2004年7月18日 Workshop ≪特別講演≫
南インド映画と政治とのかかわり=神智学運動と南インド社会=
講演 : 神戸学院大学人文学部 赤井敏夫 教授
ルクミニ・デヴィの古典舞踊復興

1 . 社会的制度としてのデーヴァダーシス
寺社附属の踊り子としてデーヴァダーシス
←起源的にサンガム文学時代に遡及できるとの説があるが、論証できない。6Cの大規模寺社領成立の時期と見ておくのが安全
外婚制を機軸とした閉鎖的カースト。メンバーの補充は寺社への寄進とブラーミン男性の通い婚によってなされる。男子出生の場合は演奏家となり、女子はデーヴァダーシスとなるのが基本←ブラーミン男性の通い婚という側面を抽出すれば、ケーララのナイール・カーストの女系制などと相似がある
起源的には、ヘロドトスがシリア〜バビロンと風習として記述している神殿売淫がこれに相当するか?
←豊饒儀礼の一形態
ヴァルナ(種姓)的にはブラーミンに属するが、厳格な父系相続制を旨とするブラーミンとはまったく別の、いわば「影のブラーミン」カースト
⇒参照、マドラス管区1901年人口統計調査のフランシス報告

2 . 英領インド政庁統治時代のデーヴァダーシス
パトロネージ制度の崩壊
←藩王や大規模寺社など、従来デーヴァダーシスのパトロンとなってきた階級が政治経済的に弱体化
デーヴァダーシス制の堕落した形態としての専業売春
←村落単位ではブラーミン地主の囲い者、もしくは村落男子共有の売春婦、都市化の波のおよんだ地域では、スラムにおける専業売春婦となった例も多い。
以上の変化は公共的デーヴァダーシス制(国家主宰もしくは寺社主催)が崩壊し、私有化(ブラーミンもしくは地主階級による)されてゆく過程と見ることができる
近代化推進派(開明派ブラーミンをふくむ)からの攻撃
←封建主義的遺物として、近代国家インドの「恥」としてデーヴァダーシス制を撤廃せよとの声が高まる
20年代から盛んとなる自尊運動(ドラヴィダ運動の先駆型)では、寡婦再婚の認可、一夫一妻制の推進、幼女婚の廃止、婚資(ダウリー)の廃止、禁酒などとならんで、デーヴァダーシス制の廃止が社会改革の目標として掲げられた←ブラーミンによるデーヴァダーシス独占への非難が根底にある