Key Word


黄砂

林野庁海外林業協力室

 これから春先になると中国大陸から飛んでくる黄砂は,車を汚すし部屋をざらつかせる厄介なもの。その歴史は古く,深海岩石や氷河堆積物の解析によって約7,000万年前の白亜紀の終わりごろから発生していたと考えられている。中国では紀元前351年甘粛省の武威で砂塵嵐の記録が残っている。日本では807年に黄砂現象が記録されており,「み吉野の吉野の山の春がすみ立つを見る見るなほ雪ぞふる(紀貫之)」をはじめ多くの歌人が春がすみを詠んでいるが,黄砂現象を詠んだものも少なくないと考えられている。

 意外に知られていないが,黄砂の原因となる砂塵嵐は,地球温暖化の影響で過去50年間減少傾向にある。しかし,激しい砂塵嵐「砂塵暴」の発生頻度はここ数年,急激に増えている。無秩序な開墾,過放牧,薪炭材確保のための乱伐,甘草等漢方薬の採取による草地の破壊などが拍車をかけていることを中国政府も認めている。日本での被害はせいぜい車や部屋が汚れるくらいだが,中国では黄砂を含む砂嵐によって毎年約7,000億円の経済的損失と4億人が被害を受け,生態難民といって居住地を離れざるを得ない書も出ているという。

 だが,悪い面ばかりではないらしい。

 まず,黄砂が運ぶリンがハワイ諸島のモロカイ島などの森林やハワイ沖のプランクトンに欠かせない。また,黄砂が空中を漂うことにより大きな日傘となり,太陽放射を宇宙へ反射し,地上へ届くエネルギーを減らし,温暖ガスとは反対の冷却ガスとして働いているという。

 さらに黄砂は炭酸カルシウムを含むアルカリ物質であるため,空中を漂う際に酸性雨の原因物質の二酸化硫黄や窒素酸化物と化学反応し,酸性雨を中和しているという。1年間で日本に降る黄砂の量はざっと100〜300万トン。その中には肥料分となるリンが1,000〜3,000トン含まれている。それだけ国土が増えて豊かになっている。このように黄砂のいい面を知ると,汚れた車やざらつく机も気にならない,わけないか。

《引用文献》
「中国の黄砂と日本の黄砂」,沙漠研究,13-1,2003年
「2004年日中林業生態研修及び協力シンポジューム報告書別冊」,日中林業生態研修センター,2004年12月

森林技術 No.778(2007.01)

| 戻る | keyword一覧 | Home |