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第4章  病気やけがをなおす対策はどうなつているか
第5節  医薬品
2  医薬品の安全性確保


 医薬品の安全性を確保するということは,医薬品の本来的使命から当然のことであり,従来からも,新医薬品の承認等に際して,この点について慎重に配慮されてきたが,サリドマイド事件の発生を契機に医薬品の安全性の問題がいつそう重要規されるようになつた。

 これは,近年における世界的な傾向であり,40年に開催された第18回世界保健機構(WHO)総会においても前回に引き続き,加盟各国が医薬品の安全性を確保するための国内体制をすみやかに整備するよう,勧告が出されている。この勧告においては,医薬品の副作用に関する情報を系統的に収集し,評価し,伝達することの必要性とともに,副作用情報の収集及び評価には国際的な協力が必要であることが強調されている。欧米諸国の一部においては,すでにこれに関する国内体制を整え,積極的な活動を行なつているところもある。わが国においても,医薬品の安全性の確保を図るため,新薬の承認に際し,医薬品の胎仔に及ぼす動物試験成績を提出させたり,臨床実験例数をふやしたりするなど,医薬品の基礎実験及び臨床実験に関する基準を整備するとともに,国立衛生試験所に毒性部を新設して毒性に関する基礎的学問の充実を図るなどの措置が講ぜられている。また,副作用情報の収集については,海外からのものはWHOその他各国政府との連絡を緊密に行ない,国内における情報は学会その他の関係者の協力のもとに入手して所要の措置を行なつているが,41年度からは,情報の収集先をさらに拡大したモニター制度の実施を予定している。

 ところで,医薬品は,複雑微妙な生体に作用するものであり,しかも製造承認時における学問に照らして承認され,世に出るものであるので,当初予測されなかつた副作用が後になつて判明することも全くないとはいえない。ここに上記のような医薬品の安全性確保のための措置がきわめて重要な意義を有し,今後も万全が期されなければならないが,このようなごくごく例外的なことを除けば,医薬品は,所定の適応症に対して所定の用法用量に従つて使用されるかぎり,有効にしてかつ安全であると考えてよい。通常,薬禍事件といわれるものは,医薬品の誤用や乱用に起因するものが多い。したがつて,医薬品による事故を防止するうえにおいて何より必要なことは,国民ひとりひとりが医薬品を定められた適応症に対して定められた用法用量に従つて使用するという習慣を身につけることであろう。

 なお,40年は,アンプル入りかぜ薬の服用直後における死亡事件が連続的に発生したり,塩酸メクリジン等を含有する製剤について,動物実験における胎仔に及ぼす作用に対して,米国で警告がなされ,わが国においても問題にされたり,甲状腺製剤が「やせ薬」として乱用された場合の副作用が問題にされるなど,医薬品の安全確保に関する問題が社会の耳目を集めた年であつた。そして,これについては,次のような措置がとられた。すなわち,アンプル入りかぜ薬については,厚生省は,事件後直ちにその製造販売の自粛と市販中の製品の自主的回収を要請するとともに,中央薬事審議会に「アンプル入りかぜ薬の可否について」諮問し,その答申に基づいてアンプル入りかぜ薬の製造廃止届の提出を行なわせた。この措置と関連して,一般のアンプル剤型以外のかぜ薬についても,安全性をより高めるため,配合効能基準等が改められた。塩酸メクリジン等含有製剤については,妊婦がこれを使用するときは必ず医師に相談するよう添付文書にうたわせることとし,甲状腺製剤については,単に「やせ薬」として誤用又は乱用されることのないよう,添付文書の記載等に関し,所要の措置が行なわれた。


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