東京 大人の遊び場
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webマガジン e-days(イーデイズ)東京 大人の遊び場DINING中央線

カンツォーネのライブも楽しめる伝統的なトスカーナ料理レストラン
文流

 国立駅から一橋大学に向かって延びる、“大学通り”。桜の名所として知られるこの大通りから一本入った場所に、静かなレストランが佇む。こぢんまりとした中庭には木蓮の木が植えられ、緑がいっぱい。細やかなサービスを受けながら、ゆったりとイタリア料理が楽しめる。そんな、国立らしさに満ちた店だ。

 『国立 文流』が誕生したのは、1996年のこと。本店は『高田馬場 文流』で、1973年の創業だ。文流には、イタリア料理がまだ珍しかった創業当時から受け継がれている、2つの人気メニューがある。ひとつはピザ生地で作られた「丸パン」で、もうひとつが「海の幸ときのこのスパゲッティ」。ホタテやイカなど海鮮たっぷりで、ソースは塩、トマト、トマトクリームの3種類から選択可。魚介の香りと旨みが十分に引き出されており、シンプルながら飽きのこない一品だ。

 伝統的なトスカーナ料理が中心だが、地元の農家から直接取り寄せた地野菜を使ったメニューも登場。ときにはメインディッシュの付け合せとして、ときにはその日だけのスペシャルメニューとして、積極的に利用されている。料理の地域性や固有性を大切にするスローフードの精神を、身近に感じることができるだろう。

 毎月第1・3金曜のディナータイムには、カンツォーネも楽しめる。ステージは設けず、ギターを抱えたカンタンテ(歌い手)が各テーブルをまわる、気さくなスタイル。ナポリ民謡やローマ民謡、イタリアンポップスはもちろん、好きな曲のリクエストも受け付けている。さらに、年に数回はシャンソンのライブも実施。コース料理を食べながら上質の音楽に耳を傾ける、特別な夜が用意されている。

 ランチタイムには、10種類から選べるパスタにサラダ、ドリンクなどが付いたコストパフォーマンスの高いセット(980円~)を求めて地元のマダムや家族連れが集う。都会から少し離れた場所にあるためか、昼も夜も肩の凝らないリラックスできる雰囲気。ふだん使いの店として、気軽に利用したい。


取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

文流

1. 白い壁に囲まれ、絵画が飾られたシンプルな内装。大きな窓からは暖かな日差しが差し込み、穏やかな時間が流れる。
2. イタリア直輸入のワインなど、赤・白それぞれ10種類ずつを用意。ソムリエの資格を持つ店長に、おすすめを聞いてみるのもいいだろう。
3. 花瓶や食器などの小物にも、イタリアの香りが漂う。店名の『文流』は、イタリアと日本の文化交流を願って名づけられた。
4. 天気のいい日には、オープンテラスの席が人気。毎年春になると、モクレンが見事な花を咲かせる。
5. 『海の幸ときのこのスパゲッティ』1300円は、ランチセット(980円~)でも選択可。素朴な『丸パン』(100円)との相性も抜群だ。ワインはグラスで600円~。

リストランテ 国立文流

住所 東京都国立市東1-6-30 パティオマグノリア1F

電話番号 042-571-5552

営業時間 11:30~15:00(LO14:30)、17:00~22:00(LO21:30)

休日 無休

金額 ピッツァ1000円~、パスタ800円~、コース4000円~、ボトルワイン2500円~

URL http://www.bunryu.co.jp/


料理とワイン、音楽、そして会話を通して2010年の主役・南アフリカを知る
tribes

 2010年、南アフリカでワールドカップが開かれることから、にわかに注目度が高まっているアフリカ。53の国と地域があり、それぞれ異なる文化を育んでいるアフリカは、日本人にとってはまだ謎が多い未知の大陸だ。そんなアフリカの知らざれるパワーを五感で感じることができる店、『神楽坂 トライブス』を訪れた。

 まずは、料理。アフリカ料理といえばモロッコの鍋料理「タジン」や「クスクス」が有名だが、ここではフランス料理のエッセンスを加えた“アフロ・フレンチ”スタイルが主流。本場の素材を使った味付けはもちろん、盛り付けの美しさも目をひく。ほかにも、南アフリカやコートジボアール、モロッコなどアフリカの広い地域の料理をカバー。ワニやダチョウを使った珍しい料理もあるが、どれも洒落たアレンジが施されているため、違和感なく楽しめるだろう。

 アフリカといえば、やはりワインも気になる。南アフリカのワインは350年以上の歴史を持ち、国際市場でも高い評価を得ている。メニューには南アフリカ産だけでも20種類以上が並ぶほか、モロッコやチュニジア産もあり、価格も手ごろ。ビール党なら、ガーナやケニア、チュニジアなど、アフリカ各国のビールを飲み比べてみるのもいい。

 音楽にも注目したい。店内のスクリーンでは、アフリカ出身アーティストのPVなどを上映。アフリカ音楽のCDも500枚以上が揃い、“アフロビートの神様”フェラ・クティや、素朴で温かみのあるセレスティン・ウクウなど、多彩なアフリカ音楽が楽しめる。毎週金曜には、ジンバブエ音楽のライブを開催。チャージは無料なので、アフリカ音楽初体験の人も気軽に足を運べるだろう。

 料理や音楽、空間を通してアフリカの空気に触れられる店だが、一番の財産は“人”。ナイジェリアで2年間暮らし、アフリカ16カ国を旅した店長をはじめ、スタッフ全員がアフリカ経験者だ。店を訪れる客も、アフリカに行ったことがある人、または興味を持っている人が多く、自然と話が弾む。つい話し込んで、5~6時間滞在する人も珍しくない、というのも納得。ここで予習をしておけば、アフリカ大陸初のワールドカップがさらに楽しく、興味深いものになるに違いない。


取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

tribes

1-3. 店内は、アフリカの大地を思わせる茶色と夕日のオレンジ色で統一。モロッコのマルシェ(市場)をイメージした内装は、店長自らモロッコの竹を持ち込んで作った手づくりだ。壁には写真や絵画などが飾られ、アフリカ気分を盛り上げてくれる。
4. 神楽坂を少し上った、毘沙門天のすぐ裏にある。アフリカ通の店長に話を聞くだけでも気分が盛り上がるはず。
5. 南アフリカ観光局の認定を受けたメニュー、『ブルボス』1250円。粗びき肉の特大ソーセージにスパイス入りトマトソースを絡めた、南アフリカの定番料理だ。南アフリカ産の赤ワイン『ガーディアンピーク』は、ボトルで4500円。売り上げの一部で絶滅危惧種のライオンを保護している。

神楽坂 トライブス

住所 東京都新宿区若宮町10-7

電話番号 03-3235-9966

営業時間 18:00~深夜0:00(LO23:00)

休日 日曜・祝日

金額 クスクス1350円、南アフリカ産ワニのソテー1250円、ホロホロ鳥のソテー950円、アフリカ輸入ビール530円~

URL http://www.tribes.jp/


ファドの生演奏を聴きながらポルトガル料理&ワインで乾杯
MANUEL

 四谷にある『マヌエル・カーザ・デ・ファド』は、ポルトガル語で“ファドの家・マヌエル”という意味。その名のとおり、ファドのライブを定期的に開催する、日本では希少なレストランだ。ボーカル、ギターともにマイクを使わず、生音で勝負。間近で聴くファドはゾクゾクするほどの迫力で、感情に訴えかけてくる。40~60代の客が多く、仕事帰りに何度も足を運ぶリピーターも多いという。

 ライブの前にも、楽しみが用意されている。ポルトガルの家庭料理だ。素材の持ち味をいかしたポルトガル料理は、ファドと同様に日本人好み。魚や肉、野菜をバランスよく食べるのも、日本人に似ている。この店では、手間を惜しまず丁寧にダシをとることで、現地の味を丹念に再現。見た目は地味だが、食べるほどにじわりと染み入るやさしい味で、確かな実力を感じさせてくれる。

 ポルトガルは、隠れたワイン王国でもある。リストにはポルトガル産ワインが100銘柄以上揃い、ワインセラーには500本以上が待機するなど、圧巻の品揃え。作家・壇一郎に愛されたダン地方、果実味豊かなアレンテージョ地方など、地域ごとの個性を備えたワインを取り揃えている。スターターには若々しい風味の「フィーニョ・ヴェルデ」が、食後には甘口のデザートワイン「ポルト酒」がおすすめだ。

 パン、カステラ、タバコなど、ポルトガル語を起源とした日本語は多い。初めて聴くファドや初めて食べるポルトガル料理に懐かしさを覚えるのも、単なる偶然ではないだろう。日本からはるか遠くにありながら、数々の共通点を持つ国、ポルトガル。その不思議な出会いを楽しみたい。


取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

MANUEL

1. 天井が高く、地下1階とは思えない開放感。テーブル同士の感覚も広く、ゆったりと食事やお酒が楽しめる。
2-3. リスボンとポルト、2つの街をテーマにしたアズレージョ(タイル画)やポートワインのポスターが飾られ、異国情緒たっぷり。テーブルに並ぶ食器も、すべてポルトガル製だ。
4. 12弦のポルトガルギター。ポルトガルでは“ギターラ”と呼ばれ、独特の形は「涙の雫を表している」ともいわれている。
5. ポルトガルの定番料理『海の幸のリゾット』2890円。エビやムール貝、アサリ、スズキなど魚介たっぷりで、スパイスのきいたトマトソースが食欲をそそる。ポルトガルワインはグラスが880円~、ボトルで4000円~。

マヌエル・カーザ・デ・ファド

住所 東京都千代田区六番町11-7-B1F

電話番号 03-5276-2432

営業時間 11:30~15:00(LO14:00)、18:00~23:00(LO22:00)

休日 無休

金額 ファド・ライブのミュージックチャージ2500円~3000円(月1~2回開催/1日2回)

URL http://www.manuely.jp/


飲んで食べて歌って踊って!底抜けに明るいブラジルを楽しめる店
サッシペレレ

 オーナーの小野敏郎さんは、ボサノバ歌手小野リサさんのお父様。1958年、パン・アメリカンのプロペラ飛行機に乗ってブラジルへ。片田舎に、サンバのリズムに日本の懐メロとブラジルの古いメロディーをのせた演奏を楽しむ店をオープンし、日系人や現地の人々に愛されたという。満を持して中心部であるサンパウロに移転。黒塗りの車が横付けするほどの成功を収めた。そして72年に日本へ帰国。四谷にオープンしたのが、ブラジル料理と音楽の店「サッシペレレ」だ。

 「70年代といえば、ブラジルの文化はまだ日本にほとんど入っていない時代でした。ブラジルの料理と音楽を楽しめる日本初の店だったという話も聞いています。最先端の店として、新しいものに興味があるクリエイターや音楽家などで夜な夜な賑わったそうです」とマネージャーの伊東康彦氏は語る。

 ブラジルからミュージシャンを呼び寄せ毎晩ライブを開催。スタッフもブラジル人で、フェイジョアーダ(黒豆と肉の煮込み)やフェイジョン(ブラジル産インゲン豆の煮込み)などのブラジル料理を提供。小野さんは店を経営する傍ら、「浅草サンバカーニバル」の立ち上げにも関わるなど、日本にブラジル文化を紹介するパイオニアとして活躍してきたのだ。

 現在「サッシペレレ」では毎晩3回(金曜日は4回)、ボサノバ、サンバ、ソウルジャズなどのライブを開催。パーカッションを持参して演奏に参加したり、フロアで踊るゲストも多いとか。本格的なブラジル料理に舌鼓を打つも良し。伊東氏曰く「大のおしゃべり好き」というブラジル人スタッフとのおしゃべりもまた楽しい。ちなみに店名のサッシペレレとは日本でいう座敷わらしのこと。大人にいたずらをする子供の妖精のことだ。底抜けに明るいブラジルの音楽と人々、料理との出会いに加え、ちょっと不思議な体験!?も待っているかもしれない。

取材・文/高橋かおり 写真/田頭真理子

サッシペレレ

1-2. 奥がステージ、手前がカウンターやテーブル席になっている。ブラジルの大地を思わせるオレンジ色の壁には、情熱的な太陽やブラジルの子供達、青々とした木々などが描かれている。
3. ホブソンさんをはじめ、スタッフはみな愛嬌たっぷりでおしゃべり好き。会話もこの店の楽しみだ。
4. 「サッシペレレ」のロゴマーク。
5. ブラジルのビール「ノヴァスキン」750円。サトウキビから作られたブラジルの地酒ピンガを使ったカクテル「カイピリーニャ」900円。豚の耳や鼻、牛肉、ソーセージ、黒豆などを煮込んだブラジルの伝統料理「フェイジョアーダ」1500円~など、本場の珍しい味も。

サッシペレレ

住所 東京都新宿区本塩町9 光丘四谷ビル地下1階

電話番号 03-3353-7521

営業時間 17:00~深夜0:00、金曜・土曜は18:00~深夜0:00

休日 日曜・祝日

金額 ミュージックチャージ1500円(金曜およびスペシャルライブは2000円)、ディナーセット(ミュージックチャージ、前菜盛り合わせ、メイン3500円(金曜は4000円))、シュラスコ サッシペレレ風1800円

URL http://www.saciperere.co.jp


昭和の風情がそのまま残る喫茶店。月に一度の“リアルジャズ喫茶”も好評
プー横丁の店

 壁沿いにLPジャケットを眺めながら階段を上り、扉を開く。窓辺にはブリキの小物が雑然と並び、棚にはレコードがぎっしり。見上げた天井は、マイルス・デイビスやジミ・ヘンドリクスのポスターで埋め尽くされている。まるで時が止まったような、なんとも不思議な喫茶店。それが、『プー横丁の店』だ。

 「レコードは全部で2000枚くらい。ジャズが中心ですが、ボサノバやサンバ、ソウル、ロック、レゲエなど、なんでもかけますよ」と柔和な表情で話してくれたのは、この道30年のマスター。数年前に場所を移したが、その際に使っていた扉や窓、カーテン、家具なども運んできたという。音質のよさで知られるJBLのスピーカーも、開店当時からずっと現役。これまでに一度も故障したことがないと言うから驚きだ。

 「うちはジャズ喫茶ではないので、音量は大きすぎず小さすぎず。適度な音量を心がけています。音楽を聴きながら会話を楽しんだり、読書をしている方が多いですね」とマスター。だが、月に一度だけは“リアルジャズ喫茶”に変身する。毎月最終日曜の夜、国分寺のレコード店『珍屋』と共同でイベントを開催。マスターがテーマを決め、それにもとづいたレコードやCDを5時間ほどプレイする、というものだ。

 これまでに取り上げたアーティストは、デューク・エリントン、ディー・ディー・ブリッジウォーター、ミシェル・ベトルチアーニ、チャーリー・ヘイデンなどなど。このときばかりは音量がグンと上がり、マスターが選んだ趣味のいい音楽を最高の音質で楽しむことができる。チャージは無料で予約も不要。テーマに合っているものなら、リクエストもOKだ。

 「昔の国分寺には、うちみたいな喫茶店がたくさんあったんですよ」とマスター。当時を知る人はもちろん、知らない人にもある種の懐かしさを呼び起こしてくれるこのお店。足を踏み入れたら最後、つい長居してしまう磁力を持った一軒だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

プー横丁の店

1. 昼間は陽光が差し込み、なごやかな雰囲気に包まれる。ジャズファンはもちろん、学生や小さな子供連れの家族にもファンが多い。
2. 1980年に開店。味のある小物やぬいぐるみが飾られ、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
3. 「昔はジャズばかり聴いていたんですが、最近はブラジル音楽にはまっています」とマスター。スタッフやお客さんと一緒にサンバグループを結成し、昨年の“浅草サンバカーニバル”にも出演した。
4. 以前は一軒家風の喫茶店だったが、数年前に本多図書館の隣にあるビルに移転。国分寺駅からは、歩いて5分程度の距離だ。
5. 手づくりの「りんごのケーキ」350円と、「pooh’s フレンチ」400円。セットで頼むと100円引きになる。コーヒーのおかわりは、一杯250円で提供。

プー横丁の店

住所 東京都国分寺市本多1-6-3 2F

電話番号 042-323-9937

営業時間 12:00~深夜1:00

休日 日曜(イベント時のみ18時から営業)

金額 カクテル600円~、ワイン600円~、ランチ700円~

URL http://poohshouse.web.fc2.com/

※イベント情報は『珍屋』のブログ(http://blog.livedoor.jp/mezurashiya/)にも掲載


“タイのお母さん”が作る料理を食べながら、ライブやダンスが楽しめるカフェ&レストラン
アムリタ食堂

 アジアのリゾート地を思わせる、リラックスした南国の雰囲気。中央に設えたオープンキッチンでは、バンコクの東・バンセン地方からやって来た“お母さんコック”たちが腕を振るう。『アムリタ食堂』は、タイの熱気を肌で感じながら“おふくろの味”を楽しめる、気さくなカフェ&レストランだ。

 ここまでなら、都内によくある“ちょっとお洒落な、本格タイ料理レストラン”といったところ。だが、この店の魅力は雰囲気や料理だけにはとどまらない。音楽やダンス、パフォーマンスなどジャンルを超えた多彩なイベントを、定期的に開催しているのだ。

 例えば毎週月曜は、「ノーチャージ・ライブパフォーマンス」の日。タイ料理を食べながら、弾き語りやハワイアン、マジックなど多種多様なステージをチャージ無料で楽しめる。なにかと気分が滅入りがちな週の始まりに、明日への活力を与えてくれるだろう。

 また、満月と新月の夜には、それぞれ「満月ライブ」「新月ライブ」と題したスペシャルイベントを開催している。こちらは有料だが、奄美大島の島歌からジャマイカ音楽、アコースティック・レゲエ、ベリーダンスまで、質の高いパフォーマンスが楽しめると評判だ。

 取材に訪れた夜、店内は満員の観客で埋め尽くされていた。「満月ライブ」のステージに現れたのは、ジャワ舞踏家のリアントと民族音楽ユニット「TAIKUHJIKANG」。強くしなやかなリアントの舞いとガムランの響きがシンクロするにつれて、店内の熱気が高まっていく。

 満月が放つパワーは、人間の心と体に強い影響をもたらすといわれている。特別な夜に、音楽と踊りを通して五感を研ぎ澄ます。テーブルの上には、“お母さんコック”たちが作った家庭料理。ライブハウスとはひと味違う、音楽の楽しみ方に出会える店だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/岡村智明

アムリタ食堂

1. インドネシアの家具や観葉植物が飾られ、南国リゾート気分。不定期で、タイ映画の鑑賞会やタイ料理教室も開催されている。
2. 世界中で活躍している、ジャワ舞踏家のリアント。今年1月に行われたオバマ大統領の就任レセプションでも、踊りを披露した。
3. この日、リアントと共演した「TAIKUHJIKANG」。ガムラン奏者の川村亘平と濱元智行、ヴァイオリニストの新井ごう、ヴォイス担当の徳久ウィリアム幸太郎が結成したユニットだ。
4. 吉祥寺駅北口から歩いて3分程度。天気のいい日には、風通しのよいテラス席でのんびりと過ごすのがおすすめ。
5. ぶつ切りにした手羽、モモ、レバーを特製のタレに漬けた「鶏の香ばし焼き(ガイヤーン)」630円(Sサイズ)。甘味と辛味、酸味のバランスが絶妙だ。生ライムを丸ごと使ったソーダカクテル「生ライムジュルック」は780円。

アムリタ食堂

住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-17-12

電話番号 0422-23-1112

営業時間 ランチ12:00~15:00、ディナー17:00~23:00

休日 無休

金額 イベント時は別途チャージ

URL http://www.cafeamrita.jp/


ランチを楽しみながらフリーライブ。気軽に音楽と触れ合えるカフェバー
Cafe Dolce Vita

 都内には、ジャズやボサノバなどの生演奏を楽しめる場所が数多く存在する。その気になればいつで も誰でも、質の高い音楽に触れることができるだろう。とはいえ、「敷居が高い」「お金がかかりそう」 などの理由でなかなか足が向かない、という人も多いのではないだろうか。

 新宿の片隅にある『Cafe Dolce Vita』は、これまでライブに縁がなかった人にもおすすめのカフェバ ー。平日の昼12時から13時ごろにかけて、連日無料でライブを行っている。“ライブ”といっても、何 も気構える必要はない。いつもどおりにランチを食べながら自然体で楽しむのが、この店のスタイルだ からだ。

 「カフェやレストランでは、たいていBGMが流れていますよね? うちでは、CDやレコードのかわりに生演奏の音楽が流れている、という感じなんです。マニアではないごく普通の人々にもっと音楽を知って欲しいし、もっと身近に感じて欲しい。そんな思いから、お店を作りました」と話すのは、オーナーのAYAさん。彼女が作るランチメニューは、「ハヤシライス」650円、「イタリアンハンバーグ(ライス付き)」700円など、どれも懐に優しい価格設定。食後には、ティーコーディネーター&インストラクターの資格を持つオーナーが入れる紅茶やスイーツを楽しみながら、のんびりと過ごすのもいいだろう。

 夜には、日替わりのイベントを行っている。月曜はジャズ・セッション、水曜にはアコースティック・セッションを開催。ほかにも、不定期でジャズやボサノバのライブもあり、さまざまな試みで飽きさせない。こちらもチャージは500円からと、気軽に通える価格が嬉しい。

 昼休みにランチを食べながら、あるいは仕事帰りに一杯やりながら、プロのミュージシャンが演奏するジャズやボサノバに耳を傾ける。肩の力を抜いて、音楽とふれあうひととき。日常のワンシーンに、ぜひ加えたい一軒だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/岡村智明

Cafe Dolce Vita

1. レンガ色の壁に囲まれ、アットホームな雰囲気。椅子に座って、ゆったりと生演奏が楽しめる。
2. 壁にずらりと飾られたギターやベースは、無料で貸し出しOK。会社帰りの会社員も、手ぶらでセッションに参加できる。
3. ランチタイムに行われているライブの様子。毎週水曜には「sweet life」(フルーティスト・西村菜美 とピアニスト・吉田宏志)が登場する。
4. 大久保駅から歩いて3分程度。近隣で働く会社員はもちろん、家族連れの客も多い。
5. ランチメニューのなかで一番人気の『チーズクリームリゾット』650円。3種類のチーズを使った、まろやかな味わいの一品だ。『アールグレイ』は600円。

Cafe Dolce Vita

住所 東京都新宿区北新宿1-12-11 エトワールビル北新宿B1

電話番号 03-3364-1530

営業時間 11:30~14:30、19:00~深夜0:00

休日 無休

金額 夜はチャージ500円~

URL http://www1.to/dolce-vita


初心者もセミプロも一緒に楽しめる気さくなセッションが魅力
ジャコヘン

 音楽をかじったことがある人なら、一度はセッションで腕試しをしてみたい、と思うだろう。府中駅からほど近い場所にある『Jaco/Hen』では、フォービートのジャズからファンク、ブルース、ラテンまで多彩なセッションを開催。ベテランミキサーが設定した音響システムを使い、プロ気分で演奏が楽しめる。

 「いつも楽しく、みんなでお酒を飲みながらセッションしています。昔、セッションに参加して嫌な思いをしたことがある、という人でも、うちなら大丈夫。気兼ねなく参加して欲しいですね」と話すのは、マスターの保坂さん。参加者は、まったくの初心者からセミプロまでさまざま。マスターはもちろん、客同士でも声を掛け合い、場を明るく盛り上げてくれる。

 セッションのない日には、バーとして営業している。BGMは、脂の乗ったブルースやモータウン・ジャズが中心だが、客のリクエストがあれば基本的に何でもかけてくれるとか。「私自身は、ワールドミュージックが好きなんです。フラメンコや中東、アフリカの音楽なんかもよく聴いていますね」と語るマスターに、おすすめの音楽をたずねてみるのも面白いだろう。

 実はマスターの前職は、フレンチレストランのシェフだそう。牛肉のステーキや自家製生地のピザなど、満足度の高いメニューが揃っている。話題豊富なマスターと美味しい料理、そして何よりも音楽好きな仲間に会える店だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/岡村智明

ジャコヘン

1. 黒を基調に、シックな雰囲気。20代から60代まで幅広い年代が集い、音楽にまつわる思い出話や情報交換を楽しんでいる。
2. 音響はプロ仕様。「機材の価格は安いけど、プロが設定したからいい音が出るんですよ」とマスター。
3. 店内では、ライブ映像などのDVDを放映。好きなDVDやCDを持参してもOKだ。
4. アンプやスピーカーに加え、2~3台のギターも自由に利用OK。楽器を持っていなくても、飛び入りでセッションに参加できる。
5. オーガニックのドライトマトを使って手作りした「ドライトマトの自家製ハーブオイル漬け」300円。「キリン ハートランド」700円も人気が高い。

Jaco/Hen

住所 東京都府中市宮西町1-14-10

電話番号 042-351-3389

営業時間 18:00~深夜1:00、日・祝17:00~深夜0:00

休日 不定休

金額 席料500円

URL http://www.hpmix.com/home/jacohen/T1.htm


築50年の古民家に流れるジャズ。心が和む昔ながらの喫茶店
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 世界有数の古書店街である神保町は、昔ながらの喫茶店が残る街でもある。白山通りから一本入った路地にある『喫茶去』も、そんなレトロな喫茶店のひとつ。昭和32年に建てられたという木造家屋には、誰にも決して真似のできない独特のたたずまいがある。

 床がきしむ音、アンティークランプの光、時代がしみこんだ梁。こんな雰囲気に似合うBGMは、やはりスタンダードなジャズだろう。JBLのスピーカーから聞こえる音は、空気がふるえるほどにクリアで上質。「会話が楽しめるように」との心遣いから音量は控えめで、ほっと心を和ませてくれる。

 1人、または2人で訪れるなら、吹き抜けの2階席をおすすめしたい。階段の隣に2人がけの小さなテーブルが1つだけあり、隠れ家のような趣き。1階のスピーカーから届く音色も耳にやさしく、つい長居したくなる。テーブル席の奥には、個室感覚で使える4畳の茶室も用意。こちらは、ちょっとした打ち合わせや会合などにぴったりだ。

 コーヒーの味も、評判を呼んでいる。ブラジル産を中心に、無農薬の豆を使用。注文ごとに豆を挽き、マスターの慣れた手つきで一杯ずつていねいに淹れていく。オリジナルの『きっさこブレンド』は深煎、中煎、浅煎と3種類あり、好みや気分に応じて選べるのも嬉しい。

 実は、現在の店は3代目。『モーツァルト』、『李白』と続いた名喫茶の伝統を受け継ぎ、2003年に開店したのが『喫茶去』である。取材時、80歳のおばあちゃんが店を訪れていた。50年前に通った『モーツァルト』を思い出して昨年探しにきたところ、店を見つけて驚いたとか。以降、毎月のように顔を出すようになったという。

時を経て店は入れ替わっても、昭和の建物やあたたかな雰囲気はそのまま。人々の記憶に残るこんな喫茶店が、これからも末永くあることを願ってやまない。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

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1. インテリアのひとつひとつに味があり、時が止まったかのような雰囲気。店名の『きっさこ』とは、禅の言葉で「ちょっとあがって、お茶でもどうぞ」という意味。
2. 吹き抜けの2階席。ここで聞くジャズは、1階とはまた異なる趣がある。本を読んだり会話を楽しみながら、時間を忘れて過ごしたい。
3. 2階にある茶室。俳句の会や勉強会などのイベントにも利用されている。空いていれば、少人数でも利用OKだ。
4. 一見すると普通の民家のようだが、扉を開くとジャズが流れる喫茶店。玄関前には四季折々の花が飾られ、明るい雰囲気を醸し出している。
5. 「きっさこブレンド」(深煎・中煎・浅煎)は600円。手づくりのケーキも人気で、とくに「チーズケーキ」は絶品だ。

きっさこ

住所 東京都千代田区神保町2-24

電話番号 03-3239-6969

営業時間 9:00~21:00

休日 無休

金額 コーヒー(ストレート)600円~、秋田の地ビール“あくら”650円


名物ママとの会話も楽しい 昭和の薫り漂う純喫茶
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 『純喫茶ロザリオ』は、今ではなかなか出会えなくなった昔ながらの喫茶店だ。造花や絵画が雑然と飾られた店内にテレビの音が鳴り響き、年季の入ったソファが並ぶ。昭和の喫茶店でおなじみのゲーム機付きテーブルも、ここではまだ現役。そこかしこに立ち込める古めかしい匂いが、古きよき時代へと誘ってくれる。

 店を切り盛りするのは、この道40年のチャーミングなママ。「昔は、年中無休の忙しいお店だったのよ。こっちの席には明治大学、あっちの席には日本大学と、いろんな大学の学生さんが朝から晩までつるんでいてね。学生さんたちが交代でアルバイトをしてくれて、いつもにぎやかだったわ」と、昔をなつかしむ。

 茶色くくすんだ壁には画用紙に書かれたメニューが貼られているが、よく見るとかなりユニーク。ハワイアンパスタや穴子スパ、しじみわかめパスタに加え、ぞうすいまで揃っているから驚きだ。「素人の思いつきで、昔はいろんなメニューを考えたのよ。今注文があっても、作れないものも多いんだけどね(笑)。でも、ミートソースで炒めてパイナップルを加えてハワイアンパスタは、結構評判がいいのよ」。うれしいのは、こうした料理がアルマイト製の皿で出てくること。その昔、給食で使われていた銀色の皿に、見覚えがある人も多いだろう。

 この店には、音楽ファンにとって興味深いエピソードもある。デビュー前のくるりが、『純喫茶くるり』と題したベントを行ったのだ。メンバー自らがキッチンに立ち、ファンに手づくりのカレーをふるまったのだとか。今もメンバーのサインが入った看板が飾られており、多くのファンが記念撮影に訪れる。

 店は今や、サラリーマンたちの憩いの場となっている。出勤前に新聞を広げたり、あるいは休憩がてら立ち寄ったり。40年前と同様、学生の姿も健在だ。迎えてくれるのは、にこにこと笑みを絶やさず話しかけてくれるママ。時代が変わっても変わらない、愛すべき場所がここにある。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

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1. レトロなムードが際立つ店内。昭和にタイムスリップしたような、不思議な感覚に陥る。この雰囲気を求めて通う、常連客も多い。
2. いつも元気いっぱいのママ。趣味は海外旅行で、30カ国以上を訪れたという。「南米では、お尻をフ リフリして踊ったのよ。イタリアのナポリにナポリタンがなかったことは、ショックだったわね」。
3. 店内に飾られている「純喫茶くるり」の看板。くるりのメンバーのサインが入っている。
4. すずらん通りにあり、鮮やかなブルーの壁と丸い窓が印象的。扉を開いて階段を下りると、魅惑の 純喫茶が待っている。
5. 常連に人気の「焼きスパ」600円。スパゲッティの麺を使い、キャベツやピーマンとともに焼きそ ばのソースで炒めたオリジナル料理。

純喫茶ロザリオ

住所 東京都千代田区神保町1-13 B1

電話番号 03-3293-9840

営業時間 9:00~18:00

休日 土・日・祝

金額 コーヒー350円、ナポリタン600円、カレーライス900円(デミタスコーヒー付)


本に囲まれ、バロック音楽が流れる“小腹と心を満たす”喫茶店
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 その喫茶店は、たくさんの本であふれていた。本棚に村上春樹氏の著作が揃っているかと思えば、カウンターには懐かしの「平凡パンチ表紙集」が鎮座。こちらの棚には東山魁夷氏のエッセイ集が並び、あちらの椅子には神楽坂のミニコミ誌が積まれている。ここは、本を愛する人にとっての楽園に違いない。

 昔から喫茶店めぐりが趣味で、若い頃は名曲喫茶の常連だったというマスター。50歳で仕事を辞めて、未知の世界に飛び込んだ。「周りの人たちからはずいぶんと反対されました。でも、私は人生60年だと思っています。50歳からの10年は人生の延長戦だから、自分の好きなことを頑張っていきたい。そう決めたんです」

 多彩なコレクションの中から、そのときの気分や好みに合った一冊を選び、ページをめくる。聞こえてくるのは、マスターが選んだ17世紀のバロック音楽。手づくりの料理やコーヒーを楽しみながら、時間を忘れてのんびりとくつろぐ。小腹と心を満たす店。「こんな喫茶店があったらいいな」というマスターの積年の夢が、こうして形になっているのだ。

 それだけでない。店内の本やDVDは、無料で借りることもできる。現在では手に入りづらい古本や映画作品を、自宅で楽しめるのだからありがたい。返却期限は2週間。この6年間で延べ1000人を超える会員が、“小さな図書館”のお世話になっている。

 イベントも盛んだ。毎月第3土曜には、『神楽坂おもしろ映画塾』と題した上映会を開催。1940~1950年代の古い映画など、レンタルショップでは見かけない面白い作品を発掘している。参加費は500円で、食べ物や飲み物の持ち込みも自由。性別や世代、国境を越えた映画好きが集い、夜な夜な語り合っている。

 ほかに、クラシックやボサノバ、シャンソン、フラメンコなどのライブを行う『キイトス音楽会』、専門家の話を聞きながらお茶を楽しむ『キイトス茶話会』なども行う。ただコーヒーを飲むだけでなく、大人たちの知性や感性を磨いてくれる場でもあるのだ。

「神楽坂で一番、回転率が悪い店」とは、マスターの弁。なるほど、周囲を見渡せば、誰もが自分の時間にどっぷりと浸っている。ひたすらボーっとしている人の姿もあれば、パソコンで作業をする人の姿も、『キイトス茶房』の一日は、こうしてまた過ぎていく。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

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1.本棚や机、椅子などは、フルオーダーで作らせた一点もの。店内では、須田帆布のシャツやバッグも販売している。ちなみに店名の「キイトス」とは、フィンランド語で「ありがとう」の意味。
2-3.珈琲以外にもハートランドの中ビンと日替わりのおつまみをセットにした「いのちの水セット」700円や、日本酒、ワイン、焼酎のセットもある。
4.店内は、ギャラリーとしても利用されている。「情熱を持っている若い人たちに利用して欲しい」とマスター。貸し出し料金も格安だ。
5.大江戸線牛込神楽坂駅から神楽坂通りを上り、わずか1分の場所にある。東西線神楽坂駅やJR飯田橋駅からも徒歩圏内。

キイトス茶房

住所 東京都新宿区箪笥町25番地 野吾ビル2階

電話番号 03-5206-6657

営業時間 11:00~21:00

休日 毎月第1・3土曜

金額 コーヒー500円、神楽坂カレー1000円、青春焼きそば丼1000円など

URL http://kiitosryo.blog46.fc2.com/


惜しまれつつ幕を引いた名曲喫茶『クラシック』その志を継ぐ店『ルネッサンス』が、高円寺に誕生
高円寺 ルネッサンス

 黄色い看板を眺めながら階段を下りると、「グレゴリオ聖歌」が大音量で鳴り響いていた。擦り切れたレコードが奏でるノイズ混じりの旋律が、かえって心地よい。薄暗い店内に足を踏み入れ、年季の入った革張りのソファに腰を下ろす。埃をかぶったランプ、錆び付いた蓄音機、そしてバラバラの時刻を示している幾つもの古時計。使い込まれた調度品の数々からは、昭和の薫りが漂ってくる。

 『高円寺 ルネッサンス』は、2007年11月に誕生したばかりの名曲喫茶だ。オーナーは、かつて中野の名曲喫茶『クラシック』でスタッフとして働いていた、2人の女性。『クラシック』という店名に、ピンと来る人もいるだろう。2005年1月にひっそりと幕を引いた、伝説の名曲喫茶。戦後すぐに建てられたその店は、今にも崩れ落ちそうなほど古く、床も天井も傾いていたという。メニューはコーヒー、紅茶、ジュースの3品のみで、食べ物は持ち込み自由。風変わりな店だったがなぜか居心地がよく、多くの若者がクラシック音楽を学びながら青春を謳歌していた。

 ここには、『クラシック』で使われていた調度品が、昔のままの姿で息づいている。約3000枚に及ぶレコードコレクションも、もちろん健在。老朽化していたアンプは新調したものの、「“クラシック”の音を再現して欲しい」と職人に頼んで作らせたというこだわりようだ。メニューが3種類しかなく、食べ物の持ち込みが自由、という点も、『クラシック』の流儀を引き継いでいる。

 とはいえ、「あの『クラシック』が高円寺で復活したのか!」と、早とちりしてはいけない。2人の女性オーナーは口をそろえる。「私たちにとって、『クラシック』こそが最高の喫茶店。あの店を超える喫茶店は、後にも先にも存在しないと思っています。だから、復活させることなんて出来ないんです」。

 実は、『ルネッサンス』とは、『クラシック』の創業者である故・美作七朗氏が、戦前に初めて開いた名曲喫茶の名前。その店があった場所も、高円寺だったという。「名曲喫茶といっても、うちは会話OKだし敷居が低い。基本的にほったらかしなので、長居しやすいと思います」と2人のオーナー。伝説の名曲喫茶が刻んできた歴史を背負いつつ、これからどのような未来を開いていくのか。新たなストーリーはまだ、始まったばかりだ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

高円寺 ルネッサンス

1.店内は吹き抜けで、階段をのぼると回廊式の席が設けられている。じっくりと音楽に向き合いたいなら、スピーカー前の席がおすすめ。
2.棚には、年季の入ったレコードが並ぶ。もちろん、リクエストもOK。手書きの曲目リストを見ながら、自分で黒板に書くシステムだ。
3.『クラシック』で使われていた真空管のアンプ。老朽化してしまった現在は、店の片隅にひっそりと飾られている。
4.店内に飾られている絵は、故・美作七郎氏によるもの。本業は画家であり、『クラシック』は美作氏のギャラリーも兼ねていた。
5.「コーヒー」400円は、昔ながらアメリカン。「ジュース」400円は、子供時代の記憶を喚起してくれる懐かしい味わいだ。どちらも、『クラシック』の味を再現している。

高円寺 ルネッサンス

住所 東京都杉並区高円寺南2-48-11掘萬ビルB1F

電話番号 03-3315-3310

営業時間 12:00~23:30

休日 月(祝日の場合は営業)

金額 紅茶400円、各種おかわり200円


靴を脱いでリラックスできるひとりひとりにとっての“部屋”
cafe apartment

 靴を脱いであがり、座布団に腰を沈める。装飾を控えたニュートラルな空間は、カフェというよりも誰かの部屋のよう。封筒に入ったメニューから好きなもの選び、足をくずしてまったりと過ごす。自分だけの時間が、ゆっくりと流れていく。

 「コンセプトや色は、あえて持たないようにしています。ここは、誰の空間にでもなりうる場所なんです」。そう話してくれたのは、接客も調理も一人でこなしている店長の杉山美奈子さん。若い人だけでなく、あるときは会社帰りのサラリーマンが新聞を広げ、またあるときは初老の女性が会話に花を咲かせる。何かを声高に主張するのではなく、たださりげなくそこにあることで、人々の心を潤してくれる存在なのだ。

   音楽にしても、考え方は同じ。例えば、1人で食事をしていたら邪魔にならないように静かな曲をかけ、カップルがお酒を楽しんでいたらムーディーなジャズをかける。店の好みを押し付けるのではなく、あくまで客にとって心地よい音楽を心がけている。

   穏やかな時間に彩りを添えてくれるのが、心を込めて作られた料理だ。「本格的なフランス料理が出せるわけじゃないんです(笑)。だからこそ、ありふれたものでも時間をかけてゆっくり作ることが、私のできるサービスだと思っています」と杉山さん。すべて1人で用意するため時間も手間もかかるが、こだわりは曲げない。

 2時間くらい滞在するのは、この店ではごくありふれたことだ。「お昼過ぎにいらっしゃってカレーを注文し、本を読みながらコーヒーを楽しんで、日が暮れると夕食を食べ、食後にカクテルを飲む、なんていうお客様もいらっしゃいました。その方は、『おじゃましました』と言って帰っていかれたんですよ」。“ごちそうさまでした”ではなく、“おじゃましました”というのが、いかにもこの店らしい。高円寺の片隅に用意された、ひとりひとりの“部屋”。それが、『cafe apartment』なのだ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

cafe apartment

1.設計を担当したのは、大学で建築を専攻していたオーナー。狭さを感じさせないよう、目線を低くするなどの工夫がなされている。
2.座布団が苦手な人には、大きな窓際に設けられたソファ・イス席がおすすめ。道行く人々を眺めながらのんびりと過ごせる。
3.古本屋で手に入れた洋書や絵本が並ぶ。今や入手困難な大友克洋の「ヘンデルとグレーテル」もあり、これを目当てに訪れるファンも多い。
4.各テーブルには、紙製のランチョンマットと鉛筆が置かれており、自由に落書きが楽しめる。「みなさんが書いてくれたコメントや絵は、私の宝物です」。
5.牛すじ肉をじっくりと煮込んだ「トマトとチーズの焼きカレー」(1080円)。トマトの酸味と濃厚なチーズが一体となり、引き締まった味わいを生み出している。「キリンラガー(生ビール)」は600円。

cafe apartment

住所 東京都杉並区高円寺北3-2-15 明和ビル201

電話番号 03-3339-8339

営業時間 15:00~23:30(LO23:00)、土日祝は13:00~

休日 水

金額 コーヒー(ホット、アイス)500円、黒ごまきなこミルク650円、ホットワイン700円、ふわふわたまごのオムライス880円、おつかれご主人様セット1480円など

URL http://cafeapartment.com/


サイケデリックな内装になつかしのサウンド60年代にトリップできる気軽な喫茶&バー
喫茶・軽食 グリーンアップル

 真っ赤なソファと緑色のランプが主張する、サイケデリックな空間。丸みを帯びたブラウン管のテレビからは、なつかしのプログラムが流れる。ステージに鎮座するドラムセットは、グループサウンズ世代にはたまらないPEARLのバレンシア。ここにいるだけで、誰もが輝かしき“あの時代”へとタイムトリップできるだろう。

  『喫茶・軽食 グリーンアップル』のオーナーは、60年代をこよなく愛する鈴木美穂さん。「内装は、60年代の日本映画に出てくる喫茶店をイメージしました。あえて、垢抜けない雰囲気を狙ったんですよ」と話す。BGMも、ほぼすべてが60年代の曲。ビートルズをはじめ、ポップスやソフトロック、サイケポップなど、多彩な名曲が鳴り響き、1日中60年代の雰囲気に浸ることができる。

 それにしても、当時をリアルタイムでは体験していない鈴木さんが、なぜ60年代に惹かれるのか。素朴な疑問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。「日本の高度成長期だった60年代は、すべてにおいて勢いがあった時代だと思います。何にでもチャレンジし、どんどん成長していく感じが魅力ですね」

 看板イベントは、毎月第2・4水曜の夜8時から行われている“Go Go Apple!”。近田春夫&ハルヲフォンのドラマーが率いる専属バンド「恒田義見とゴーゴーアップルズ」が、洋楽ポップスからからグループサウンズ、アイドルロックまで、60~70年代のカバー曲を披露する。飛び入りで歌ったりタンバリンを叩く客もいるという、アットホームなイベントだ。客席からのリクエストもOKで、ライブチャージはたったの500円。この金額なら、あれこれ思い悩むことなく気軽に参加できるだろう。

 もうひとつ、忘れてはいけないのが人気メニューの「ナポリタン」だ。懐かしくも本格的な味わいは、打ち上げで訪れた某落語家からも絶賛されたとか。今宵は、“ゴールデン・エイジ”60年代の世界に出かけてみてはいかがだろうか。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

喫茶・軽食 グリーンアップル

1.音の跳ね返りが少ないため、スタジオのように美しい音が楽しめる。今年でオープン5年目。20代~60代まで、幅広く愛されている店だ。
2.PEARLのドラムセットをはじめ、楽器やスピーカー、アンプのほとんどはヴィンテージ品。ロックやアコースティックなど、さまざまなライブが行われている。
3.レトロなフォルムがたまらない、日本製のテレビ。1960~70年代のテレビ番組が放映され、ノスタルジーを誘う。
4.白いカウンターテーブルをはじめ、内装はすべて手づくり。ゆったりと過ごせるようにと、テーブルやイスの高さも計算されている。
5.リピーターも多い、大人気の「ナポリタン」600円。ひと皿ずつていねいに作るため時間はかかるが、待つだけの価値あり。「アンチョビ入りオリーブ」300円、「キリンクラシックラガー(中ビン)」650円。

喫茶・軽食 グリーンアップル

住所 東京都杉並区高円寺南4-9-6 第三矢島ビル2F

電話番号 03-5305-8086

営業時間 月・木・金16:30~深夜1:00、土・日・祝15:00~深夜1:00

休日 火・水(イベント・貸し切りの場合は営業)

金額 イベント開催時のみチャージあり

URL http://greenapple.gr.jp


老舗のトルコ料理レストランでベリーダンスの宴を堪能
ボスボラス・ハサン 新宿店

 世界三大料理のひとつに数えられ、今や都内のいたるところで味わえるトルコ料理。野菜と豆をたっぷりと使うことから、日本人にもなじみやすいヘルシーな料理といわれている。

 新宿三丁目にある『ボスボラス・ハサン』は、トルコ料理を日本に広めた先駆者だ。オーナーシェフのハサン・ウナルさんは14歳から料理人の道を歩み、イスタンブールでレストランを経営。1987年にトルコ料理店のシェフとして来日し、1993年には念願の独立を果たした。

 「当時の日本では、トルコという国もトルコ料理もほとんど知られていませんでした。オープン当初は大変で、お客さんが2、3人しか来ない日もあったくらいです(笑)。そこで、トルコ料理の味を守りながらも、塩や油を控えめにするなどの工夫を重ねていきました。その結果、少しずつお客さんが増えていき、1年半後には連日満席が続くようになったんです」と話す。

 メニューを開くと、その多彩さに驚かされる。スパイスをきかせた肉料理やなすやトマトがたっぷりの野菜料理に加えて、イワシやサバを使った魚料理も充実。定番の「ドネルケバブ」(1470円)はもちろん、羊肉の角切りといっしょに野菜を煮込んだ鍋料理「チョバン ガウルマ」(1470円)や、木の葉形の生地にチーズや挽き肉を包んだ「トルコピザ」(1575円)も試してみたい。

 毎週水・金・土の夜8:00~9:00の間には、ベリーダンスのショーも開催される。約25分間と短めだが、ショーチャージは無料。目の前で繰り広げられるダンスは激しくも官能的で、女性の美しさを再確認させてくれるだろう。今宵はエキゾチックな夜に、どっぷりと浸りたい。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

BOSPHORUS HASAN

1.店内は、アットホームな雰囲気。市ヶ谷店に2号店があるほか、11月には新宿三丁目に3号店がオープンする。こちらは、トルコ風パンやサンドイッチ、のびるアイスクリームなどを提供する、カジュアルスタイルの店になる予定。
2.壁を彩るタイルや絵皿、天井から吊り下げられた銅製のライトは、トルコから輸入したもの。イスタンブールのレストランにいるような、異国情緒に浸ることができる。
3-4.1~2名のベリーダンサーが登場。目の前で腰を振り、情熱的なダンスを披露する。ショーの日は混雑するので、事前の予約がおすすめ。
5.手前から、日替わりの前菜を盛り合わせた「キュチュック メゼ」1365円、豆のサラダ「ピアズ」880円、焼きたてパンの「エキメッキ」(1個210円)。「キリン一番搾り」630円とともに。

BOSPHORUS HASAN

住所 東京都新宿区新宿3-6-11第一玉屋ビル2F

電話番号 03-3354-7947

営業時間 17:00~23:30(土・日は11:30~14:30も営業)

休日 無休

金額 コース料理3150円~、ランチ840円~(土・日・祝のみ)

URL http://www.bosphorushasan.com/


最高レベルの音響設備と香り高いコーヒー 約30年間愛され続ける気さくな名曲喫茶
PIANO FORTE

 一見した印象は、オフィス街にあるごく普通の喫茶店。通りすがりの人々は、ここが歴史ある名曲喫茶だとは気づかないだろう。

 だが、そこに鎮座する名器を目にしたとき、音楽ファンなら誰しも感嘆の声をあげるに違いない。マッキントッシュの“XRT-22”と“MC2600”という、至高の組み合わせ。店内には1000枚前後のCDやDVDが並び、かぶりつきで楽しむことができる

 「音質はクリアで、とにかくスケールが大きい。とくに室内オーケストラのCDを聴くと、演奏が目の前で再現されているような感覚が味わえます。ビバルディの『四季』などは、楽器の位置まで分かるくらいなんですよ」と教えてくれたのは、マスターの中村哲也さん。なるほど、目を閉じると、オーケストラが自分のためだけに演奏してくれているような錯覚に陥る。スピーカーに対峙して座り、集中して聴いている客が多い、というのも納得だ。

 店名に“炭火焙煎珈琲”と銘打っていることからも分かるように、コーヒーのクオリティも相当なものだ。「昔からコーヒーが好きだったから、店ではおいしいものを出そうと決めていました。大切なのは豆の品質と鮮度です」と中村さん。神戸の老舗・萩原珈琲から取り寄せた新鮮な豆を、淹れる直前に挽く。決して手を抜くことなく、慈しむように淹れる手つきからは、コーヒーに対する愛情と熱意が見てとれるだろう。苦味と甘味のバランスが絶妙な「アイリッシュ・コーヒー」や、フワフワに泡立てた生クリームがたっぷりとのった「コーヒーゼリー」も、隠れた人気メニューだ。

 『ピアノフォルテ』の歴史は1979年、杉並・西永福から始まった。その後赤坂、奥沢、新宿6丁目と移転を重ね、現在の場所に腰を下ろしたのは2007年3月のこと。靖国通り沿いにあり、堅苦しさとは無縁のゆるりとした空間だ。仕事帰りに、あるいは休日の午後に、ふらりと訪れてみてはいかがだろうか。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

PIANO FORTE

1-2.マッキントッシュの名器が置かれているのは、入口を入って右側の席。左側の席は一般の喫茶店と変わらない雰囲気で、打ち合わせをするサラリーマンなどで賑わっている。音楽ファンなら迷わず、入口を入って右側の席を確保したい。
3.32インチも大型モニターも設置。コンサート映像などをDVDで楽しめる。
4.店の中央にあるのは、ダイヤトーンとNHKが共同開発した “2S‐305”。日本製スピーカーの傑作と呼ばれており、専門家からの評価も高い。
5.「炭火焙煎珈琲」500円と「アイリッシュ・コーヒー」600円。「自家製マドレーヌ」1皿(2つ)200円は、創業当時から変わらない優しい味わいだ。

炭火焙煎珈琲 ピアノフォルテ

住所 東京都新宿区新宿1-34-10 合川ビル2F

電話番号 03-6303-7937

営業時間 9:30~20:00、土・祝11:00~19:00

休日 日

金額 珈琲・紅茶500円、カフェ・オ・レ600円

URL http://piano79.hp.infoseek.co.jp/


40余年の歴史を誇る老舗タブラオで本場のフラメンコショーに魅せられる
EL FLAMENCO

 光と影をまとい、ダンサーは踊る。ステップに情熱を込め、指先までエネルギーをみなぎらせながら。かき鳴らされるギターの音色、熱きかけ声と手拍子、そして魂に満ちた歌声が、見る者の心を揺り動かす。

 ここで繰り広げられているのは、いわゆる観光客向けのショーではない。妥協を許さないアーティストたちが本気でぶつかる、本物のショー。1時間の間、誰もがステージの熱に吸い寄せられ、異空間に引き込まれていく。

 「エル・フラメンコ」は1967年12月にオープンした、日本一の歴史を誇るタブラオだ。フラメンコの流行を受けて、都心にはさまざまなタブラオが生まれては消えて行った。そんな中で長く生き残っていけたのは、「質のいいフラメンコをリーズナブルに楽しめる店」というごくシンプルな信条を守り続けたからだ。

 クリスティーナ・オヨスやホセ・ミゲルなど、今や世界的に有名なアーティストも、かつてはここのステージに立っていた。スペイン旅行帰りの客が「現地で見たショーより数倍良かった」という感想を漏らすことも、珍しくはないという。

 ショーだけでなく、スペイン料理のフルコースディナーが楽しめるのもこの店の特徴。本場スペインの食材を使った料理の味には定評があるが、できればショーが始まる前にメインディッシュまで食べ終えておきたい。ショーに夢中になって、料理の味が分からなくなってしまう危険性があるからだ。

 取材当日、ステージにはメルセデス・アアマジャとカリメ・アマジャの母娘が立っていた。自信と誇りに満ちた彼女たちの踊りに、客席はざわめき、歓声が沸き起こる。店を出たとき、自分がどこか遠くの地を旅してきたかのような錯覚に襲われた。新宿駅から歩いて5分の場所で味わえる小トリップに、また出かけてみたい。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫 

EL FLAMENCO

1.出演者は半年ごとに交替する。ステージは1日2回。水曜を除く毎日、スペイン人アーティストが出演する(水曜は日本人アーティスト)。
2.客席とステージの距離は最大でも10メートル程度。最前列の良い席はすぐに埋まるので、早めに電話で予約したい。
3.4.カーブを多用した空間は、本場スペインのタブラオを思わせる雰囲気。鮮やかな色合いの絵皿が、白い土壁に映える。
5.イベリコ豚の生ハムやラ・マンチャのチーズ、チョリソなど、本場スペインの味が楽しめる。一番搾り(小ビン)は756円。ほかに、約10種類のスペインワインも揃う。

EL FLAMENCO

住所 東京都新宿区新宿3-15-17伊勢丹会館6F

電話番号 03-3356-3816

営業時間 11:30~14:00、18:00~22:30 ショータイムは1回目19:00~(お食事18:00~)、2回目21:00~(お食事20:30~)

休日 無休

金額 ディナーセット6500円、8000円、1万円、タパスセット4500円(2回目のショー限定)※すべてショーチャージ、サービス料、消費税込み

URL http://www.miyoshi-grp.com/cardinal/el/


外見はクール、中身はホット 地元人にも愛される地域密着型カフェ
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 高円寺駅南口からまっすぐに伸びる高南通り。車の往来が絶えないこの道を15分ほど歩いた先にある小さなカフェ。木とメタルを融合させた直線的なインテリアは、スタイリッシュでクール感も抜群。一見するとお洒落なカフェという印象をもたらすが、この店の魅力はファッション性だけにとどまらない。若い人に混じって、お年寄りや家族連れの姿もちらほら。年代を問わず地元の人々が通う、地域密着型のカフェなのだ。
 幅広い人々に愛される理由は、この店が持つ安心感にあるだろう。お昼どきから深夜遅くまで、いつ訪れても温かい食事とドリンクが用意されている。カウンターとテーブル席からなる店内は、狭すぎず広すぎず、ちょうどよい広さ。スタッフはいつでも気さくな笑顔で迎えてくれるから、コーヒー一杯で長居してもバツの悪い思いをすることはない。
 ディナータイムになると、グランドメニューとは別に、日替りのおすすめメニューが登場する。例えば、「本日の鮮魚のアクアパッツァ」、「季節野菜のバーニャカウダー」「マンゴーとココナッツのパルフェ」など、カフェとは思えない本格的なラインナップ。その日に仕入れた新鮮な魚や野菜、フルーツを使い、イタリア料理店での経験を持つシェフが本格的な料理に仕上げてくれる。
 音楽制作を手がける会社(MARBLETRON MUSIC)が経営しているカフェとあって、BGMにもこだわりが強い。ジャンルや年代は問わないが、少しだけ変化球。最新のアシッドジャズやジャズ調のヒップホップなど、「できるだけみんなが聴かない曲」をセレクトしているという。
 音楽が空間に溶け込み、そこにいる客や料理、お酒と交じり合うにつれて、店は活気を帯びていく。お洒落なインテリアに料理、音楽、そして居心地のよさ。すべてが揃ったカフェは、ありそうでなかなか見つからないもの。こんな店が近くにある高円寺の住民は、幸せ者に違いない。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

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1.デザインは、エグジットメタルワークサプライ(現ライン)の勝田隆夫氏。日本を代表するインテリアデザイナーとして知られている。
2.雑誌や本も置かれ、ひとりで来ても楽しめる。2階にDJイベントや展示会などが行われるサロンもある。
3.4.スタイリッシュなインテリアと手作り感覚がミックスされているのも魅力。。
5. 新鮮な大山鶏のレバーにポルト酒の風味をきかせた「大山鶏のレバーペースト」780円。「ハートランド生ビール」530円とともに。

HERE WE ARE marble

住所 東京都杉並区高円寺南2-14-2

電話番号 03-5934-8200

営業時間 12:00~翌0 :00、火~23:30、金・土・祝前~翌2:00

休日 水(祝日の場合は翌日休)

金額 オリジナルアイスティ530円、カプチーノ580円、骨付き鴨モモ肉のコンフィ ポテト添え1300円

URL http://www.marbleweb.net/cafe/


深夜遅くまでゆるりと過ごせる  高円寺らしい個性溢れる店
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 “カフェ”ではなく、“カフェガレージ”と名乗ることに、この店のこだわりが見て取れる。一面ブルーで塗られた壁に、天井からぶら下がったヴェール。4人は座れそうな革張りのソファもあれば、ひなびた温泉旅館を思わせる一人掛けの椅子もある。
 椅子やテーブルなどのインテリアは、スタッフが高円寺近辺のリサイクルショップなどから集めたもの。古いものに手を加えることで、世界にひとつしかない味のある家具を生み出した。ひとつひとつがバラバラで、ごちゃごちゃ。なのに居心地がよく、つい長居してしまうから不思議だ。
 足をのばしてゆったりと過ごしたい向きには、ゴザが敷かれた座敷席が用意されている。田舎の親戚の家に遊びに来たような、懐かしい空気感。傍らに置かれたゲーム類、そして本棚に並ぶ幾多の漫画本からは、「どうぞ自由に遊んで、好きなだけくつろいでください」というスタッフの声が聞こえてくるようだ。
 薄暗い明かりに包まれ、誰にも邪魔されることはない。そんな緩やかな時間のスパイスとなってくれるのは、スタッフが選んだBGMだろう。ジャンルは、スカやレゲエ、R&B;などさまざま。一人でくつろぐ方が多く静かなとき、グループでの会話が弾み賑やかなときなど、お店の雰囲気に合わせて選曲している。もともと、音楽を愛する仲間たちが始めた店とあって、選曲眼は確かだ。
 フードメニューもバラエティ豊かだ。サラダやおかずを盛り合わせた「日替わりデリDELIプレート」ドリンク付き880円や「サラダプレート」750円などのランチメニューは、夕方5時半まで提供。深夜遅くでも、しっかりとした食事が用意されている。オーダーされてから焼くパイなどのスイーツや、「自家製ジンジャーエール」570円にもファンが多い。
 1人でふらりと出かけて遅めのランチを取るもよし。仲間と飲みながらゲームで盛り上がるもよし。いつ行ってもどんなシチュエーションでも快く迎えてくれる、懐の深い店だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

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1.席の間隔が広く、スペースを贅沢に使うことができる。コーヒー片手に読書をしたり、何もせずダラダラしたり。自分の尺度で過ごせるのが嬉しい。
2.靴を脱いでリラックスできる座敷席。ボードゲームやカードゲーム、ルービックキューブなどが置かれ、自由に遊べる。
3.お店の空気を読んでスタッフが選曲するBGMは、心地よい雰囲気を創り出している。
4.スタッフがセレクトしたCDが並ぶ。店では自主レーベル「Swingin’ Dog Records」も運営。2枚のオムニバスアルバムを発売している。
5.「日替わりデリDELIプレート」880円(ドリンク付)は、17時30分までのランチタイムに提供。「ハートランド」とのセットは1280円。

cafe garage Dogberry

住所 東京都杉並区高円寺北3-24-6 2F

電話番号 03-3337-1651

営業時間 11:30~翌5:00

休日 無休

金額 カフェラテ580円、黒ゴマきなこハチミツラテ580円

URL http://dubing.m78.com/dogberry/


築50年の民家を3年がかりで再生 旅への愛情が詰まった“手作り”のカフェ
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 敷地190坪の高台に建つカフェ&ギャラリー。店内にはセンスのよい骨董品が並び、テラスからの見晴らしも素晴らしい。だが、ここは単なる“お洒落系カフェ”ではない。世界を旅するフォトエッセイスト・白川由紀さんが、文字通り“イチから”作り上げた店なのだ。
 この場所にはかつて、2軒の民家が並んでいた。一軒は白川さん自身が育った築30年の家で、もう一軒は祖父母が暮らした築50年の家。「ボロボロになっていた家たちをなんとかしたい。そう思って、四国で素敵なカフェを経営している友人に相談したら、『じゃあ自分で作りなおしちゃえば?』と言われたんです。家の知識なんてまったくなかったのに、『家を建てるなんて、プラモデルと一緒』という友人の言葉を真に受けてしまって(笑)」。
 かくして、建築の素人が家を建てる、という途方もない計画がスタートした。近所に住む友人や旅先で知り合った世界各国の仲間に助けられながら、足かけ3年。ごく普通の民家は、どこにもない独特な空気を持つカフェ&ギャラリーに生まれ変わった。
 店内に飾られた骨董品の正体は、白川さんが世界各地で見つけてきた“ヘンなもの”。カメルーンの子宝祈願地蔵や、ナイジェリアの招き猫、シマウマの本革など、他ではなかなかお目にかかれないものばかりだ。スタッフが心を込めて作った料理を味わいながら、旅の計画を相談してみるのもいいだろう。
 毎月第3土曜にはライブを開催している。ラテン音楽やアイヌ音楽、中南米のハープ“アルパ”、モンゴルの“のど笛”など、こちらも個性的。夏になると、テラス席の芝生を舞台にファイヤーダンスのショーも行われる。「タヒチやモルディブでもファイヤーダンスを見てきましたが、ここのパフォーマンスは迫力が違います。本当におすすめですよ」と白川さんも太鼓判を押す。
 アクセスは、決して良好とはいえない。八王子市にある高尾駅から歩いて13分、車なら5分程度(駐車場4台あり)。それでも、時間と手間を費やして出かける価値はありそうだ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

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1.築50年の家がカフェに変身。店のデザインは、アーティストである白川さんの友人が担当した。奥には、青々とした芝生が広がるテラス席がある。
2.店内では、手作りのガラスアクセサリーや、各地から仕入れてきた雑貨なども販売。一点モノに出会えるかもしれない。
3.店名はアフリカ・チャド族の言葉で“生命の希望”という意味。「原始のパワーを持ち帰って欲しい」という白川さんの願いが込められている。
4.ネパールのスパイスをふんだんに使った「ベンガルオムカレー」1000円「ハートランドビール」650円。セットで頼むと1600円になる。
5.年間の半分を海外で過ごしているオーナーの白川由紀さん。世界の秘境を訪れるツアーのコーディネーターとしても活躍している。

The story cafe & gallery TOUMAI

住所 東京都八王子市館町657  

電話番号 042-667-1424

営業時間 11:30~21:00

休日 月

金額 イベント時のみチャージ1500~2500円

URL http://toumai.jp/


珍しいペルシア料理と妖艶なベリーダンスの共演f
レストラン&バー ボルボル

 世界中の料理が味わえる美食の都市・東京においても、ペルシア料理を食べさせてくれる店は極めて少ない。一体どんな料理なのか、想像すらつかないとう人も多いだろう。「だからこそ、せっかく食べにきてくれた方々にペルシア料理の美味しさを知って欲しい」とオーナーシェフのホセ・ボルボルさんは言う。
 イラン出身のボルボルさんが来日したのは、17年前のこと。新宿にあるイタリア料理店のシェフを経て、5年前に念願だったペルシア料理店をオープンさせた。ビールとの相性がいい“ペルシア版おふくろの味”と、日本人の奥様とともに作り出すアットホームな雰囲気が魅力だ。
 メニューは、煮込み料理やケバブが中心。羊肉とレッドビーンズをパセリとハーブで煮込んだ「ゴルメザブジィセット」1180円や、鴨肉とクルミのざくろソース煮込み「フェセンジャンセット」1180円など、リーズナブルな価格も嬉しい。いずれも、イランから取り寄せたスパイスやハーブをふんだんに使った、本場顔負けの味わい。セットに付くナンも、注文のたびに生地を伸ばして焼き上げるというこだわりようだ。
 毎週金・土曜の夜9時からは、ベリーダンスのショーを開催。チャージが無料ということもあり、ほとんど毎回満員になるほどの盛況で、店は熱気に包まれる。もうひとつ、不定期で行われるライブも好評だ。こちらはチャージ2500円~(1ドリンク付、ライブにより異なる)が必要だが、イランやトルコなどの珍しい楽器を使った演奏と歌が目の前で繰り広げられ、エキゾチックな世界へと誘ってくれる。
 食事の後には、水たばこ「ガリユン」1500円がおすすめだ。“水たばこ”といってもニコチン、タールをほとんど使用していないため、タバコ嫌いの人でも安心して楽しめるだろう。オレンジ、バニラ、コーヒー、ココナッツなど10種類以上のフレーバーから好きなものを選び、フィルター代わりの水を通して香りを楽しむのがペルシア流。時間をかけてゆっくりとふかしながら、遠きペルシアの地に思いを巡らせたい。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

レストラン&バー ボルボル

1.床にはペルシア絨毯が敷かれ、壁はイランの布や絵画で彩られている。イランの写真集などの書籍もあり、異国のムードたっぷり。
2.400年の歴史を持つイランの打弦楽器“サントゥール”は、旅情を誘う美しい音色。ライブでは、歌や太鼓とともに演奏される。
3.「ケバブクゥビデ(ビーフ&ラムのミンチ肉串焼き)セット」1300円は、ナンまたはライスとスープが付く。「キリンラガー 生ビール」は450円。
4.スパイスを効かせた「チャイ」250円は、角砂糖をたっぷり入れて味わいたい。イランから取り寄せた食器も美しい。
5.オーナーシェフのホセ・ボルボルさん。

レストラン&バー ボルボル

住所 東京都杉並区高円寺北3-2-15-2F 

電話番号 03-3223-3227

営業時間 12:00~翌1:00(LO0:30)

休日 水

金額 チェローモルゴ(カリカリニンニクとトマトソースをかけたチキングリル、ライス付き)1180円、BolBolサラダ550円、エフェス(トルコビール)700円

URL http://bolbol.jp/


台湾茶とアート、音楽が融合した居心地のいい場所
バードソングカフェ

 春には桜、秋には銀杏並木が道行く人々を楽しませてくれる、国立の街。豊かな自然に恵まれたこの街は、20軒近くのアートギャラリーが並ぶ芸術の街でもある。
 駅から歩くこと5分、2007年6月にオープンした「ギャラリーカフェ亀福」は、緑濃い住宅街に溶け込んだくつろぎのスペースだ。扉を入って左側にあるのが、アジアンムード漂うカフェ。中国や台湾の骨董品に囲まれながら、ゆったりとしたソファに腰を沈めていると、時が過ぎるのを忘れてしまいそうになる。
 メニューにはコーヒーもあるが、お勧めはやはり現地から取り寄せた台湾茶だろう。オーナーの彩さんは、台湾から移住してきた二世。子供の頃から、親戚から送られてくる本場の台湾茶に親しんできたという。「台湾茶の質は本当にピンキリなんです。だからここでは、私が飲んでおいしいと思うものだけを選ぶようにしています。良いお茶というのは、二煎目、三煎目でもまろやさが続くものなんですよ」と教えてくれた。
 ゆっくりとお茶を楽しんだら、右側にあるアートギャラリーを訪ねてみたい。窓越しに緑が広がり、自然光が差し込むアートギャラリーは、作品の魅力を引き立ててくれる。絵画や写真、陶芸、フラワーアレンジメントなど、多種多様な芸術を気軽に楽しめるだろう。
 月に一度の週末には、サロンコンサートも開催している。ステージに立つのは、プロのハープ演奏家として活躍しているオーナーの娘さん。日によってマリンバやフルート、ヴィオラ、ソプラノなども加わる。台湾茶を飲みながらプロの演奏を間近で聴ける贅沢なコンサートとあって、毎回満員となる盛況ぶりだ。
 おいしい中国茶とアート、そして間近で聴く美しい音楽。三者が融合した空間は、落ち着いた大人の街にぴったり。国立散策の際に、ぜひ立ち寄りたい店だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

バードソングカフェ

1店のインテリアや茶器のデザインは、デザイナー・画家として活躍しているオーナーの息子さんが手がけた。
2上海で買い付けたステーショナリーや店内で使っている茶器、台湾茶などを販売。オリジナルの茶器は、引き出物としても人気だ。
3茹でた小豆、蓮の実、クコの実、緑豆、百合根にバニラアイスをトッピングした「あまぁのおやつ」。本日の台湾高山茶とセットで850円。
4木・金・土曜日の夜のみ提供されるキリンクラシックラガー(小瓶)600円。おつまみの内容は日替わり。

ギャラリーカフェ 亀福

住所 東京都国立市東1-14-21グリーンライフ国立

電話番号 042-573-3580

営業時間 10:30~19:30(木・金・土のみ23:00まで営業)

休日 水

金額 サロンコンサートは台湾茶と菓子付きで2500円

URL http://www.kamefuku.info/


北欧の空気感を伝えるカフェが吉祥寺の“北欧ストリート”に出現
カフェ モイ

 吉祥寺の中でも静かな一角にある大正通り。この通りは近年、“北欧化”が著しい。北欧の雑貨や玩具などでも人気の「サンク・プリュス」や「ニキティキ」、スウェーデン料理店の「アルゴット」。また、程近くには「マリメッコ」もオープンした。北欧ファンならすぐにでも駆けつけたくなるほど魅力的な店が並ぶこの通りに、2007年12月、新たなカフェが仲間入りした。 
 北欧カフェ「moi」はもともと、荻窪の住宅街で5年間にわたって愛されてきたお店。大正通りに移転した後も、店の雰囲気はほとんど変わっていない。白を基調にした店内で存在感を放つのは、フィンランドの建築家アルヴァー・アールトの椅子。使い込まれたその椅子に深く腰掛けつつ窓の向こうの緑を眺めていると、遠く北欧から木々のざわめきが届き、ひんやりとした空気が頬を撫でた気がした。
 「北欧の家具をごちゃごちゃと飾るのではなく、のんびりとした居心地のよい空気感を伝えたかった。だからあえてシンプルに、必要最小限のものだけで構成したんです」と話してくれたのは、店長の岩間洋介さん。北欧の中でも、とりわけフィンランドが性に合うという。「フィンランドの人々はシャイで、こちらを気遣ってくれる。フィンランドにいると落ち着けるのは、彼らが日本人と近いメンタリティを持っているからだと思います」
 同じくフィンランドを愛する徳島の自家焙煎コーヒー店「アアルトコーヒー」から取り寄せる豆は、苦みが強くて濃厚な味わい。注文後に豆を挽き、ペーパードリップで一杯ずつ丁寧に淹れる。流れる音楽はジャズやクラシック、ボサノヴァ、北欧ポップスなどさまざま。薄くやわらかな音量で店の空気に溶け込み、コーヒーを淹れる音や食器がぶつかる音、人々の話し声と混じり合っていく。
 「この店に心地よさを感じる人は、きっと北欧との相性がいいはず」と岩間さん。北欧ファンならずとも、吉祥寺の“北欧ストリート”巡りを楽しんでみてはいかがだろうか。

取材・文/渡辺裕希子 写真/関根則夫

カフェ モイ

1日本の建築家やデザイナーが、それぞれのフィルターを通した北欧を表現。シンプルで温かみのある空間をつくりあげた。「moi」とはフィンランド語で「やあ!」の意味。「フィンランド語教室」や「旅講座」などのイベントも開催している。
2入口にポストカードショップ「kortti」を併設。ここでカードを買い、カフェでお茶を飲みながらメッセージをしたためる人も多い。
3そばに置くだけで心の温度を上げてくれる北欧の雑貨たち。使いやすくて丈夫なところも、魅力のひとつ。
4フィンランドの家庭の味を再現したシナモンロール150円(平日限定)は、味わい深く甘さ控えめ。深煎りのブレンド550円とともに。

moi[カフェ モイ]

住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-28-3 グリー二イ吉祥寺1F

電話番号 0422-20-7133

営業時間 月・水・木12:00~21:00、金・土・日・祝12:00~20:00

休日 火

金額 カフェオレ600円、サーモンの北欧風タルタルサンド800円、おやつセット500円

URL http://www.moicafe.com/


陽気でおおらかなブラジルの雰囲気そのまま 家庭料理と音楽に包まれたカフェ
バードソングカフェ

 西荻窪駅から歩いて10分の、静かな住宅街に佇む「copo do dia」。この店の壁には2枚の写真が飾られている。1枚は古びたモノクロームの写真で、もう1枚は真新しいカラー写真。時代は異なるものの、まったく同じ場所で撮影された写真だ。
「この場所は、母が昔暮らしていたブラジルのサント・アンドレという町です。モノクロームの方は1965年に撮影されたもので、当時の自宅と母が映っているんですよ」と教えてくれたのは、ご主人の伊藤正弘さんとともにオーナーをつとめる知子さん。昨年、知子さんが同じ場所を訪ねた際に撮影されたのがもう1枚のカラー写真、というわけだ。
 母親からブラジルの思い出話を聞いた記憶はほとんどない、という知子さん。しかし、遺品を整理しているときに偶然見つけた一冊のノートが、ブラジルへの思いを駆り立てた。「ノートには、母が現地の料理教室で習った料理やお菓子のレシピがたくさん書いてありました。これを再現してお店で出してみよう、と思ったんです」
 ブラジル中で愛されている軽食“パステウ”や、日本人向けに甘さを抑えた“バナナケーキ”など、メニューには素朴ながらも本格的な“おふくろの味”が並ぶ。店で流れる音楽も、もちろんブラジルが中心。店内には中南米音楽のCDが並び、備え付けのウォークマンで自由に試聴することもできる。CDのラインナップは毎月変わるため、何度訪れても飽きることはない。
 ときには、ボサノバ、サンバ、ジャズなどのライブや、ポルトガル語講座も開催している。なかでも好評を集めているのが毎月1度開かれている「サンバリトミック」。飲食を楽しみながらバンディロ、タンボリン、ガンザなどのパーカッションを教わる、参加型のイベントだ。
 バリスタの資格を持つオーナー夫妻が淹れるコーヒーも、楽しみのひとつ。「コーヒーを飲みながら、1日中音楽を聴いているお客様もいらっしゃいます。自分の部屋のように楽しんでいただければ嬉しいですね」。ブラジルのイメージそのままに、おおらかで暖かい雰囲気に包まれた店だ。

取材・文/渡辺裕希子 写真/田頭真理子

バードソングカフェ

1.店名はポルトガル語で「コップが毎日変わる」という意味。その名のとおり、コーヒーカップや器のデザインはひとつひとつ異なっている。
2.椅子はすべてアンティークで、デザインもさまざま。「何度来ても楽しんでいただける場所にしたい」という伊藤夫妻の願いが込められている。棚に並ぶCDは、中南米のCDを扱うインターネットショップ「MPB store」が提供。試聴はもちろん、その場で購入も可。
3.小麦粉の皮で挽き肉とチーズを包んで揚げたパステウ450円と、ブラジル風ハツ焼きのコラサォン450円。ブラウマイスターは600円。
4.周囲は閑静な住宅街。ブラジル音楽ファンはもちろん、ふらりと訪れる近所の常連客も多い。

copo do dia

住所 東京都杉並区西荻北4-26-10-103

電話番号 03-3399-6821

営業時間 月~木・祝12:00~20:00、金・土・日12:00~24:00

休日 水・第3火

金額 ライブ、イベント開催時にはチャージあり

URL http://homepage2.nifty.com/copo/


吉祥寺の音楽文化を牽引してきた立役者 往時の流儀「私語厳禁」を守り続ける名曲喫茶の老舗
クラシック音楽鑑賞店 バロック

 今や“ジャズの街”というイメージが強い吉祥寺。しかしその昔は名曲喫茶が数多く立ち並び、また文化的な街としても知られていた。かつては大岡昇平の小説にちなみ「武蔵野夫人的街」とも称され、金子光晴などの文豪らも、この街で育った。
 クラシック音楽鑑賞店「バロック」は、そんな吉祥寺に、昭和49年に創業。以来、隣に店を構えるジャズ喫茶の雄「MEG」とともに親しまれてきた。しかし時代の流れに伴い、次第に街の様相は変化。吉祥寺は若者の街へと変わり、周辺のエリアも歓楽街へと変貌していった。名曲喫茶が次々と店を閉める中、「バロック」は「吉祥寺を守りたい」という強い信念のもと、往時と変わらぬスタイルで、この街の文化を守り続けているのだ。
 店の流儀は創業当初と変わらず。座席は、まるで教室のように、スピーカーに向かって同じ方向に並べられている。もちろん私語は厳禁。読書や書き物をしてもいいが、自分のリクエストがかかっている間は、それもご法度。ほかの街の名曲喫茶が、次々と私語解禁するなかにあって、あくまでも往時のスタイルを踏襲し続けている。偏屈な店と思う人もいるかもしれない。しかし“あの頃”となんら変わらない店の存在に、心癒される大人達は多いのだ。
 真空管のアンプは、先代のマスター中村数一氏が手作りしたもので、やわらかな音色が特徴だ。店内にはイギリス製のスピーカーが2組あり、かける曲によって使い分けている。たとえばエルマン愛奏曲集のような、繊細でやさしい調べには、タンノイを使用。一方、オーケストラのレコードをかける際には、ヴァイダボックスを使い、迫力の重層的な音を楽しむ、という具合だ。アナログレコード特有の温かみのある音色は、自宅の小さなステレオで聴くのとは比べものにならない。まるで空気が震えるような臨場感溢れる音で、演奏家の息遣いまで聞こえてくるかのよう。ここに来れば、至福の音楽に包まれ、ひとりになることができる。大人の秘密基地のような一軒。

取材・文/高橋かおり 写真/須藤夕子

クラシック音楽鑑賞店 バロック

1.それぞれの曲の特徴に合わせ、「タンノイ」と「ヴァイダボックス」を使い分けている。
2.劇場などで使われていた真空管を用い、先代マスター中村数一さんが手作りした真空管アンプ。
3.レコードは6000枚ほど所蔵。その時かけているレコードは、ホワイトボードで確認できる。持参したレコードをかけてくれることもあるが、レコード針を守るため、スプレーなどの薬剤を使用せず、ガーゼで手入れしたレコードのみの対応。
4.ブレンド800円。追加注文は半額で。創業以来変わらぬ豆を使っている。水はNASAでも使用しているという浄水器を通しており、やわらかくまろやかな味わいが魅力。
5.現在店を守るのは、先代マスターの奥様、中村幸子さん。彼女を慕って通うお客さんも多い。

クラシック音楽鑑賞店 バロック

住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-31-3 みそのビル2F

電話番号 0422-21-3001

営業時間 12:00~22:00

休日 火・水

金額 ブレンドコーヒー800円、紅茶800円、ココア900円、ミルク800円、オレンジジュース900円、 追加は半額

URL なし


街とともに歩んできた、国分寺の名物喫茶f
でんえん

 大正13年に建てられた米蔵を増改築した「でんえん」は、昭和32年の創業。今年の4月に50周年を迎えた名曲喫茶の老舗だ。
「何だか変わったお店でしょう? 店の前を通っても5人中4人は入って来ないわよ」
 一人で切り盛りする新井冨美子さんが笑いながら話すものだから、こちらもつられて笑ってしまった。  30席ほどの広さの店内は、一時、漫画家の溜り場になっていたこともあったようで、『ゴルゴ13』の作者、さいとう・たかをや、『漫画家残酷物語』の永島慎二らが顔を出していたという。取材中も近所の常連さんとおぼしき人が、次から次へと入って来て、その一人一人に新井さんが丁寧に話かける。人が集まるわけだ。
 それにしても中央線沿線には、なぜ独特の雰囲気が漂う喫茶店が多いのだろうか。
「現在のことは知りませんよ。だけど昔は、下町は商売の街、山手は高級住宅地でした。そして中央線沿線は生活の街だったんですよね。普通の生活をしている人が、暮らしの中でゆとりをもって音楽を聴いていた。そんなスペースが日常にあったということでしょうね」
 その店に行けば必ず出迎えてくれるマダムと、店に集う街の人々とが、どこか懐かしい店の雰囲気を創りだしているのだろう。

取材・文/森澤郁夫 写真/岡村智明

dでんえん

1.さまざまなオーナメントや絵画が飾られ、独特の雰囲気を醸し出している店内。
2.手づくりのスピーカー。店内にはカウンターの上にも劇場用の大型スピーカーが備えられている。ジャズやヒーリング音楽が流れることも。
3.CDのほかレコードは約1000枚収蔵。手書きのリストを見ながらリクエストも可。音源の持ち込みも可能で、レコードプレーヤーのカートリッジはオルトフォンSPUクラシックG。
4.お店の名物、コーヒーと自家製レアチーズケーキのセット800円。

でんえん

住所 東京都国分寺市本町2—8—7

電話番号 042—321—2431

営業時間 12:00~20:00

休日 木曜

金額 コーヒー450円、紅茶450円、ココア500円、自家製レアチーズケーキ450円、ワイン(ボトル187ml)800円、ウイスキー(シングル)500円

URL なし


名曲喫茶の文化を守り続ける老舗サロンやギャラリーとしても人気
名曲喫茶ミニヨン

 「名曲喫茶ミニヨン」が荻窪駅北口に誕生したのは、名曲喫茶が流行し始めた1961年のこと。現在の場所である南口のビルに移転したのは、1971年である。創業者の深澤千代子ママによると、店の名前はトマ作曲のオペラの主人公「ミニヨン」と、お店が小さいことを掛け合わせて名づけられたという。
 長く愛されてきた深澤ママが94歳で亡くなった後は、3人の女性スタッフと常連のお客さんたちが力を合わせて店を支えている。「2代続いている名曲喫茶って、珍しいでしょ?」と話すのは、深澤ママと30年以上にわたって苦楽をともにしてきた小林真理子ママ。名曲喫茶ブームが過ぎ去った現在も、昔ながらの文化を残すべく日々奮闘している。「親子2代で通ってくださる常連の方もいらっしゃいます。店の中には、誰がどこから持ってきたか分からないものがあちこちにあるんですよ(笑)。歴史がある店というのは、本当に面白いですよね」
 レコードのコレクションは、5000枚以上。リクエストをする際は、カウンターに置かれた手書きのリストブックの中から聴きたい曲を選び、曲名と作曲者名をノートに書き込む仕組みだ。好きなレコードに熱中する往年の音楽ファンもいれば、ゆっくりと本を読みながら2人の時間を楽しむ若いカップルもいる。誰にも邪魔されずに過ごせる自由さが、さまざまな客層を惹き付けている。
 サロンでは、コンサートも開催。30年間にわたって毎月続いているカルテットのコンサートをはじめ、毎月1回、日曜日にはコーヒーを飲みながらクラシックを楽しめるイベントも開かれる。昔はマニアが静かに音楽を聴く場所だった喫茶室奥のスペースは、ギャラリーに変身。写真や絵画などを発表できる場として、広く提供されている。
 2001年には、開店40周年を記念してリニューアルオープンした。シンプルなインテリアでまとめられた店内には観葉植物が置かれ、昼間は明るい光が差し込む。「ただ古びていくのと、古い雰囲気を残すことは違う。歴史ある店の雰囲気を残しつつも、女性らしい清潔感は大事にしたい」と小林ママ。開店から46年が過ぎた今も、店は進化し続けている。

取材・文/渡辺裕希子 撮影/岡村智明

名曲喫茶ミニヨン

1.カウンター越しに、5000枚ものLPレコードがずらりと並ぶ。スピーカーは「タンノイGRF」。
2.リストブックは深澤千代子ママによる手書き。「古くなったから書き直そうとしたんですが、みんな途中で挫折しちゃうんです」と小林ママ。
3.サロンの奥にあるギャラリースペースは、絵画展や写真展のスペースとして貸し出している。
4.カプチーノ550円とパウンドケーキ250円。ケーキはしっとりとした食感で甘さは控えめ。
5.キリンラガービール(中)700円とミックスナッツ400円。2つセットで頼むと1000円になる。

名曲喫茶ミニヨン

住所 東京都杉並区荻窪4-31-3 マルイチビル2F

電話番号 03-3398-1758

営業時間 11:00~22:00、日曜日のみ11:00~19:00

休日 水

金額 ブレンド・コーヒー450円、カフェ・モカ550円、ホット・レモネード480円、本日のケーキ350円、ハイボール(シングル)600円

URL http://members.jcom.home.ne.jp/stmera/mignon/


VIOLON、世界最大級の蓄音機が奏でるクラシック本物の音を伝え続ける数少ない名店
VIOLON、ヴィオロン

 2005年1月、多くのファンに惜しまれつつ幕を下ろした伝説の名曲喫茶「中野クラシック」。この店に、学校そっちのけで通いつめていた一人の少年がいた。現在、阿佐ヶ谷で名曲喫茶「ヴィオロン」を営んでいる寺元健治さんだ。
「当時はお金なんて全然なかったけど、ラジオ少年だったからオーディオの知識だけは少しあったんですよ。あるとき、『中野クラシック』のアンプを全部作りなおしたことをきっかけに、マスターの美作七郎さんがごはんを毎食食べさせてくれて、いろんなことを教えてもらいました。いい出会いに恵まれた、いい時代でした」
 店の正面にあるのは世界最大級の蓄音機「クレデンザ」。寺元さんの手で針が落とされると、まさに今、目の前で演奏されているかのような迫力で音が迫ってくる。「蓄音機による空気の振動状態は、管楽器とほとんど同じ。だから、生演奏に似た音が出せるし、音質もすごくクリアなんです。でも日本では、SPレコードはノイズが多いもの、と誤解されていたのが悔しかった。せめて私が生きている間は、本物の音を残さなければ」
そんな思いを込めて、毎月第3日曜に「21世紀にこれだけは残したいSPの名演奏」と題した演奏会を開いている。海外のオークションを通して取り寄せたSPレコードを、寺元さんが選んだ針で演奏する。「針は2年に1度、フランスやドイツに出かけて直接買い付けています。演奏会の前日には、深夜遅くまでレコードと針のチューニングを行います。どんな世界でも、こちらが究極までやらないと相手には伝わらないから」
 毎夜、夕方6時頃になるとライブが始まる。琵琶やシャンソン、ピアノ、サックスなど、ジャンルはさまざま。店の使用料が無料ということもあり、ライブの予定は一年先までいっぱいだ。プロ・アマチュアを問わず1ドリンク付きで1000円のみ。「あまり音楽を知らない人でも、ふらりと店に入ってきて欲しい」という寺元さんの願いからだ。
 ドリンクはすべて350円。食べ物の持ち込みは自由で、同じ日なら店の出入りも自由だ。コーヒー1杯で何時間でも好きなように過ごせる、という贅沢。曲をリクエストして音楽に浸る人もいれば、一日中思案にふける人もいる。名曲喫茶が流行した昭和の時代そのままの空気が、今も息づいている。

取材・文/渡辺裕希子 撮影/関根則夫

VIOLON、ヴィオロン

1.デザインから内装、音響まで寺元さんが8カ月かけて作りあげた。「中野クラシック」の美作さんが描いたデッサンも飾られている。
2.これが世界最大級の蓄音機。家庭では決して聴けない音は、衝撃的だ。
3.店の奥には、「中野クラシック」から移築した壁やテーブル、ソファなどが昔と同じ配置で並ぶ。その懐かしさに涙する人も。脚本家の野島伸司さんをはじめ、ここから巣立った著名人は数多い。
4.ブランデーかミルクを添えて出されるコーヒー350円。ブランデーを入れると香りが立ち、まろやかな味わいになる。店の隣にはタイ人の奥様による本場のタイ料理店があり、こちらも人気。

ヴィオロン

住所 東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-9-5

電話番号 03-3336-6414

営業時間 12:00~23:00

休日 火

金額 紅茶350円、ミルク350円、ココア350円、オレンジシュース350円

URL なし



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