今月のプレゼンテーション

理解が得られるなら、地方交流競走の賞金一本化

吉田 照哉


 ダート馬の層の厚さなら南関東や岩手のほうが中央よりも上といわれたのも今は昔、最近の地方交流競走では、どのクラスでも中央勢が上位を独占するというのがお決まりのパターンです。地方の賞金があまりに安くなったため、地方に入厩する馬の質が著しく低下し、それが中央との格差拡大に拍車をかけるという悪循環に陥っているわけです。まさに中央一極集中の表われといえそうです。

 ところで、地方で行われている交流競走で、こんな珍現象がおこっているのはご存知でしょうか。勝つよりも、負けた騎手のほうが進上金が多くなるケースがあるのです。交流競走に出走する中央所属馬に対してJRAは、各主催者が定めた本賞金に差額を交付するかたちで、500万クラスでは550万円、未勝利クラスでは350万円の1着賞金(8着までの馬についてもJRA主催の競走と同様の比率で交付)を保証しています。本賞金の安い競馬場ほどこの差額が占めるウェートが大きくなりますから、ときには4着の中央所属馬の賞金が1着の地元所属馬の賞金を上回ることさえあるというわけです。

 偉業を達成した馬にボーナスを出したり、奨励策として自国の生産馬に手当を出すなどのケースは各国で見られますが、同じレースのなかにまったく異なるふたつの賞金体系が存在するというのは、おそらく世界を見回してもこの地方交流競走だけかもしれません。この歪みは昨今、大きな弊害をもたらしており、私は早急に改善すべきだと考えます。

 たしかに騎手については、その腕前次第で中央所属馬にも乗れるチャンスがありますから、まだ救われている部分があるかもしれません。しかし、地方の馬主には逃げ道がないのです。たいていは中央所属馬が上位をさらい、仮に互角の勝負ができたとしても賞金はその数分の一というのでは、地方で馬を持とうとする人が少なくなるのも当然でしょう。

 そこで提案したいのは、あまりに当然ですが、所属を問わない賞金体系の一本化です。現在、JRAが交付している差額分をそのまま原資に充てるとすれば、総賞金は現在より少しだけ下がることになりますが、地方にとってはそれでも十分に魅力のあるコンテンツになりえます。南関東を除く大半の地方競馬場では、中央の未勝利戦の半分にも満たない賞金総額で重賞レベルのレースが組まれているのが現状なのです。これで地方の馬主の参加意欲が高まれば、入厩馬のレベルも高まり、交流競走はもっと拮抗したレース展開となるはずです。

 若干とはいえ賞金が下がるのもやむなし、こんな提案をすると、多額な経費をかけている中央の馬主にはお叱りを受けるかもしれません。たしかに目先は痛みをともなうことになりますが、長期的かつ寛大な視野に立って、なんとか理解を得られないものでしょうか。交流競走の賞金を中央の預託料でとりにいくのか、地方の預託料で狙うのか、選択の幅が広がるなかで、預託料への問題意識がより高まってくるメリットもあります。そして遠望的には、ある程度の採算性をともなって地方競馬が下級条件馬の受け皿の機能を担うことで、実力馬や素質馬だけが中央を目指していく、そんな健全なピラミッド体系が復活するきっかけにもなりえると思います。

(社台グループ発行月刊誌『Thoroughbred』平成16年12月号より転載) 


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