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現代自動車、日本の「壁」に挑む

2007年06月22日

 世界での販売台数はホンダ、日産自動車を上回る韓国の現代自動車(ヒュンダイ)が、日本市場で苦戦しています。しかし、今年は現代にとって、飛躍の年になるかもしれません。商品展開やブランド戦略を見直し、日本の高い壁に再挑戦します。

写真現代のショールームの最前列にはセダンではなく、沖縄でも人気の小型車「TB」と「ヒュンダイクーペ」が置いてあった=東京都港区で
写真現代自動車の世界販売の推移

脱・セダン偏重

 現代がトヨタを抜いた――。昨年6月、米調査会社JDパワー・アンド・アソシエイツが06年型の新車を対象に実施した品質調査で、現代が4位のトヨタを抜いて3位に躍り出たことを、各国のマスコミは驚きとともに報じた。

 現代の躍進ぶりは品質だけではない。86年に進出した米国では、ここ10年で販売台数が4倍の46万台に急増。新興国でも販売を伸ばし、インド、中国での実績はトヨタをしのぐ。2010年の世界販売600万台を目標に掲げ、フォード(06年世界販売は659万台)などを猛追している。

 ただ、日本市場では苦戦続きだ。02年のサッカー日韓ワールドカップ開催や「韓流ブーム」といった追い風が吹いたものの、販売台数は04年の2524台をピークに伸び悩み。05年には韓国の人気俳優ペ・ヨンジュンさんをCMに起用して話題は集めたが、06年の販売は1651台。5年ぶりに2千台を割った。国内の輸入車販売首位、フォルクスワーゲンの1カ月分にも満たない。

 売れない理由の一つは、現代の「セダン偏重路線」だ。

 日本ではミニバンや軽の人気が高い。かつての主力だったセダンの新車販売台数は、97年より約6割少ない55万2千台に落ちこんでいる。それにもかかわらず、現代が日本で売る6車種の半分は、韓国の国内で人気が高いセダンだ。

 かつては「日本車より2割安い」と言われた価格差も、数%程度に縮まった。国内メーカー関係者の間には「現代をわざわざ買う理由がない」という声も少なくない。

国内最長の保証を導入

 現代もようやく、「脱セダン」に向かう。今秋には、5ドアハッチバックの小型車「i30」(排気量1.6リットルと2リットル)を発売する予定。新車効果への期待から、2010年には日本市場で1万台の販売を狙う。

 営業面でも新機軸を打ち出す。仕掛け人は、BMWの日本法人で営業企画の責任者を務めた後、06年8月に現代の日本法人、ヒュンダイモータージャパンの副社長に就任した国末博行氏(53)。

 国末氏は就任直後から韓国本社と話し合いを続け、新車の登録日から10年または走行距離10万キロに達するまでエンジンなどの不具合を無償で修理する「10年10万キロ保証」を、今年から日本に導入した。国内最長の保証期間を設定することで、消費者に安心感を与えた。

 実は、沖縄県では輸入車の販売台数で現代が4年連続首位。地場のレンタカー会社が品質と価格を評価し、所有車の3分の1を現代の車にしたことが大きい。都会からの観光客にも好評という。

 「見慣れれば、受け入れられる」。国末さんは沖縄での成功をヒントとして、現代車が普及している海外に拠点を持つ企業への営業も始めた。

◇「車種の構成 2,3年かけて変える」 朴・日本法人社長

 今後の日本戦略をヒュンダイモータージャパンの朴炳允(パク・ビョンユン)社長(45)に聞いた。

 ――日本での販売は苦戦が続いています。

 「欧米などの実績で自信があったが、日本の壁は考えていたより高かった。ブランド定着にはまだ時間がかかると思っている」

 ――なぜ売れないのでしょう。

 「世界のトップメーカーの販売店が数キロごとに開いているし、現代を運転した経験がなくて不安もあるのでは」

 「セダンを中心に販売した戦略も合わなかった。秋からは小型車やミニバン、スポーツ用多目的車(SUV)を売り出し、2、3年かけてラインアップを変える」

 ――日本で事業をすることにはどんな意味があるのですか。

 「東京で現代が走っている、ということは世界戦略上とても大きい。日本メーカーの経営手法を参考にし、世界で活用することもできる。部品、製鉄など現代のグループ企業も、日本とは多くの取引がある」

 ――世界では何が評価されたのでしょうか。

 「十数年前までは、日本車に比べた安さが理由。その後、ブランド戦略を見直し、品質にこだわった結果、日本車と変わらぬ品質だという評判が広がったことも大きい。中国、インド、ロシアなどの新興市場を開拓してきたことも効果的だった」

<視点>プライドが邪魔に

 数年前、ガレージに高級車と現代の車が並ぶ場面を使い、「現代(ヒュンダイ)を知らないのは日本だけかもしれない」とうたった広告があった。これを見て、自動車業界の関係者は「これじゃ日本で商売は無理」と感じたという。現代の日本戦略を邪魔してきたのは、躍進する企業のプライドだったといえるかもしれない。

 取材した朴社長たちからは、ひたむきさと泥臭さを感じた。がむしゃらになった現代。日本市場で今後、大きく化けるかもしれない。

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