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【社説】

NHK改革 公共放送の将来を語れ

2007年10月1日

 初の受信料値下げを明記したNHK執行部の次期経営計画案を、経営委員会が「将来への十分な展望が示されていない」と差し戻した。執行部は真摯(しんし)に受けとめ直ちに計画案の見直しに入るべきだ。

 二〇〇八年度からの経営五カ年計画案に対するNHKの最高意思決定機関、経営委の見解は橋本元一会長ら執行部には想定外の厳しい内容だったろう。株主総会にたとえるならもの言う株主にことごとく議案を否決されて不信任を突きつけられた。それに等しい。

 最も注目を集めた受信料について、執行部は「一律五十円、口座振り替えはさらに五十円の引き下げ」を提案したが、経営委は「最初に数字ありきではない」と一蹴(いっしゅう)した。値下げの前に、肥大化した組織のスリム化、不祥事の再発防止、公共放送としてどう役割を果たしていくのか、そのビジョンの明確化が求められているのだ、と注文をつけた。

 当初、NHKは値下げに消極的だった。受信料支払いの義務化と引き換えに二割値下げを求めてきた菅義偉前総務相に、橋本会長は「財政的に厳しい」と反発したものの、少しは値下げしないと納得してもらえないと考えたのだろう。視聴者不在の政治的なにおいが否めない。

 NHKでは三年前の番組制作者による着服事件発覚を機に受信料不払いが急増したが、カラ出張など不祥事は後を絶たない。会計検査院の調査では子会社など関連団体で八百億円もの利益剰余金の存在が明らかになった。設備投資のためなのか、大半は目的が不明確だ。幹部の“天下り先”の受け皿にもなっている。これでは理解を得られるはずがない。

 富士フイルムホールディングス社長でもある古森重隆経営委員長は就任時「執行部と緊張関係を保ちNHKの発展につくしたい」と述べた。「予算などを承認するだけの機関」と長く形骸(けいがい)化を指摘されてきた時代に終止符が打たれたことを、執行部はまず肝に銘じる必要がある。

 そもそも公共放送とは何か。NHK放送文化研究所は「重要な概念なので専門家がどう定義しているかなどを検討し明確化していきたい」という。何を今さらである。この根源的な問いかけに答えずして、将来ビジョンなど構想できまい。

 「放送と通信の融合、少子高齢化による人口減少、若者のテレビ離れなどへの対応を掘り下げて検討し、それを明確に示すものが経営計画であるべきだ」。経営委からの宿題である。執行部は抜本改革にあらためて正面から向き合い、NHKの再生に全力を傾けてもらいたい。

 

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