生産農家が置かれている状況は厳しい−。門育成牧場もその例に漏れず、昨年から牡馬の買い付けと育成をやめ、和牛の繁殖に切り替えた。志美(ゆきよし)さんは「馬が好きだから損得抜きで続けているけどね」と、苦しい胸の内を明かした。
ばんえい競馬は本年度から、報償費の4割削減に加え、馬主に対する出走手当、賞金の減額措置を実施した。このため馬主は、馬の市場価格が下がっているにもかかわらず、ばん馬を購入できないという事態に追い込まれている。
今年は36年ぶりに馬インフルエンザが発生。これによって、例年2回開催している馬市が、11月の1回だけになり、生産者の収入減に拍車をかけた。
農耕馬とばん馬の需要があった1957年、豊頃町の生産農家は905戸、3174頭を誇った。しかしほぼ50年後の昨年末は14戸・81頭という衰退ぶりだ。志美さんは「機械化と生産者の高齢化が大きいだろうね」と話し、ため息をついた。
こうした中、同牧場には明るい話題もある。馬の双子は2頭とも死産することが多い。だが1昨年春に取り上げた「タカラキセキ」は生き残り、順調に成長。「牧場で元気に走っているよ」
4代目の伸洋君(12)=豊頃中1年=の存在も一家にとっては大きな希望だ。「馬はね、目がとってもかわいいんだよ」と話し、青のオーバーオールに身を包み、馬房の掃除や餌やりなど、かいがいしく父を手伝う。
「家業を継ぐ苦労や経営の厳しさは身に染みている。けれども(息子の存在は)頼もしい限りだね」。作業を見守る志美さんの目尻が下がった。 (阿部力)
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