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4.最近の自動車塗料の動向

1)環境対応
 地球環境保全の立場から、自動車塗装においても有害物削減、VOC低減、廃棄物リサイクル、温暖化対応など環境問題は最重要課題である。塗料に関係するものとして塗膜中の有害金属と塗装時の有機溶剤と関係するVOCに関して簡単に述べたい。

[1]ELV対応
 ELVとは、End of Life Vehicleの略で、2000年10月にEUが施行した自動車のリサイクル指令である。狙いは自動車の廃車時の処分量を減らすために廃棄物の利用やリサイクル、再生を進めることである。具体的にはEU市場で登録される乗用車やバス、トラックなどについて03年7月1日以降、鉛、水銀、6価クロムの使用量を1000ppm以下に、カドミウムの使用量を100ppm以下に削減していくというものである。規制時期は代替技術の有無で図7のようになっている。
 塗料で有害金属に関係するのは下塗の防錆顔料と上塗の赤色、黄色や緑色の着色無機顔料である。
 下塗の電着塗料中には鉛化合物が防錆や焼付け乾燥の時の解離触媒として使われていたが、Pbフリー化製品が開発された3)。98年ごろからラインで採用され現在はほぼ全量切り替わっている。
 また、自動車上塗の着色顔料として使用されてきた鉛やクロム系顔料もこれらを含まない有機系顔料に切り替わり、対応が終了している。
 ただし、塗料供給者としては原料中の夾雑物や製造段階での混入を防止することが必要である。当然、工数が余分にかかるのでユーザーと相談の上、日常管理できめ細かく対応中である。

表1●色味と着色顔料種4)

色味

無機顔料

有機顔料


二酸化チタン、酸化亜鉛、塩基性硫酸鉛
 

カーボンブラック、黒鉛、四三酸化鉄
 

黄鉛、黄色酸化鉄、透明酸化鉄、チタンエロー、ジンクエロー
アゾ顔料、キノフタロン、イソインドリン、イソインドリノン

  アゾ顔料、ジブロモアンサンスロン、ジケトビロロピロール

酸化鉄(べんがら)、透明酸化鉄(赤)、鉛丹、モリブデートオレンジ、塩基性クロム酸鉛
アゾ顔料、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、キナクリドン、ペリレン

酸化クロム
フタロシアニン

群青、紺青、コバルトブルー

フタロシアニン

図7●ELV、有害物質廃止スケジュール2)
図

[2]VOC対応
 VOCは蒸発しやすく大気中で気体となる有機化学物の総称で、光化学スモッグの原因物質のひとつである。VOCに関する規制は、アメリカで60年代のルール66に始まり、欧州ドイツでの70年代のTA-Luft、90年イギリスのEnviromental Protection Act規制など欧米が先行した5)。日本では昭和40年代に「光化学スモッグ」が社会問題になったが近年再び増加傾向にあり、このたび大気汚染防止法が改正され昨年の4月1日より施行された。これまで塗料や塗装機の進化を述べてきたが大きな目的のひとつはVOC削減に通じる。VOC対応は、塗料では低VOC塗料の導入及びそれらへの切り替えと塗装機器では塗着効率の向上である。塗装作業では洗浄シンナーの節約や回収も大きく影響する。
 日本の自動車メーカーがVOC削減のため実施している手法とその効果を図8に示す。
 生産技術力を生かした設備対応と低VOC塗料対応を総合すると単位面積当たりのVOC排出量が最大で20〜40g/m²まで削減される。自動車メーカーはこれらの手法をラインにあわせ導入し対応している。その結果を自動車各社の環境報告書から抜粋してグラフ化したものが図9で年々確実に削減傾向にある。
 (社)日本塗料工業会でも、平成13年度より塗料・塗装からのVOC排出実態の推計について調査している。塗料出荷量とその塗料の代表的な希釈率から算出するもので、自動車・新車分野(乗用車、トラック、バス、オートバイ、部品含む)でのVOC排出量並びに低VOC塗料(水性塗料、無溶剤塗料、粉体塗料、VOC30%以下の溶剤塗料)の比率変遷は図10に示す通りである。自動車部品を含む自動車新車全体を推計しているが、VOC対策が遂行していることが確認できる。

図8●自動車塗装のVOC削減ステップ6)
図

図9●自動車メーカー各社のVOC排出量の経年変化7)
グラフ

図10●自動車新車分野のVOC排出実態に推計結果8)
グラフ

5.まとめ

 クルマの塗料・塗装は、自動車の生産量の増大と共に進化してきた。初期は欧米の塗料と塗装を見本にノウハウ導入などで研鑽してきたが、近年は、自動車メーカー、塗装機メーカーと塗料メーカーとの長年のコーワークの結果、日系自動車メーカーの躍進とともに世界レベルに成長してきた。しかし欧州のクルマづくりの先行事例から推察すると大きく変わる可能性もある。塗料の立場からは、これからも性能・コスト・生産性に環境を加味した塗料、塗装システムの開発で役割を果たし、自動車メーカー、塗装機メーカーとともにさらに成長することを期待したい。

引用文献)
1.日本の塗料工業07 (社)日本塗料工業会
2.富士通テン技報 Vol.21 No.1 欧州ELV指令対応 石井孝司、岡村泰義、渡辺浩生
3.塗料の研究 No.132 Apr. 1999 鉛フリー電着塗料 平木忠義、室伏重雄、原義則
4.塗装技術2006年増刊 自動車塗料用顔料の開発と今後の展開 松坂悟
5.塗料の研究 No.137 Oct. 2001 環境対応塗料技術―自動車塗料― 中村茂
6.CEMA研究発表会 VOC対策にどう取り組むべきか 旭サナック(株) 戸田紀三夫
7.VOC排出抑制に向けた塗料・塗装の先行技術調査「第2報」(社)日本塗料工業会
8.塗料・塗装からのVOC排出抑制実態の推計まとめ (社)日本塗料工業会

(くめ まさふみ)

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