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Dr.コトー診療所:医でつなぐ信頼 離島医療の現実を描く

離島を舞台に、人間味あふれる物語を描いたマンガ「Dr.コトー診療所」
離島を舞台に、人間味あふれる物語を描いたマンガ「Dr.コトー診療所」

 本土から船で6時間かかる古志木島。満足な医療設備も人手もない島に、ヨレヨレのスーツを着た船酔いでダウン寸前の青年医師・五島健助がやって来た。漁師からは「うちの島にはロクな医者が来やしねえ」とののしられ、診療所には誰も近寄らない。唯一の看護師・星野綾佳からも「誰もこんなところで診てもらいたくないですから」と言われてしまう。そんな頼りない五島が、虫垂炎で苦しむ漁師の原の息子を見事な手術で救う。五島を「コトー」と間違えた原は「Dr.コトー診療所」の大看板と大漁旗を贈り、五島は、コトーと呼ばれて島民たちからの信頼を得るようになる。

 孤島を舞台に地域医療の問題を描いた物語は、第49回小学館漫画賞(一般向け部門)を受賞。俳優の吉岡秀隆さん主演、柴咲コウさんが星野を演じて2度にわたってドラマ化され、大反響を呼び、コミックス(1~22巻)累計1000万部を超えるヒット作だ。

 見どころの一つは、コトーの神業といえるメスさばき。医師2人がかりで6、7時間かかるという腕の接合手術を1人で成し遂げたり、大学病院でスキルス胃がんの手術を執刀しながら、島で別の医師にバイパス手術の指示を出すというまさに「スーパードクター」だ。

 だが、「Dr.コトー」の真の魅力は、忘れられつつある地域社会の信頼関係を描いているところにある。東京の大病院の一線で活躍していたコトーが、医療ミスの責任を取って島に赴任してきたことが週刊誌の記者によって知れると、島民たちから「出て行け」と宣告される。だが、息子を救われた原や星野たちの支えもあって、再び信頼を取り戻す。

 村のトラブルメーカーで、お調子ものの漁労長・シゲさんらユニークで、純朴な島民たちの姿を通して、島特有の排他性と結束の固さを描き出している。

 この物語のモデルとなったのは、鹿児島県の下甑島(現薩摩川内市)の瀬戸上健二郎医師だ。「開業までの半年間だけ」という約束で島に渡った瀬戸上医師は、そのまま30年間離島の医療を支え、島民からは「神様」と慕われている。

 98年に、小学館の編集者・安達健裕さんが、鹿児島にいる後輩に「何か面白い話はないか」と相談したところ、離島で腹部大動脈りゅうや専門外である眼科の手術もしているという瀬戸上医師の話を聞いた。古き良き時代の日本の姿を残す島の雰囲気を見て、マンガのテーマにしたいと感じたという。

 だが、刺激的な描写が多い青年マンガの中で、離島と医療というテーマが通用するか、悩んだ安達さんがヤングサンデーの編集長と相談し、画家を目指す天才少年を描いた「マッシュ」などを手がけた山田貴敏さんに声をかけた。山田さんも島を取材し、00年に「Dr.コトー」の連載が始まった。

 安達さんは「最初は20話で終わることも覚悟した」というが、連載当初から読者アンケートでも上位をキープし、まもなく1位を獲得した。山田さんが07年に眼の手術を受けたため、連載は不定期になっているが、病と闘いながら筆を執り続けている。 最新巻では、医者を目指すために星野が島を離れてからの姿を描いた第2部に突入。がんに冒され、コトーのプロポーズを受けなかった星野。二人の愛の行方も気になるところだ。

◇「編集中に感動して泣きます」 副編集長の安達健裕さん

 まじめな医療マンガは、当時のヤングサンデーでは異色だったので、最初は1話完結の読み切りで連載しました。ほかに医療マンガがなかったのもヒットの原因かもしれませんが、親子、コミュニティーなど、どんな人でも誰かとつながっているという離島の人間模様をテーマに、ヒューマニズムをここまできちんと書いているマンガはありませんし、単なる「医療の奇跡」の物語でもないと思います。

 「コトー」の由来は、“島の香り”を感じさせて、「孤島」にもひっかけて考えました。山田さんが大のドラゴンズファンだったので、ヒロインは「星野」と命名されました。

 個人的に好きな回は、自明党幹事長のスキルス胃がん手術(4巻34~39話)と、つばをはく脳腫瘍の少年(6巻99~102話)です。編集中に、感動して泣くことも多いんです。

 今後、コトーはさらに腕を上げていきます。コトーの家族の話もありますし、新キャラも登場します。ただ、山田さんは07年に目の手術をしているのですが、まだ完治とは言えません。描く枚数が限られていますので、是非温かい目で見守ってください。

山田貴敏 小学館 1~22巻発売中 各530~540円 「週刊ヤングサンデー」で連載中

2008年3月2日

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