'87 JRグループ CIデザイン

国鉄民営化に伴う新社名のロゴデザイン

CD 梶 祐輔 AD・D 山本 洋司 監修 永井 一正 PR 権守 郁夫 AG 電通

1986年、3公社(国鉄、電電公社、専売公社)の民営化が政治改革によって進行していた。国鉄分割・民営化法案は同年11月28日に参議院本会議で可決成立、旅客鉄道6社と貨物会社の7社の新会社が設立されることになった。それに伴い、新会社のマークと社名ロゴ、カラー制作など、新会社が必要とするデザイン課題が国鉄プロジェクトチームと電通との間で話し合われていた。このミッションにふさわしいクリエイターが求められ、日本デザインセンターに白羽の矢が立った。チーフディレクター梶祐輔を中心としてNDCのプロジェクトチームが立ち上がった。

マークの課題は「JRグループ」または「NRグループ」。それ以外にも幅の広いデザイン案が求められた。当時の私のメモを見ると「JRとNRはデザインによって決定する可能性アリ」と書き込まれている。プレゼンまでの時間は約10日間しかない。各デザイナーによって制作されたデザインは100案以上にものぼった。新会社「Japan Railway Company」「Nippon Railway Company」の略称候補となっている「JR」「NR」をかたどったもの、レールの頭文字「R」をデザインしたもの、6つの旅客会社のレールをデザインしたもの、レールを鳥がはばたくイメージで表現したものなど多様なアプローチが提案され、翌年1月14日には3案に絞られた。当時の杉浦喬也国鉄総裁はその3案を自宅に持ち帰り、じっくり3日間考え抜かれたという。その結果、新会社グループのJRを最もシンプルにデザインしたものに決定され、最終的には永井一正の監修を受けて完成した。

マークデザインが決定してから民営化までは2か月半しかなかった。7社の社名ロゴおよび各社カラー、アプリケーションの開発、マニュアル制作、記者発表用キット、各社のキップなど膨大な制作物をこの期間で仕上げることが求められた。時間がない。当初国鉄では民営化の初日4月1日に特急の一部と山手線だけにでも新会社のマークを付けて走りたいと考えていた。「よっしゃ! NDCの底力を見せてやろうじゃないか」。日本デザインセンターは、民営化の初日から全国の列車の機関車と運転台付きの車両にマーク展開することを提案した。3月31日の最終列車から始発までの数時間に全国1万車両に及ぶ多彩な型式の車両ごとにデザインを起こし、国鉄職員の手で貼るという計画だった。そのために誰にでも短時間で作業できるよう工夫した「JRマーク車両貼付け指示書」を制作。この指示書は110ページにおよぶもので時間がないため図面の指示は私の手書きだった(鉄道ファンの間ではいまやプレミアムが付いているようである)。

4月1日、最終電車から始発までのわずか4時間ほどで新マークの貼り付け作業が全国一斉に行われた。国鉄職員の総力を挙げた大プロジェクトであった。

JRマークは、鉄道車両は両方向に進行するため、車両が右に動いても左に動いても違和感のないようデザインした。高速で走行しているときの視認性にも配慮。太く、そして横に広がるシンプルな一筆書きの形状(レールはつながっている)でスピード感も込めている。同時に新会社の安定感を醸成するために 「R」の斜めの支えでどっしりと大地に根を張るイメージの設計となっている。

昭和の終わり頃、JRに始まった「J」を頭に頂く名称はひとつの流れを生んだ。JT(日本たばこ産業)、JTB(日本交通公社)、J-POP(洋楽を意識した呼び方)、J-WAVE(FM局)。平成に入り、プロサッカー「Jリーグ」、全国農協中央会「JA」、全国漁業協同組合連合会「JF」、日本郵政グループ「JP」などなど。JRはその先駆けであったと思う。

山本洋司(やまもと・ようじ)
1943年広島生まれ。63年NDC入社。30年間トヨタ(国内・海外)担当、山本ビジュアルメッセージ研究所を経て2004年退社。


  • ライトグリーン: 真白な雪の大地から一斉に芽生え、やがて野山を彩る柔らかなライトグリーン。新会社の、さわやかで伸びやかなイメージを表現する色です。


  • ライトブルー: 太平洋の青さより、さらに鮮やかなブルーです。「青い国・四国」で知られる澄みきった空のブルーで、新会社のフレッシュさを表現しました。


  • グリーン: 東北、信越、関東の豊かな緑色で、力強く発展していく新会社の未来をシンボライズしました。また、東北・上越新幹線のカラーでもあります。


  • レッド: 南の明るい太陽の国には、燃える熱意の色「赤」がふさわしく、全力で明るくスタートダッシュをきる新会社の意欲的な姿勢を表しています。


  • オレンジ: かぎりなく広がる東海の海と空の彼方を染める夜明けの色です。新鮮で潑剌としたオレンジのように、フレッシュな新会社を表します。


  • コンテナブルー: すでに、2万個ものコンテナがイメージの一新を目指し、ブルー作戦を展開しています。新会社のフレッシュさと信頼感を演出するカラーです。


  • ブルー: 日本の文化と歴史に彩られた地域にふさわしい色です。地域に密着した会社を表し、また、豊かな海と湖を象徴するカラーでもあります。


  • 無彩色: 鉄道6社、貨物1社のJRグループを表すマークです。グループ各社としての汎用性を考え、黒、グレー、白、3つの無彩色としました。(金、銀も可)

デザインのポリローグ 日本デザインセンターの50年(誠文堂新光社)

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