野村芳太郎監督が“一家”で4冠
第21回(1979年2月15日)@イイノホール(東京・内幸町)
4部門を制した前年の「幸福の黄色いハンカチ」で晴れやかな笑顔を見せた山田洋次監督に続いて、この年は野村芳太郎監督が主役のイスに座った。「事件」「鬼畜」の2作品で自身は監督賞。主演男優賞の緒形拳は「家畜」で、助演男優賞の渡瀬恒彦は「事件」などで受賞した。「サード」で新人賞の永島敏行も「事件」に出演。“野村一家”が4冠を達成した。
「鬼畜」がちょうど80本目の区切りになった野村監督は、第4回の新人賞受賞者。毎日映画コンクールに輝いた代表作「砂の器」を送り出した74年はブルーリボン中断期で、25年ぶりの受賞になった。「自分の受賞よりスターの受賞がうれしい」緒形、渡瀬、永島に囲まれたベテラン監督は「賞って、もらった時より、薬のように後から効いてくるもの。じっくり喜びをかみしめたい」。
前年受賞者の山田監督は、野村監督の下で助監督を務めたいわば“門下生”。05年4月に野村監督が肺炎で亡くなった際は葬儀委員長を務め、「僕を育ててくれた人。若武者のような監督でした。ひとつとして同じ手法を用いず、シャープでクールな作品を作っていた。僕には出来ない多彩な映画の作り方を持っていた」と偲んだ。
授賞式で一際目立ったのが、「雲霧仁左右衛門」などで助演女優賞に輝いたにっかつロマンポルノの大黒柱として活躍を続けてきた宮下順子だ。白と紫のあでやかな着物姿で登場。周囲の目をくぎ付けにした。「ノミネートの段階で名前があがっただけでもいいと思ってたから・・・。学生時代に優等賞をもらったことはあるけど、こういった賞は初めて」と喜んだ。
授賞式は前年の主演男女優賞コンビが司会を行うことが恒例となっており、この年、高倉健の司会ぶりに期待がかかったが、渡米中のために欠席。岩下志麻が孤軍奮闘ながら達者な司会で会場を盛り上げた。
第21回の受賞者・受賞作
- ■作品賞
- 「サード」東陽一監督
- ■監督賞
- 野村芳太郎「事件」「鬼畜」
- 「映画界が大作志向で大味になった中で、長く温めていた地味な素材をぶつけたので、救われた感じ」
- ■主演男優賞
- 緒形拳「鬼畜」
- 「子供と動物には“くわれる”というが、子供を見てたらまるで犬だった。こっちも親犬になったつもりで波長を合わせただけなので賞は恥ずかしい。万馬券が当たったような気持ち」
- ■主演女優賞
- 梶芽衣子「曾根崎心中」
- 「本当にホント? 報知映画賞、キネマ旬報賞もいただいたでしょ。3つはもらえないと思っていた」
- ■助演男優賞
- 渡瀬恒彦「事件」「赤穂城断絶」
- 「昨日、寝る前にマシなことを言えるように考えたが、音楽を聞いているうちに忘れてしまった」
- ■助演女優賞
- 宮下順子「雲霧仁左右衛門」「ダイナマイトどんどん」
- 「女優としても人間としても多くの人に好かれるように頑張ります」
- ■新人賞
- 永島敏行「サード」
- ■外国映画賞
- 「家族の肖像」ルキノ・ビスコンティ監督
- ■スタッフ賞
- 「柳生一族の陰謀」のスタッフ(時代劇復興の熱意に対して)
- ■特別賞
- 川喜多長政・かしこ夫妻(約50年にわたる映画界への貢献に対して)
- 邦画ベスト10
- 愛の亡霊(大島渚)
- イーハトーブの赤い屋根(熊谷勲)
- 帰らざる日々(藤田敏八)
- 鬼畜(野村芳太郎)
- サード(東陽一)
- 事件(野村芳太郎)
- 曾根崎心中(増村保造)
- ダイナマイトどんどん(岡本喜八)
- 冬の華(降旗康男)
- 星空のマリオネット(橋浦方人)
- 洋画ベスト10
- アニー・ホール(ウディ・アレン)
- 家族の肖像(ルキノ・ビスコンティ)
- 帰郷(ハル・アシュビー)
- グッバイガール(ハーバート・ロス)
- 結婚しない女(ポール・マザースキー)
- ジュリア(フレッド・ジンネマン)
- スター・ウォーズ(ジョージ・ルーカス)
- ミスター・グッドバーを探して(リチャード・ブルックス)
- 未知との遭遇(スティーブン・スピルバーグ)
- ラストワルツ(マーティン・スコセッシ)
(50音順)