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ひとインタビュー映画を通して日本と中国、そしてアジアをつなげたい 第五十八回 中井貴一さん

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人生でもっとも大事なことは「継続」

銀幕のスターであった父・佐田啓二から受け継いだ端正なマスクと立ち居振る舞いで、自らも正統派の道を歩んできた中井貴一さん。しかし父が亡くなった年齢である37歳を越えた時、「おやじに恥じない生き方をする」という呪縛がとれ、自分自身の人生に素直に向き合えるようになったという。そんな彼のライフワークになりつつあるのが、日本と中国とで一緒に映画を作ること。今年は初プロデュースの日中合作映画「鳳凰 わが愛」が両国で公開中である。映画にこだわり、アジアにこだわる、その思いを語ってくれた。
(取材・文/田中亜紀子 写真/田中史彦)

――初プロデュース&主演映画「鳳凰わが愛」は、中国でも評判のようですね。ただ2001年に中国で撮影された前作「ヘブン・アンド・アース」の記録「日記」を読んでいたので、再び中国に行かれたのは驚きました

周囲からも「こりないね〜」などとさんざん言われていますよ。前作はすべてのスタッフ・キャストの中でただ一人の日本人という孤独もありましたし、新疆ウイグル自治区での撮影というのが、やはりきつかったですね。9月から12月まで滞在したんですが、冬の砂漠はマイナス30度にもなるんです。それにお世辞にも衛生的とはいえない中国のトイレに、ホテルのシャワーをひねれば、出るのはお湯ではなく黄色い水(笑い)。食べ物は羊ばかりだし、言葉もろくに通じない。それは我慢できても、撮影が何の説明もなく止まって何日も待たされることが続き、怒りを通り越して、精神の極限まで追い込まれました。

中国での撮影は過酷

――そんな体験の後、どうして

人間は何事も継続することが大事だと思うんですよ。たとえば健康に良いとされる冷水浴も、1回でやめるなら、初めからやらないほうがずっと体にいい。確かに中国での撮影はつらいこともあったけれど、得るものも大きかったんです。他国で仕事をすると、日本の良いところも悪いところも見えてきますからね。前回は日本の価値観を持ちこんで愚痴も言いましたが、そもそも中国の人は僕たちと外見は似ているけれど、ものの考え方はまったく違う。今回は「価値観の相違」ということを前提に臨んだので、気持ちに余裕さえありました。

――今回書かれた「日記2『鳳凰 わが愛』中国滞在録」を読むと、前回の体験が生きていますね

前回の帰国からずっと考えていたのは、中国の雄大な自然環境に、日本の撮影技術や合理的な運営を合わせたら、世界に誇るアジア映画ができるだろうということでした。今回はジヌ・チェヌ監督からの誘いで出演しましたが、プロデューサーまで引き受けることにしたのは、監督と対等に話ができるからです。だから何の説明もなく撮影のない日々が続くことはなくなる(笑い)。でも監督は、日本の撮影現場の経験があり、その効率の良さを評価していたので、スケジュールは順調でしたよ。とはいえ、やっぱり現場は過酷だった。とにかく中国は移動が大変ですからね。日本では移動に覚悟なんていりませんけど、中国では相当な覚悟がいります。次のロケ場所まで、朝5時から晩まで車で走りっぱなしということがざらにあるので。今回は重慶市奉節県というところにある「天坑」というところでも撮影したんですが、700メートルの峡谷の底へ、毎日3千段もの階段を移動するのが、本当に難儀でした。

――写真で見てもクラクラしますね

撮影が終わって2時間半かけて階段を上がる時に、月明かりの何とありがたかったことか。字が読めるほどの月明かりで足元が照らされ、迷うことなく上がっていける。ありがたくてお月さまに自然に手を合わせました。何もない環境の中では、いろんなものがそぎ落とされて、人間の神髄みたいなものが見えてきます。たとえば死ぬほど腹が減って無心で食事をしたり、這(は)ってしか歩けないほど全力で働いたことってありますか?

――ない、ですね

過酷な環境だと、全力を出し切らないと乗り越えられない。でも、その全力を体感すると、日本に帰ってきても、以前はもうだめだと思っていたことを粘れるようになりましたね。それにつらいことを体験すると、それまで当たり前だと思っていたことが、ものすごい喜びに変わるんです。たとえば「水道水、透明だよ!口ゆすげる、ありがてぇなぁ〜」ってね。みんなが当たり前だと思っていることに感謝ができるのって、人生で幸せの回数が増えるということなんですよね。

(写真)中井貴一さんプロフィール

1961年東京都生まれ。成蹊学園に通い、高校時代にはテニスでインターハイに出場。81年、映画「連合艦隊」にてデビュー。83年のドラマ「ふぞろいの林檎たち」で大ブレーク。NHK大河ドラマ「武田信玄」「ウソコイ」「武蔵」「義経」「終りに見た街」「はだしのゲン」他、多数のテレビドラマに出演。映画は「ビルマの竪琴」「東京上空いらっしゃいませ」「四十七人の刺客」「愛を乞うひと」「燃ゆるとき」「寝ずの番」など出演多数。2001年に単身で中国の撮影に臨んだ米中合作映画「ヘブン・アンド・アース」に出演した後、「壬生義士伝」の演技で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。08年秋には主演作「次郎長三国志」(マキノ雅彦監督=津川雅彦)が公開予定。また2月にはパルコ劇場の舞台「二人の約束」に出演する。

お知らせ
中井貴一初プロデュース&主演映画
「鳳凰 わが愛」
中井貴一の中国滞在録
「日記『ヘブン・アンド・アース』中国滞在録」
「日記2『鳳凰 わが愛』中国滞在録」

●日中合作映画「鳳凰 わが愛」

1920年代の中国。極寒の刑務所で出会った男と女の数奇な30年を描いた実話に基づく壮絶な運命の叙事詩。中井貴一扮するリュウ・ランは、恋人を助けるためにささいな争いから長期服役することになる。そこで暴力的な夫を殺したホン(ミャオ・プゥ)と出会い、最初は反発していた2人はやがて心を近づけていく。2003年に公開された米中合作映画「ヘブン・アンド・アース」の経験から、中井貴一が再び中国での撮影に挑んだ大作。全国にて公開中。

●中井貴一の中国滞在録
「日記『ヘブン・アンド・アース』中国滞在録」
「日記2『鳳凰 わが愛』中国滞在録」

前作「ヘブン・アンド・アース」の撮影中の苦労や葛藤を描いた「日記」と、今回の「鳳凰 わが愛」の中国滞在の記録である「日記2」が、キネマ旬報社より発売中(各1575円/税込み)。2冊あわせて読むと、中国映画の現場、そこに挑戦する中井さんの葛藤や映画への熱い意気込みなどがよくわかる。

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