろあるんですけれども、でも考えて実行するしかないんですね。カメラの担当ですから。

 初歩的なことですが、今まで会話ができていなかったら会話ができるようにするとか。話をしていなかったら国の使い方を知って頂けていないのであって、そうじゃない、そこから取り組んでいこうと私は考えていて、他の産業を含めて頻繁に足を運んで話をしている状況です。

 先ほどもお話ししましたが、成長戦略をはじめ国の政策は、私たちがあるとき突然にコンサルも顔負けの企画書を書き始めることはありません。皆さんとのお話しやディスカッションの場、そういう検討会というのが業界団体で立ち上がって一緒に検討していないと、よそ者がドーンとは言えないですし、言っても不発で終わってしまうことになります。実態のない学術的な戦略論文では動きません。そもそも、○×戦略や○□検討報告書を書き始める前や書いている最中で、様々な調整がされて、実現へ導いています。公表された時は、内容がスタートしているほどです。」

―― 先ほどのお話しの中で、成長戦略の中にデジカメ分野は入っていないということにはショックを受けました。そもそも成長戦略の中に入っていないと、その産業や業界に対する積極的な取り組みというのは難しいということでしょうか。

■国としての支援を強化するためには?

 「成長戦略の中で、各産業分野をどう位置づけ、国としてはどう引っ張り支援していくかということがまとめられています。それが国全体の方針ですから、それに特だしして載っていないということは、われわれは通常以上のことはできなくなってしまう。そうでなければ、成長戦略を作ってるのになんで他のことをやっているんだということになってしまいます。

 しかし、私はカメラ産業については危機感を持っています。なぜ危機感があるかといえば、カメラ業界の方からの資料を見ているからです。皆さんの資料とか業界紙を見ているから、最新情報の点や感覚の点では業界の皆さんと一緒です。どっかのメディアが勝手に書いていて、間違っているというならいいのですが、そうではないですよね。

 それならどうしたらいいのか。今までと違ったことをやらないと、カメラということだけではなく、たとえば光学技術をもっとほかのところで使っていく方法はないのか、その中で業界の皆さんの位置づけというものをどう明確化していくのかということになります。

 成長戦略に記載されていないということは、今は良い意味でそのような段階ではないということとも捉えられます。現在の成長戦略が達成されれば、次の成長戦略や目標が立てられます。先ほども申し上げたように、中長期的な視野で、この瞬間から検討を始めてもよいと思います。産業を守るため、産業の更なる発展、課題から産業一体となり決めていくことだと思います。成長戦略は、国の一つの方針。記載されていなくても、業界単位で進めること、企業間で進めること、何でも始めることが出来るはずです。

 私が担当している他の産業では、産業分野では記載されていましたが、個別製品では記載されていません。その産業は、カメラ産業とよく似ていますが、昨年の10月から業界の課題を検討開始しています。

 国との関与が分かっている業界からは、いろいろと出てきますし、そのことに対して国もやろうとなると必要な予算や人材の要求を行うことができます。(もちろん、必要性を全体の中で客観的に判断、査定をもらう。)その政策を成功させなければいけませんから。逆に言うと、そうでなければわれわれは動けない、まさに政策に反することになってしまいます。だから検討はずっとしていかなければいけません。今回の成長戦略のように、政権が変わったからやろう、新しい来年度の年度プランを作ろうといったときに、それが入れられないと、行政の仕組みとして新しい取り組み、それに必要な予算、人員の確保など、何もできないのです。

 とはいえ、なにごとも遅すぎるということはありません。最近、私が様々な業界の方々と話すときによくお願いしているのは、これから業界の活性化に向けた取り組みを考えようとする打ち合わせの場では、@否定意見は出さない(何かを考えだそうという思考が止まってしまうから。)、A相手を否定しない(否定してもなにもならない、他人に責任を押しつけても何も動かない)、B課題の中で自分の役割や課題を自ら見つけて取組を進める、ということです。こうしたスタンスで業界を発展させていこうとお話ししています。誰かが悪いということだけで、ややもすると非難で終わってしまっていないだろうか。課題がある中で、まずみんなで課題を共有する。自分は何をやったらいいのか、自分の役割は何か、なぜ相手はできていないんだろう、いろいろと分析することが大切です。自分や相手がどんな能力があって、数ある制度や手法を利用するとどういうことができるかなって考えることが求められています。

 私たち自身、国が保有する技術はありませんし、使える予算も多くの使途が決まっていて、そんなにあるわけじゃないんです。経済産業省が所管する特別会計の予算がだいたい7500億円くらいですが、たくさんのプロジェクトがあるので、実際に全く新しいプロジェクトに出せるのはわずか100億とか200億円くらいです。一般会計が約8000億円あっても、定常業務としてほとんどが独立行政法人の運営等の必要経費に使われているので、私たちが使える予算は限られています。予算の力だけで何か大きなことはできない。よほど、車メーカー等の研究開発費の方が大きい。

 今までうまくいった事例を見ると、国は触媒のような役割を果たしています。直接メーカー同士ではできないことを、国が仲介することでスムーズにすすんでいく。いくつかの携わった産業では、当然、隣り合わせはライバルメーカー、利害関係がある。そのメーカーが、同じことを目指そうとすると、技術、顧客等で必ず衝突する分野が出来る。その時に、仲裁する役目が国なんです。お互いに完全に納得のいく回答はありません。そうした時に、双方の言い分を聞いて、「国がそう言うのなら仕方がないか」と課題を乗り越えていく、審判みたいなものですね。正しい答えがどれかということは絶対わからないです。そうすると、いろいろな話をしていく中で、このへんでしょ、あってますよね、ということを積み重ねていく感じだと思います。幸い、日本の企業の大半は国というものを重視して頂けています。逆に、我々自身も、それに甘えていてはダメで、そういう力が私たち自身にあるうちに、そういう調整役をきちんと果たして、我が国の競争力ある産業の目指すべき方向性を見いだしていくことが大切だと考えています。」

―― 個社ではなく業界としての取り組みが大切であることがよくわかりました。一方で、最近はどこの業界も以前のようには順調でない感じもします。

 「そうですね。最近は、多くの業界団体が様々に困難な状況を迎えています。米国、欧州を追う立場から、中国、韓国に追われる立場に変わった影響も1つでしょう。そうした中にあっても、企業が望む取り組みを進めている団体は、活動を拡大、発展しています。私がお話しをさせて頂いている業界団体(一般財団法人エンジニアリング協会)は、その活動の魅力により、今年に入ってからすでに十数社も会員企業が増えたところもあります。

 企業が業界団体に望むのは、やはり『情報』だと思います。

 情報収集基地として、業界の置かれた生の情報を把握し対処できるか、会員企業が欲している情報を把握し入手できるルートがあるか、会員企業が現時点では知らないが、知るとありがたい情報は提供できるか、ということがまず問われます。

 また、情報の分析・発信基地として、外部から得た情報を分析できるか。業界の状況に照らし合わせて、対応策を講じられるか。そして労働問題等、業界の状況を外部に対して発信・提言できることも大切です。

 それらを踏まえた上で、情報を作り出す機関になることが最も良いですし、こうした活動を支えるためには事務局を含めしっかりとした体制が必要です。

 カメラ分野の製造関係者、業界関係者も、カメラ自体の産業競争力低下を懸念しています。課題は共有できています。あとは、共通の目標を定めて、そのための手法とスケジュールを決めていけばよいのではないでしょうか。

 国の進むべき方向性は、国という組織だけが決めて動くものではないということが理解頂けたと思います。国、企業、関連産業、海外のライバル企業等、そしてユーザーの皆様。ユーザーの皆様が、引き続き日本製のカメラを支援して頂けるのであれば、皆様のお力も借りたいですし、皆様しか出来ない重要なことがたくさんあると考えています。

 これまでは、皆様は有権者として国の政策に関わられてきました。しかし、今日、お話しさせて頂いて、皆様の意見を国の政策に直接取り入れるチャンネルはできたと思います。他の方とは違う立場ですね。これからは、皆様のユーザー団体も国の政策を動かす有力なファクターとして期待しています。」

―― 長時間にわたり、ありがとうございました。

■インタビューを終えての感想:稲葉邦雄

 トータルでは3時間に及ぶインタビューでしたが、ご担当者様の産業振興に対する熱い思いをひしひしと感じることができました。フィルム時代のカメラは「趣味の要素」が強い製品でしたが、デジタル映像機器となり日本の基幹産業の一翼を担いつつあると言えます。この十数年で急成長してきただけに、業界の側もそれを支援する国の側も、態勢整備が後追い状態になっているのかもしれません。デジカメ産業を強めさらに発展させるためには、個別の各社というだけでなく「デジカメ産業」としての取り組みが大切であると思いました。

 お話しを伺う中で、とくに強い印象として残ったのは、今回の安倍政権「成長戦略」にはデジカメ分野は明確な項目として盛り込まれていないということです。

 カメラ産業は取り扱う製品の特性上からも、他産業と比べ各社間の協業という面での取り組みは弱かったのかもしれません。こうした状況を変えていくためには国の役割も大切です。国が触媒として十分機能するためにも、まずは産業規模にふさわしい人的体制の整備が必要であると思います。

 いずれにしても、デジカメ産業の厳しい状況と国の取り組み、そして新たな可能性について知ることができたインタビューでした。ご多忙中にもかかわらず、丁寧にご対応くださいました山中係長をはじめ、関係各位にあらためてお礼申し上げます。
(記事掲載日:2013年 6月22日)

経済産業省 METI Ministry of Economy, Trade and Industry

 霞ヶ関の官庁街にある経済産業省の総合庁舎。建物は本館と別館に分かれており、お伺いした製造産業局産業機械課は本館にありました。


■経済産業省ホームページ

「爆発的に急成長したデジカメ産業の今後」