市川雷蔵が初の現代劇「炎上」で主演男優賞
第9回(1959年2月5日)@ガス・ホール(東京・銀座)
時代劇のトップスターだった市川雷蔵が初めて現代ものに挑んだ「炎上」などで主演賞を手にした。
三島由紀夫氏の「金閣寺」を市川崑監督が映画化。雷蔵は苦悩の末に寺に火を放つ障害を持った青年僧を演じ、それまでのイメージを抜け出した。受賞時には同じ主演賞の山本富士子と電話で対談。「とにかく本当にうれしいよ。初めて出た現代劇が受賞の対象になったことでね。この作品に僕が主演するとき賛成してくださったのは(所属していた大映の)永田(雅一)社長と市川監督だけで、あとは全部反対だったんですから」と出演に至るエピソードを披露した。
「私の映画生活で最初の、そして最高の賞です」と授賞式でスピーチしてからちょうど10年後、雷蔵は69年7月17日に肝臓がんで急死する。22歳で歌舞伎界から映画界に入り、15年間で出演した作品は158本。眠狂四郎シリーズなど不世出の時代劇スターとうたわれた俳優は、37歳の若さで天国に旅立った。
告別式には、中村錦之助(後の萬屋錦之介)や山本富士子ら俳優仲間に加え、岸信介元首相の姿も。空からは雷を伴った雨が涙のように降り始めたが、約2000人のファンが焼香に参列し、早すぎる死を悼んだ。
またこの年の新人賞を今村昌平監督が「盗まれた欲望」などで受賞。「あとにも先にもこれが初めての賞。びっくりしてます」と初々しく喜んだ。
第9回の受賞者・受賞作
- ■作品賞
- 「隠し砦の三悪人」黒澤明監督
- ■監督賞
- 田坂具隆「陽のあたる坂道」
- ■主演男優賞
- 市川雷蔵「炎上」「弁天小僧」
- ■主演女優賞
- 山本富士子「白鷺」「彼岸花」
- ■助演男優賞
- 中村鴈治郎「炎上」「鰯雲」
- ■助演女優賞
- 渡辺美佐子「果てしなき欲望」
- ■新人賞
- 今村昌平監督「盗まれた欲情」「果てしなき欲望」
- ■脚本賞
- 橋本忍「張込み」「鰯雲」ほか
- ■撮影賞
- 宮川一夫「炎上」「弁天小僧」
- ■技術賞
- 藤林甲「陽のあたる坂道」「紅の翼」ほかの照明
- ■企画賞
- 該当なし
- ■音楽賞
- 芥川也寸志「裸の太陽」
- ■大衆賞
- 中村錦之助「一心太助・天下の一大事」などにおける活躍
- ■特別賞
- 東映長編漫画映画「白蛇伝(はくじゃでん)」の製作スタッフ
- ■外国映画賞
- 「老人と海」ジョン・スタージェス監督
- ■日本映画文化賞
- 阿部慎一(多年にわたって教育映画に尽くした功績)
- ■教育文化映画賞
- 「オモニと少年」
- ■ニュース映画賞
- 日活世界ニュース二〇四号「国会空白の一週間」
- 邦画ベスト10
- 1.隠し砦の三悪人(黒澤明)
- 2.楢山節考(木下恵介)
- 3.炎上(市川崑)
- 4.彼岸花(小津安二郎)
- 5.裸の大将(堀川弘通)
- 6.陽のあたる坂道(田坂具隆)
- 7.裸の太陽(家城巳代治)
- 8.無法松の一生(稲垣浩)
- 9.巨人と玩具(増村保造)
- 10.夜の鼓(今井正)
- 洋画ベスト10
- 1.老人と海(ジョン・スタージェス)
- 2.大いなる西部(ウィリアム・ワイラー)
- 3.戦争と貞操(ミハイル・カラトーゾフ)
- 4.眼には眼を(アンドレ・カイヤット)
- 5.女優志願(シドニー・ルメット)
- 6.鉄道員(ピエトロ・ジェルミ)
- 7.手錠のままの脱獄(スタンリー・クレイマー)
- 8.鍵(キャロル・リード)
- 9.死刑台のエレベーター(ルイ・マル)
- 10.若き獅子たち(エドワード・ドミトリク)